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大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)843号 判決 1978年10月27日

控訴人

福知山信用金庫

右代表者代表理事

小林豊次

右訴訟代理人弁護士

吉川大二郎

(ほか三名)

被控訴人

太田龍一

(ほか四名)

右被控訴人五名訴訟代理人弁護士

平田武義

(ほか四名)

主文

一  原判決中被控訴人らが控訴人に対して労働契約上の権利を有することを確認した部分(原判決主文第一項)に対する控訴を棄却する。

二  原判決主文第二、四項を次のとおり変更する。

控訴人は

(一)  被控訴人太田に対し、一六七三万三六〇三円及び昭和五三年六月一日以降毎月二〇日限り一八万五二〇〇円の割合による金員を、

(二)  被控訴人大志万に対し、二〇一六万五三一二円及び昭和五三年六月一日以降毎月二〇日限り一九万一七〇〇円の割合による金員を、

(三)  被控訴人石原に対し、二二七八万七五九七円及び昭和五三年六月一日以降毎月二〇日限り一九万六五〇〇円の割合による金員を、

(四)  被控訴人青山に対し、二〇三九万五五二円及び昭和五三年六月一日以降毎月二〇日限り一七万七八〇〇円の割合による金員を、

(五)  被控訴人松原に対し、一七二六万五九四八円及び昭和五三年六月一日以降毎月二〇日限り一六万六九〇〇円の割合による金員を、

それぞれ支払え。

被控訴人太田、同大志万、同松原のその余の請求を棄却する。

右(一)ないし(五)は仮に執行することができる。

三  控訴人に対し

(一)  被控訴人太田は、三〇六万一四九三円を

(二)  被控訴人大志万は、一九三万七五一七円を

(三)  被控訴人松原は、一六四万六一五九円を

それぞれ返還し、かつこれに対する昭和五一年四月二九日から返還済み迄年五分の割合の金員をそれぞれ支払え。

控訴人の民事訴訟法一九八条二項に基づくその余の申立を棄却する。

右(一)ないし(三)は仮に執行することができる。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人石原・同青山と控訴人との間に生じた分は控訴人の負担とし、被控訴人太田と控訴人との間に生じた分はこれを一〇分し、その八を控訴人の負担としその余を同被控訴人の負担とし、被控訴人大志万・同松原との間に生じた分はそれぞれこれを一〇分し、その九を控訴人の負担としその余を同被控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(控訴人)

一  原判決を取消す。

二  被控訴人らの請求(当審における拡張部分も含む)を棄却する。

三〔民訴法一九八条二項に基づく申立〕

(一) 控訴人に対し

1 被控訴人太田は、

金一三二六万八一二九円を、

2 同大志万は、

金一三八九万三三八九円を、

3 同石原は、

金一四三七万一八一七円を、

4 同青山は、

金一二七九万三三七二円を、

5 同松原は、

金一一七九万六九八七円を、

右各金員に対していずれも昭和五一年四月二九日以降完済に至る迄年五分の割合の金員を附加して、支払え。

(二) 仮執行の宣言。

四  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(被控訴人ら)

一  本件控訴を棄却する。

二〔当審における請求の拡張〕

(一) 賃金支払請求部分(原判決主文第二項関係)を次のとおり拡張する。

控訴人は、

1 被控訴人太田に対し、金二一一七万六二九円及び昭和五三年六月一日以降毎月二〇日限り金一八万五二〇〇円の割合による金員を、

2 同大志万に対し、金二二一〇万二八二九円及び昭和五三年六月一日以降毎月二〇日限り金一九万一七〇〇円の割合による金員を、

3 同石原に対し、主文第二項(三)記載の金員を、

4 同青山に対し、主文第二項(四)記載の金員を、

5 同松原に対し、金一八九一万二一〇七円及び昭和五三年六月一日以降毎月二〇日限り金一六万六九〇〇円の割合による金員を、

それぞれ支払え。

(二) 右につき仮執行の宣言。

三  当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(被控訴人ら)

一  原判決三丁表二行目から三行目にかけての「本店預金係」を「本町支店預金係」と訂正する。

二〔請求の趣旨拡張の理由〕

被控訴人らが引続き就労していれば、昭和五〇年九月一日以降も、控訴人からそれぞれ別表(略)一ないし五の賃金を支給されていたはずであるから、同日から昭和五三年五月末日迄の賃金の合計額と同年六月一日以降、同年五月における基本給相当の賃金の各月の支払いを求める。

