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大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)986号 判決 1977年10月27日

控訴人 井上誠

被控訴人 国 ほか一名

訴訟代理人 辻井治 玉井博篤

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は原告の負担とする。

事実

(原判決の主文)

1  原告の主位的請求及び予備的請求を各棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

(請求の趣旨)

1  主位的

(一)  被告国は、原告が被告銀行に対して有する国幣七七六八万円の現地特別措置定期預金(期間戦後払い、無利息、昭和〔以下、略〕二〇年七月二一日預入れ)について、原告の払戻し請求に対する支払を承認せよ。

(二)  被告銀行は右の承認があることを条件に、原告に対し一三九八万二四〇〇円を支払え。

(三)  被告らは各自原告に対し、一九八〇万円と、これに対する四二年七月四日から完済まで年五分の金員を支払え。

2  予備的

被告らは各自原告に対し、三三七八万二四〇〇円と、これに対する四二年七月四日から完済まで年五分の金員を支払え。

3  仮執行の宣言

被告国は、担保を条件とする仮執行免脱宣言。

(不服の範囲)

原判決全部。

(当事者の主張)

次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりである。(ただし、原判決三枚目表三行目の「訴外」を「原告の妻」に改め、同九行目の「原告」のあとに「の妻」を、同三枚目裏七行目の「送金」のあとに「について支払」をそれぞれ加入し、同四枚目表一行目の「受ける」を「妻に受けさせる」に、同六枚目表四行目と同七枚目表一〇行目の「振替送金」を「振込送金」にそれぞれ訂正する。)

一  原告の主張

1  振込送金に関する被告銀行の債務不履行

本件振込送金の法律上の性質は、原告と被告銀行間の送金事務に関する委任契約である。そして委任の本旨は、送金を安全確実に行い、原告に送金の目的を達成させることにあるから、被告銀行としては、京都支店に到着後請求しだいその支払をするのはもちろん、住宅購入という送金目的にできるかぎり副うように努力して事務処理をすべきであつたのに、これに反する取扱いをして受任者の義務に著しく違反し原告に損害を被らせたのであるから、その損害を賠償する義務がある。

2  振込送金に関する被告銀行の不法行為責任

本件送金は、原告が中国で現地召集を受けたため、急拠財産を処分して調達したものであり、その内二万五〇〇〇円で家族居住用の土地建物を買い、残りは将来の生活費等に充てる目的で、大蔵省の現地係官の承認を得て送金されたものである。被告銀行上海支店虹口出張所長はこの事実を熟知していた。

ところが被告銀行京都支店の係員は、すでに送金が到着しており(支店間の送金は現送によらず本店勘定で処理される。)、確認の方法についてもわずかな手数をかければ可能であるのにその手数を怠り、故意に送金の支払を拒否して、原告に不動産購入の機会を失わせ損害を被らせた。このことは明らかに右係員の不法行為であるから、被告銀行はその責任を負うべきである。

なお、被告銀行は、終戦後連合国最高司令部覚書その他の法令により、本件振込送金を含む外国為替の支払が全面的に禁止されたと主張するが、本件振込送金は正規の許可を受け、しかも終戦前に被告銀行京都支店に届いていたのであるから、右法令による支払禁止の対象外である。

3  乙七号証の通牒の違法性

金融機関再建整備法の一部を改正する法律(二九年法律一〇六号)は、金融機関が在外勘定をその債権者に支払うべきことを前提として、その経理方法の細則を定めており、同法三八条の四の六項は在外勘定の経理に関し必要な事項は主務大臣が定めるとして、行政庁に委任しているのであるから、この委任の中には在外債務そのものを根本から否定することまで含まれているものとは解されない。

したがつて、大蔵大臣には現地特別措置預金(以下「特別預金」という。)についてこれを在外債務から除外する権限の委譲はなかつたものとみるほかはなく、大蔵省銀行局長の通牒(乙七号証)でこれを在外勘定の債務から除外したことは、法律の委任に基かずして行政庁が勝手に国民の権利を制限したものであつて、許されない。

