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大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)1334号 判決 1977年9月29日

控訴人

墨田孝之

控訴人

増本茂三

右控訴人両名訴訟代理人

中村健太郎

外一名

被控訴人

青海泰司

外三五名

右被控訴人三六名訴訟代理人

辛島宏

外二名

現時住所不明

被控訴人

岡田しげの

主文

本件各控訴を棄却する。

訴訟承継により、原判決主文一の1の内、被控訴人小山ヲヒロ、同小山冨美子、同東岡悦代、同小山好信、同小山隆司、同杉村勝、同小山肇の関係部分を「控訴人墨田は、被控訴人小山ヲヒロに対し金五万八四〇〇円及びこれに対する昭和四三年七月九日から、被控訴人小山冨美子に対し金一万二九七八円及びこれに対する右同日から、被控訴人東岡悦代、同小山好信、同小山隆司に対し各金八六五二円及びこれに対する右同日から、被控訴人杉村勝、同小山肇に対し各金三万八九三三円及びこれに対する右同日から、それぞれ完済まで、いずれも年五分の割合による金員の支払をせよ」と、同二の1の内、被控訴人永井明子、同藤田琴江、同湯谷加代子、同永井俊明、同中山君代、同永井道代の関係部分を「控訴人増本は、被控訴人永井明子に対し金一万円及びこれに対する昭和四三年七月九日から、被控訴人藤田琴江、同湯谷加代子、同永井俊明、同中山君代、同永井道代に対し各金四〇〇〇円及びこれに対する右同日から、それぞれ完済まで、いずれも年五分の割合による金員の支払をせよ」と各変更する。

原判決添付請求債権目録(一)の内に「丸善油」とあるのを「丸善油」と、同請求目録(二)の内に「西近義影」とあるのを「西辻義影」と各更正する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決中、控訴人ら関係部分を取消す。被控訴人らの控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、「本件控訴を棄却する」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の提出・援用・認否は、左記の附加・訂正・削除をするほか、原判決事実摘示の内、被控訴人らと控訴人らとの関係部分のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(原判決の訂正・削除)

(1)  原判決一二枚目裏五行目に「債権者代位権に基づき」とある部分、同一六枚目表二行目と同一六枚目裏七行目とに「(通じて)」とある部分を各削除する。

(2)  原判決一八枚目表九行目から一〇行目にかけて「原告らの弁済は民法四九九条代位に該らない」とあるのを「被控訴人らは民法第四九九条所定の代位をなし得る者でもない」と、同一九枚目表二行目に「阪部正克」とあるのを「坂部正克」と、同一九枚目裏八行目に「(第二四号証確定日付部分)」とあるのを「(第二四号証は確定日付部分)」と各訂正する。

(3)  原判決添付請求債権目録(一)の内に「丸善油」とあるのを「丸善油」と、同請求債権目録(二)の内に「西近義影」とあるのを「西辻義影」と各訂正する。

(控訴人らの主張)

民法第四七四条第二項によつて弁済をなし得る第三者は、当該債務についての保証人や物上保証人、当該債務に関する担保不動産の後順位抵当権者や第三取得者のように、その弁済をなすことにつき法律上の利害関係を有する第三者をいうのであつて、その弁済につき単に事実上の利害関係を有するに過ぎない第三者は含まれないのである。ところで、本件においては、被控訴人らは南和証券株式会社に対し、本件各株式を寄託していたところ、右会社の代表取締役中川孝雄が、大阪証券金融株式会社から、控訴人墨田名義で金二〇〇万円、控訴人増本名義で金二〇〇万円、合計金四〇〇万円を借受けた際、これが借用金債務の担保として、恣に本件各株式を大阪証券金融株式会社に差入れたが、これが担保差入は横領行為であり、被控訴人らとしては、その所有権に基づき同会社に対し、本件各株式の返還方を請求し得た筋合であつたが、被控訴人らにおいては、大阪証券金融株式会社が本件各株式につき質権の実行をなすことをおそれ、それを回避する目的の下に、右会社に対し、債務者に代つて前記借用金債務を弁済し、本件各株式の返還をうけたわけである。そうすると、被控訴人らにおいてなした右弁済は、横領された本件各株式を回復するための手段に過ぎないのであり、被控訴人らとしては、前記借用金債務につき、その意思に基づき、本件各株式を以て物上保証をしたわけでもないから、被控訴人らは、右弁済につき、経済上の利害関係を有していたに過ぎず、未だ法律上の利害関係を有していたとはいい難く、結局、被控訴人らは、民法第四七四条第二項によつて弁済をなし得る第三者や、同法第五〇〇条にいう「弁済をなすにつき正当の利益を有する者」ではなかつたから、前記の弁済により、被控訴人らにおいて控訴人らに対し、代位弁済による求償権を取得するに由ないものといわざるを得ない。よつて、被控訴人らの予備的請求である代位弁済による求償の請求は、失当である。

