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大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)826号 判決 1978年4月27日

主文

本件控訴および控訴人の予備的請求をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者双方の申立

一  控訴人

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し、金一、二九三万四、〇八〇円およびこれに対する昭和四六年一二月一二日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決と仮執行の宣言。

二  被控訴人

主文と同旨。

第二  当事者双方の主張

一  控訴人の請求原因

1  訴外川崎電機株式会社(以下川崎電機と呼称)は、かねて被控訴人との間で締結した食用乾燥ネギフレーク(以下乾燥ネギと略称)に関する継続的倉庫寄託契約に基づき、昭和四六年八月二七日当時、その所有する別紙目録記載の乾燥ネギを被控訴人に寄託していた。

2  (一) 控訴人は、昭和四六年八月二七日、川崎電機から右同社が被控訴人に寄託中の乾燥ネギのうち「一箱八キログラム入りのもの三、五〇〇箱。二八トン」(以下これを本件ネギと呼称)の所有権と、これの被控訴人に対する返還請求権を含む寄託契約上の法的地位とを譲り受けた。

(二) 仮にしからずとも、控訴人は前同日、川崎電機に対し金一、四〇〇万円を弁済期昭和四七年一月一〇日の約で貸付け、同日その担保として本件ネギに譲渡担保権の設定を受けるとともに前記契約上の法的地位を譲り渡けた。

3  川崎電機の専務取締役である川崎敏雄(以下敏雄と呼称)は、即日、被控訴人の従業員である訴外岡田民子(以下岡田と呼称)に右2の事実を告げるとともに、以後本件ネギを控訴人のため受寄託保管すべき旨を命じて、右占有移転の指図ならびに債権譲渡の通知をなした。

4  岡田はこれを承けて、控訴人に宛てて、倉荷証券としての記載要件を具備した、少くとも預り証券としての効力を有する冷蔵貨物預証(甲第一号証。以下本件預り証と呼称)を発行し、敏雄を通じてこれを控訴人に交付し、以て控訴人に対し、以後本件ネギを控訴人のため受寄託保管することを約した。

5  被控訴会社代表者は自身文盲なため、従来から契約書、預り証、伝票等文書の作成をすべて右岡田(なお同人は被控訴会社代表者の三女でもある)と従業員鎌田順子に委かせていたから、岡田は前記3、4につき被控訴会社のため代理権を有する。仮に本件につき代理権を有しなくとも、岡田は本件預り証の作成にあたり、そのネギの数量を台帳を見て確認し、被控訴会社における預り証の通常の作成方法により作成し、敏雄の要請によりその名宛人として控訴人を表示して敏雄に交付したのであり、その外観上代理権を有するものと信ずべき正当の理由がある。

6  ところが被控訴人は、昭和四六年九月二八日頃、本件ネギのうち二、九九四箱、二三トン九五二キログラムを、本件預り証と引換えによらずして、またそれが控訴人の所有または譲渡担保の目的物であり、控訴人がその返還請求権者であることを知り乍ら、控訴人に無断で、訴外攝斐電化株式会社(以下攝斐電化と呼称)に引渡し、以て本件ネギに対する控訴人の所有権若しくはこれについての被控訴人に対する返還請求権を侵害し、または被控訴人の返還債務を履行不能ならしめた。

7  ために控訴人は昭和四六年九月当時の本件ネギの価格(一キロ当り五四〇円を下らない)相当の金一、二九三万四、〇八〇円の損害を蒙つた。

8  よつて被控訴人に対し、右不法行為若しくは寄託契約上の債務不履行に基づく損害賠償として金一、二九三万四、〇八〇円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四六年一二月一二日から支払済に至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

9  仮りに前項の請求が認められないときは、次の事項に基づき、民法七一五条により、前項同額の金員の支払いを求める。

(一) 被控訴人は岡田を雇用して業務上使用していた。

(二) 岡田は敏雄の依頼により、業務を執行するに際し、本件預り証を権限なく作成して敏雄に交付したが、その際本件預り証が敏雄から控訴人に交付され、控訴人はこれを真正なものであり、且つ被控訴人が控訴人のため本件ネギを保管したものと信じて、川崎電機に対し、その価格相当の出捐をなすことを充分知悉していたものであり、仮りに知らなかつたとしても重大な過失により知らなかつたものである。

