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大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)1252号 判決 1977年3月31日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一  借地権が旧賃借人から新賃借人に譲渡され、これについて賃貸人の承諾があつた場合は、右三者間において敷金に関する法律関係を清算する旨の特段の意思表示がない以上は、敷金に関する法律関係も旧賃借人から新賃借人に当然に承継されるものと解すべきである。

二  なお、競落人が借地非訟事件として借地権譲渡許可の申立をした場合の付随処分の内容は、敷金に関する法律関係の存する場合には、債務者たる旧賃借人から競落人たる新賃借人に当然に承継されるものとして処理されている実情にある。

(被控訴人の主張)

敷金は賃貸借契約に付随する敷金契約に基づいて差入れられるものであり、敷金契約は賃貸借契約そのものではないから、敷金返還請求権は、賃貸借が終了し、かつ、目的物を返還したときに賃借人に生ずる純然たる債権であり、賃借権の内容を構成していないので、賃貸借関係として、賃借権の譲受人に当然に移転するいわれはない。

(証拠)(省略)

理由

一  被控訴人が滞納会社に対し昭和四六年六月二四日現在、原判決別紙一覧表記載の滞納租税債権を有していたこと、滞納会社がこれより先に控訴人との間で本件土地を賃借する旨の賃貸借契約を結び、右敷金として三〇〇〇万円(以下、本件敷金という)を、賃貸借が終了し滞納会社が地上物件を収去して本件土地を明渡すのと引換えに返還を受ける約定で控訴人に差し入れたこと、控訴人が昭和四六年六月二四日右租税債権を徴収するため国税徴収法に基づいて滞納会社の控訴人に対する将来生ずべき本件敷金返還請求権全額を差押える旨の債権差押通知書が同月二九日頃控訴人に送達されたこと、滞納会社が本件土地上に建築・所有していた建物が昭和四七年五月一八日競売法による競売により訴外太平産業に競落されて、太平産業にその所有権が移転し、太平産業が昭和四七年六月初め頃控訴人に対し右所有権移転に伴つて本件土地の賃借権の譲渡を受けたとしてその承諾を求めたところ、控訴人がその数日後に太平産業に対し右譲渡を承諾する旨答えたことは当事者間に争いがない。

二  控訴人は、借地権が譲渡された場合、新旧賃借人、賃貸人の三者間で清算する旨の特段の意思表示をしない限り、敷金に関する法律関係も新賃借人に当然に承継されるものと解すべきであり、なお、競落人が借地非訟事件として借地権譲渡許可の申立をした場合の付随処分の内容も、敷金に関する法律関係は新賃借人に当然に承継されるものとして処理されている実情にあるので、控訴人は昭和四八年五月一四日太平産業から前記承諾料として一九〇〇万円を受領した際、これを敷金の追加とすることを太平産業との間で合意した旨主張するので、この点について判断する。

敷金交付契約は賃貸借契約に付随する契約であつて、賃貸借契約そのものではないから、賃借権譲渡の際に、旧賃借人から新賃借人に当然に承継されるものではなく、新旧賃借人、賃貸人の三者間の合意をもつて初めて、旧賃借人から新賃借人に承継されるものと解するのが相当である。また、右借地非訟事件の決定の付随処分は、敷金に関する法律関係が債務者たる旧賃借人から競落人たる新賃借人に当然に承継されることを前提とするものではなく、敷金額を変更する必要が認められないときは、この点に触れないこととしているにすぎないものである。さらに、国税徴収法による債権の差押は、債務者に対してはその履行を禁止し、滞納者に対しては債権の取立その他の処分を禁止する効力を有するものであるから、控訴人主張のような敷金追加に関する合意が滞納会社承諾の下になされたとしても、右のような合意及び承諾は、前記差押の通知が到達した後の被差押債権の履行や処分に当り、これをもつて差押債権者である被控訴人に対抗することができないものというべきである。以上のとおり、旧賃借人・滞納会社と控訴人との間の敷金に関する法律関係が新賃借人・太平産業に承継されたものということができない。

よつて、控訴人の右主張は採用することができない。

三 そして、控訴人の前記承諾により、承諾と同時に、控訴人と滞納会社との間の本件土地の賃貸借契約は終了したものというべく、また、右承諾をもつて、控訴人は太平産業に対し、右賃貸借の終了に伴い滞納会社において収去義務のある本件土地上の建物について、そのまま所有することを認容したものであり、したがつて、滞納会社の地上物件を収去して本件土地を明渡すべき義務は履行されたものとみなすのが相当であるから、賃借人・滞納会社に賃料その他の債務不履行に基づく債務のあつたことについて主張立証のない本件においては、右承諾の日に、控訴人は本件敷金三〇〇〇万円を返還すべき債務を負うに至つたものといわなければならない。

四 そうすると、控訴人は被控訴人に対し本件敷金三〇〇〇万円及びこれに対する弁済期後の昭和四八年五月一五日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金(本件敷金の差入れは滞納会社の付随的商行為と認められるから、その弁済期後の遅延損害金については商事法定利率によるのが相当である)を支払うべき義務がある。

五 以上の次第で、被控訴人の請求は正当として認容すべきところ、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法八九条九五条を適用して、主文のとおり判決する。

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