大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)1446号 判決 1977年12月22日
控訴人・当審参加人(選定当事者) 壺見正員
控訴人・当審参加人(選定当事者) 壺見和夫
被控訴人 出口チエ子
<ほか三名>
右被控訴人ら訴訟代理人弁護士 赤木文生
同 神田靖司
同 高橋信久
主文
本件控訴ならびに当審での参加請求をいずれも棄却する。
控訴費用(参加費用を含む)は控訴人・当審参加人(選定当事者)らの負担とする。
事実
控訴人(選定当事者)らは、第一四四六号事件につき「原判決を取り消す。被控訴人らは控訴人(選定当事者)らに対し、別紙選定者目録記載の各選定者(壺見正員、同和夫を除く)について、別紙物件目録(二)記載の建物を収去して同目録(一)記載の土地を明渡し、かつ、別表とおり各選定者欄記載の割合による期間別の各金員を支払え(当審で請求を減縮)。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を、当審参加人(選定当事者)らは、第二一二〇号事件につき「被控訴人らは当審参加人(選定当事者)らに対し、別紙物件目録(二)記載の建物を収去して同目録(一)記載の土地を明渡し、かつ、昭和五一年三月一日から同月三一日まで一か月金七〇〇円、昭和五一年四月一日から右明渡ずみまで一か月金七一〇円の各割合による金員をそれぞれ支払え。参加についての訴訟費用は被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、第一四四六号事件につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人(選定当事者)らの負担とする。」との判決を、第二一二〇号事件につき「当審参加人らの請求を棄却する。訴訟費用は当審参加人らの負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠関係は次に付加するほか、原判決事実摘示と同一(ただし、原判決六枚目表五行目「二五、〇〇〇円」を「二、五〇〇円」に改める。)であるからこれを引用する。
一、原判決七枚目表四行目「否認する。」の次に「本件土地賃貸借は鉄工業の作業所に使用する目的で締結されたものであるから、本件転貸借により本件土地の一部は住宅用地となり、一部用途を変更したことになる。」を加え、同八行目「袋地となり」の次に「また、A、B、C各建物の敷地部分を将来各別に、返還をうけた場合に本件土地の利用価値が半減し、」を加え、同一三行目「である。」の次に「なお、本件土地は共有者のために有効利用をはからねばならないが、その一人である浅井眞知子は夫と死別し、子供五人をかかえて生活にゆとりがない。」を加える。
二、第二一二〇号事件の当審参加人の主張
1、参加請求原因
(一)、当審参加人両名は、昭和五一年三月一日壺見福子から本件土地の持分四〇分の一宛の贈与を受け、同年一〇月八日その旨の持分一部移転登記手続を了した。
(二)、よって当審参加人両名は、本件土地の右持分権に基づき、A建物を所有して本件土地を占有している被控訴人らに対しA建物を収去して本件土地を明渡し、かつ、共有持分に相当する昭和五一年三月一日から同月三一日まで一か月金七〇〇円、昭和五一年四月一日から右明渡ずみまで一か月金七一〇円の各割合による損害金の支払いをそれぞれ求める。
2、被控訴人らの抗弁に対する再抗弁
本件土地賃貸借契約が適法に解除されたことは本件第一四四六号事件で主張したところと同一であるから、これを援用する。
三、被控訴人らの主張
1、選定当事者らが前記一当審で付加する主張は争う。
2、参加請求原因に対する答弁、