(三) 控訴人は、敏雄より本件預り証を交付されて左様に信じ、川崎電機に対し本件ネギを担保に、一、四〇〇万円を貸付けた。

(四) ところが、川崎電機は昭和四六年九月末倒産して右債務を弁済せず、且つ被控訴人は本件預り証の無効を主張するので、結局控訴人は本件ネギ中、被控訴人から引渡しを受けていない二三トン九五二キログラムにつき、その価格相当の損害を蒙つた。

二  被控訴人の答弁と主張

1  請求原因につき、その1は認める。2は不知。3は否認する。4は岡田が敏雄の求めにより本件預り証を作成し同人に交付したことは認めるが、その余は争う。5は争う。6は本件ネギ中主張の数量を攝斐電化に引渡したことは認め、その余は争う。7は不知。8は争う。9は(一)を認め、その余は否認する。

2  被控訴人は従来とも、川崎電機以外の者から乾燥ネギを預つたことはなく、川崎電機の指示する時期に、指示された数量を、指示された相手方に出庫していたのみであり、それらにつき、倉荷証券とか預り証券を発行し、それと引き換えに出庫していたということもない。本件ネギも川崎電機から預り保管中のものにつき、川崎電機から攝斐電化へ引渡すべく指示されて、そうしたに過ぎない。

なお、控訴人は、昭和四六年六月一二日に川崎電機から被控訴人が預り保管中の一、二〇〇箱の乾燥ネギの譲渡を受けた際にも、敏雄から本件預り証と同様の預り証(甲第二号証)を交付されたにも拘らず、その現物の引渡(出庫)については、それとの引換えにではなく、川崎電機から被控訴人に言つて出庫する方法がとられ、控訴人もこれを十分了知して諒解しているのである。

3  本件預り証の発行について

(一) 本件預り証は代表者の記名押印および倉荷証券であることを示す文言の記載を欠くから倉荷証券または預り証券の要件を具備しない。(なお被控訴人は昭和四六年当時から現在まで、運輸大臣の許可が得られないため、倉庫証券を発行した事実はない。)

(二) 本件預り証は、敏雄において、岡田が単に会社内の掃除および伝票整理等の雑用の担当者であつて、その意味を知らないのを奇貨として、「至急に必要で、控訴人に見せるだけだ」と嘘言を弄して書かせただけのものである。岡田は倉荷証券・預り証券の発行権限はなく、且つこれを倉荷証券・預り証券として発行する意思もなかつたのである。

(三) 従つて、岡田において、本件預り証を作成して敏雄に交付することで、控訴人主張のような、本件ネギの占有移転の指図若しくは債権譲渡の通知を受領し、これを承諾して以後控訴人のために保管する意思を表示するが如き認識は全くなく、また敏雄の行為にも、そのような意味合いはなかつたのである。

4  本件ネギは、被控訴人が川崎電機から預り保管中の別紙目録記載の乾燥ネギの一部であるが、それを単に数量的に特定したに過ぎないから、譲渡担保契約の目的物の特定としては不十分である。なお本件預り証には一応倉庫番号の記載はあるが、その各倉庫に、その記載どおりの数量の乾燥ネギが過不足なく存在していたという証拠はない。

5  使用者責任の請求について

(一) 著しく時機に遅れて提出された攻撃防禦方法であるから却下されるべきである。

(二) 岡田の職務は、前記のとおり、会社内の掃除および伝票整理等の雑用を担当していたに過ぎず、本件預り証の作成はこれに含まれないから、民法七一五条にいう事業の執行につきなされたものとはいえない。

(三) 控訴人は原審において、昭和四七年八月二二日付準備書面においてこの主張をしたのち、昭和五〇年三月七日付取下書でこれを一旦取下げている。すると、控訴人はおそくとも右昭和四七年八月二二日には、岡田が被控訴人の被用者としてその事業の執行につき控訴人に損害を加えた事実を知つていたことは明らかであり、昭和五〇年八月二二日に消滅時効が完成している。今回再び主張したのは昭和五三年二月七日付準備書面においてである。

