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大阪高等裁判所 昭和51年(う)911号 判決 1978年3月09日

主文

原判決中、被告人竹内勝に関する無罪部分のうち昭和三七年一〇月二〇日付起訴状記載第五の公訴事実の点、同十河正市に関する有罪部分の全部及び無罪部分のうち同起訴状第五の公訴事実の点、並びに同堀越保宏に関する部分全部を、いずれも破棄する。

被告人十河正市、同堀越保宏を各罰金一〇、〇〇〇円に同竹内勝を罰金五、〇〇〇円にそれぞれ処する。

右被告人らが右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間、当該被告人を労役場に留置する。

被告人新島重吉、同池上一盛、同茂里幸男、同岩澤茂夫、同明見進、同清藤詔八郎に関する本件各控訴を棄却する。

理由

(中略)

第三 検察官の控訴趣意に対する判断

一、公訴事実第五―被告人竹内、同十河、同堀越関係―について

論旨は要するに、原判決は公訴事実第五につき、被告人竹内、同十河、同堀越らが煙で燻したという外形事実は認めながら、傷害の点につき、〓俊雄ら三名の傷害の程度はきわめて軽微で、放置しても自然に治癒する程度のもので日常生活に支障を生ずるようなものではなかったから、これをもって傷害と認めることはできないとして、〓ら三名の受傷の事実を認めず、かつ刑法二〇八条所定の暴行罪ないし暴力行為等処罰に関する法律一条所定の共同暴行罪の成否についても、被告人らの所為はこれらの各法条に該当するのではないかと一応考えられるとしながら、本件に至る経緯、背景事情、行為の動機・目的・手段・方法及び法益侵害の程度から本件の犯情を軽微としたうえ、未だ以て刑罰権行使の対象である不法な有形力の行使と目するに由なく、暴行(もしくは共同暴行)罪の構成要件に該当しないとして、被告人竹内ら三名に対し無罪の言渡をした。しかしながら、〓ら三名の受傷事実を否定した原判決の認定は、あまりにも恣意専断による縮小認定であって、法令の解釈適用についてその前提となる事実を誤認したものであり、また燻煙を室内に送り込んだ外形行為を認めながら、不法な有形力の行使に該らず、暴行(もしくは共同暴行)罪の構成要件に該当しないとした点は、いわゆる可罰的違法性論のうち構成要件該当性阻却説の立場に立脚しているものと思料されるところ、原判決が立脚する右可罰的違法性論は刑法の解釈上とうてい採用し難いものであるから、原判決にはこの点において法令の解釈適用を誤った違法があるばかりでなく、仮に右可罰的違法性論を採用する立場をとるとしても、原判決は可罰的違法性論を適用するにあたって前提となる目的の正当性、手段・方法の相当性、被害の軽微性、法益の権衡等に関する事実を誤認し、右理論の具体的適用を誤り、法秩序全体の見地からとうてい許容されない本件犯行について暴行(ないし共同暴行)罪の成立を否定し、法令の解釈適用を誤ったものであって、これらの事実誤認及び法令適用の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

そこで所論にかんがみ記録を精査し当審における事実取調の結果をも参酌して検討するに、本件公訴事実は、「被告人竹内、同十河、同堀越は、昭和三七年七月二五日午後九時ごろ、大阪支店四階人事部室北側入口付近において、他一〇数名と共謀のうえ、人事部室で宿直勤務についていた同支店科学器部販売課長〓俊雄、同商品第一課長吉水文治、同市内販売課長西村規矩夫の三名を煙責めにして苦しめようと企て、同人らに対し『今夜はいいメンバーだ、寝ずにじっくり話させて貰うぞ』等と申し向けたうえ、同室北側入口付近に立ち塞がり、同所に木毛、ダンボール紙片等を詰め込んだスチール製屑入れ数個およびバケツ一個を置き、木毛等に一旦点火したのち、水を打って煙を燻し出し、『もっと燃やせ、もっと燃やせ』、『狸を燻り出してやるのや』等とわめきながら団扇等であおぎ、かつ、煙が同室内に流れ込み易いようにデスクマットをたわめて煙の上から覆いかぶせ、燻した煙を同室内に送り込んでそこに充満させ、午後九時四五分ごろ警察官に救出されるまでの間、同人らを右の燻した煙にむせばせ、よって同人らにそれぞれ加療三日間を要する両眼急性結膜炎および一酸化炭素中毒による頭痛症並びに咽頭炎を負わせたものである。」というのであるところ、原判決は、原審で取調べた関係各証拠を総合すると、傷害の結果発生の点を除きおおむね右公訴事実のような事実があったことが一応うかがわれるとしているのであるが、当裁判所もこの点に関する原判決の認定は正当であると考える。

