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大阪高等裁判所 昭和50年(ラ)57号 決定 1975年6月18日

抗告人 田村庄一(仮名)

相手方 市川和夫(仮名) 外一名

主文

原審判中、所有権移転登記抹消登記手続を求める申立に関する部分を取消す。

抗告人の所有権移転登記抹消登記手続を求める申立を却下する。

相続人廃除の申立に関する部分についての抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告人は、「原審判を取消す。相手方両名が被相続人(遺言書)市川松之助の推定相続人たることを廃除する。相手方両名は申立人に対し、原審判別紙物件目録記載の不動産につき昭和四七年一一月一〇日神戸地方法務局伊丹支局受付第四二、〇〇五号、原因昭和四七年一〇月六日相続、持分それぞれ三分の一なる所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。」との裁判を求め、抗告理由については抗告状に「原審の審判は、申立人の申立理由等について深く審理をなさず、単なる形式のみであつて申立人の申立を却下したるは不法である。詳細については別に書面を以て陳述する。」と記載しながら、未だにこれを提出しない。

二  抗告人の本件相続人廃除等の申立の理由は、原審判別紙「事件の実情」欄記載のとおりであるから、これを引用する(但し、原審判三校目裏一二行目の「同居中より」の次に「虐」を加える。)。

三  そこで当裁判所は次のとおり判断する。

(一)  先ず、職権をもつて、所有権移転登記抹消登記手続を求める申立の適法性について判断する。

そもそも、実定法上、家事審判事項は若干の例外(家事審判法第九条第一項乙類第一号、同第三号)を除いては民法上個別的に家庭裁判所による処分のなされる旨が規定せられ、家事審判法第九条はこれを審判事項として列挙しており、裁判所法においては家庭裁判所は家事審判法で定める家庭に関する事件の審判及び調停の権限を有すると規定せられておること(裁判所法第三一条の三)は、審判事項が制限的であることを示すものであり、理論上、審判は国家が私人の法律生活に形成的に関与する作用であるから、このような国家作用がなされるのは法律が特に認める場合に限定されるべきである。

抗告人の本件審判の申立の中、相続を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続を求める申立は、家事審判法所定の審判事項に該当せず、相続人廃除の申立が認容されることを前提としてなされる相続回復請求であるから、訴訟事項であつて、審判の対象たりえないものである。したがつて、右抹消登記手続を求める申立は不適法として却下すべきものである。

原審判は、民法第八九二条所定の廃除原因が認められないことを理由に右抹消登記手続を求める申立を失当として却下しているのであるから、右申立が不適法であることを看過したものであつて取消を免れない。

(二)  次に、相続人の廃除を求める申立について判断する。

戸籍謄本、公正証書謄本及び家庭裁判所調査官の調査の結果によれば、事件の実情(原審判引用部分分)第一、二項の事実が認められる。そこで、民法第八九二条所定の相続人廃除の原因の有無について按ずるに、被相続人の配偶者であつた市川かよの家庭裁判所調査官に対する陳述要旨によれば、相手方両名は被相続人及び市川かよ夫婦に対して乱暴することもなく、ひどく罵つたりすることもなかつたことが認められるのであつて、記録を精査するも、相手方両名が被相続人に対して虐待をし若くはこれに重大な侮辱を加えたものとは到底認められず、また、家庭裁判所調査官の調査の結果によれば、相手方両名は被相続人夫婦と養子縁組をして同居するに至つたが約一ヶ月後には現住所に転居したことが認められるが、別居の原因は養親・養子双方が協力的でなかつたことが認められ、本件記録を精査するも、相手方両名が養父たる被相続人及び養母市川かよを遺棄したものとは認められず、相手方両名にその他の著しい非行があつたものとも認められない。

したがつて、抗告人の相続人廃除の申立を失当として排斥した原審判は相当であつて、この点に関する抗告人の本件抗告は理由がない。

(三)  以上の次第であるから、原審判中、所有権移転登記抹消登記手続を求める申立に関する部分を取消し、抗告人の所有権移転登記手続を求める申立を不適法として却下し、抗告人の相続人廃除の申立に関する部分についての抗告はこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柴山利彦 裁判官 弓削孟 篠田省二)

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