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大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)929号 判決 1977年8月09日

控訴人 八葉商事こと 古谷利満

右訴訟代理人弁護士 長池勇

被控訴人 柴田幹夫

被控訴人 上州屋こと 柴田民子

右被控訴人両名訴訟代理人弁護士 谷五佐夫

木下肇

右谷五佐夫訴訟復代理人弁護士 上西裕久

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人らは、各自控訴人に対し、三五〇万円およびこれに対する昭和四九年五月一一日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の関係は、次に記載するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  主張

1  被控訴人ら

被控訴人らは、訴外堀尾勝彦に本件手形を他で割引いてその割引金を交付するよう依頼して本件手形を堀尾に交付、預託したものであるところ、控訴人は、右の事情を知りながら、堀尾の控訴人に対する債務弁済のためと称して割引金を堀尾に交付することなく、堀尾から本件手形の裏書を受けたものであるから、控訴人は、被控訴人らを害することを知りながら本件手形を取得したものである。

2  控訴人

右主張を否認する。

二  証拠《省略》

理由

一  被控訴人民子が被控訴人幹夫に対し原判決請求原因一記載の本件手形(ただし、振出日、受取人欄白地)を振出し、被控訴人幹夫が右手形を訴外堀尾勝彦に、堀尾がこれを控訴人に、いずれも拒絶証書作成義務を免除して被裏書人白地で裏書したこと、控訴人が右手形の所持人であり、満期に支払のため支払場所に呈示したが、支払を拒絶されたことはいずれも当事者間に争いがなく、本件手形である甲第一号証の顕出、弁論の全趣旨によると、控訴人が右手形を取得後呈示までに振出日欄に昭和四八年一一月八日、受取人欄に柴田幹夫と各補充したものであることを認めることができる。

