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大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)1887号 判決 1978年12月25日

第一審原告(昭和五一年(ネ)第一八八七号事件控訴人、同第一八八六号事件被控訴人) 京都ナシヨナル電器販売株式会社

第一審被告(昭和五一年(ネ)第一八八六号事件控訴人、同第一八八七号事件被控訴人) 徐民子

第一審被告(昭和五一年(ネ)第一八八七号事件被控訴人) 国 ほか二名

訴訟代理人 坂本由喜子 河田穣 森本光男

主文

1  本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用中昭和五一年(ネ)第一八八六号事件に関する部分は第一審被告徐民子の負担とし、同年(ネ)第一八八七号事件に関する部分は第一審原告の負担とする。

事実

第一申立

(昭和五一年(ネ)第一八八七号事件)

(控訴人)

一  原判決を取消す。

二  被控訴人徐民子は控訴人に対し、昭和三三年一二月一九日以降同四〇年八月三〇日まで一か月金二万金の割合による金員を支払え。

三  1(主位的請求)控訴人に対し、被控訴人永田平一は別紙物件目録(二)[記載の建物についてなされた別紙登記目録(一)記載の、被控訴人西田覚太郎は右建物についてなされた同登記目録(二)記載の各登記の抹消登記手続をせよ。

2(予備的請求)被控訴人西田覚太郎は控訴人に対し、別紙物件目録(二)記載の建物につき所有権移転登記手続をせよ。

四  被控訴人西田覚太郎は控訴人に対し、別紙物件目録(一)記載の建物を明渡し、かつ、昭和四〇年九月一日から右明渡ずみまで一か月金二万円の割合による金員の支払をせよ。

五  被控訴人国は控訴人に対し、金二八七万七四二二円及びこれに対する昭和三六年七月二日以降支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

六  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。との判決並びに第二項・第四項・第五項につき仮執行宣言。

(被控訴人ら)

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

との判決。

(昭和五一年(ネ)第一八八六号事件)

(控訴人)

一  原判決を取消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決。

(被控訴人)

控訴棄却の判決。

第二主張

当事者双方の事実上及び法律上の主張は、左のとおり付加・訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

(訂正)

一  原判決(昭和三五年(ワ)第六八号、同三六年(ワ)第五五三号、同四一年(ワ)第一〇九〇号、同四五年(ワ)第九四四号併合事件。以下原判決(一)という)四枚目裏五行目の「受けた」の次に「が、右所有権保存登記は同一建物についてなされた二重の保存登記であるから無効である」を加える。

二  同四枚目裏八行目の「移転登記がある。」の次に「右各登記は無効な保存登記に基づいてなされたものであつて、いずれも無効のものではあるけれども、それが存在するために、原告の三二番の建物に対する完全な支配が妨げられ、その所有権の行使が妨害されている。」を加える。

三  同六枚目表三行目の「に対しては」の次に「所有権に基つき」を挿入する。

四  原判決(昭和三六年(ワ)第五五三号、以下原判決(二)という)二枚目表九行目と一〇行目との間に「被告は答弁として、『原告主張の請求原因事実のうち、1項の登記が存在することは認めるが、その余の事実はすべて否認する。」と述べた。』を挿入する。

(第一審原告の主張)

一  訴外徐望生は昭和三三年一月二三日に前主長谷川から三二番の建物を買受けたのち、その増改築工事に着手し、同年三月二七日頃までには工事を完了したものであるが、右工事は、建物の間取りを広くし内部の模様替をするだけのものであり、古材を使用し、壁も元のままであつて、建物を取毀したようなことは全くなかつたのであるから、工事完成後の建物が従前の三二審の建物と同一建物であることは明白である。このことは、工事完成後、徐望生が京都地方法務局に対し、三二番の建物につきその床面積一九坪六〇を三一坪五四に訂正する旨の家屋床面積訂正申告をなし、同年四月二四日同法務局事務官石黒光男において右建物を実地調査のうえ、申告のとおり、新築ではなくして増築による床面積の変更があつたことを確認し、その旨家屋台帳に登録していること、さらには、同年一〇月二九日後記のごとき登記官の過失により、家屋台帳に八一番の建物が登録された際にも、右台帳の当該建物の登録されている頁に、係官によつて「宝蔵町北東三二番と重複」と書いた付箋が貼付されたことからも明らかである。