三  被控訴人太田、同大志万、同松原について、控訴人主張のとおりの中間収入があったことは認めるが、これは右被控訴人らの請求から控除すべきものではない。

右被控訴人らの解雇期間中の就職先は、自動車会社の運転手であって明らかに従前の職種と異なっており、仕事の内容、労働の程度など単純に比較することはできず、就職したのは解雇されてから三年を経たころから五年半に及んだものであるばかりでなく、この就職は、不当解雇に反対し、職場復帰を求める被控訴人らの生活困難を救済するためやむをえずなされたもので、その収益は、被控訴人ら全員の生活資金及び争議団の本件不当解雇反対斗争の資金として支弁されたものであるから、右被控訴人らが自らのためにのみ得た利益と評価さるべきではない。

四  控訴人主張の源泉徴収税額は、税額表の甲欄を適用して算出すべきところを、乙欄を適用し算出したものであるから、正当な税額とはいえない。

五  原判決の仮執行宣言に基づき、被控訴人らが控訴人主張のとおりの仮執行をなしたこと、控訴人が福知山税務署長から控訴人主張の賦課決定通知を受けたことは認めるが、本件の賃金の一部受領は、右仮執行宣言に基づく強制執行によったものであるから、法律上の原因がないことになるものではなく、税額相当の不当利得返還請求権が発生する余地はない。

(控訴人)

一  原判決九丁裏五行目の「一〇月七日付」を「一〇月七日又は九日付」と改め、同一一丁裏九行目の「八号」の次に「)」をそう入し、同一二丁裏一四行目から一五行目の「、二七日の両日」を削除する。

二  控訴人は、本件の発端となった今西事件から被控訴人ら解雇にいたる迄の被控訴人らの理非を弁えない実力行動から、もはや被控訴人らに反省ある行動を期待できず、このまま放置したのでは控訴人金庫の秩序が保たれないと判断して被控訴人らを解雇したもので、本件解雇は正当である。

いう迄もなく、控訴人は、信用金庫法に基づき、預金貸付等金銭の取扱を業としている。したがって、その職員は、金銭の取扱いについて潔白でなければならない。公私混同して公金を不正に使用するようでは、社会の信用、信頼をえられず、控訴人の営業は成り立たない。

右の次第であるから、今西事件は、およそ金庫職員としてあり得べからざる事件であり、控訴人が今西を解雇するのは当然であった。しかるに、被控訴人らは、たまたま今西が組合の役員であったために、労働協約の解雇同意約款を盾に、組合の組織をあげてこれに反対したものであり、理由のない解雇撤回斗争を、実力行使に頼って行なったものである。

三  原判決は、被控訴人らに対する一〇月七日又は九日付戒告が合理的理由に欠けると判示する。しかし、右戒告の理由となったビラ貼り行為は、組合の意思決定によってなされたものである。したがって、控訴人は、被控訴人太田、同大志万、同石原に対しては組合の機関としてビラ貼り行為指導の責任を、被控訴人松原、同青山に対してはビラ貼り行動及びビラ撤去についての抗議行動に対する責任を問うたものである。執行委員の中に戒告を受けていないものもいるが、これは、その者たちがビラを貼付せず職制のビラ撤去にも抗議しておらず、したがって、ビラ貼り行動に賛同したと認められなかったからである。

四  原判決は、解雇権濫用の理由の一つに、謹慎処分が通じて二五日に及び、極めて長期間であったことをあげるが、これは謹慎処分が二度にわたって継続してなされたためであって、一つ一つの謹慎処分を検討すると、本件解雇を権利の濫用ならしめるほどに謹慎期間が長期に失したということはない。

被控訴人大志万の一〇月八日、その余の被控訴人らの一〇月九日の各業務妨害行為は、元来諭旨解雇を相当とするところ、一等を減じて一一日間の第一次謹慎処分にしたもので、その期間である一一日間も、その理由からするとむしろ短い位である。そして、第二次謹慎処分は、被控訴人らが第一次謹慎処分に従わなかったことを理由になされたものであるから、第一次謹慎処分よりも重くなるのは均衡上やむをえない。

又、原判決は、謹慎処分の事由となった被控訴人らの行動について、控訴人に非難すべき原因があったと判示するが、控訴人は、被控訴人らをして業務妨害行為や謹慎処分不順守をさせるような非難される行為は一切していない。