第三  証拠関係(省略)

理由

一、請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二、原審証人神田逸郎の証言により成立の認められる甲第七号証と原審証人斉藤正、平田瀛、神田逸郎、川崎敏雄の各証言に甲第一号証の存在とを総合すると次の各事実が認められる。

(1)  昭和四六年八月二六日、川崎電機の専務取締役である敏雄が控訴会社に訴外淡路化工株式会社振出・額面一、四七六万八、〇〇〇円の約束手形を持参して、その割引またはこれを担保とする金融を依頼した。控訴会社はこれに応え、控訴会社振出の額面一、四〇〇万円の約束手形を融通手形として貸与することとしたが、右淡路化工の手形につきその信用に不安が持たれたため、同手形のほか、川崎電機所有の乾燥ネギをも担保に供せしめることとし、その担保に供された乾燥ネギについては、(イ)控訴会社において何時でも自由に売却処分でき、(ロ)その代金は一キログラム当り五四〇円で計算し、毎月末締切一三五日目に支払う、(ハ)但し右代金の支払は、前記淡路化工の手形が決済された場合または控訴会社振出の融通手形の決済資金が弁済された場合に限り、右弁済等がなされなかつたときは、代金と貸付金とを相殺するとの合意が両者間に成立した。

(2)  右合意に基づき翌八月二七日京都市内の川崎電機の事務所において控訴会社従業員斉藤正から敏雄に対して、控訴会社振出の額面合計一、四〇〇万円の約束手形(六通)を交付し、敏雄から斉藤に対して、前記淡路化工振出の約束手形(川崎電機の裏書あるもの)と、敏雄が被控訴会社に赴き、その従業員岡田民子をして作成せしめた冷蔵貨物預証(甲第一号証。以下「本件預り証」という。)とを引渡した。

(3)  右「本件預り証」は昭和四六年八月二七日付で被控訴会社の名とその社印が押捺された(代表取締役の記名押印はない)控訴会社宛の書面で、「品名 青葱フレーク三五〇〇C/S」「数量8kg段ボール四mm」と掲記したのに続き「右貨物正に当方冷蔵庫第No.5No.8No.11No.12号へ入庫しました 出庫の際は必ず本証をご提示願います」との文言が記載されている。

右認定の事実によれば、昭和四六年八月二七日、川崎電機は控訴会社に対し、その所有する乾燥ネギ二八トンを一、四〇〇万円の債務の譲渡担保として提供を約したことが認められ、これに反する証拠はなく、控訴会社がこれを単純に譲受けたものとする控訴人の主張は理由がない。

三、ところで控訴人は、右乾燥ネギ二八トンは別紙目録記載の乾燥ネギの一部であつて、「本件預り証」記載どおり「八キログラム入りのもの三、五〇〇箱」と特定されて控訴会社へ引渡され、控訴会社がこれに譲渡担保権(所有権)を取得し、これとともに控訴会社はこれに対する川崎電機の被控訴会社に対する寄託契約上の返還請求権を含む法的地位を譲り受け、且つそれらの譲渡・引渡の事実は川崎電機の代理人である敏雄(同人が川崎電機のため代理権を有することは弁論の全趣旨上当事者間に争いがない)から被控訴人に通知(占有移転の指図を含む)され、被控訴会社はこれを承諾して「本件預り証」を倉荷証券として発行して、控訴会社に対し保管受託を約した旨主張し、被控訴人はこれらを争うので判断する。

1  たしかに、前記二の(3)に認定の「本件預り証」の記載と原審証人斉藤正の証言により認められる右斉藤が前記二の(2)に認定した「本件預り証」の引渡しを受けた後、敏雄とともに被控訴会社の倉庫へ赴き、その品名・数量どおりの乾燥ネギの存在することを確認している事実とに徴すれば、当時被控訴会社倉庫に在庫中の乾燥ネギのうち八キログラム入りのもの三、五〇〇箱が集合物の一部として特定されて川崎電機から控訴会社へ引渡され、被控訴会社もこれを承諾したかに認められないでもない。