二  第一審被告国は、同徐民子名義で提出された昭和三三年一〇月二九日付の家屋建築申告書に基づいて家屋台帳に八一番の建物を登録するとともに、翌三〇日付で同被告名義に所有権保存登記をしたものであるが、右登録に際して第一審被告国の担当者としては、照合した建築確認申請書の記載と建築申告書の記載との間に一致しない点があることや、その建築確認自体が法規違反を犯した者に始末書を提出させた上でなされたものであることなどから、職責上当然に、現地に臨んで実地調査をすべきであつたのであり、かつ、実地調査をしておりさえすれば、三二番の建物が取毀わされて新たに八一番の建物が新築されたものでなく、三二番の建物が増改築されたものにすぎないことに気付いて右申告を却下し、八一番の建物について登録・登記がなされるようなことはなかつたはずである。しかるに、担当官が右職務上の注意義務を怠つて実地調査をしなかつたため、右のごとき登録・登記がなされるにいたつたものであるから、これが右担当官の過失によるものであることは明らかである。のみならず、かりに右建物が単に増改築されたにすぎないものではなくて、一旦取毀して新築されたものとすれば、前記床面積訂正申告がなされ、担当事務官が実地調査をした際に、そのことに気付いて右申告を却下したうえ新建物について登録・登記をなさしめるべきであつたというべく、そうすれば、第一審原告としてもその登録・登記に基づいて取引関係を開始しており、床面積を訂正された登録を信頼して取引するようなことはなかつたはずであるのに、事務官の調査がずさんであつたため、申告どおり相違ない旨確認して登録したということになり、いずれにせよ、国の担当官の過失を否定することはできない。

三  そもそも本件は、訴外徐望生が一旦三二番の建物を第一審原告に担保に供しておきながら、感情的反撥から、なんとしてでもこれを第一審原告に渡すまいと考え、知合いの田中秀作司法書士に事情を打明けて相談したところ、ただ増改築工事をしたにすぎない右建物を、一たん取毀して新築した建物であるかのごとく装つて第三者の名義にしてしまえば、第一審原告に取られるようなことはない旨入れ知恵されたことから、前記のとおり、急拠八一番の建物という架空の不動産を捏造し、登記官吏を欺いて妻である第一審被告徐民子名義に登録・登記したというのが真相であるから、これらの不法行為者やそれに加担した者を保護する必要は毛頭ないというべきである。

四  かりに被控訴人永田、同西田が本件建物を買受けた事実があるとしても、同被控訴人らは八一番の建物について登記を経由したのみであり、しかも八一番の建物の登記は存在しない建物についてなされた無効の登記であるからなんら対抗力はない。のみならず、かりに本件建物が新築建物であり、八一番の建物の登記が有効であるとしても、右被控訴人らは、その登記が三二番の建物の登記を故意に無効ならしめるためになされたものであることを知悉しながら、これを買受けて登記を経由したものであるから、いわゆる登記の欠缺を主張しえない背信約悪意者にあたり、第一審原告は登記なくして右被控訴人らに対し所有権取得を対抗しうるものというべきである。

(第一審被告国の主張)

一  第一審原告の第一審被告国に対する主張はすべて、三二審の建物が増改築されたにすぎないもので、三二番の建物と八一番の建物とは同一の建物であり、したがつてその登記・登録も二重の登記・登録であることを前提とするものであるが、三二番の建物は一旦取毀され、同じ場所に新家屋が建築されたのが八一番の建物であつて、両者は別個の建物であるから、第一審被告国に対する請求は、すでにその点において失当である。