被控訴人らは、本件土地につき賃借権を有し、当審参加人らが壺見福子から本件土地の持分を取得してその登記を了する以前に、賃借地上の建物につき所有権登記を了しているから、右賃借権をもって当審参加人らに対抗できる。そして、本件土地についての賃貸借契約が、被控訴人らの先々代出口政一の無断転貸を理由として解除されたとする控訴人らの主張が、理由がなく、被控訴人らが依然として賃借権を有することについては、本件第一四四六号で被控訴人らが抗弁として主張するところと同一であるから、これを援用する。
四、証拠関係《省略》
理由
第一、第一四四六号事件について
一、請求原因一ないし三の各事実は、当事者間に争いがない。
二、そこで被控訴人ら主張の抗弁について判断する。
1、まづ、被控訴人らは、本件各転貸のなされた当時、かりに、そうでないとしても、昭和三五年暮頃右転貸につき本件土地賃貸人らの代理人であった壺見正員の明示の承諾があったと主張するが、本件全立証によるも右主張を認めるに足りない。
次に、被控訴人らは前記壺見正員の黙示の承諾があったと主張するが、後段2認定のように、昭和三九年二月頃転借人伊藤キクが右壺見に対しB建物の売却につき同人の了解を求めた機会に、右壺見は本件転貸を覚知するにいたったものとはいえ、その後同人の採った言動からは、直ちに右転貸を黙示的に承諾したものとは認めるのは無理であり、他に右主張を肯認するに足りる資料はない。
2、そこで、本件転貸に賃貸人に対する背信的行為となすに足りない特段の事情があるか否かにつき考察する。
(一)、前記一当事者間に争いのない事実に、《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。
(1)、本件土地は、前記壺見福子ら四名が所有し、他に賃貸している宅地五七八・四八坪(一九一二・三三平方メートル)の一部で、その東南隅に位置し(別紙付図(一)(二)のとおり)、戦前は正木常市がこれを賃借して鉄工所を経営していたが、戦後昭和二〇年頃出口政一が正木から工場建物を譲り受け、右賃貸人ら代理人壺見正員の承諾のもとに正木の右賃借権の譲渡を受け、本件土地とその東側に隣接する同人所有地上で、引き続き鉄工所を営み、右地上のA・B・C各建物に所有権保存登記を経由し、これを作業所兼居宅とし、本件土地のうち西側私道に接する両角地上のB・C各建物(別紙付図(二)のとおり)は従業員の寝泊りに使用してきた。
ところが、昭和二七年夏たまたま居宅を求めていた伊藤キクと中河内敏一が相前後してB建物とC建物を出口政一から譲り受けてそれぞれその敷地部分を転借し、各建物につき昭和二八年七月それぞれ所有権移転登記(伊藤キクはB建物につき夫薫正名義)を了した。
(2)、伊藤キクおよび中河内敏一は、出口政一から転貸についての地主の承諾は出口が既にとりつけてある旨の同人の説明を信じ、爾来転借料を毎年末に一括して出口に支払い、その家族が右各建物に居住して来たもので、その間に同人らにおいて右建物に増改築を施すこともなく、また転借土地の使用状況にも従前と比べて格別の変更はなかった。
(3)、右出口の収受する転借料は、右両名につきそれぞれ年間で昭和三四年まで金二四〇〇円(坪当り月二〇円)昭和三五年から三九年まで金三六四五円(坪当り月三〇円)で、後記原賃貸借の賃料の転貸面積相当分の金額にすぎず、出口は右転貸人から権利金等を徴していない。
(4)、壺見正員は、前記賃貸人より委任を受け、その代理人として本件土地を含む賃貸地につき、使用状況の管理、賃料の集金、地代増額交渉等一切の管理事務に従事し、出口方に赴いて地代を集金していたし(壺見正員が賃貸人らから本件土地等の管理を委託され、その代理人として地代を取立集金していたことは当事者間に争いがない)昭和四一年頃自らも本件土地から約一〇〇メートルのところでモータープールを経営していたので、本件土地の使用状況、就中B・C建物に第三者が居住していることを知悉していたが、出口からは右建物を従業員の宿舎として使用している旨かねてから聞知しており、賃料も確実に入っていたため、右建物居住者の変更には異議もなく、格別の調査もしなかった。
