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大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)1270号 判決 1976年11月24日

控訴人・原告(選定当事者) 柘植彦次郎 代理人 鍛冶千鶴子 外一名

(選定者)別紙目録のとおり

被控訴人・被告 亡田中吉太郎相続財産管理人 北山六郎

代理人 村田由夫 外一名

右補助参加人 財団法人日本青年協会

代理人 内藤頼博 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、申立。

(控訴人)

一、原判決を取消す。

二、(本位的請求)

1、控訴人および選定者(以下控訴人らと略称)が被相続人亡田中吉太郎(本籍大阪市南区清水町七番地、最後の住所神戸市東灘区本山町北畑六七四番地一、昭和四三年一〇月二七日死亡)の相続人たる地位を有することを確認する。

2、訴訟費用(参加により生じた費用を含む。)は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(予備的請求)

1、被控訴人亡田中吉太郎相続財産管理人北山六郎の管理下にある被相続人田中吉太郎の遺産中、特別縁故者に対する相続財産分与後の残余財産に対して、控訴人(選定当事者)柘植彦次郎につき三分の一、選定者樋口清子につき三分の一、同柘植英夫、同竹倉浅子、同木村通子、同市川嘉子、同安野整子、同清水祐子につき各一八分の一のそれぞれの割合による残余財産の分配請求権のあることを確認する。

2、訴訟費用(参加により生じた費用を含む。)は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人・補助参加人)

主文第一、二項同旨。

第二、当事者らの主張・立証は、控訴代理人において原判決に対する不服の理由を別紙一のとおり陳述し、被控訴人補助参加人代理人において、これに対する答弁を別紙二のとおり陳述し、被控訴人・補助参加人において甲第二二号証の成立を認めると述べたほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれをここに引用する。

理由

一、訴外田中吉太郎が昭和四三年一〇月二七日死亡したが、相続人のあることが明らかでなかつたため、神戸家庭裁判所において相続人不存在の手続が進められ、被控訴人がその相続財産管理人に選任されていること、被控訴人は昭和四四年六月二〇日民法九五八条に定める公告(以下これを最終公告という。)をなし、その権利主張をなすべき期限(以下これを最終公告期限という。)を昭和四五年二月一三日と定めたこと、控訴人ら(控訴人および選定者らを指す。以下同じ)は訴外吉太郎の相続人であると主張し乍らも、右期限内にその権利の申出をしなかつたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

控訴人の主張は、要するに、(1) 本位的請求の前提をなす、本件においては訴外吉田朝枝他三名が右最終公告期限内に相続人の申出をし、次いで相続権確認訴訟を提起したことに因り、右最終公告期限が該訴訟の確定時である昭和四八年九月一一日まで延伸された旨の主張と、(2) 予備的請求の前提をなす、民法九五八条の二の規定は最終公告期限を徒過した相続人の相続権の行使を制限するものであつても、これを失わしめるものではない旨の主張とから成つているが、右はいずれも民法九五八条の二の規定の解釈問題であるので、次項に一括して考察する。

二、(一) 民法九五一条ないし九五九条の規定を通覧すれば、九五八条の二の規定は、最終公告期限内に相続人たることの申し出をしなかつた相続人は、九五八条の公告に掲げられた期限の徒過により、相続財産法人、ひいては特別縁故者に対する分与後にはその残余財産が帰属すべき国庫に対し、その権利を行うことができないものとしたものと解すべきであつて、前掲控訴人の主張の如く、最終公告期限内に何人かが相続人たることの申出をし、且つその者の相続権の存否が訴訟で争われている間は、他の相続人についても該訴訟の確定時まで公告の期間が延伸されるものと解することはできない。

(二) 控訴人は、前記の如き相続権存否確認訴訟が係属した場合、民法九五八条の三第二項に定める特別縁故者の請求期間の始期が繰り下げられると解せられていることとの対比において、九五八条の二の期間もその間満了しないと解すべき旨主張する。しかし、その場合は、請求期間の始期が繰り下げられるというよりも、その終期が該訴訟の確定時から三ケ月後にまで延伸されると解すべきものであろうが、いずれにせよ、九五八条の三に定める特別縁故者の請求権は、他に相続人のないことが確定して始めて生ずべきものであるから、その未確定の間、右請求権の消滅を来さざるものと解することにそれなりの意味が存するも、九五八条の最終公告に応じて申し出ずべき相続人の権利は、他の相続人の申出の有無とは関わりのないものであるから、これを同一に論ずるわけにはいかず、その結果が別途に帰することをもつて特別縁故者の請求権のみが不当に保護されるということはできない。