のみならず、かりに右両建物が同一の建物であるとしても、第一審被告国の担当官にはなんら過失はないから、第一審被告国には責任はない。すなわち、昭和三三年一〇月二九日付で提出された第一審被告徐民子名義の家屋建築申告書には法の要求する添付書類も完備しており、しかも専門家である土地家屋調査士田中秀作が右徐民子の委任を受けその代理人として申告していたので、旧家屋台帳法六条にいう「申告を不相当とする」ような事情は全く存在しなかつたものであり、したがつて担当官が特に実地調査をしないで登録手続をしたからといつて、そこに過失があつたとすべきいわれはない。また、家屋の床面積訂正の申告にもとづく事実調査は、申告書に記載された訂正後の床面積が正確か否かのみを調査の対象とするもので、建物の同一性の調査までするものではないから、床面積が申告どおり相違ないことを確認して登録した以上、そこになんらの過失も存するはずがない。

(第一審被告永田、同西田の主張)

かりに第一審原告が代物弁済により本件建物の所有権を取得したとしても、それについて有効な登記を経由していないから、その後にこれを買受けて登記を経由し、かつ、いわゆる背信的悪意者にあたるような事情のなんら存しない被控訴人永田、同西田に対し、右所有権取得をもつて対抗することができない。

第三証拠<省略>

理由

一  被告国の本案前の抗弁について

当裁判所も同被告の右抗弁は失当と判断するものであつて、その理由は、原判決(一)の理由第一項のとおりであるからこれを引用

する。ただし、同判決九枚目裏五行目の「ことであつて、」の次に「原告は他の被告らに対する本訴請求が認容されることを解除条件として被告国に対する請求の審判を申立てているものではないから、」を加えて引用する。

二  <証拠省略>ならびに弁論の全趣旨によれば、京都市東山区今熊野宝蔵町一七番の枝番不詳の士地上に、原判決末尾添付の見取図に記載したような間取り及び床面積を有する木造瓦葺二階建居宅(以下、これを本件建物という)が存在し、現に第一審被告西田覚太郎がこれに居住していることが認められるところ、第一審原告は、本件建物は登記簿上別紙物件目録(一)記載の建物として特定されている建物であると主張し、第一審被告らは、本件建物は同目録(一)記載の建物として特定されていた建物とは別個の建物であつて、同目録(二)記載の建物として特定されている建物であると争うので、まずこの点について検討するに、<証拠省略>並びに弁論の全趣旨を総合すると、次のごとき事実が認められる。

1  本件建物の敷地となつている土地上には、かねてより木造瓦葺二階建の建物(以下、旧建物という)があり、その床面積は一階が一一・三〇坪、二階が八・三〇坪(合計一九・六〇坪)であつたところ、右旧建物は旧家屋台帳上、京都市東山区一橋今熊野宝蔵町一七番地所在、家屋番号三二番の住家として登録され、また、登記簿上は、昭和三三年一月三一日付をもつて、右建物につき、別紙物件目録(一)記載のとおりの(ただし、床面積は一階一一・三坪、二階八・三坪)表題部の記載とともに、所有権を長谷川とする所有権保存登記がなされていた。

2  しかるところ、訴外徐望生は、昭和三三年一月二三日頃右長谷川から旧建物を買受けるとともに、その後まもなく石割工務店こと訴外石割義夫に請負わせて同建物の増改築工事に着手したが、その工事が旧建物の床面積をかなり広くし、内部の間取りなども大幅に変更するものとなる計画であつたところから、工事を請負つた右石割義夫は、旧建物の東側の建物と接続している部分の壁の一部とその間の柱数本を残しただけで、その他の柱も壁も全部取り除き天井や屋根瓦も外し、旧建物を一たん解体してしまつたうえで工事にとりかかり、同年三月下旬頃までに工事を完了した。このようにして出来上つたのが本件建物であるが、同建物は旧建物に比べて床面積は約六割も広く、その問取りもすつかり変つてしまつているばかりでなく、屋根瓦、柱、外側の板壁、屋根の破風板などの一部に、取り毀した旧建物に使われていた古材をそのまま使用しているところがあるとはいうものの、総資材の八割方は新しい材料が用いられ、柱(ただし、二、三のものは除く)、廊下、キツチン床板、長押、鴨居、敷居、壁などはすべて新材で作られていた。