次に原判決は、右公訴事実中〓俊雄ら三名の傷害の結果発生の点につき、右三名の診断書には公訴事実に沿う診断結果が記載されているけれども、その実態はきわめて軽微で、もとより日常生活に支障を生ずるようなものではなく、通常人ならばおそらくはあえて医師の診療を求めるまでもなく自然治癒に委ねる程度のものであったことがうかがわれるので、これをもって刑法二〇四条所定の「人ノ身体ヲ傷害シタル」場合に該るものとは解し得ない、と説示している。

ところで、刑法にいわゆる傷害とは、他人の身体に対しその生理機能に障害を与えることであって、あまねく健康状態を不良に変更した場合を含むものであるが、それが著しく軽微な場合、どの程度で傷害からはずれるとみるべきか、すなわち単なる暴行との限界については、明確な一般基準を設定することが困難であり、結局個々の場合に応じ社会通念上一般に看過できる程度のものであるか否かにより決する外ないと考えられる。そこで本件の〓俊雄ら三名の被害程度を考えるに、右三名は前記公訴事実記載の被害にあった一時間ないし三時間後にいずれも眼科医吉田秀一及び内科医井上広美の診察を受け、三名とも吉田医師からは加療三日間を要する両眼急性結膜炎、井上医師からは加療三日間を要する一酸化炭素中毒による頭痛症及び咽頭炎の診断を受け、それぞれその旨の診断書の交付を受けたものであるところ、吉田秀一の検察官に対する供述調書によれば、診察時右三名とも睫の毛穴に相当の汚れがついていて、球結膜及び瞼結膜に著明な充血があり、羞明が強く、流涙が多い症状を呈していたが、角膜、前眼部には異常を認めず、また右充血は細菌性結膜炎に見られるような浮腫、混濁を伴わず、単純な刺戟によるものと考えられ、このような炎症は放置しても自然に治癒するものであるが、鎮痛との消炎治療をし(≪証拠略≫によれば、目を消毒点眼し、目薬を投与したものと認められる)、目の痛みは一日位で治る見込みであるものの、前記充血は三日間位は取れないと認めたというのであり、井上広美の検察官に対する供述調書によれば、右三名の一酸化炭素中毒の程度は、右三名とも頭痛と咽頭の痛みを訴えたが、咽頭部に発赤が認められたほかは、脈膊、血圧、体温、胸部打診、聴診の結果異常は認められず、軽度のものと考えられたので、解毒消炎を目的としてぶどう糖とビタミンB、Cの混合静脈注射をしたのみで投薬はせず、右発赤も頭痛も二、三日で自然治癒する見込みであったというのである。そうすると、たしかに右三名の前記診断書に記載されている傷害の程度は軽微であり、日常生活にさほど支障を生ずるものではないと考えられるが、特に目の痛みが一日位、球結膜及び瞼結膜の充血が三日間位取れず、頭痛と咽頭部の発赤が二、三日治らないことなど生理機能の障害がある程度継続性を有することを考慮すると、これらが日常生活上看過される程度のものとはとうてい考えられず、刑法上の傷害にあたるものと認めざるを得ない。なお原判決は、本件の場合通常人ならば医師の診療を求めるまでもなく自然治癒に委ねる程度のものであり、現に右三名と同様燻煙を受けていたと認められる被告人堀越が特段の診療を受けていないことを、傷害を否定する理由の一つにしているけれども、放置しても自然に治癒する程度のものをすべて刑法上の傷害の範疇からはずすことは不当である(軽微な傷害はすべて放置しても自然に治癒するといえる)のみならず、右三名の本件傷害の程度からすれば、同人らが医師の診療を求めたことは、被告人らから被害を受けたことを客観的に明らかにしたいという目的とともに、余病の併発を防ぎ症状の早期の回復を求めるためにも適切な措置であり、目薬など売薬に頼り安静に努める程度でも回復し得たものであるとしても、傷害を認めるのに何ら妨げになるものではなく、また加害者の一員である被告人堀越が医師の診療を受けなかったからといって、右三名の右措置が不必要であったということができないことはいうまでもない。