そもそも九五八条の二により相続人が失権するのは、相続財産法人に対する関係であるから、若しその最終公告期限内に申出を怠つていても、偶偶他に正当な相続人め申出があり、相続人のあることが明らかになつたときは、九五五条により相続財産法人は存立せざりしものと看做されるから、右申出を怠つていた相続人であつても、爾後その者に対しては自己の相続権を主張して遺産の分配に与ることを妨げないと解すべきである。そうだとすると、控訴人の主張にして実益を生ずるのは、自ずとその相続人たることの申出をした第三者の相続権が認められない場合に限られて来るのであつて、かくて控訴人の主張は、本来自己の権利について尽すべき申出の期限を徒過してその保全を怠つた者が、偶偶第三者が、しかも理由のない申出をなしていたことによつて、その本来罷るべき不利益を救済されるという極めて奇異な結果を招来せしめることとなるのであつて、このような結果が容認される解釈は、衡平上到底これを採り得ないとともに、右相続財産法人に対する相続人の権利の喪失は絶対的なものであつて、九五八条の三の分与の後、残余財産が生ずると否と、またその残余財産の国庫帰属の時期が、相続財産管理人がこれを国庫に引き継いだ時であることも、これに影響を及ぼすべきものではない。

もとより、右相続財産法人に対して絶対的に喪失するということは、ひいて九五八条の三により分与を受けた特別縁故者に対しては勿論、残余財産の引継を受くる国庫に対しても爾後その権利を主張し得ざるに至り、実体上相続権が失われることとなる。かかる結果の招来については相続人不存在の相続財産の国庫帰属の性質を、私権に基礎を置き、国庫を残余財産受取人とする法律の規定に基づく特定承継的取得であると把握し、国庫は前主(相続財産法人)の権利以上のものを取得し得ず、前主の権利に付着する負担を承継すべきであるとして、九五八条ないし九五九条の改正追加(昭和三七年法律第四〇号による)前の九五九条の解釈において、最終公告期間満了後においても残余財産の国庫引渡前には九五五条の適用があると解した立場(控訴人が原審提出の昭和五一年四月五日付準備書面で援用する東京家庭裁判所昭和三六年第二回身分法研究会多数説)からは、前記法条の改正追加後においても、なお控訴人主張の如き反対が唱えられる余地がないではなかろう。しかし、国庫帰属の性質が承継取得であつても、相続財産法人が蒙らない負担をも承継すべきいわれはなく、昭和三七年の前記法条の改正追加は、特別縁故者への分与の制度を導入したことに伴い、相続財産の帰属を迅速に確定して爾後の法律関係の錯綜を避け、相続財産分与手続の円滑な遂行を図るべく、敢えて相続人の失権の時機を明確にしたものと解すべきであるから、これによつて反射的に爾後相続人が残余財産ひいてはそれが帰属すべき国庫に対する関係でも相続権を喪失するに至る結果の招来は、法がこれを予想しつつも、公告に応えて自己の権利の申出を怠つた者にその不利益を課することを是認したものとみるべきであつて、やむを得ないところである。そう解しても右相続財産法人制度の趣旨・目的に照らし、憲法二九条に反するものではないというべきである。