2  しかし乍ら、進んで被控訴人の主張に基づき、本件における川崎電機と被控訴会社ならびに控訴会社の取引の実情と「本件預り証」の発行の事情などを調べてみると、以下説示するとおり、上記控訴人の主張はいずれもこれを認め難いのである。

3  すなわち、成立に争いのない甲第二、三号証、同じく乙第二号証の一、二、当審証人斉藤正の証言により真正に成立したと認められる甲第四号証、同第五号証の一ないし二一、原審証人神田逸郎の証言により真正に成立したと認められる同第六号証の一、二に原審証人斉藤正、平田瀛、岡田民子、川崎敏雄、原審および当審証人神田逸郎の各証言に原審における被控訴会社代表者本人尋問の結果と弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

(1)  控訴会社は化学製品、建材等の売買を業とする商社であり、川崎電機は京都市に本店を置き、主として重電気工事を業とする会社であるが、昭和四一年頃から三重県下に工場を設けて乾燥ネギの製造販売を始め、昭和四六年からは徳島県下にもその工場を設けていた。川崎電機では従来、右乾燥ネギを明治資材を通じて東洋水産へ販売していたところ、昭和四六年春頃右明治資材が倒産した。そこで東洋水産では、かねてからの取引先である控訴会社に右明治資材の肩代わりとして川崎電機と乾燥ネギの取引をするよう働きかけ、ここに両者の接衝が持たれた末、同年六月七日はじめて控訴会社は川崎電機から一七・六トンの乾燥ネギを買付けた(以下これを第一回取引という)。

(2)  右第一回取引のうち八トンについては同月七日から一一日にかけて川崎電機の三重工場から控訴会社指定の東神倉庫へ送付されたが、残九・六トンについては、現物は直ちに引き渡されず、同月七日付で被控訴会社発行名義控訴会社宛の冷蔵貨物預証(甲第二号証)が川崎電機から控訴会社へ差し入れられた。右甲第二号証も「本件預り証」と同様の体裁で、預り品名数量を「八キロ入一、二〇〇箱の乾燥ネギ」とし、預り倉庫を一三号冷蔵庫とするものである。

(3)  従来、川崎電機では三重工場等で製造した乾燥ネギにつき、販売先へ工場から直送したものを除いてはすべて被控訴会社との専属的な倉庫寄託契約に基づき被控訴会社倉庫に寄託保管を依頼していて、これを第三者に販売した場合でも、その販売先への引渡しについては、常に川崎電機からの出荷指示によつてこれをなし、被控訴会社も受寄託中の乾燥ネギは川崎電機の指示によつてのみ出荷することとしていて、譲受人たる第三者が預り証等を提示して川崎電機の関与なしに現物を引き取ることはされていなかつた。

(4)  そのため第一回取引において甲第二号証が授受されたときも、その出荷方法については、控訴会社と川崎電機間で、控訴会社は直接に被控訴会社へ引き取りに行く(或は出荷指示をする)のではなく、品物を必要とする都度、川崎電機に指示し、川崎電機がこれを承けて被控訴会社へ受け出しに行き、川崎電機が控訴会社の指定荷送先に送付することが合意された。

(5)  右合意に基づき控訴会社では前記第一回取引の引渡未済の九・六トンの乾燥ネギの出荷指示として、六月二四日以降別表記載のとおり順次川崎電機へその指示を送り、川崎電機はこれに基づき現物を送付したが、その現物は、前記甲第二号証が授受されていたに拘らず、必ずしもその全部が被控訴会社に寄託中の品物を受け出してこれを送付したわけではなく、三重工場から直送したものも多く、むしろ後者の方が回数・分量とも前者を大きく上廻つている(別表参照)。なおそのことは控訴会社でも荷送状等から知り得たと思われるのに、それにつき何らの異議も唱えていない。