4  被告銀行の消滅時効の抗弁について

被告銀行の消滅時効の抗弁は信義則に反し、権利の濫用であるから許されない。

二  被告国の主張

特別預金は金融機関再建整備法にいう在外負債として独立勘定項目を構成するものではない。

右預金の受入れ銀行は、単に外資金庫への預金の移転集約機能を負わされた媒介者にすぎず、預金に対する支配力もなければ、利益帰属主体でもなかつた。しかも受入れ銀行の外資金庫に対する預入り債権は、同金庫の閉鎖に伴う精算で切捨てられている。

右のほか調整金納付者との公平、貨幣の実質的価値は原告が日本国内に送金した二〇万円に具現されていると見られること等を総合すれば、特別預金は払戻しに応じられる性格の預金ではないことが明白である。

乙七号証の大蔵省銀行局長の通知は右のことを注意的ないし確認的に示したものであつて、創設的なものではない。

三  被告銀行の主張

1  振込送金に関して被告銀行に不法行為貴任があるとの主張は争う。

2  特別預金に関する被告国の主張を援用する。

(証拠)

本件記録中の証拠関係部分のとおりである。

理由

一  当裁判所も原告の請求を失当と判断するものであるが、その理由は次に補正するほか、原判決の説示と同一である。

1  振込送金に関する請求について

(一)  訂正等

(1) 原判決理由第一の記載中、「振替送金」とあるのはすべて「振込送金」に訂正する。

(2) 原判決一〇枚目表七行目の「<証拠省略>」を「<証拠省略>」に、

同一〇枚目裏一一行目の「この場合」を「この送金の支払をした場合」に、

同一一枚目表一〇行目の「報告書」を「当座勘定受入報告書(以下『報告書』という。)」にそれぞれ改める。

(3) 同一一枚目裏二行目の「数回にわたり」のあとに「井上シズを代理して、」を、同九行目の「購入資金」のあとに「並びに生活資金」を各加入し、

同一二枚目表七行目から八行目にかけてのカツコ内の記載を削除し、

同裏一〇行目の「仕向店」を「被仕向店」に訂正する。

(4) 同一三枚目裏七行目から同一四枚目表一行目「理解されるが、」までの記載

同一四枚目裏末行目から一五枚目表一行目にかけての「後に生じた履行不能」の記載、 同一五枚目裏一一行目から一二行目にかけての「右取扱報告書に右金員の使途が記載され」その記載を、それぞれ削除する。

(二)  本件振込送金の法律上の性質

<証拠省略>を総合すると、原告は被告銀行上海支店虹口出張所長の福間某に対し、国幣一一一万一一一二円、当時の日本円に換算して二〇万円を、京都市在住の原告の妻井上シズに送金することを委託し、その方法として、被告銀行京都支店に新規に井上シズの普通預金(特別当座預金)口座を開設し、その口座に右の二〇万円を入金し同女の請求に応じて支払うことを依頼したものであることが認められる。したがつて、本件振込送金は、被告銀行京都支店の井上シズの預金口座を開設、入金しその請求に応じて支払うことを内容とする送金事務の委任契約である。

ところで、被告銀行が右委任契約上の債務の履行を遅怠して、三〇年一二月三日に二〇万円の元利全部の支払を完了したことは原判決認定のとおりであるが、被告銀行の債務は要するに井上シズに二〇万円を支払うことにあるのであるから、これは金銭を目的とする債務にほかならず、その不履行に基づく損害賠償の額については民法四一九条が適用されるのである。これに反する原告の主張は理由がない。

(三)  被告銀行の不法行為責任について

井上シズの代理人である酒井みねが数回にわたり本件振込送金の副報告書を提示して支払を求めたのに対し、被告銀行京都支店の係員は電信照会などの方法により副報告書記載の振込の真否を確認すべき義務があるのにこれを怠り、正報告書の未着を理由に支払を拒絶したことは原判決認定のとおりである。したがつて、右係員の義務違反によつて原告に損害を被らせれば、それは不法行為といつて妨げないから、被告銀行は民法七一五条に基づき損害賠償義務があることになる。

ところで、原告は、右係員の不法行為によつて不動産購入の機会を奪われ不動産相当の損害を被つたと主張するが、仮に右係員が原告主張のように原告の不動産購入の目的を知つていたとしても、敗戦前において、敗戦後の異常なインフレーションないし土地価格の暴騰により原告が不動産を購入することができなくなることまで予見することはできなかつたものと認められるから、結局原告主張の損害は右係員の不法行為と相当因果関係がないことに帰し、被告銀行に損害賠償義務はない。