(三) 控訴人は更に相続財産法人にも民法八〇条を類推適用して除斥期間内に申し出でなかつた相続人も、残余財産に対して権利を行使し得ると主張するが、通常申出債権者間の利害の調整という観念を容れる余地のない一般法人の清算手続の場合と、相続人、相続債権者、受遺者、特別縁故者間の利害の調整を要する相続財産法人の清算および分与手続の場合とを同一には論じ得ない。この点形式的に考察する限りにおいては、失権相続人(最終公告期限後の申出相続人。以下同じ)が現われた場合でもこれを無視して特別縁故者への分与を行い、若し残余財産を生じた場合にのみ、その分配に与らしめればよいのであるから、失権相続人も、残余財産への分配請求のみに限つては、これを許容することを妨げないともいえそうである。しかし、現実の問題として、特別縁故者への分与前に現われた失権相続人にも残余財産への分配請求権を認めるとした場合、家庭裁判所が分与審判の過程で、右失権相続人の出現を全く無視することは事実上困難といわざるを得ない。且つそうした失権相続人に残余財産への分配請求権を認むるとすれば、残余財産の有無およびその範囲につき、失権相続人を利害関係人として関与させ、審判に対する抗告権を与えることをも許さなければならないであろう。(極端な場合、分与の結果残余財産が零となつたとしても、失権相続人がこれに不服を申し立てられないのだとしたら、控訴人の主張を認めてみても実益に乏しい。)。かくて残余財産についてであれ、これに失権相続人の権利主張を許すことは、折角相続財産を凍結して清算および分与手続の円滑化を図ろうとした法の趣旨を没却せしめるものであつて、それが、先に前項に説示した絶対的失権の理由でもあるのであるから、相続財産法人が法人であることに依拠して、明文をもつてその準用を定めていない(九五七条二項参照)民法八〇条をたやすく類推適用することもできない。

三、すると、控訴人の本位的請求ならびに予備的請求は、いずれもその前提とする主張が理由なくこれを採り得ず、前掲当事者間に争いのない事実関係の下においては控訴人らは真正な相続人であつたとしても失権したものであつて、右両請求ともその余の点を判断するまでもなく失当として排斥を免れない。よつて控訴人の両請求をいずれも棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないので、民訴法三八四条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本井巽 裁判官 坂上弘 裁判官 潮久郎)

別紙一

(控訴の理由)

原判決には次に述べるとおり法律の解釈を誤つた違法があり取消さるべきである。

一、本位的請求に対する判断について

(1)  原審判決は、「相続人の権利は、最終公告所定の期間徒過により失権するものと解するのが相当である。」としているが、その理由は、結局のところ、特別縁故者の権利保障ということに尽きるようである。

なぜなら、原審判決も認めるように、相続債権者及び受遺者に対しては、相続人の期間徒過をまつことなく弁済を行なうことができ、その関係では、なんら失権を認めるべき必要性が存在しないからである。

問題は、特別縁故者であるが、民法上、特別縁故者に相続財産の分与が認められるのは、残余財産がありかつ相続人がいない場合であり、しかもその場合であつても家庭裁判所が、「相当と認めるとき」に形成的に与えるものであつて、それまでは確定的権利というを得ないものである。

ところで、期間内に相続人の申出を行なつた者につき相続権の有無が争われた場合、その確定後に特別縁故者の分与申立に関する三か月の申立期間が進行することについてはほぼ異論をみない。

つまり、特別縁故者については、前述のような権利の性格にもかかわらず、相続権の有無が争われている限り実質上申立期間が延長されるわけであつて、これとの均衡上からして、右申立期間の開始時まで(その相続権の有無が確定するまで)相続人の申出を延長して認めるのでなければ、特別縁故者のみが不相当に厚く保護されることとならざるを得ない。

たしかに、九五八条の二の文理からすれば、期間の延長ということはありえないようにみえるのは当然であるが、所定期間内に申出を行なつた相続人につき相続権の有無が争われるという異例の場合には、特別縁故者の申立期間が延長される以上、これとの関連で相続人の申出もまたその起算点まで延長されなければ不均衡のそしりをまぬがれないわけである。

原審は、形式的画一性のみを貫こうとして、「相続権の有無が確定した後三か月の申立期間が進行するか否かは暫く措くとして」と述べ、ことさら実質的不均衡から目をそらそうとしているが、これは現代的法解釈の態度から著しく後退したものといわなければならないであろう。

(2)  なお、原審は、「原告主張の見解は、補助参加人の指摘するように、特別縁故者の利害に与える影響も大であり、且論理の矛盾、混乱をまねくものであつて云々」と述べているが、相続人の申出期間が延長されることが利害に影響するとしても、特別縁故者の申立期間も延長されるのであるから、縁故者のみに不利益を帰せしめることにはならないはずである。また、申立期間の起算点が遅れることによつて、以前に行なわれた特別縁故者の申立が期間開始前になされたものとして不適法となるとの危惧は当を得ないものであつて、期間開始前の申立を不適法としないことは、今日異論をみないところといつてよい。