(6)  八月二七日の本件取引につき、敏雄は控訴会社から担保提供の証として甲第二号証と同様な書面の引渡しを要求されたため、同日被控訴会社へ赴き、事務員の岡田民子に対して「個数を見せるだけだから控訴会社宛に預り証を書いてくれ」と申し向けて、右岡田も事情をよく知らないまま、ただ在庫数の証明に使われるものとの認識の下に、台帳上の在庫数を調べた上で、「本件預り証」を作成して敏雄に交付した。

(7)  敏雄は「本件預り証」を控訴会社へ引き渡したが、これに基づく現物の出荷については第一回取引のそれと同様の方式を踏襲して行くことが暗黙に合意され、その後も別表記載のとおり従来どおりの方式が続けられていた。なお八月二七日現在の第一回取引の出荷残高は四、六八〇キログラムであるから、計算上は、別表記載の九月二〇日の六四〇キログラムのうち二九六キログラムが第一回取引残高に、三四四キログラムが本件取引分の引渡しに、その後のものは本件取引分のそれということになる。

(8)  被控訴会社は九月二八日攝斐電化の者が来て在庫する乾燥ネギの引渡しを求めたので、一旦これを拒絶して川崎電機に連絡し、後刻その代表者の妻を通じて、その在庫する乾燥ネギを右攝斐電化へ引き渡すべき旨の指示を受けた上で、これを同社へ引き渡した。

右(4)および(7)に認定の出荷指示につき、控訴会社から川崎電機へ送付された荷渡依頼書(甲第五号証の一ないし二一)は被控訴会社宛に、その記載の数量の乾燥ネギを該状引換えに川崎電機へ引き渡す様依頼した文言が記載されているから、被控訴会社倉庫から出荷の都度、これが被控訴会社に示されていたとすれば、出荷指示は控訴会社から川崎電機にされたのではなく、右荷渡依頼書によつて被控訴会社に対してなされたものということになる。しかし乍ら、前掲各証拠によると、控訴会社は右荷渡依頼書を川崎電機へ送付すると直ちに電話でその旨を伝え、川崎電機は右電話を受けるとすぐに出荷の手配をし、被控訴会社倉庫から出すときは直ちに受け出しに行くことが多く、従つて、右荷渡依頼書が川崎電機に到達するのも出荷後となることが多く、被控訴会社にこれが荷受けの都度示されるということはなかつたことが認められる。されば右甲第五号証の一ないし二一も前認定の妨げとはならない。その他原審証人斉藤正、平田瀛、原審および当審証人神田逸郎の各証言中前認定に反する部分はたやすく措信し難く、他に前認定を左右するに足る資料はない。

4  右3に認定の各事実を総合すると、

(一)  控訴会社と川崎電機間の第一回取引においてうち九・六トンについては、当時被控訴会社の倉庫に在庫中のそれだけの現物が一括特定して引き渡されたものとは到底認められず、控訴会社から川崎電機への出荷指示に基づき、川崎電機が自ら自己の三重工場から出荷し、または被控訴会社から受け出した都度、これにより現物が特定して控訴会社がその上に所有権を取得したものと認められるのであつて、本件取引についても、これに基づく出荷方法が右第一回取引のそれを踏襲することが暗黙に合意され、現にそのとおり継続していたからには、控訴会社と川崎電機間においても、当時被控訴会社倉庫に在庫中の二八トンを一括特定して引き渡したものではなく、その特定は、控訴会社の将来の出荷指示に基づき、川崎電機が出荷選択を遂げることによつて始めてなされたものとみなければならず、

(二)  「本件預り証」も甲第二号証もともに、被控訴会社ではこれを当時倉庫にその記載種別・数量の乾燥ネギが存在することの証明手段として発行し、控訴会社でもその趣旨で受領し、且つその発行に際し、川崎電機(敏雄)から被控訴会社に対して、何らその保管および出荷につき、従来と異る旨の指示はなされず、その後も控訴会社の乾燥ネギ引渡請求権の債務者は従来のとおり川崎電機であつて、被控訴会社では川崎電機の指示に基づき出庫しているので、敏雄が被控訴会社の従業員岡田に「本件預り証」を作成させたことで、種類債権としての返還請求権の譲渡を通知したものとも認められず、且つ右岡田がこれを作成交付したことで、控訴会社に対して寄託契約上の債務を負担する意思を表示したものということもできない。

