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大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)1090号 判決 1977年4月14日

控訴人

国本馨

外三名

控訴人ら訴訟代理人

林義久

阿部幸孝

被控訴人

鐘光株式会社

右代表者

鎌田茂

右訴訟代理人

稲垣貞男

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  申立

一、控訴人ら

1  原判決中控訴人ら関係部分を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、被控訴人

主文同旨

第二  主張と証拠<略>

理由

一当裁判所の判断は、原判決六枚目裏六行目と七行目の間に次のとおり付加するほか原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

(一) 乙の甲に対する債務につき、丙が保証債務(又は乙、丙が連帯債務)を負担し、乙が甲に対し反対債権を取得し、乙が破産宣告を受けた場合、破産配当率又は配当額の通知による配当請求権の具体化(大審院昭和九年九月一七日判決、民集一三巻一七〇五頁参照)など、総債権者に対する公平な弁済(破産の目的)の実現を阻害しない特別の事情のないかぎり、丙は、民法四五七条二項(乙、丙が連帯債務者の場合は民法四三六条二項)に基づき、破産財団所属の右反対債権を自働債権とし甲の乙に対する右破産債権を受働債権として相殺をなしえない(甲が右破産債権を自働債権とし乙の右反対債権を受働債権として相殺をなしうるということのみでは、右特別の事情に該当しない)と解するのが相当である(乙、丙が連帯債務者の事案につき、大審院昭和七年八月二九日判決、民集一一巻二三八五頁は、丙の相殺肯定)。けだし、(1)右破産の目的の実現のため破産債権の弁済は破産手続によらなければ許されないのに、右相殺は、破産手続によらないで破産債権を弁済するのと同一の結果となり、右特別の事情のないかぎり右破産の目的の実現を阻害することとなる(この理由により、破産管財人も右特別の事情のないかぎり右相殺をなしえない。大阪高裁第一〇民事部昭和五二年三月一日判決参照)、(2)右相殺を無条件に許すと、乙の債権者が乙の有する右反対債権を差押えた場合(被差押債権の処分を禁止する右差押の効力により、乙、丙は右反対債権を自働債権として相殺をなしえない。)との権衡を失する(差押の効力と対比して破産宣告の効果を不当に減殺する)ことになるからである。

(二) 相殺の効果を全面的絶対的となす考え方を止揚して、直接第三者に相殺権の行使の権能を認めながら、その効果を相対的に行使者自身との関係においてのみ生ぜしめるとなす理論(兼子一・民事法研究第一巻三八六頁)を採用しても、右(一)の結論は変らない。けだし、右理論は、相殺の効果を全面的絶対的とすると、甲丙間の判決が民訴法二〇一条二項の趣旨により相殺の抗弁の当否につき(民訴法一九九条二項)乙に対し既判力を及ぼすことになるので、この不当を回避することのみを目的として考えられた理論であるからである。

(三) 右(一)の場合、甲が、乙に対する債権を自働債権とし乙の甲に対する反対債権を受働債権として相殺をなしうる間は、丙は、甲に対し弁済を拒絶する延期的抗弁権を有すると解する見解(保証人に関するドイツ民法七七〇条二項参照)も想定しうるが、民法の右条項の文言から、右見解の採用は困難である。

(四)  破産会社の被控訴人に対する債務の連帯保証人である控訴人らは、破産会社の被控訴人に対する反対債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張するが、本件において右(一)の特別の事情は認められないから、控訴人ら主張の自働債権の有無につき判断するまでもなく、右抗弁は採用できない。

二よつて、本件控訴を棄却し、民訴法八九条、九三条に従い主文のとおり判決する。

(小西勝 和田功 蒲原範明)

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