ところで、相続権の有無が確定するまでは相続人の申出が可能であるとする原告の主張に対し、そうだとすれば、その相続人について相続権の有無がさらに争われれば再び申出期間が延長され無限に続くことになりはしないかとの危惧があるようであるが、そのようなことは抽象論としてはともかく、事実の問題としてはありえない。それとともに原告の主張は、最終公告所定の期間内に申出をなした相続人について相続権の有無が争われた場合に、その確定時まで延長されるとしているのであつて、さらにその再延長まで認められると主張しているわけではない。このように、最終公告所定の期間内に申出を行なつた相続人について相続権の有無が確定するまでの問題である以上、前述のような危惧は杞憂にすぎないと同時に、右のような事例に限られる以上、公告制度の意義も十分に生きているといつて妨げないであろう。

二、予備的請求に対する判断について

(1)  原審判決は、「国庫帰属前に、特別縁故者への相続財産分与を行なうことが認められたため、法の明文ない限り、相続人の失権の時期が明瞭でないので、相続財産の円滑な処理を図り、特別縁故者への相続財産分与手続の円滑の遂行を図るため、民法九五八条の二が設けられたものであり」と述べている。しかしながら、特別縁故者への分与のために、相続人を失権せしめる必要があるというのは、いかなる理由によるものであろうか。国民の権利を奪うには、よほどの理由がなければならないわけであるが、特別縁故者に対する分与を行なうという目的からすれば、分与が完了するまで相続権の行使を制限すれば足り、同時に、分与が行なわれた範囲内で相続権を失なわせれば足りるわけであつて、原審のように、分与の目的のために「相続財産に対する一切の絶対的な失権」を必要とするということはありえない。原審の解釈は、その目的を超えて国民の権利を奪うものであつて、とうてい許されないところといわなければならない。この意味において、九五八条の二にいう「その権利を行うことができない」とは、右の範囲で権利行使が制限されるにすぎず、分与後の残余財産に対する請求権まで奪う趣旨と解することはでき得ないのである。

(2)  なお、原審判決は、「昭和三七年改正前の民法九五九条においては、……国庫帰属の時期は、相続財産の国庫への引渡時と解されていた云々」と述べているが、旧九五九条が「前条の期間内に相続人である権利を主張する者がないときは、相続財産は、国庫に帰属する。」と明瞭に規定しているにもかかわらず、判決のような解釈が従来から支持されてきているのは、国庫への引渡時前に相続人が権利行使することまで奪うのは、制度の目的の範囲を超えるものとの認識があるからである。特別縁故者への分与のためには失権させる必要があるとする原判決の論理がもし正しいとすれば、国庫に引渡すためには、失権させておかなければならず、その時期を明瞭ならしめる必要があるとすれば最終公告所定の期間満了時ということになるはずであつて前述の解釈とは矛盾する結果となる。このような意味において、九五八条の二は、旧九五九条と同様、失権の時期を定めたものではないと解すべきである。

(3)  また、原審は、法人の清算と相続財産法人の清算とは同列に論ずることはできないとするが、その特殊性はもちろん考慮しなければならないとしても、相続財産法人も法人とされる以上、基本的に異なるものと解することはできないし、それと同時に、民法総則の法人の規定は法人一般の通則たる性格をも有するものであるから、民法八〇条は、相続財産法人にも類推することは可能であつて、結局、財団の最後の清算として国庫に引渡されるまでは、除斥期間内に申出なかつた相続人も残余財産に対して権利を行使しうるものといわなければならない。特別縁故者に分与するためには相続人を絶対的に失権せしめる必要があるとする原審の考え方は、相続財産を相続人の財産と解した結果ではないかと思われるが、財団たる相続財産法人が成立した以上、相続人の権利は支配権たる物権から財団に対する請求権に変じており、それは財団の清算の一環として処理されるべきものであるから、残余財産に対する請求までも奪うことは、明らかに清算の目的を逸脱しているといわなければならない。原審は、原告の主張を立法論とするが、原審が是認するところの国庫帰属時を引渡時(財団の清算である以上むしろ当然)であるとする旧九五九条の解釈が立法論ではなく解釈論として通用してきたことからしても、この非難はあたらないというべきものである。