5  してみれば、集合物の一部につき物権の設定・移転がなされ得ることを一般的には否定できないにせよ、控訴会社と川崎電機間の本件取引については、単に川崎電機所有の乾燥ネギ二八トンを譲渡担保として提供することが約されたに止り、未だその目的物の具体的特定は遂げられていなかつたものとみなければならず(控訴会社の者が被控訴会社倉庫へ赴いたのも、単に在庫確認のためであつて、特定のためとは認め難い)、本件ネギにつき控訴会社が譲渡担保権(所有権)を取得した旨の控訴人の主張はたやすく採用し難く、また寄託契約上の地位の譲受に基づく主張もその債権譲渡の通知があつたと認められないので理由がない。

6  控訴人はさらに「本件預り証」が倉荷証券性ないし預り証券性を有するから、これと引換えによらずして本件ネギを第三者に引き渡したのは不法行為にあたるとも主張するが、前説示のとおり、被控訴会社はこれを倉荷証券若しくは預り証券として発行する意思で発行したものではなく、控訴会社もただこれを在庫証明手段として授受していたのであるから、たとえ、対第三者的にはこれが倉荷証券若しくは預り証券としての要件を具備するにせよ、その出庫につき「本件預り証」若しくはこれに代る荷渡依頼書(甲第五号証の一ないし二一)に依らず、川崎電機の指示によつてのみなされることとなつていたことを諒知している控訴人において、被控訴人に対し「本件預り証」の倉荷証券性若しくは預り証券性を主張することはできない。控訴人の主張は理由がない。

以上の次第であるから、控訴人の第一次請求(請求原因8記載のもの)はいずれも、爾余の点を判断するまでもなく失当として排斥を免れない。

四、次に控訴人の使用者責任に基づく請求について判断する。(なお、被控訴人の時機遅れの主張は、とくにこれにより訴訟の遅延を来すものとは認められないので、採用しない。)

1  岡田民子は、被控訴会社代表者の娘であつて、同人を補助して事務的業務に従事していた者であり、「本件預り証」の作成は右業務の執行につきなしたものということはできるけれども、前認定のとおり、敏雄から「個数を見せるだけだから控訴会社宛に預り証を書いてくれ」といわれて、事情をよく知らないまま、ただ在庫証明に使われるものとの認識の下に作成したものであつて、これにより控訴会社が川崎電機に対し主張の様な出捐をし、主張のような損害を蒙ることもあるべきことまでの認識および予見を有していたとは認められず、前記同女の立場でこれを予見できなかつたことについての過失を問うことはできない。同女による「本件預り証」の作成が不法行為を構成する旨の控訴人の主張は理由がない。

2  また、記録によれば被控訴人の答弁と主張5の(三)の事実が認められるから、消滅時効の抗弁も理由がある。

よつて、いずれにせよ控訴人の右請求は理由がない。

五、されば控訴人の請求はいずれも理由がないから、控訴人の第一次請求(前掲請求原因8の請求)を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がなく、当審における予備的請求(使用者責任に基づく請求)は棄却すべきものとして民訴法三八四条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(別紙)

目録

(一) 一箱八キログラム入りのもの 三、六四六箱 計二九、一六八キログラム

(二) 一箱一〇キログラム入りのもの 八七三箱 計八、七三〇キログラム

(三) 一箱一五キログラム入りのもの 一九箱 計二八五キログラム

(四) 一箱一八キログラム入りのもの 三四〇箱 計六、一二〇キログラム

合計四四、三〇三キログラム

(別表)

<省略>

<省略>

(備考)(1) 番号欄は甲第5号証の枝番号に同じ。

月日(A)は甲第5号証(荷渡依頼書)上の月日

月日(B)は川崎電機の出荷調べによる発送月日

残量は第一回取引のものをまず充当し9/20以後本件取引のものとして計算

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