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大阪高等裁判所 昭和50年(行コ)5号 判決 1976年8月06日

控訴人 宮本四郎

被控訴人 此花税務署長

訴訟代理人 宗宮英俊 森修三 ほか五名

主文

一  原判決中、控訴人敗訴の部分を次のとおり変更する。

(一)  控訴人が被控訴人に対してした、被控訴人の昭和三九年分所得税の総所得金額を二一三万六、〇〇〇円とする更正処分のうち一九六万七、七七五円をこえる部分ならびに過少申告加算税賦課決定処分のうち右一九六万七、七七五円をこえる部分の対応する部分、昭和四〇年分所得税の総所得金額を一七〇万六、〇二七円とする更正処分(ただし、裁決により一部取消された後のもの)のうち一四七万一、八四五円をこえる部分ならびに過少申告加算税賦課決定処分(ただし、裁決により一部取消された後のもの)のうち右一四七万一、八四五円をこえる部分に対応する部分は、いずれもこれを取消す。

(二)  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを八分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事  実<省略>

理由

一  原判決事実摘示中、被控訴人の請求原因1の事実は当事者間に争いがない。そして、当裁判所も、(イ)係争各年分(昭和三九、同四〇年分)の被控訴人の所得税については、各年分の所得金額を推計して更正処分をすることが許される、(ロ)右所得金額の計算上、必要経費に算入されるべき金額のうち、いわゆる一般経費に該当するものは、昭和三九年分の一一四万八、四〇三円、同四〇年分が一一二万九、六九三円である、と判断する。その理由は、原判決理由第二項1および同項2の(一)(同判決一七枚目表二行目から二一枚目裏二行目まで)の説示するところと同じであるから、その記載を引用する。また、右必要経費のうち、いわゆる特別経費にあたる雇人費は係争各年分とも一一九万円と認めるのが相当と考えるが、この点については、原判決二二枚目表五行目の「から、昭和四〇」以下を左記(A)のとおり訂正し、同(B)の記載を付加するほかは、同判決理由第二項2の(二)(同判決二一枚目裏三行目から二三枚目表五行目まで)の説示を引用する。

(A)、「。しかも、係争各年における被控訴人の雇人の数は、<証拠省略>によつてもこれを確定することができず、<証拠省略>の雇人数についての記載は<証拠省略>に徴して正確性に疑問があるので採用しがたく、他に右人数を確認するに足りる証拠はない。しかし、<証拠省略>によれば、係争各年における雇人数は昭和四一年のそれとほぼ同数であることがうかがえるところ、<証拠省略>によると、昭和四一年分の雇人費は、賄費等を含めて一一九万円と認められるので、係争各年分の雇費もこれと同類と推認するのが相当である。

(B)、控訴人は、係争各年の雇人費に関する控訴人の主張を認める旨の被控訴人の陳述には自白の拘束力がある、と主張するけれども、いわゆる推計課税における主要事実は所得金額のいかんであつて、その所得金額を計算するための過程、すなわち、収入金額、必要経費はすべて間接事実にすぎないとみるのが相当なので、右控訴人の主張は採用できない。

二  以下、係争各年分のクリーニング業による被控訴人の収入金額について検討する。

<証拠省略>ならびに弁論の全趣旨によると、一般にクリーニング業による収入金額は、機械設備、従業員の数および熟練度、営業内容、加工料金の諸条件が一定であれば、電力使用量におおむね比例し、水道使用量ともかなり強い相関々係のあることが認められるところ、<証拠省略>を総合すれば、被控訴人のクリーニング営業における右条件は、昭和三九年から同四一年に至るまでほとんど変動がなかつたものと認められるので、昭和四一年分の電力・水道使用量に対する係争各年の電力・水道使用量の増減割合を算出し、これを昭和四一年分の収入金額に乗じて係争各年の収入金額を算定する控訴人主張の推計方法は合理的なものということができる。

被控訴人は、電力、水道の使用量は必ずしも収入金額と比例するものではなく、このうち電力の点については、昭和四一年から同四三年までの被控訴人の電力使用量と収入金額の関係からみても明らかである旨主張するけれども、<証拠省略>によると、昭和四二年ころ以降は、それまでいわゆるコイン店に吸収されていた顧客が被控訴人のような通常のクリーニング業者に次第に戻つて来るようになり、特に、水洗加工に比して電力使用量が少いうえに売上金額の多いドライ加工の受注が増加し、被控訴人方においても臨時雇を採用して右受注に応じたほか、クリーニング料金も相当程度値上げされる等、昭和四一年と同四二、四三年とは被控訴人の事業の諸条件に相違のあることが認められるから、右主張は首肯しがたい。