なお、原告は本件振込送金につき、二〇年九月二二日付連合国最高司令部覚書、同月二七日付大蔵省外資局長通牒、同年一〇月一五日大蔵省令八八号の支払禁止の対象外であると主張しているが、これら法令の禁止の対象には、その発布の当時在外店舗から国内に向けて振出した送金為替のうち未払の分もすべて含まれるものと解され、しかも右覚書に「大蔵省に於て予め許可したる場合を除き」禁止するとあるのは、右覚書が出されたのちに大蔵省の許可を受けたものは禁止の対象から除外するという趣旨に理解すべきである。したがつて、本件振込送金は右の支払禁止の対象に含まれることは明白であるから、この点に関する原告の主張は失当である。

(四)  消滅時効に関する原告の再抗弁について

原告は、被告銀行の消滅時効の援用は信義則に反し、かつ権利の濫用であるというが、これらの事情を認めるべき資料はないから、右主張は採用しない。

二  特別預金に関する請求について

1  原判決一八枚目表四行目の「乙一」の前に「前掲」を、同二〇枚目表四行目の「六ケ月」のあとに、「、期日同年一二月一二日」を、

同七行目の「送金」の前に「自由口」を、それぞれ加入する

2  原判決二〇枚目裏九行目から二一枚目裏二行目までの記載を次のとおり改める。

「しかも前記のように特別預金の受入れ銀行は、その預金をすべて外資金庫に無利息で預入れることを義務づけられていたから、預金に対する支配力を有せず、これについて経済的利益を受けることもなく、ただ外資金庫に対する窓口の機能を果したにすぎなかつたといえる。

そして外資金庫は戦後閉鎖機関となり、それに伴う清算において「外資金庫を債務者とする預金」はすべて清算の対象から除外された。(二〇年一〇月二六日大蔵・外務・内務・司法省令一号、二二年三月一〇日勅令七四号、二九年五月二四日大蔵省令三五号)

以上の諸点を総合すると、特別預金は払戻しに応じられる預金ではないことが明らかであり、大蔵大臣が右預金の払戻しの承認の措置をとらないことは正当である。

したがつて、被告国に右承認を求め、被告銀行に右預金の払戻を求める原告の請求はともに失当である。

次に、二九年五月一五日法律一〇六号による金融機関再建整備法の一部改正に伴い、同年六月一日大蔵省銀行局長が通牒蔵銀一五〇二号の一により、在外勘定を設ける金融機関の代表者宛に、特別預金は在外勘定の債務から除外する旨通知したことは、当事者間に争いがない。しかし前記のとおり右預金は払戻しに応じられる預金ではなく、大蔵大臣もその払戻しの承認をしない以上、右預金が同法にいう在外勘定の債務に該当しないことは当然であるから、右通知はこれを注意的に示したものと解されるのであつて、右通知によつて特別預金が在外勘定の債務から創設的に除外されたものと解すべきではない。

そうであるなら、特別預金が創設的に在外債務から除外されたことを前提にして、右通牒の違憲・違法をいう原告の主張はいずれも理由がないから、右通牒を原因として被告国に不法行為責任を求める原告の請求も失当である。」

三  そうすると、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 前田寛郎 藤野岩雄 中川敏男)

【参考】第一審判決

(京都地裁 昭和四二年(ワ)第六九一号 昭和五一年四月一六日判決)

主文

一 原告の主位的請求及び予備的請求を各棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

原告

主位的請求の趣旨

1 被告国は原告が被告銀行に対して有する国幣七、七七八万円の現地特別措置定期預金(期間戦後払、無利息、昭和二〇年七月二一日預入)について、原告の払戻請求に対する支払を承認せよ。

2 被告住友銀行は右の承認があることを条件に原告に対し金一三九八万二四〇〇円を支払え。

3 被告らは各自、原告に対し金一九八〇万円及びこれに対する昭和四二年七月四日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決仮執行宣言。

予備的請求の趣旨

1 被告らは各自、原告に対し金三、三七八万二四〇〇円及びこれに対する昭和四二年七月四日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決、仮執行の宣言