別紙二

(控訴の理由に対する答弁)

一、控訴の理由一、の主張について

(1)  控訴の理由一(「本位的請求に対する判断について」)の控訴人の主張は争う。

(2)  控訴人の主張は、要するに、特別縁故者の相続財産分与の申立期間は、民法第九五八条の期間内に相続人の申出を行つた者につき相続権の有無が争われている場合、その相続権不存在の確定後に分与の申立期間がはじめて開始することを前提としている。

しかしながら、特別縁故者の相続財産分与の申立期間は、民法第九五八条の公告期間満了時に開始すると解すべきである。ただ、前記のように、期間内に相続人の申立を行なつた者につき相続権の有無が争われている場合には、その紛争係属中は相続財産分与の申立をすることが期待できない場合もあるから、分与の申立期間の三ケ月は、相続権の不存在が確定した時から起算し、この時から三ケ月の経過により終了する、と解する余地があるにすぎない。しかしながら、右の解釈においても、分与の申立期間は、あくまでも民法第九五八条の公告期間満了とともに開始することになる。

控訴人は、申立期間開始前の申立を不適法としないことは、今日異論をみないところであり、申立期間の起算点が遅れることによつて、その以前に行なわれた特別縁故者の分与の申立が不適法となるとの危惧は当を得ない旨主張している。

しかしながら、申立期間開始前の申立も不適法ではないとの主張は、自己矛盾である。右のような分与の申立が不適法とならないのは、適法な申立期間内の申立であつて、当初から適法であるからである。不適法だが瑕疵が治癒されるというわけのものではない。

なお、相続権に関する訴訟の確定時は、民法第九五八条の公告期間と異なり、訴訟の当事者ではない特別縁故者にとつて明確ではないから、この点からも、特別縁故者の分与申立期間は、極めて明確に知り得る前記公告期間の満了とともに開始するものと解するのが妥当である。

(3)  控訴人は、所定の期間内に申出を行なつた相続人につき相続権の有無が争われている場合に、特別縁故者の分与の申立期間が延長される以上、これとの関連で、相続人の申出期間も、その起算点まで延長されなければ不均衡のそしりをまぬがれないと主張する。

控訴人の主張の前提とするところが誤りであることについては、前記(2) において述べたとおりであるが、控訴人の右主張は、次の点においても根拠がない。即ち、所定期間内に申出をした相続人につき相続権の有無が争われている場合に、特別縁故者の分与の申立期間の終期が延長されると解する余地が生ずるのは、右のような場合には、既に述べたように、その紛争係属中は、特別縁故者において分与の申立をすることが期待できない場合もあり、申立期間につき特別の考慮を要するからである。ところが、これに反して、相続人の相続権の主張に関しては、所定の期間内に申出をした他の相続人につき相続権の有無が争われていても、特別縁故者の場合と異なり、所定の期間内の相続権の主張が期待できないという事情はない。控訴人の主張は、右のような差異を看過しており、原判決が「形式的画一性のみを貫こうとして」「ことさら実質的不均衡から目をそらそうとしている」旨の控訴人の非難はあたらない。

(4)  控訴人は、相続人の申出期間が延長されても、特別縁故者の申立期間も延長されるから、特別縁故者のみに不利益を帰せしめることにはならない旨主張している。

しかしながら、民法第九五八条の期間(昭和四五年二月一三日まで)の延長が認められないとするならば、控訴人らは失権した筈である。ところが、右の期間の延長を認め、控訴人らに相続権の主張を認めること(その結果、控訴人らが相続権を有するとするならば、特別縁故者らは、もはや相続財産分与の申立権がなくなる。)が、何故、かかる特別縁故者のみに不利益を帰せしめることにならないのか、全く理解し難いところである。前記(3) で、述べたように、相続権主張の期間の延長を認めなければならない特段の理由がないのに、特別縁故者の利害に大きな影響を与えるような解釈をとることは妥当を欠く。特別縁故者の分与申立期間が延長されることをもつて、特別縁故者の前記不利益に代替できるものではない。