そうすると、原判決が〓俊雄ら三名に傷害の事実を認めなかったのは、この点において既に事実誤認があるものといわざるを得ない。

次に所論は、原判決が可罰的違法性論のうち構成要件該当性阻却説をとっているとして、その理論そのものが刑法の解釈上とうてい採用し難いものである旨主張する。たしかに原判決は、被告人竹内らが燻煙を人の現存する人事部室内に送り込んだ外形的行為を認めて、これが「人の身体に対する有形力の行使には相違ない」としながら、「その可罰性の根拠につき慎重な吟味を要する」として、本件行為の動機・態様などを証拠により詳細に認定したうえ、「未だ以て刑罰権行使の対象である不法な有形力の行使と目するに由」なく、「傷害罪ないしは暴行(もしくは共同暴行)罪の構成要件に該当しない」と説示しているのであるから、可罰的違法性という表現を用いていなくとも、これを採用し、特にその中のいわゆる構成要件該当性阻却説の立場に立脚しているものと考えられる。ところで、可罰的違法性論の中の構成要件該当性阻却説は、実質的違法性の評価が構成要件該当性の判断に先行することとなり、従来の犯罪論の体系上問題がないわけではない。しかしながら、ある行為が一応犯罪構成要件に該当する形式・外観を呈する場合であっても、諸般の事情に照らし法秩序全体の見地から許容されると認められるときには、処罰に値する実質的違法性、すなわち可罰的違法性に欠けるものとして犯罪の成立が否定されるという理論そのものはこれを是認することができるものと考えられ、原判決もこのことを前提にして諸般の事情を認定しているのであるから、犯罪論体系上の位置付けという抽象的な理論の当否をもって、直ちに原判決に法令の解釈適用を誤った違法があるということはできない。

問題は具体的な事案における可罰的違法性理論の適用の当否であるが、結局は、その行為に出るに至った背景的事情(本件では争議行為に際して行われたという事情も含む)、その行為の動機・目的・手段方法(緊急性、補充性も含む)、法益侵害の程度などの具体的事情に照らして、法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かによって決せられるというほかはないので、以下これらの各要件につき検討を加えることとする。