(被控訴人ら三六名代理人の主張)

(1) 本件においては、債務者である控訴人らが、債権者である大阪証券金融株式会社に対し、その借用金債務を弁済しなければ、当該債務の担保として、右会社のため質権が設定されていた被控訴人ら所有に係る本件各株式につき、右会社によつて質権が実行せられ、被控訴人らにおいて、本件各株式の所有権を喪失する筋合になつていた。換言すると、被控訴人らにおいて、右債務を代位弁済しなければ、債権者から被控訴人ら所有に係る本件各株式につき執行をうけるおそれがあつたのであり、かかる場合には、その担保提供が被控訴人らの意思に基づいてなされたものであるか否かを問わず、被控訴人らは、右債務に関し、民法第五〇〇条にいう「弁済をなすにつき正当の利益を有する者」というべきである。被控訴人らは、本件弁済により、前記法条によつて、法律上当然に右会社に代位し、控訴人らに対し弁済金員を求償し得るものといわねばならない。

(2) なお、小賀正勝は昭和四二年一一月二〇日に死亡し、妻の被控訴人小賀貞子が相続し、また、小山石松は昭和四六年二月一七日に死亡し、妻の被控訴人小山ヲヒロ、いずれも子である小山治、被控訴人杉村勝、同小山肇が共同して相続したが、右小山治は昭和四七年一二月八日に死亡したため、妻の被控訴人小山冨美子、いずれも子である被控訴人東岡悦代、同小山好信、同小山隆司が共同して相続し、また、保中文雄は昭和四八年六月一四日に死亡し、子の被控訴人保中ミチ子が相続し、また、永井俊治は昭和四八年一月八日に死亡し、妻の被控訴人永井明子、いずれも子である被控訴人藤田琴江、同湯谷加代子、同永井俊明、同中山君代、同永井道代が共同して相続したが、右各被控訴人らにおいては、それぞれの被相続人の本件訴訟を承継した。

理由

(一)  当裁判所も、被控訴人らの控訴人らに対する本訴予備的請求は理由があると判断するものであるが、その理由は、左記の附加・訂正・削除をするほか、原判決理由説示の内、被控訴人らと控訴人らとの関係部分のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(1)  原判決二五枚目裏九行目に「借金名義使用」とあるのを「借金者としての名義使用」と、同二六枚目裏四行目に「前示認定」とあるのを「前示認定の」と、同二七行目表二行目から三行目にかけて「借金名義貸」とあるのを「借金の際の債務者としての名義貸」と、同二九枚目裏末行と同三〇枚目表六行目から七行目にかけてとに「強制執行」とあるのをいずれも「執行」と各訂正する。

(2)  原判決二八枚目裏七行目から八行目にかけて「商法二三条(準用)により少くとも被告中川と連帯して」とある部分、その九行目の「右担保差し入れによる」から同二九枚目表六行目の「いわねばならない。」までの部分、同二九枚目表一〇行目から一一行目にかけて「四七四条二項にいう『利害の関係を有する者』、同」とある部分、同三〇枚目表三行目から四行目にかけて「四七四条二項、同」とある部分、その四行目に「被告ら主張の」とある部分、その七行目の「さらに附説するならば」から同三一枚目表五行目の「認められる。」までの部分を各削除する。