そして、壺見正員は出口より本件土地の約定賃料すなわち月額で昭和二七年当時金一〇〇〇円(坪当り二〇円)、同三五年からは金一五〇〇円(坪当り三〇円)、同三八年からは金二五〇〇円(坪当り五〇円)の割合の金員を本件契約解除の意思表示をする直前の昭和四一年末まで受領した。
(5)、昭和三七年頃出口剛夫がA建物を鉄骨造りに改造したので、これを覚知した正員は逸早く異議を申入れ、右剛夫と交渉の末示談金を徴することで右改造に了解を与えた。
また、昭和三九年二月伊藤キクがB建物の売却を企図し、壺見正員にその承諾を求めたため、これを契機に壺見正員は伊藤ならびに前記中河内敏一に対する出口政一の本件土地一部の転貸の事実を覚知するにいたったが、その際右伊藤に対し「なにがしかの示談料を申し受けることになるが、変な人に売らなければよい」旨の返答をなし、その二、三日後にはB建物の間取り等を直接見分しており、「老人が住むのにはよい家だし、売らなくてもよいではないか」と述べ、さらに、昭和四一年一一月頃には壺見正員から右伊藤に対し「知人の警察官に家を売ってやってほしい」との申入れもあったが、売買代金額が折り合わず不調となり、次いで、同年一二月右伊藤が買主として岡喜久江を選び、同人とB建物の売買契約を結ぶにあたって、再度壺見正員と会い転借権譲渡の承諾方を求めたところ、壺見より高額の承諾料を要求され、その金額等をめぐる交渉の過程で紛議を生じ、右伊藤より壺見および出口剛夫を相手に調停を申立てることがあって推移するうち、壺見が本件賃貸借契約解除の手段に及んだ。
そこで、結局前記岡喜久江は、B建物に荷物を入れた位で入居することなく、昭和四六年一二月頃伊藤キクとの売買契約を合意解約し、その後は伊藤キクがB建物を使用している。
以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》
(二)、右認定の事実関係によれば、本件土地賃貸借契約は、もともと前賃借人の地上建物譲渡に伴う賃借権の譲渡(賃貸人の代理人壺見正員の承諾があった)により成立したこと、その後出口政一のした本件各転貸は賃借土地の一部であり、右転貸によって本件土地の使用状況に格別の変化を生ぜしめていないこと、転貸人出口において特段の中間利得を得ていたわけではないこと伊藤キクからB建物の売却の意図を打ち明けられ、その了解を求められた右壺見において、その際本件転借の事実を覚知しながら、示談料の支払など条件付とはいえ右伊藤の建物売却を容認する旨の返事をし、その後右建物買受人が決って、敷地転借権の譲渡につき承認を求められた段階にいたり、高額の承諾料を要求し、それが容れられざるや本件賃貸借契約の解除に及んだものであって、これらの事実に前認定の諸般の事情を総合的に考察するときは、本件転貸借には賃貸人に対する背信行為となすに足りない特段の事情がある場合に該当すると認めるのが相当である。
控訴人らは、本件転貸借の結果本件土地の一部が住宅用地となり、一部用途の変更を来たすと主張するが、本件土地は鉄工業の作業所に使用されていたとはいえ、前認定のとおり従前から地上に工場建物と賃借人の住居部分が存在し、B、C各建物は従業員の宿舎に充てられていたのであるから、右建物が従業員以外の者の居住の用に供せられたからといって、直ちにその敷地部分の用途変更を招来するものとは認め難い。さらに、控訴人らは本件転貸による本件土地の利用価値の低下をいうけれども、右転貸が是認されたからといって、本件土地が袋地化するとの主張が理由ないことは別紙付図(一)(二)の土地状況からみて明らかであり、また、本件転貸により本件土地使用が細分化されるにいたったとしても、将来本件原賃貸借契約終了によって賃貸人が返還をうけるべき範囲が控訴人ら主張のように区々となるべきものでもなく、本件転貸によって控訴人ら主張のような損害発生の恐れは認められない。
(三)、よって、控訴人らの本件無断転貸を理由とする本件賃貸借解除の意思表示はその効力を生じないというべきである。したがって、控訴人らの被控訴人らに対する建物収去、土地明渡の請求は理由がない。