まず本件行為に至る争議の背景事情については、前記第一において詳述したとおりであり、原判決が「本件行為は判示冒頭掲記のような争議中の一駒として行われたものであって、会社側の強硬態度によって団交が決裂し、相互にストライキおよびロックアウト等の争議行為の応酬の後ようやく管理職側が組合の占拠する社屋に立ち入れる状態になったものの、正常な業務は再開されるに至らず、組合側の団交申入れに対しても会社側は実質的拒否に等しい強硬姿勢を崩していない時点での出来事であり」と説示しているのはあながち誤っているとはいえない(ただ、正常な業務が再開されるに至らなかったのは、指名ストや時限ストを連発するなどして実質的に闘争態勢を解かなかった組合側の態度に起因するところが大きいことは、前述したとおりである)。ところで、本件は〓俊雄ら三名の会社側管理職が人事部室で宿直勤務についていた際同人らに対しなされたものであるところ、管理職が宿直をするに至ったについては、関係各証拠によると、昭和三七年七月二四日会社側がロックアウトを解除して入店したものの、組合側多数が支援の外部の組合員を含めて依然として社屋内に滞留し、夜間まで泊り込み、ガス、電気、水道、電話などの会社設備を使用しているのに対し、正常な勤務態勢がとられていないため、それまで行われていた非管理職社員二名による宿直が実施されておらず、社屋の地下に居住している老人の管理人に社屋全体の管理を委ねることも無理であったので、管理職の立場から社屋・商品・諸設備等の会社財産を監視・保全するため同日から実施されたという経過が認められるのであって、たしかに右宿直が同時に組合側に対抗しひそかに組合側の動静を視察する目的を有していたことは否定できない(現実に本件当日の宿直の際も、組合側の動静を人事部長に電話で報告していた事実もうかがえる)としても、会社財産の管理権を有するものとしてもとより正当な行為であり、特に〓俊雄ら本件当夜の宿直要員が人事部室にいるだけで特段に組合側に挑発的な所為に出た形跡が認められない以上、組合側がこれに対し積極的に妨害することが許されるべき筋合のものではなく、原判決が「宿直とはいっても、平常時における時間外の業務や保安を目的とする宿直とは全く様相を異にし、ひそかに組合側の動静を視察する等組合側を刺戟し挑発する行動と疑われても止むを得ないような態様のものであって、組合側がこれに反発し嫌がらせ的行動に出るのも無理からぬ事情の存した」と説示しているのは、いささか当を失しているものといわざるを得ない。

次に本件行為の動機・目的をみると、被告人ら組合側の者が、本件当日の〓俊雄ら管理職の宿直を組合側の動向を探るためのものと感じ、それをきっかけに本件行為に出たことは認められるけれども、その宿直が会社として正当な業務行為であり、被告人らがこれを妨害することが許されないことは右に述べたとおりであるばかりでなく、被告人らが主観的に組合側の正当な利益を守る意図をもって会社の宿直行為を妨害したとも必ずしも認め難い。すなわち、被告人らにおいて真に組合側の利益を守る意図を有していたとすれは、右〓俊雄らに対し宿直を中止するよう説得し人事部室からの退去を求めるのが当然であるのに、被告人らは同人らにほとんど退去を求めることなく、かえって周囲を閉さした状態の中で燻した煙を同人らがいる部屋に送り込むという行為に出た(詳しくは後述)のであって、これは右のような正当な目的とは無関係な、少なくとも原判決がいう「会社側管理職に対するかなり悪質かつ執拗な悪戯ないしは嫌がらせ」に過ぎないというべきであり、したがって被告人らの本件行為をもって全面的に正当な動機・目的に出たということは相当でないといわざるを得ない。