3  しかし、右工事の完成後も、旧建物について建物滅失登記の申請がなされたようなことはなく、同三三年四月二〇日頃大森正彦(訴外徐望生の別名)名義で、今熊野宝蔵町北東一七番所在、家屋番号三二番、木造瓦葺二階建居宅の床面積を「一階一一・三〇坪、一階以外八・三〇坪、計一九・六〇坪」から「一階一八・二一七坪、一階以外一三・二七坪、計二一・五四坪」に訂正されたい旨の「家屋床面積訂正申告書」が実測図(この図面には、原判決(一)添付の図面とほぼ同形の見取図が書かれている)を添付して京都地方法務局に提出されるにとどまつたので、同法務局では、同年四月二四日担当者である法務事務官石黒光男において実地調査のうえ、申告どおり相違ないものと認めて、同月三〇旧付で家屋台帳上家屋番号三二番の建物につき、床面積を申告どおり訂正しただけで、建物滅失登記はなされないままであつた。

4  その後、同年一〇月一二日にいたつて、前記徐望生の妻である第一審被告徐民子名義で、東山区今熊野宝蔵町一七に建築面積五七・八五平方米(一七・五〇坪)、延べ面積九九・四八平方米(三〇・〇九坪)の住宅を新築するにつき(工事着手予定日同年一〇月三〇日、完了予定日同三四年一月三一日)、建築基準法六条一項の確認を申請する旨の確認申調書が、「入居を急ぐ余り、右地上に無届で建築工事に着工し、これを竣工させてすでに入居してしまつたが、今後二度とこのようなことをしないことを誓約する」旨の石割義夫名義の始末書及び徐民子名義の誓約書や図面(原判決(一)添付の図面とほぼ同形の見取図)とともに京都市住宅局建築課に提出され、さらに同月二九日付をもつて、土地家屋調査士田中秀作を代理人として同じく徐民子名義で、京都市東山区今熊野宝蔵町一七の一六地上に同年五月二六日に木造瓦葺二階建、床面積一階一八・三二坪、二階一三・三三坪、計三一.六五坪の居宅を新築した旨の家屋建築申告書が家屋建築申告平面図(原判決(一)添付の図面の一階部分の輪郭とほぼ同じ形)とともに京都地方法務局に提出され、それに基づいて、同日付で家屋台帳に別紙物件目録(二)記載のごとき事項が所有者徐民子の氏名住所とともに登録され、次いで同人の申請に基づいて、同法務局翌三〇日受付第三九五二四号をもつて、右目録目記載のごとき表題部の記載とともに、同建物につき徐民子を所有者とする所有権保存登記がなされるにいたつた。ただ、徴税を担当する京都市東山区役所の主税係では、本件建物は家屋台帳上家屋番号三二番として登録されている建物に該当するとの前提の下に、これとは別個に新築された家屋番号八一番の建物は見当らないとして、家屋台帳上の家屋番号八一番の建物には評価をつけず、「宝蔵町北東三二番と重複」と記載した付箋を貼付して課税の対象から除外している。

以上の事実であつて、<証拠省略>中右認定に反する部分は採用しがたく、他にこれを動かすに足りる証拠はない。しかして、右認定の事実関係からすると、旧建物は工事のための解体によつて独立の建物としての効用を失つて滅失し、そのあとに建てられた本件建物は旧建物とは別個の建物であつて両者の間に同一性は存しないとみるのが相当であり、かつ、右滅失に伴つて、旧建物についてなされていた三二番の建物の登記は、実体関係に付合しないものとしてその効力を失い、代つて八一番の建物の登記が、新たに建築された本件建物を表示するものとしてその権利関係等を公示する効力を有するにいたつたものといわなければならない。