五  被控訴人らの一〇月二六日の裁判所への抗議行動の金庫に及ぼす影響についての原判決の評価は誤っている。

本件は、人口六万足らずの福知山市において、同市に本店を置いている唯一の金庫で発生した事件であって、同市では、今西の事件に対する控訴人の処分は大半の市民の関心の的であった。そのような時期に、被控訴人らは今西解雇撤回の実力行動を起して謹慎処分に処せられ、同時に立入禁止の仮処分を受けたのに、その仮処分に抗議して赤旗をたてて裁判所に押しかけたものである。このような行為は市民特に預金者にとっては驚くべきことで、控訴人の職員全員の資質に対する評価を低下せしめ、金庫職員の公金に対する態度に疑念を生じさせ、ひいては、預金者に預金についての不安を抱かせるに至るのは、火をみるよりも明白である。

六  原判決が誓約書不提出を正当化したのは、誤りである。誓約書の文言は、別に難解なものでなく、何人も首肯できる内容であり、金庫職員として当然守るべきことを記載した迄である。

そもそも、控訴人が誓約書の提出を要求したのは、その時点ですでに解雇事由は発生していたが、今一度反省の機会を与え、反省の意が認められたときは、被控訴人らを救済しようという意図であった。しかるに、被控訴人らは自己の過去の行為を正当だとして、その故に提出を拒んだのであって、何らの反省もなされていない。しかもその立場を貫くため、提出期限の延期を求めかつ抗議をなすべく、再び集団で押しかけ、集団交渉を固執したのであるから、被控訴人らが過去の行為と同一又は類似の行為を将来も行なう蓋然性が極めて大きいと推定せざるを得ない。

七  被控訴人らが請求の趣旨拡張の理由として述べる別表一ないし五記載の賃金額は認める。

八  原判決一四丁裏一三行目から一五丁表四行目迄の、被控訴人太田、同大志万、同松原が他に勤務して得た賃金の額(就労先は原判決摘示のとおり)をそれぞれ別表六及び七記載のとおりに改める。

九  控訴人は被控訴人らに賃金を支払うにあたり、被控訴人らの所得税の源泉徴収をなすべき義務があるから、仮に本件解雇が無効で被控訴人らに賃金を支払わなければならないとしても、右源泉徴収税額が控除されるべきである。そして、被控訴人らの昭和五一年三月分以降のそれは、別表一ないし五においてカッコ内に記載されているとおりである。

一〇  被控訴人らは、原判決言渡しのあった昭和五一年四月二八日原判決に基づき仮執行をなし、それぞれ左記のとおりの金員につき仮執行を完了した。

被控訴人太田 一三二六万八一二九円

但し、一二〇五万七七二九円及び昭和五〇年九月以降同五一年四月迄一か月一五万一三〇〇円の割合による金員

同大志万 一三八九万三三八九円

但し、一二六三万二五八九円及び昭和五〇年九月以降同五一年四月迄一か月一五万七六〇〇円の割合による金員

同石原 一四三七万一八一七円

但し、一三〇七万四二一七円及び昭和五〇年九月以降同五一年四月迄一か月一六万二二〇〇円の割合による金員

同青山 一二七九万三三七二円

但し、一一六三万一七二円及び昭和五〇年九月以降同五一年四月迄一か月一四万五四〇〇円の割合による金員

同松原 一一七九万六九八七円

但し、一〇七一万五八七円及び昭和五〇年九月以降同五一年四月迄一か月一三万五八〇〇円の割合による金員

1〔民訴法一九八条二項に基づく申立の理由〕

しかしながら、本件解雇は有効であって、原判決は取消さるべきものであるから、民訴法一九八条に基づき、控訴人は被控訴人らに対し、右金員の返還とこれに対する仮執行の翌日である昭和五一年四月二九日以降完済迄年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2〔相殺の主張〕

昭和五三年二月一日、控訴人は福知山税務署長から、右強制執行に際し、被控訴人らの所得税の滅泉徴収の義務を怠ったものとして、本税七九一万四三八〇円、不納付加算税七八万四二〇〇円、合計八六九万八五八〇円について賦課決定通知を受けた。右本税の内訳は、被控訴人太田が一六〇万三九二〇円、同大志万が一七三万九〇七一円、同石原が一八五万一一四二円、同青山が一四六万六二〇三円、同松原が一二五万四〇四四円である。被控訴人らは、右金額について控訴人の損失において利得をえたものであるところ、控訴人が右損害を受ける理由はないから、被控訴人らは右金額について控訴人に不当利得返還の義務を負う。したがって、仮に本件解雇が無効で控訴人に賃金支払の義務があるとしても、控訴人は昭和五三年六月三日当審第一一回口頭弁論期日において、各被控訴人に対し、右各金額の返還請求権で以って被控訴人ら主張の賃金債権と対当額で相殺する。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因一ないし三の事実及び被控訴人らの昭和五〇年九月一日から同五三年五月末日迄の賃金額が別表一ないし五記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二  いわゆる今西事件の発生から本件解雇に至る迄の事実は、次に付加、訂正するほか、原判決理由第二(原判決四三丁裏四行目から同六八丁裏九行目迄)に認定のとおりであるから、これを引用する。なお、当審における被控訴本人石原保明、控訴人金庫代表者小林豊次の各供述中右認定と異なる部分は右引用部分掲記の各証拠に照らして、採用できない。