さらに、本件行為の手段方法を考えるに、その概略は前述のとおりであるが、被告人竹内、同十河らは、スチール製屑入れ約三個及びバケツ一個の中に木毛、ダンボール紙片、煙草の吸いがらなどを詰め込み、これにいったん点火した後水をかけて煙を燻し出し、団扇等であおいで幅四五センチメートルの北側出入口から〓俊雄ら三名が在室する人事部室内に四五分間近くにわたりその煙を送り込み、その間多数で「大きな蚊がいる、燻り出せ」「狐がおるか狸がおるか燻し出せ」「出てきてみろ、袋叩きにしてやる」等と喊声をあげたこと、被告人堀越は右出入口の引戸付近にいて、右〓らが煙の入るのを防ぐため引戸を閉めようとするのを足で踏ん張って妨害したこと、人事部室は約二六平方メートルの面積を有するが、北側の煙が入ってくる右出入口のほかは、西側の高さ約一三五センチメートル、幅九二センチメートルの上下二枚開きのガラス窓二個の開いている部分(構造上窓の半分しか開かない)から外に煙が出るだけで、換気状態は十分でなく、そのため室内には次第に煙が充満し部屋の端もはっきり見えない状態となり、室内にいる〓ら三名は次第に煙に燻され、たまらずぬれ手拭で目や口をおおい、姿勢を低くし、あるいは窓辺へ行って外の空気を吸うなどして煙を避けざるを得なかったこと、室内に充満した煙の濃度が相当に高かったことは、〓ら三名が本件後眼科医の診察を受けたとき睫の毛穴に相当の汚れが付着しており、翌日午後の司法警察員の実況見分の際、人事部室に入ると燻したきなくさい臭いが鼻をついたことからも明らかであること、〓ら三名が室外に脱出することの可否については、北側出入口の外側の第二会議室では被告人ら多数が煙を送り込みながら騒ぎ立てていて、同方向に逃げることは心理的に期待し得べくもなく、また四階のため西側窓から外に脱出することは不可能であり、さらに南側の休憩室に通じる扉については、〓が鍵を持っていたのでこれで開けようとしたものの、室内が暗くて開けることができなかったのであるが、仮にその扉を開けることができたとしても、休憩室から廊下に出る扉の外側に組合員らによりキャビネットや椅子などが積み重ねられていたため扉が開かない状態になっており、結局〓ら三名は人事部室から室外に脱出することはきわめて困難であったというべきであって、原判決が「室外に脱出することも可能な状況であり」と認定したのは当を失するといわざるを得ないこと、なお、原判決は、被告人堀越が被害者らとともに人事部室内におり燻煙を受けていたのに格段の苦痛を訴えていないことを指摘するけれども、同人が最後まで同室内ないし出入口の敷居の上にいたか疑問であるのみならず、本件の共犯者とされている同被告人の供述から直ちに〓ら三名もさしたる苦痛を受けなかったとはいえないことなど証拠上認められる諸事情によれば、被告人らの行為は「かなり悪質かつ執拗な悪戯ないし嫌がらせ」であるとしても、その手段方法は社会通念上かなり程度を越えた軽視し難いものといわざるを得ない。なお、被告人らが右のような行為に出ることがやむを得なかったとされるような緊急な事情は認められず、本件行為以外に他にとるべき適当な手段がなかったともいい難く、緊急性、補充性も認められない。

最後に法益侵害の程度について検討するに、たしかに〓俊雄ら三名の傷害の程度は前記認定のとおり比較的軽微であるけれども、同人らは被告人ら組合員多数に囲まれ事実上脱出できないような状態で四五分間近く煙で燻され、そのため煙が目にしみ涙が出て痛く、喉がいがらく咳込みむせるような状態に陥ったのであって、同人らに与えた生理的苦痛は小さいものとはいえず、本件の法益侵害の程度が必ずしも軽微であるとはいい難い。なお、被告人らとして〓らの本件宿直を中止させる権利を有するものでないことは前述したとおりであり、同人らの個人的法益を侵害してまで被告人らないし組合のため確保すべき正当な利益が存したとも考えられない。

以上認定の諸般の事情を総合的に評価すると、本件に至る争議の背景事情については会社側の責が小さいとはいえないとしても、被告人らの本件行為が法秩序全体の見地から許容されるものとはとうてい考えられず、可罰的違法性を欠くといえないことは明らかである。

そうすると、原判決が本件公訴事実につき傷害罪ないし暴行(もしくは共同暴行)罪の構成要件に該当しないとしたことは、被害者三名の傷害の事実につき事実誤認があるのみならず、可罰的違法性論を適用するにあたっての前提となる事実を誤認し、その具体的適用を誤り可罰的違法性がないとした点において法令の解釈適用を誤ったものであり、これらの誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわざるを得ない。論旨は理由がある。

二、公訴事実第八の(一)、(二)―被告人新島関係―について (略)

三、量刑不当の主張について (略)

第四、結論

以上のとおりであるから、

一、検察官の被告人新島、同池上、同茂里、同岩澤、同明見に関する各控訴並びに同被告人ら及び同清藤の各控訴はいずれも理由がないから、右被告人六名に関する本件各控訴は刑事訴訟法三九六条によりこれらを棄却することとし、右被告人らについての当審における訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して同人らに負担させない。

