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大阪高等裁判所 昭和51年(ツ)17号 判決 1976年10月15日

上告人

手島隆

上告人

手島良平

右両名訴訟代理人

石原秀男

被上告人

井上美津恵

右訴訟代理人

榊原正毅

外一名

主文

原判決を破棄し、本件を神戸地方裁判所に差戻す。

理由

上告理由第一の一ないし五について。

土地区画整理法に基く換地処分は、当該区画整理事業施行区域内の土地を整然と区画し、従前の土地の権利関係をそのまま換地に移行させる設権的な行政処分であるから、換地処分にさいしては、まずその論理的前提として権利の客体である換地の特定をしなければならないことは多言を要しないところである。事業施行者が換地計画決定のさい各筆換地明細を定めるほか、縮尺一二〇〇分の一以上の換地図を作成して換地の位置、地積、形態を特定し、換地設計をしなければならないのは右の要請にこたえるものにほかならない(土地区画整理法八七条一号、二号、同法施行規則一二条参照)。したがつて、一般に、隣接する換地相互の境界はその後特段の変更がなされないかぎり右換地図(原判決のいう換地確定図)によつて明らかになると解すべきである。

原審が、第一審判決添付目録記載にかかる(一)および(三)の土地(以下、本件係争地という)は被上告人がこれを所有し、上告人隆の所有でないと判断するにさいし、右係争地の所有権の帰属は特段の事情がないかぎり昭和三二年四月二二日尼崎市復興区画整理事業施行者によつてなされた換地処分により被上告人の前主神山康盛の所有となつた換地である尼崎市抗瀬本町一丁目九番の八(東側所在)と同じく上告人隆の所有となつた換地である同番の九(西側所在)との境界線如何にかかるとしたうえ、前段説示と同旨の見解に基き、専ら換地確定図によつて右両土地の境界を確定しようとしたことはもとより正当で、右判断過程には上告人ら代理人が論旨一ないし三でるる主張するような理由のそごその他の違法はない。

しかしながら、原審が叙上の見解に基き前記両土地の境界線は第一審判決添付図面(一)または(二)記載のイロ線(本件係争地西端南北線)であるとした認定判断は、にわかにこれを是認することができない。

すなわち、原審は上記の点につき、「原本の存在並びに成立に争いのない甲第二号証及び弁論の全趣旨によると、尼崎市役所区画整理局保管にかかる換地確定図中、本件係争周辺の該当部分には、九番の八の土地とその東の南北に通ずる公道との境界線の延長と、九番の九ノ土地のその南の東西に通ずる公道との境界線の延長との交点を基点として右両土地の位置及び範囲が間尺をもつて特定掲記されていることが認められ、確定図の右記載に基づき現地に臨み実測によつて右両土地の境界線を定めると、第一審判決添付別紙図面(一)または(二)記載のイロ線となり、本件係争地は右イロ線より東側に位置することになることは、第一審における鑑定人春名進の鑑定結果により明らかであるから、他に特段の事情がない限り、本件係争地は被上告人所有の九番の八の土地に属するものと認めるのが相当である。」と説示している。しかし、記録によれば、原判決挙示の鑑定人春名進の鑑定結果を記載した書面には、右境界線索定にさいしては、換地図に基き九番の八の東端から西方に向かつて検尺測量した結果、原審が示した判断と同旨の結論に達した趣旨の記載がある反面、他方においては、「この測量において西側より、側量を実施した結果は約一五センチメートル内外の差を生ずる、但しその間に私道あり。この地域は土地区画整理実施済の土地であるため市において全ブロツク測量の結果を必要とする。」とも明記されており、本件係争地はもともと東西幅が南側面において二五センチメートル、北側面において一九センチメートルの南北に長い北に向かつて先細りの短冊型の土地であることをも考慮して彼此勘案すると、場合によつては本件両土地を含む換地ブロツクの東西幅の実測は換地確定図の東西幅の検尺記載と正確に一致しないものであるかもしれない(前者が後者より狭いのではないか)との疑念が生じないではなく、かりに然らずとしても、基点を異にすると何故に上記のような互いに矛盾する結果が生じたのか、右鑑定における西側基点の設定個所が誤りであるのか等の点が明らかにされないかぎり、右鑑定の結果によつては必ずしも本件両土地の境界線が原審説示のようにイロ線であると即断することはできないはずである。

しかるに、原審は上告人らが再鑑定およびさきの鑑定を実施した証人春名進の尋問を申出たにもかかわらず、これを採用することもなく、したがつて、叙上の点について特段首肯するに足る釈明をしないまま、単に官民有地境界明示を受けた東側から換地確定図の検尺記載のとおり測量すると九番の八の西側隣地との境界線はイロとなるとする前記鑑定人春名進の鑑定部分をとつて本件両土地の境界線はイロ線であると断定したものであり、このような結果は原判決挙示の他の証拠によつてもたやすく導き出すことができない。

そうすると、原審は本件土地の境界線がイロ線であると認定するについて証拠判断または採証法則を誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法を犯したものといわなければならず、上告人ら代理人の論旨四、五は理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて、爾余の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇七条一項に則り主文のとおり判決する。

(朝田孝 戸根住夫 畑郁夫)

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