(一)  原判決五八丁表二行目の「納得せ」から同六行目の「同専務を取り囲み」迄を「納得しなかった。その後、小林常務が理事長室に入っている間に、福田専務が理事長室から出てきて階段付近にいた組合員に対し『お前らに会う必要はない。帰れ帰れ』等侮蔑的言辞を吐いたことから、十数名の組合員が激昂して、事務室内に入り、同専務を取りかこみ、『スクラップ専務』などとののしり、更に理事長室から出てきた小林常務が『理事長は会わないから帰って貰いたい』と言って退去を要求したのに対し、これに応ぜず、同常務や福田専務を取りかこみ」と改める。

(二)  原判決六〇丁表三行目の「一〇月九日付」を「一〇月七日付」と訂正する。

三  当裁判所も、本件解雇は解雇権の濫用であって、無効であると考える。その理由は、次に付加するほか、原判決理由第三(原判決六八丁裏一〇行目から七六丁裏一四行目迄)の説示と同一であるから、これを引用する。

(一)  今西事件が、金融機関としては許すことのできないものであり、同人に対する解雇が何ら不当なものでないことは、原判決説示のとおりである。

(二)  控訴人は、本件誓約書の提出を要求した時点ですでに解雇事由があったと主張する。しかしながら、被控訴人らの第二次謹慎処分前の行動については、謹慎処分が減給より重い処分であり、かつ、本件の謹慎処分が通じて二五日間という長期に及んだものであることを考えると、第一次、第二次の謹慎処分によって一応懲戒の目的を達し得ていたというべきである。そして、第二次謹慎処分中に被控訴人らのなした裁判所への抗議行動は勿論穏当なものとはいえないけれども、原判決認定の事実に徴すると、その態様において過激といえるほどのものでなく、時間的には裁判所の昼の休憩時間中におけるもので裁判所の執務の直接の妨げとなったものでもなく、その金庫に及ぼす影響もさして深刻なものとは認められない(この点に関する原判決の判断は十分是認することができる)。そうだとすると、右行動を理由に被控訴人らを解雇し、職場より永久に放逐することは程度をこえた苛酷な処分とのそしりを免れず、被控訴人らの行動を第二次謹慎処分の前後を通じて総合的に観察しても、誓約書提出要求の時点で解雇を正当ならしめるほどの非違行為があったと認めることはできない。

(三)  そこで、本件誓約書を提出しなかったことが、これ迄の被控訴人らの行為と相まち、本件解雇を正当ならしめるものであったかどうかについて考えるに、控訴人の要求した誓約書には包括的な異議申立権の放棄を意味するものともうけとれる文言が含まれていて、内容の妥当を欠くものがあったばかりでなく、そもそも本件のような内容の誓約書の提出の強制は個人の良心の自由にかかわる問題を含んでおり、労働者と使用者が対等な立場において労務の提供と賃金の支払を約する近代的労働契約のもとでは、誓約書を提出しないこと自体を企業秩序に対する紊乱行為とみたり特に悪い情状とみることは相当でないと解する。そうだとすると、本件においては、被控訴人らの本件誓約書の不提出並びにこれに関連する諸情状を考慮に入れても、解雇の正当性を基礎づけることはできず、結局本件解雇は懲戒権の濫用としてその効力を生じないものと判断せざるを得ない。

四  被控訴人太田、大志万、松原について、本件解雇通知後、他で勤務して取得した収入があり、その額が別表六及び七に記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。当裁判所は、最高裁判所第二小法廷昭和三七年七月二〇日判決(民集一六巻八号一六五六頁)の趣旨に従い、控訴人は、右被控訴人らが得た利得を「自己の債務を免れたことにより得た利益」として、右被控訴人らに支払わなければならない賃金から、平均賃金額の四割を限度として控除することができると解する。