(3)  ところで、本件における事実関係をみてみるに、前記当事者間に争のない事実に、<証拠>を総合すると、

(A)  被控訴人らはそれぞれ予てから南和証券株式会社に対し、被控訴人ら所有に係る被控訴人ら主張の各株式を預託していたこと

(B)  南和証券株式会社の代表取締役中川孝雄は、昭和四〇年三月中に大阪証券金融株式会社から金員を借受けようと考えたが、同会社から金員を借受け得る者は証券業者の顧客に限定されていたため、知人の控訴人らをして、その借受人たらしめようと図つたこと

(C)  そこで、右中川は控訴人らに対し、他から金員を借受けるにつき、控訴人らにおいて、その債務者になつて貰いたい旨を依頼したところ、控訴人らにおいては、それぞれを承諾した上、同人らの印章と印鑑証明書とを右中川に交付したので、右中川において、それらを使用し、同年同月二六日頃に大阪証券金融株式会社から、控訴人墨田を借受人として金二〇〇万円、控訴人増本を借受人として金二〇〇万円をそれぞれ借受けたこと

(D)  ところで、右中川は、右合計金四〇〇万円を借受けるに当り、これが借用金債務を担保するため、被控訴人らから預り保管中の前記各株式を被控訴人らに断ることなく、恣に大阪証券金融株式会社に差入れ、同会社との間において、控訴人らの名義を以て、若し借受人において右借用金債務の弁済を遅滞したときは、右会社において、右各株式を任意に処分し、その処分代金を右債務の弁済に充当し得るものとする旨の約定を締結したこと

(E)  その後、右中川ないし控訴人らにおいては、右借用金債務の弁済を遅滞したため、大阪証券金融株式会社において右担保株式の処分方を検討中であつたが、上記の経緯・諸事情を覚知した被控訴人らにおいては、それぞれその所有に係る右各株式を取戻すべく、同年八月中旬に大阪証券金融株式会社に対し、右借用金債務の支払として、被控訴人ら主張の各金員をそれぞれ支払い、右各株式を取戻したが、右債務の弁済をうけた大阪証券金融株式会社においては、被控訴人らがそれぞれ民法第四九九条第一項により代位することを承諾したこと

を各認めることができる。この認定を覆すに足る資料はない。

(4)  ところで、本件における最大の争点は、前記事実関係の下において、被控訴人らが果して民法第五〇〇条にいう「弁済をなすにつき正当の利益を有する者」であつたか否かということであるから、次にその点について考えてみよう。元来、右法条にいう「弁済をなすにつき正当の利益を有する者」とは、当該弁済をしないときは、自己の所有物件につき、その債権者から執行をうける地位にあるため、当該弁済をなすことにより、当然に代位の保護をうけるに値する法律上の利益を有する者をも含むと解するのが相当であり、いわゆる物上保証人は、その適例である。そこで、右の見地に立つて、本件の場合をみれば、前記中川は、控訴人らの代理人として、大阪証券金融株式会社と種々折衝したのであり、その結果、控訴人らにおいて右会社に対し、それぞれ元本金二〇〇万円宛の借用金債務を負担するに至つたことは明らかであるが、その際、右借用金債務の担保として、右会社において差入をうけた本件各株式に関する担保契約の効力については、容易に断じ難いのであり、それが各所有者である被控訴人らの意思に基づかずしてなされた点からすれば、無効視し得る面があつたとしても、他方、右会社の立場からすれば、表見代理その他の法理によつて、救済が与えられ、有効視される余地も多分に存したのであり、これが担保契約の効力の判定は、詳細な事実関係の究明の上に立つた微妙な判断によつてなされるわけのものであつて、有効とされる蓋然性は、かなり大であつたと思料される。そうすると、被控訴人らにおいて前記会社に対し、右担保契約は被控訴人らの意思に基づかずしてなされたものであるから、無効である旨を主張し、それぞれその所有権に基づき、右各株式の引渡方を請求したとしても、その被担保債務が残存している限り、当該請求は認容されないおそれが大であつたというべく、その意味において、被控訴人らは、まさに物上保証人としての地位にあつたといわざるを得ない。そうすると、被控訴人らは右会社に対し、右借用金債務を弁済しない限り、それぞれその所有に係る本件各株式を右会社によつて処分せられ、その所有権を失うべき地位にあつたものであり、これが弁済をなすことにより、当然に代位の保護をうけるに値する法律上の利益をする者であつたといわなければならない。従つて、被控訴人らは、右会社に対する各弁済により、民法第三五一条によつて、それぞれ控訴人らに対し求償権を取得したわけであり、同法第五〇〇条にいう「弁済をなすにつき正当の利益を有する者」として、当然に右会社に代位したといわざるを得ないのである。