二  被控訴人らは、「被控訴人らは、堀尾に本件手形を他で割引いてその割引金を交付するよう依頼して本件手形を堀尾に交付、預託したものであるところ、控訴人は右の事情を知りながら、堀尾に対する旧債弁済のためと称して割引金を交付することなく、堀尾から本件手形の裏書を受けたものであるから、控訴人は、被控訴人らを害することを知りながら本件手形を取得したものである。」と主張するので、案ずるに、《証拠省略》によると、被控訴人らは夫婦であり、神戸市葺合区磯上通八丁目(神戸市役所前)において被控訴人民子の名義で手打ちうどん店上州屋を共同経営しているものであるが、同店の支店を新設する資金を調達するため、昭和四八年一一月八日被控訴人幹夫が、知合の不動産ブローカー訴外大川高義の紹介で前記堀尾に対し、堀尾自らが割引くか、他で割引いて割引金を渡してほしい旨依頼して、被控訴人民子振出の本件手形(金額三五〇万円)と、同じく被控訴人民子振出の約束手形五通(金額いずれも三〇万円)を交付し、さらに同月一〇日堀尾の申入により被控訴人幹夫が個人保証の趣旨で右各手形の第一裏書欄に被裏書人白地の裏書をしたこと、堀尾は同月一〇日(土曜日)町の金融業者である控訴人に電話で右手形の割引依頼をしたところ、堀尾の名をきいた控訴人から、堀尾が支払責任を負担するべき手形が訴外石田真丈から回ってきているから月曜日の同月一二日神戸市葺合区若菜通五丁目にある控訴人の事務所へ来てほしいといわれたので、堀尾は控訴人方を敬遠して控訴人の事務所へはいかず、他の割引先に当ってみたが割引けず、本件手形等を自己の借金のかたに一時他に預けておいたこと、控訴人は、堀尾からの右電話をうけて二、三日後に右の電話で得た情報にもとづき金融機関を通じて被控訴人らの信用調査をしたこと、同月一七日になって、先に堀尾が割引先の相談をしたことのある右石田から堀尾に割引できるところがあるとの連絡があって、堀尾は神戸市三宮の喫茶店で石田と待合わせ、来合わせた石田の知人である訴外佐藤起一とともに手形割引の相談をしていたが、佐藤が電話で控訴人に本件手形の割引方を依頼したところ、すでに被控訴人らの信用調査を終えていた控訴人がこれを承諾して右喫茶店に現われ、一方、堀尾も手形割引に備えて本件手形を前記預け先から持ってきたこと、控訴人は堀尾と面識はなかったが、本件手形を所持しているのが堀尾と知って、「堀尾なら事務所に来てもらう必要がある。」といい、堀尾を石田、佐藤とともに控訴人の事務所に連れていったこと、控訴人の事務所において、堀尾は、控訴人から控訴人の堀尾に対する債権が三四〇万円あるから本件手形の割引金でその決済をするようにいわれたものの、右債権には一部不服もあり、また、本件手形は被控訴人らから割引方の依頼を受けて預っているものであるからこれで堀尾の個人的債務を決済をすることは困る旨告げてこれを断ったが、なおも右債務の決済方を要求されたので、やむをえず、本件手形を割引いてもらうことで控訴人に対する債務の決済をすることを承諾し、印鑑を所持していなかったのでその第二裏書欄に指印を押捺するなどしてこれを控訴人に裏書し、控訴人において日歩二〇銭の割合で利息計算して本件手形の割引金を二二五万円と算出したが、現実に右金員を堀尾に交付することなく、右金員をもって堀尾の前記三四〇万円の債務の返済にあてることにしたこと、右の当時堀尾は無職で経済的に困っていたこと、堀尾の控訴人に対する右債務のうちにはすでに同年九月か一〇月ごろに履行期が到来しているものがあったが、控訴人は本件以前に堀尾に右の請求をしたことはなかったことを認めることができ、前記証人堀尾、同佐藤の各証言、前記被控訴人幹夫、控訴人各本人尋問の結果中右認定にそわない部分は前掲各証拠と対比してにわかに採用することができず、また、本件手形である甲第一号証の記載によると、堀尾の裏書欄には指印のほか「堀尾」との印影が顕出されていることが認められるが、前掲証拠によると右印影の顕出は指印による裏書がされたのちにされたことがうかがわれ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によると、堀尾は、被控訴人幹夫、および同被控訴人を通じて被控訴人民子から、同被控訴人振出にかかる本件手形を堀尾自らが割引くか他で割引いてその割引金を被控訴人らに交付してほしい旨の依頼を受けてその交付を受け、これに被控訴人幹夫の裏書をえたものであるから、堀尾が右割引金を被控訴人らに交付しない以上、堀尾からの手形金請求に対し被控訴人らが人的抗弁をもって支払を拒絶できることは明らかである。そこで、被控訴人らが右人的抗弁を控訴人に対抗できるかどうかについてみると、右認定の事実によれば、控訴人は堀尾から堀尾が右の趣旨で本件手形を所持していることを告げられ、堀尾が嫌がっているのに、控訴人の堀尾に対する債権の返済にあてるため本件手形の裏書をするように要求して結局これを承諾させ、堀尾に現実に割引金を交付することなく本件手形を取得したものである。堀尾は当時無職で経済的に困っていたものであるところ、控訴人は堀尾に対しすでに履行期の到来している債権を有していながら堀尾にその請求をしたことがなく、かつ右のような趣旨で本件手形を所持しているにすぎない堀尾から右の事情を告げられながら本件手形を取得した前記の経緯からすれば、控訴人も堀尾の右のような経済的状態を当然に知っていたものと推認しうる(《証拠判断省略》)。してみると、控訴人が堀尾に割引金を交付することなく本件手形を取得するにおいては、本件手形の割引金相当額が堀尾から被控訴人らに交付される見込みは全くないのであって、控訴人としてはこのことも当然に知っていたものと認めることができる。したがって、控訴人は、本件手形を取得した際本件手形の前者である堀尾に対し被控訴人らが前記抗弁を主張することは確実であるとの認識を有していたものといえるから、控訴人は、本件手形債務者である被控訴人らを害することを知って本件手形を取得したものということができる。

そうすると、被控訴人らは、堀尾に対する前記人的抗弁を控訴人に対抗することができるというべきである。

三  したがって、控訴人の本件手形金請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であるから、これを棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がない。よって、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 朝田孝 判事 富田善哉 川口冨男)

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