大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪高等裁判所 昭和50年(行コ)39号 判決 1977年3月18日

守口市寺方本通二丁目二四番地

控訴人

橋口政士

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

今中利昭

宇多民夫

原田弘

門真市門真七六一番地

被控訴人

門真税務署長 斎藤元公

右指定代理人

辻井治

玉井博馬

上野旭

今福三郎

河本省三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対して昭和四七年七月一一日付でした贈与税決定処分および無申告加算税賦課処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。(当事者双方の主張)

一、請求原因

(一)  守口市京阪本通二丁目一一番二宅地一四一・一五平方メートル(以下本件土地という)は亡川西栄蔵の所有であったが、同人が昭和四五年六月七日死亡したのでその子の橋口栄津子外三名が相続して所有権を取得した。

(二)  ところが、控訴人は本件土地を自己の所有であると思いこんでいたので、右川西栄蔵の死後の昭和四五年一二月四日受付で、真正なる登記名義の回復を原因とする川西栄蔵より控訴人名義への所有権移転登記を経由した。

(三)  被控訴人は、控訴人が右登記を経由したことから控訴人が亡川西栄蔵の相続人らから本件土地の贈与を受けたと認定して、昭和四七年七月一一日付で控訴人に対し、贈与税額を金四、四二一、四〇〇円とする贈与税決定処分及び無申告加算税賦課処分をした。控訴人は右処分について異議申立をしたが、合意により審査請求とみなされ、棄却の裁決を受けた。

(四)  しかしながら、控訴人は本件土地の贈与を受けたのではなく、前記の所有権移転登記は、控訴人が本件土地を自己の所有であると思い違いをしていたことによるのであって、その後自己の所有でないと判ったので昭和五一年三月一八日受付で錯誤を原因として控訴人名義の前記所有権移転登記の抹消登記手続をした。

それ故被控訴人の本件贈与税決定処分、無申告加算税賦課処分は認定を誤った違法があるから、その取消を求める。

二、答弁

(一)  請求原因第(一)項、第(二)項のうち主張の所有権移転登記をしたこと、第(三)項、第(四)項のうち主張の抹消登記をしたことは、いずれも認めるが、その余は否認する。

(二)  本件土地は亡川西栄蔵の所有であったのであって、控訴人が同人の所有と思い違いしたと言うことは信ずるに足らない。控訴人は亡川西栄蔵の娘婿に当り、控訴人と亡川西栄蔵の相続人らとの間においては、税金対策上、相互に登記を利用することができる仲である。そこで本件土地については橋口栄津子外三名の相続人らが相続したうえ、これを控訴人に贈与したのであるか、本来相続登記をしたうえで、相続人から控訴人に贈与を原因とする所有権移転登記をすべきところを相続税、贈与税の賦課を免れるために前記真正名義の回復を原因とする亡川西栄蔵より控訴人への所有権移転登記をしたのである。そして控訴人への所有権の移転には何ら対価が出捐されていないのであるから、これは無償贈与である。

亡川西栄蔵の相続人である前記橋口栄津子外三名は相続税、控訴人は贈与税の各賦課処分を争い、その理由とするところは本件土地は終始相続財産ではなく控訴人の所有であると主張してきたのである。しかるにその主張を維持しつづけることを困難と見て、当審に於てにわかに、相続人らの訴を取下げ、控訴人の所有と主張してきたことを思い違いであったの一言で片付け、それに辻棲を合すが如く控訴人名義の前記所有権移転登記を抹消したのであるが、右抹消したからといって、贈与のなされた事実を否定できるものではない。

(三)  被控訴人は右贈与に対し相続税財産評価通達に定ゆる路線化方式により、本件土地を金一〇、二四八、〇〇〇円と評価して、贈与税を決定したのである。

(証拠)

一、控訴人は、甲第一号証、第二、三号証の各一ないし三、第四ないし第九号証、第一〇号証の一、二、第一一、一二号証(原審)第一三ないし第一六号証(当審)を提出し、証人橋口全宏の証言、取下前控訴人川西博本人尋問の結果(いずれも原審)、控訴人橋口政士本人尋問の結果(原審及び当審)を各援用し、乙号各証の成立(第一、一二、一四、一五、一七ないし二二号証については原本の存在を含め)は認めると述べ、