三  そこで次に以上のような認定判断を前提として第一審原告の本訴請求について考えるに、<証拠省略>並びに弁論の全趣旨によれば、本件建物の建築工事は訴外徐望生の注文によつてなされたものであり、その費用も同訴外人が出損したものであつて、建築当初は同訴外人の所有であつたこと、第一審原告は昭和三三年四月二三日頃、訴外徐との間の電器製品の継続的販売契約に基づいて同訴外人の負担すべき代金債務を担保するため、支払期日に右債務を弁済することができないときは、その弁済に代えて新築後まもない本件建物の所有権を第一審原告に移転することができる旨の代物弁済予約を同訴外人との問で結び、同月二八日、旧建物である三二番の建物につき右代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記を経由したこと(しかし、基本たる登記が無効である以上、この仮登記も無効ということになり、右代物弁済予約は登記を経由しないものと同様の状態にあつたものというべきである)、右継続的販売契約に基づき、昭和三三年三月二二日から同年七月二八日までの間に第一審原告から訴外徐望生に対し、代金合計金五九六万九五一二円相当の電器製品を売渡し、その内金二八六万二七九〇円については支払がなされたが、残余の金三一〇万六七二二円については期日に支払いがなく、同年一二月一五日現在右同額の債務が履行遅滞の状態にあつたこと、そこで右同日、第一審原告から訴外徐望生に対し右代物弁済予約の完結権を行使するとともに、同年一二月一九日付をもつて前記三二番の建物につき所有権移転の本登記を経由したこと(この登記も前同様無効であつて、第一審原告としては、未登記の状態におかれたままであつたというべきである)がそれぞれ認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠は見当らない。そうすると、第一審原告としては、少くとも右代物弁済予約の当事者である訴外徐望生に対しては、右登記の効力いかんにかかわらず、予約完結権の行使と同時に本件建物の所有権を取得するに至つたものであり、また、なんら実質的権利がないのに登記名義人となつている者、なんらの権原なくして本件建物を占有する者など、登記の欠缺を主張し得る第三者に当らない者に対しては、登記なしに右所有権取得をもつて対抗することができるものといわなければならない。

1  第一審被告徐民子に対する請求について

しかるところ、<証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、第一審被告徐民子は本件建物の建築が完了したのち、昭和三五年頃まで本件建物に居住していたことが認められるとともに、昭和三三年一二月一五日以降も同被告が本件建物内に居住するについてなんらかの正当な権原を有していたものと認めるに足りる証拠は見当らないのである。また、本件建物について同三三年一〇月三〇日付で被告徐民子名義に所有権保存登記がなされていることは前記のとおりであるけれども、同被告が当時本件建物を所有していた訴外徐望生から贈与その他によつて同建物の所有権を譲受けたことについてはなんら同被告の主張しないところであるばかりでなく、<証拠省略>によれば、第一審被告徐民子名義に所有権保存登記がなされるにいたつたのは、前記債務の支払をめぐつて第一審原告と感情的に対立していた訴外徐望生が、たまたま第一審原告の前記所有権移転請求権保全仮登記が旧建物である三二番の建物のみについてなされ、新しく建築された本件建物が未登記のままであつたのを奇貨として、本件建物に第三者である妻・第一審被告徐民子名義の所有権存登記をしてしまえば、第一審原告に本件建物を取られる恐れはなくなるものと考え、同被告と意思相通じてそのような登記手続をしたことによるものであつて、徐望生から第一審被告徐民子へ本件建物の所有権を譲渡したことによるものではないことが認められ、<証拠省略>中これに反する部分は措信できず、他にこれを動かすに足る証拠はないので、同被告について本件建物に対する実質的所有権や前記のごとき占有権原を肯認することはできない。

したがつて、第一審被告徐民子は八一番の建物の所有者である第一審原告に対し八一番の建物について前記所有権保存登記の抹消登記手続をなすべき義務があり、第一審原告の同被告に対する右抹消登記手続の請求は理由がある。

しかしながら一方、<証拠省略>並びに弁論の全趣旨によれば、第一審被告徐民子は訴外徐望生の妻であつて、同被告が前認定のとおり本件建物に居住していたのも、同訴外人の家族の一員としてであつたことが認められるので、他に特段の事情の認められない本件の場合、同被告は訴外徐望生のいわゆる占有補助者であり、独立の占有者ではないとみるのが相当である。そうだとすると、同被告が独立の占有者として本件建物を占有することにより、第一審原告の本件建物に対する所有権を侵害したとする第一審原告の第一審被告徐民子に対する損害金の請求は、その点において失当というよりほかはない。