なお、電力・水道の使用量割合に代えて、収入に対する一般経費の割合、すなわち、一般経費率を基礎とする推計方法(原判決採用の方法)も考えられないでもないが、電力、水道料のほかにもろもろの費目を含む一般経費と収入金額との間に、電力、水道の使用量と収入金額との相関々係と同程度またはそれ以上の密接かつ必然的な相関々係があるとはとうてい解しがたいので、右方法は電力・水道の使用量割合による推計方法に比較して合理性に乏しく、採用できない。

しかるところ、被控訴人が控訴人に提出した昭和四一年分の確定申告書に記載された収入金額が三四六万九、一〇〇円であることは当事者に争いがなく、従つて、同年において少くとも右同額の収入があつたものと推定することができる。そして、<証拠省略>によると、被控訴人の電力使用量は、昭和三九年四月から一二月分まで四、八四九キロワツト、同四〇年分が五、六六九キロワツト、同四一年分が五、〇〇〇キロワツトであることが認められるが、昭和三九年一月から三月分までの使用量を明らかにしうる資料がないので、同年を通じての使用量は原判決事実摘示の控訴人の主張3、(一)、(2)、(イ)のとおり推計するほかはなく、その結果は、六、八六六キロワツトとなる。また、<証拠省略>によると、昭和三九年、同四〇年、同四一年の被控訴人の水道使用量は、それぞれ三、三七六立方メートル、三、一九六立方メートル、三、一四一立方メートルであることが認められる。そこで、前記争いのない昭和四一年分の申告収入金額と右認定の電力・水道使用量に基づき、前説示の方法に従つて、係争各年の収入金額を算出すると、原判決事実摘示の控訴人の主張3、(一)のとおりの推計過程により、昭和三九年分は四二四万六、一七八円、同四〇年分は三七三万一、五三八円となる。

三  次に、右推計にかかる各収入金額から前記の必要経費を控除して係争各年の被控訴人の事業所得額を算出すると、左記のように、昭和三九年分は一九〇万七、七七五円、同四〇年分は一四一万一、八四五円となる。

(算式)

昭和39年分 4,246,178円-(1,148,403円〔一般経費〕+1,190,000〔雇人費〕)

= 1,907,775円

昭和40年分 3,731,538円-(1,129,693円〔一般経費〕+1,190,000〔雇人費〕)

= 1,411,854円

以上により、被控訴人の係争各年分の事業所得額は右各金額と推計され、その推計方法に合理性のあることは前説示のとおりであるから、被控訴人は右各年に各金額に合致する事業所得を挙げた蓋然性があると認められるところ、この点についての的確な反証はない。もつとも、係争各年の推計による収入金額ならびに前記一般経費から算出される差益率と、<証拠省略>および弁論の全趣旨により被控訴人提出にかかる各確定申告書に記載されたと認められる昭和四一年から同四六年までの各年ごとの収入金額ならびに一般経費の額から算出される差益率との間、係争各年の推計による所得額ならびに<証拠省略>と弁論の全趣旨により右各申告書に記載されたものと認められる昭和四一年以降の各年の所得金額との間に、それぞれやや均衡を失する点があるかのように考えられないこともないが、申告納税制度の趣旨、実情からみて、また、前認定のとおり、係争各年と昭和四二年以降とでは被控訴人の事業の諸条件に相違があることからみて、前記各推計結果の相当性を否定しうるものではないというべきである。

ところで、被控訴人は、係争各年に事業所得のほか、各六万円の配当所得をえた旨の控訴人の主張を明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。してみると、係争各年における被控訴人の総所得は、前記推計結果にそれぞれ六万円ずつを加算した金額、すなわち、昭和三九年分は一九六万七、七七五円、同四〇年分は一四七万一、八四五円となる。

四  そうすると、本件各更正処分は右各総所得金額をこえる部分にかぎり、いずれも被控訴人の所得を過大に認定した違法があり、従つて、これに付随してなされた本件各過少申告加算税の賦課決定処分も右各超過部分に対応する部分に限り違法であるから、被控訴人の本訴請求は、右各更正処分、賦課決定処分のうち、右各違法部分の取消を求める限度で正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却を免れないことになる。そこで、これと結論を一部異にする原判決中の控訴人敗訴部分を右の趣旨に変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 日野達蔵 荻田健治郎 尾方滋)

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