そこで、右被控訴人らが他で収入を得た期間に対応して、その間の右被控訴人らの月単位の平均賃金額とその四割相当額を求めるに、前記のとおり、右被控訴人らの控訴人の従業員としての賃金額は当事者間に争いがないから、これをもとに計算すると、それぞれ別表八ないし十の各<3>、<4>欄記載のとおりであり、右<4>欄記載の数値と別表六、七の右被控訴人らが他で得た毎月の収入額とを対比すると、いずれも後者が前者を上まわるから、結局、控訴人は右被控訴人らにつき、別表八ないし十の<4>欄の合計額である右各表の<6>欄の金額を、支払うべき賃金から控除できることになる。そして、その金額は、別表八、九、十の総計欄記載のとおり、被控訴人太田について四四三万七〇二六円、同大志万につき一九三万七五一七円、同松原につき一六四万六一五九円であり、この限度において控訴人の中間収入控除の抗弁は正当である。

五  そうすると、被控訴人らは控訴人の従業員として労働契約上の権利を有するものであり、控訴人は被控訴人らに対し原判決添付の別表および本判決添付の別表一ないし五に記載の賃金(但し、被控訴人太田、大志万、松原については右四の金額を控除)と昭和五三年六月以降毎月二〇日限り、同年五月当時の額の賃金を支払う義務があるといわなければならない。

控訴人は、右賃金から被控訴人らの毎月の所得税源泉徴収額が控除されるべきであると主張するが、控訴人の源泉徴収義務は使用者が国に対して負う公法上の義務であり、かっ使用者が被用者へ賃金を現実に支払う段階で徴収すべきものと定められている(徴収額も種々の要素によって変動する)ことに鑑みると、被控訴人らと控訴人との間の私法上の賃金債権の存否が訴訟物となっている訴訟で右源泉徴収税額を考慮に入れて控訴人の支払うべき金額を定めるべきものではないと解するから、控訴人の右主張は採用しない。

次に、控訴人がその主張のように源泉徴収の義務を怠ったとして福知山税務署長から被控訴人らの所得税相当額について賦課決定通知を受けたことは当事者間に争いがないが、源泉徴収制度の右のような性質に照せば、控訴人がこれを納付したのち被控訴人らに対しその返還を求めうるのは当然として、被控訴人らの賃金債権の確定を本旨とする本訴において右税額相当分による賃金債権との相殺を許すべきものではないと解するから、控訴人の相殺の主張も採用できない。

六  以上の次第で、被控訴人らの本訴請求(当審における拡張部分を含む)は、被控訴人太田、大志万、松原について右四の金額(中間収入の控除)の限度において理由がないが、その余は正当であって認容すべきものである。

したがって、まず、本件控訴のうち原判決主文第一項に対するものは理由がないからこれを棄却すべきである。次に、原判決主文第二項に対する控訴については、同項の(一)、(二)、(五)の被控訴人太田、大志万、松原の分について一部理由があり、その余は理由がないことになるが、被控訴人らは当審において請求を拡張したので、それに対する判断をも含めた趣旨で原判決主文第二、四項を本判決主文第二項のとおり変更することとする。

七  控訴人の民訴法一九八条二項の申立について判断する。

被控訴人太田、同大志万、同松原に対する関係で、本件控訴が一部理由あることは前述のとおりであるから、この部分について原判決は取消され、その仮執行宣言もその限度で失効したものである。

被控訴人太田が昭和五一年四月二八日原判決に基づき仮執行をなし、原判決主文掲記の昭和四〇年四月から同五〇年八月迄の賃金一二〇五万七七二九円と同年九月から同五一年四月迄の一か月一五万一三〇〇円の割合による金員(計一二一万四〇〇円)との合計一三二六万八一二九円を控訴人から取立てたことは当事者間に争いがない。右金員のうち当裁判所が前記四の理由(中間収入の控除)で理由なしと判断するのは別表八の<6>欄のうち昭和四四年四月から同五一年四月迄の分の合計三〇六万一四九三円であるから、同被控訴人はこれを控訴人に返還し、かつこれに対する仮執行の翌日である昭和五一年四月二九日以降完済迄年五分の割合による金員を支払わなければならない。

被控訴人大志万、同松原が、昭和五一年四月二八日被控訴人太田の場合と同様の期間の賃金について仮執行をなし、それぞれ金一三八九万三三八九円、金一一七九万六九八七円につき仮執行を完了したことも当事者間に争いがない。右金員のうち当裁判所が理由なしと判断するのは、前記四に述べた被控訴人大志万、同松原についての控除認容額と同じであるから、右被控訴人らはそれぞれこれを前同様の遅延損害金を付して、返還しなければならない。

控訴人の民訴法一九八条二項の申立は、右の限度でのみ理由があり、その余は失当である。

八  よって、金員支払いを命ずる部分の仮執行については民訴法一九六条を、訴訟費用の負担については同法九六条、八九条、九二条、九三条を各適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今中道信 裁判官 志水義夫 裁判官 林泰民)

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