三、次に控訴人らの金員請求について判断する。
1、控訴人らは、昭和三七年一月から同四二年一月(その主張の本件土地賃貸借契約解除時)までの未払賃料として金一〇九、〇〇〇円を請求するが、本件土地の一か月の賃料が昭和三七年一月から同年一二月まで金一五〇〇円、昭和三八年一月から同三九年三月まで金二五〇〇円であったことは当事者間に争いがなく、昭和三九年四月から金三七五〇円(坪七五円)に、同四一年四月から金五〇〇〇円(坪一〇〇円)に各増額の意思表示がなされたことは《証拠省略》ならびに当審での控訴人・参加人(選定当事者)壺見正員本人尋問の結果によってこれを窺知できる。しかしながら、右本人尋問の結果(一部)ならびに《証拠省略》によるも本件土地の近隣地の賃借人二名との間に前記増額の合意が成立したことを認めうるのみで、これが直ちに本件増額請求の適正賃料額を定める資料となし難く(被控訴人らとの間にも右増額の合意が成立した旨の右本人尋問の結果は信用できない)他に本件増額請求事由の存在とその額を認めるに足りる的確な証拠のない本件においては、昭和三九年四月以降の本件土地の賃料月額は金二五〇〇円とするほかない。
そして、昭和三七年一月から同四二年一月までの賃料合計は金一四万〇五〇〇円であるが、そのうち昭和三七年三月一〇日に金一五〇〇円、同四〇年八月九日に金一万五〇〇〇円、同四一年一二月三〇日に金二万円合計金三万六五〇〇円の賃料が弁済されたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すると昭和四〇年四月二九日に金一万五〇〇〇円、同年一〇月二六日に金一万五〇〇〇円合計三万円の賃料が弁済されたことが認められるので前記期間中の賃料残額は金七万四〇〇〇円となるところ、《証拠省略》によると、被控訴人出口チエ子は昭和四二年一〇月二四日本訴訟提起のため賃貸人らにおいて賃料を受領しないことが明らかなため昭和三九年八月から同四二年九月までの賃料として金九万五〇〇〇円を弁済供託していることが認められるので、右供託により前記賃料未払残額金七万四〇〇〇円は完済されたといわねばならない。
してみると、控訴人らの未払賃料の請求は理由がない。
2、控訴人らの損害金の請求は、本件土地賃貸借契約の解除を前提とするものであって、右解除が効力を生じないこと前叙のとおりであるから、損害金の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。
第二、第二一二〇号事件について
一、《証拠省略》によると、壺見正員と壺見和夫が昭和五一年三月一日壺見福子から本件土地持分四〇分の一宛を贈与により取得し、同年一〇月八日その旨の持分一部移転登記手続を了したことが認められる。
二、そこで、本件土地に対する被控訴人らの占有権原の有無についてみるに、前記壺見福子ら四名と被控訴人ら間に本件土地に建物所有を目的とする賃貸借契約が成立し、被控訴人らが右借地上に登記した建物を所有し、控訴人らの本件賃貸借契約解除の主張が認められず、被控訴人らの右賃借権が有効に存続していることは第一四四六号事件について判断説示したとおりである。
してみると、壺見福子から本件土地持分の一部を取得した当審参加人らに対し被控訴人らは右賃借権を対抗できることが明らかである。
したがって、当審参加人らの被控訴人らに対する建物収去、土地明渡ならびに損害金の請求は、その他の点の判断をまつまでもなく理由がない。
第三、以上の次第で、第一四四六号事件についての原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、第二一二〇号事件についての参加請求は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用(参加費用を含む)の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斎藤平伍 裁判官 仲西二郎 惣脇春雄)
<以下省略>