(5)  なお、本件弁論の全趣旨によれば、小賀正勝が昭和四二年一一月二〇日に死亡し、妻の被控訴人小賀貞子が相続し、また、小山石松が昭和四六年二月一七日に死亡し、妻の被控訴人小山ヲヒロ、いずれも子である小山治、被控訴人杉村勝、同小山肇が法定相続分に応じて共同して相続したが、右小山治が昭和四七年一二月八日に死亡したため、妻の被控訴人小山冨美子、いずれも子である被控訴人東岡悦代、同小山好信、同小山隆司が法定相続分に応じて共同して相続し、また、保中文雄が昭和四八年六月一四日に死亡し、子の被控訴人保中ミチ子が相続し、また、永井俊治が昭和四八年一月八日に死亡し、妻の被相続人永井明子、いずれも子である被控訴人藤田琴江、同湯谷加代子、同永井俊明、同中山君代、同永井道代が法定相続分に応じて共同して相続し、右各被控訴人らにおいて、それぞれその被相続人の本件訴訟を承継したことを認めることができる。そうすると、本訴において認容された小賀正勝の債権はすべて被控訴人小賀貞子において承継し、保中文雄の債権はすべて被控訴人保中ミチ子において承継したわけであるが、小山石松の債権は、その元本金一七万五二〇〇円につき、内金五万八四〇〇円を被控訴人小山ヲヒロ、内金一万二九七八円を被控訴人小山冨美子、内金八六五二円宛を被控訴人東岡悦代、同小山好信、同小山隆司、内金三万八九三三円宛を被控訴人杉村勝、同小山肇において各承継し、永井俊治の債権は、その元本金三万円につき、内金一万円を被控訴人永井明子、内金四〇〇〇円宛を被控訴人藤田琴江、同湯谷加代子、同永井俊明、同中山君代、同永井道代において各承継したことになる。よつて、右訴訟承継により、原判決主文の1の内、被控訴人小山ヲヒロ、同小山冨美子、同東岡悦代、同小山好信、同小山隆司、同杉村勝、同小山肇の関係部分、及び原判決主文二の1の内、被控訴人永井明子、同藤田琴江、同湯谷加代子、同永井俊明、同中山君代、同永井道代の関係部分をそれぞれ主文第二項掲記のとおり変更することとする。

(6)  原判決添付請求債権目録(一)の内に「丸善油」とあるのは「丸善油」、同請求債権目録(二)の内に「西近義影」とあるのは「西辻義影」の各誤記であるから、主文第三項掲記のとおり更正する。

(二)  そうすると、原判決中、被控訴人らと控訴人らとの関係部分は相当であつて、本件各控訴はいずれも理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項により、本件各控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき、同法第九五条本文・第八九条・第九三条第一項本文を適用した上、主文のとおり判決する。

(本井巽 坂上弘 諸富吉嗣)

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