なお、相続権不存在の裁判確定時期は、民法第九五八条の期間満了時と異なり、右の訴訟の当事者でない特別縁故者にとり、明確ではなく、特別縁故者に与えるこの点に関する不利益も無視できない。

(5)  控訴人は、相続権の有無が確定するまでは相続人の申出が可能であるとの控訴人の主張は、最終公告所定期間内に申出をした相続人についてのみ、その相続権の有無が争われた場合にその確定時まで延長されるとしているものであるから、かかる解釈をとつても、申出期間の延長が繰り返されて無限に続くことはないと主張する。

しかしながら、被控訴人補助参加人としては、控訴人の右主張を全く理解することができない。もし、控訴人主張のように、民法第九五八条の公告所定の期間内に申出をした相続人について相続権の有無が争われている場合には、相続人の申出期間がその確定時まで延長されると解する以上、その主張する理由をも併せ考えると、その延長された申出期間内に相続人の申出があり、その相続権が争われている場合にも、相続人の申出期間がその確定時まで延長されるというのが、その論理上当然の帰結であり、控訴人の右主張は、論理の一貫性を欠くというべきである。例えば、所定の公告期間経過後で、控訴人の解釈に従つて延長された申出期間(相続権確認訴訟《以下第一の訴訟という》の確定時まで)内に、相続人の申出があり、その相続権が争われて訴訟(以下第二の訴訟という)が係属している場合を考えてみる。控訴人の主張によれば、この相続人の主張は適法な期間内の申出であるが、控訴人は、この場合には、第二の訴訟の係属にかかわらず、特別縁故者の分与の申立期間は、第一の訴訟における相続権不存在の確定時から開始し、三ケ月の申立期間は、この時から進行すると解するのであろうか。しかし、かかる解釈は、分与申立期間の延長を認める趣旨からすると疑問であり、控訴人の本来の主張と矛盾するものというべきである。

控訴人らの主張を前提とする限り、極端にいえば、無限に相続権主張の期間が満了しないという事態も考えられ、かくては、民法における「相続人不存在」の制度の趣旨に存することとなる。控訴人は、右のような結果は、抽象論としてはともかく、事実の問題としてはありえない旨主張するが、問題は、かかる結果が実際上生ずる可能性の大・小ではなく、そのような可能性を残すような法解釈が妥当であるかどうかであり、右のような可能性を残す控訴人の主張が誤つていることは、明らかというべきである。

二、控訴の理由二の主張について

(1)  控訴の理由二(「予備的請求について」)の控訴人の主張は全部争う。

(2)  失権の範囲及び時期に関する控訴人の主張は、いずれも立法論としてはともかく、現行法の解釈としては到底採ることができないものである。昭和三七年の改正前の民法第九五九条は、期間内に申出なかつた相続人等の失権につき、相続人等は「国庫に対して、その権利を行うことができない。」と規定していたが、前記の改正の結果、民法第九五八条の二が設けられ、相続財産の国庫帰属をまたずに、同法第九五八条の期間内に相続権を主張しなかつた相続人は、当該相続財産に対して失権することを規定したのであり、この失権は原判決が説示するとおり、一切の絶対的な失権であり、この点において、前記の民法改正の前後において何ら変るところはない。

(3)  相続財産法人に対する権利行使についての民法第九五八条の二の規定は、一般の法人の清算手続に関する同法第八〇条と規定の内容を異にするから、同法第九五八条の二が規定する相続人らの失権を、同法第八〇条の場合と同一に解することはできない。

(別紙)

目録

東京都江東区新大橋二丁目二番二号

控訴人選定当事者 拓植彦次郎

千葉県千葉市検見川町二丁目五六九番地

控訴人選定者 樋口清子

埼玉県大宮市天沼町二丁目九〇六番地

同 拓植英夫

東京都北区西ケ原四丁目五番五号

同 竹倉浅子

埼玉県浦和市大字根岸四〇〇番地

同 木村通子

埼玉県浦和市白幡中曾根一〇七七浦和白幡団地二の二〇八

同 市川嘉子

埼玉県大宮市大字中野林二八九の四番地

同 安野整子

埼玉県大宮市天沼町二丁目九一三番地

同 清水祐子

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