2  第一審被告永田平一、同西田覚太郎に対する請求について

第一審被告永田平一が八一番の建物につき別紙登記目録(一)の、同被告西田覚太郎が同目録(二)の登記を経由していることは当事者間に争いがなく、八一番の建物が本件建物であることは右にみたとおりであるところ、同被告らはいずれも、前所有者から正当に本件建物を買受けてその所有権を取得し、登記も経由したものであるから、有効な登記を得ていない第一審原告は右代弁済による所有権取得をもつて同被告らに対抗しえないと主張し、かつ、<証拠省略>並びに弁論の全趣旨を総合すれば、第一審被告永田平一は昭和三五年三月五日頃訴外徐望生から本件建物を買受け、次いで同年七月九日頃取下前の第一審被告隼瀬鴻が第一審被告永田から、さらに同四〇年八月二七日頃第一審被告西田覚太郎が右隼瀬鴻からそれぞれ右建物を買受けたことが認められるので、右被告らはいずれも、本件建物につき登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたるものであり、第一審原告は、同被告らに対する関係では、登記なくして前記代物弁済予約の完結による本件建物の所有権取得をもつて対抗することができないといわなければならない。しかるに、第一審原告が右所有権取得について有効な登記を経由していないことは前記のとおりであるから、第一審被告永田平一、同西田覚太郎に対し本件建物について所有権を主張することができず、したがつて、右所有権が第一審原告に帰属しかつそれが不法占有によつて侵害されたことを前提とする同被告らに対する本件登記請求、明渡請求及び損害金請求はいずれも、その点において失当というべきである。

なお、この点につき第一審原告は、右第一審被告らはいわゆる背信的悪意者であるから、同被告らに対しては登記なくして右所有権を対抗することができると主張するけれども、本件全証拠によるも、右被告らがいわゆる登記の欠缺を主張しえない背信的悪意者であると認めることはできないから、第一審原告の右主張は採用できない。

3  第一審被告国に対する請求について

第一審原告の第一審被告国に対する本訴請求は、主として、本件建物が旧建物と同一の建物であり、三二番の建物の登記と八一番の建物の登記とがいわゆる二重登記の関係に立つことを前提として、担当官の過失を主張するものであるところ、本件建物が旧建物とは別個の建物であつてその間に同一性がなく、右二個の登記が二重登記の関係に立つものでないことは前記のとおりであるから、第一審原告の主張はその前提を欠き、失当といわなければならない。

なお第一審原告は、徐望生の提出した前記床面積訂正申告書に基づいて第一審被告国の担当事務官が現地調査をした際、本件建物が新築建物であることに気付いて右申告を却下すべきであつたのに、漫然と申告どおり相違ない旨確認して登録した点にも過失があると主張し、かつ、前認定の事実関係からすれば、本件建物の実地調査をした担当事務官において、同建物が真新しい建物であることに気付いていたであろうことは推測するに難くないところではあるけれども、右実地調査の主たる目的が、訂正申告された床面積が実際に合つているかどうかを確める点にあつたことや、建物の同一性の判断がもともと微妙で因難な法的評価の問題であり、本件建物の場合も、その判断をめぐつて長年月審理が行なわれてきたことからも窺われるように、一目瞭然誰の目にも明らかであつたというほど単純なものではなかつたことなどから考えれば、右担当事務官が第一審原告主張のような措置をとらなかつたからといつて、その点をとらえて過失があつたものということはできないから、第一審原告の右の主張も採用するに由ないというべく、第一審被告国に対する本訴請求はいずれの点よりするも理由がないといわなければならない。

四  以上の次第で、第一審原告の本訴請求のうち、第一審被告徐民子に対する抹消登記請求は正当として認容し、その余はすべて失当として棄却すべきところ、これと同旨の原判決(二)、同(一)は理由を異にするも結局相当であつて、本件各控訴はいずれも理由がないから、民訴法三八四条二項によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 仲西二郎 藤原弘道 豊永格)

物件目録

(一) 京都市東山区今熊野宝蔵町北東一七番地

家屋番号 同町三二番

一 木造瓦葺二階建居宅

一階 一八・二七坪

二階 一三・二七坪

(二) 京都市東山区今熊野宝蔵町一七番地の一六

家屋番号同町八一番

一 木造瓦葺二階建居宅

一階 一八・三二坪

二階 一三・三三坪

登記目録(一)、(二)<省略>

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