二、検察官の被告人竹内、同十河、同堀越に関する原判決中公訴事実第五の無罪部分に対する控訴は理由があるから、被告人竹内については原判決中右無罪部分に関する部分のみを、また、同十河、同堀越については、右無罪部分を破棄していずれも有罪とすることにより、これと原判決中の当該有罪部分(これに対する検察官及び右被告人両名の各控訴がいずれも理由のないことは、前叙のとおりである。)とを刑法四五条前段の併合罪として処理するのが相当であるから、右有罪部分をも併せて、刑事訴訟法三九七条一項、三八二条、三八〇条によりそれぞれ破棄することとし、同法四〇〇条但書に従い右被告人三名につきさらに次のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

被告人十河、同堀越につき原判決の「罪となるべき事実」第五の一、二(公訴事実第七の(一)、(二))を引用したうえ、被告人竹内、同十河、同堀越につき第七として次の事実を加える。

第七(公訴事実第五)被告人竹内勝、同十河正市、同堀越保宏は、昭和三七年七月二五日午後九時ごろ、他一〇数名の組合員と共謀のうえ、当日大阪支店四階人事部室で宿直勤務についていた同支店科学器部販売課長〓俊雄、同商品第一課長吉水文治、同市内販売課長西村規矩夫の三名を煙責めにして苦しめようと企て、被告人竹内、同十河らにおいて、同室北側入口付近に立ち塞がり、同所に木毛、ダンボール紙片等を詰め込んだスチール製屑入れ約三個及びバケツ一個を置き木毛等に一旦点火した後水をかけて煙を燻し出し、「大きな蚊がいる、燻り出せ」「狐がおるか狸がおるか燻し出せ」「出てきてみろ、袋叩きにしてやる」等と喊声をあげながら、同時刻ごろから四五分間近くにわたり、団扇等であおいで幅四五センチメートルの右出入口から右三名が在室する人事部室内に煙を送り込み、被告人堀越において右出入口の引戸付近にいて前記〓らが煙の入るのを防ぐため引戸を閉めようとするのを足で踏ん張って妨害し、そのため右三名を室内に充満した煙にむせばせ、よって右三名にそれぞれ加療約三日間を要する両眼急性結膜炎並びに一酸化炭素中毒による頭痛症及び咽頭炎の傷害を負わせたものである。

(証拠の標目) (略)

(法令の適用)

第一、被告人竹内勝について

一、判示第七の各所為(傷害) 各刑法二〇四条、六〇条、罰金等臨時措置法(以下「罰臨法」と略称する)(ただし、刑法六条、一〇条により軽い行為時法である昭和四七年法律六一号による改正前のもの。以下同じ)三条一項一号

一、科刑上一罪の処理 刑法五四条一項前段、一〇条(一罪として最も重い〓俊雄に対する罪の刑で処断する)

一、刑の選択 罰金刑を選択

一、労役場留置 同法一八条

一、原審及び当審における訴訟費用 刑事訴訟法一八一条一項但書

第二、同十河正市について

一、判示第五の一の所為(暴行) 刑法二〇八条、罰臨法三条一項一号

一、判示第七の各所為(傷害) 各刑法二〇四条、六〇条、罰臨法三条一項一号

一、科刑上一罪の処理(判示第七の各罪) 刑法五四条一項前段、一〇条(一罪として最も重い〓俊雄に対する罪の刑で処断する)

一、刑の選択 それぞれ罰金刑を選択

一、併合罪の処理 同法四五条前段、四八条一項

一、労役場留置 同法一八条

一、原審及び当審における訴訟費用 刑事訴訟法一八一条一項但書

第三、同堀越保宏について

一、判示第五の二、同第七の各所為(傷害) 各刑法二〇四条、六〇条、罰臨法三条一項一号

一、科刑上一罪の処理(判示第七の各罪) 刑法五四条一項前段、一〇条(一罪として最も重い〓俊雄に対する罪の刑で処断する)

一、刑の選択 それぞれ罰金刑を選択

一、併合罪の処理 同法四五条前段、四八条二項

一、労役場留置 同法一八条

一、原審及び当審における訴訟費用 刑事訴訟法一八一条一項但書

よって主文のとおり判決する次第である。

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