二、被告訴人は、乙第一ないし第一五号証(原審)、第一六号証の一、二、第一七ないし第二二号証(当審)を提出し、証人柳原弥三郎の証言(原審)を援用し、甲号各証の成立につき、第五、六号証、第七号証中の控訴人作成部分、第九号証、第一〇号証の一、二、第一一号証、第一四ないし第一六号証は不知、その余はすべて認めると述べた。

理由

一、請求原因第(一)の事実、第(二)のうち主張の控訴人名義の所有権移転登記を経たこと及び第(三)の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二、そこで被控訴人の本件各処分の適否について考察する。

(一)  右争いのない事実、即ち、本件土地が亡川西栄蔵の所有であつたが、同人の死亡により相続人橋口栄津子外三名の共有となつたものであるところ、これにつき控訴人か、真正なる登記名義の回復を原因とするものではあるが、所有権移転登記を経ている事実に、本件口頭弁論の全趣旨により認められる右登記名義の移転について控訴人より右相続人らに対して本件土地の対価が支払われていないこと、対価を支払うことの約定もしていないこと及び右移転登記は控訴人か右相続人らと合意のうえ、共同申請によりしたものである事実等を併せ考えると、控訴人が主張するように右登記は控訴人が本件土地を自己の所有であると誤信していたためであるとか、或いは登記名義について通謀して虚偽の登記をした等の格別の事情の窺われない限り、本件土地は右相続人らより控訴人へ贈与されたものと認定するのが相当である。しかるに本件では右誤信ないし特別の事情を認めうる資料はない。

(二)  即ち、控訴人は当審に於て、本件土地が亡川西栄蔵の死亡後は相続人橋口栄津子外三名の所有であることを認めるに至つたが、それまでは控訴人が鄭宗根より買受け、ただ川西栄蔵の名義を籍りたに過ぎないとして控訴人の所有権を主張していたことは当裁判所に明らかなところである。ところで、控訴人が本件土地につき自己の所有を主張し、その証拠として原審で提出した証拠資料並びにこれに対して被控訴人の提出した証拠資料を検討すると、到底控訴人の右主張の認容しえないことは明かであつて、その理由は原判決五枚目裏一行目の「原告ら」より七枚目裏一一行目までと同様であるから、これを引用する(但し五枚目裏三行目の「主張し、」の次に「原審における」を、六枚目表一二行目より一三行目の「原告政士の供述」及び七枚目裏五行目の「尋問の結果」の次に各「(原審)」を各挿入する。)。従つて、控訴人が当審でその主張を改めたことは首肯しうる。

しかし、右各認定の事実からすると、控訴人が本件土地の所有権の帰属につき、鄭より買受け自己が所有者となつたと真実思い込んでいたと認めるには、いささか躊躇せざるを得ないし、後記のとおり控訴人は後になつて右移転登記の抹消登記手続をしている事実とも併せ考えても、控訴人が相続人らと通謀して虚偽の移転登記をしたと認めることはできない。

(三)  請求原因第(四)項のうち控訴人が昭和五一年三月一八日受付で右所有権移転登記の抹消登記手続をしたことは当事者間に争いがなく、当審に於ける控訴人本人尋問の結果及びこれにより成立の認められる甲第一四ないし第一六号証によれば右抹消登記をした日に、前記相続人らより控訴人が代表者として経営している若草製菓株式会社への本件土地の賃貸借契約があらためて結ばれ、控訴人は同会社の本件土地に対するそれまでの占有使用について相続人らへの借地料相当金員の支払を、相続人らは控訴人に対し控訴人がこれまで負担してきた本件土地に対する固定資産税等の返済を、それぞれ約定していることが認められるが、前記のとおり一度贈与し所有権移転登記をした後になって、その所有権移転登記を抹消し、且つ右認定の各約定をしている事実があつても、そのことによつて既に生じた贈与の事実が存在しなかつたこととなるものではないし、またその効果を消滅させるものでもない。

(控訴人は終始贈与契約をしたことはないと主張しているのであつて、贈与契約の消滅の合意を主張しているのではないが、仮に後の主張をするにしても、既になされた本件課税処分の効果を覆滅せしめうるものではない。)

(四)  以上本件各課税処分に違法はない。

三、そうすれば、原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、民訴法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長 裁判官 喜多勝 裁判官 林義雄 裁判官飯田康雄は病気のため署名捺印できない裁判長 裁判官 喜多勝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例