被告ら

主文同旨の判決。

外に被告国は、原告勝訴の場合は担保を条件とする仮執行免脱宣言

(請求の原因)

一 原告は昭和(以下に於て略す)二〇年七月二一日被告住友銀行上海支店虹ロ出張所から被告銀行京都支店あて、受取人を訴外井上シズと指定し国幣一一一万一一一二円(当時の日本円に換算して二〇万円、換算率一〇〇対一八)を振込送金した。

二 原告のこの送金目的は不動産(土地七五坪、家屋五〇坪位)を二万五〇〇〇円で購入する資金とするためであつた。被告銀行はこのことを熟知していた。

三 被告銀行はこの送金をおそくとも同年八月上旬頃迄に原告に支払うべきであつたのにその支払をしなかつた。

四 原告は被告銀行のこの債務不履行のため所期の不動産を入手できず、右不動産相当の損害を被つた。この不動産は現在の価格として二〇〇〇万円或は四八〇〇万円を下らない。この損害は特別事情に基づくものであるが被告銀行はこれを予見し得た。

五 当時中国から日本への送金は外国為替に関する法令で種々制限が加えられていたところ、被告国は特に乙一号証の条項に従い自由口送金としてこの送金を許したのであるから、これは被告国が原告のこの送金を保証したと解すべきである。

六 当時被告国は外国為替について全面的な管理を行つていたがその中から特に自由口送金として原告のこの送金を許したのであるから、本件のような支払拒絶事態を招かないようこの制度の周知徹底を指導すべき義務があつたのにこれを怠つた重大な過失のため原告は当時被告銀行より前記送金の支払を受けることが出来ず前記損害を被つた。

七 但し原告はその后三〇年一二月三日までの間に被告銀行より損害賠償の一部として二〇万円受取つたのでこれを除いた一九八〇万円がこの送金についての損害である。

八 次に原告は二〇年七月二一日被告銀行上海支店虹口出張所に国幣七七六八万円(日本円に換算して一三九八万二四〇〇円、換算率一〇〇対一八)を現地特別措置定期預金(番号自由口虹口一)とした。この預金は期間戦後払、無利息、大蔵省の承認なくして処分(引出、担保差入等)できない約定であつた。

九 被告国は二九年五月一五日、法律一〇六号金融機関の再建整備法の一部改正に関する法律三八条の四の六号で「在外勘定の経理に関し必要な事項は主務大臣が定める」と規定し、大蔵省銀行局長は同年六月一日付通牒一五〇二号の一でこの現地特別借置預金を在外勘定債務から除外した。

一〇 而して被告銀行は被告国の承認がないとして今日まで本件預金を支払つてくれないが、右の通牒は私有財産権を保障した憲法二九条に違反し無効であり、原告はこの違法な通牒のため被告銀行から本件預金一三九八万二四〇〇円の支払を受けられず、同額の損害を被つている。

一一 よつて原告は主位的に、前記一の送金についての被告銀行の債務不履行と被告国の保証債務の不履行又は被告国の責に帰すべき事由により原告に損害を与えていることを理由に被告両名に各自一九八〇万円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日より完済まで年五分の遅延損害金の支払及び前記八の現地特別措置預金につき被告国に対してはその払戻しの承認を、被告銀行に対しては右の承認のあることを条件に一三九八万二四〇〇円の支払を求め、予備的に被告両名に対し各自前記送金と現地特別措置預金との合計三三七八万二四〇〇円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日より完済まで年五分の遅延損害金の支払を求める。

(被告銀行の答弁と抗弁)

一 請求原因一の事実、同三のうち被告銀行が支払をしなかつた事実、同七のその後二〇万円を支払つた事実同八の事実(但し換算率は二四〇〇対一)、同九の事実同一〇の今日まで支払をしていない事実は認めるが他は争う。被告銀行が原告主張の二〇万円を支払つたのは損害賠償としてでなく、本来の債務の弁済としてであつた。

二 被告銀行が二〇年八月一五日までに振込送金の二〇万円を支払わなかつたのは当時振込送金の、正報告書が被告銀行京都支店に着かなかつたためであり、正報告書未着の間振込送金の支払をしないのが商慣習だからである。

三 その上二〇年八月一五日の日本の敗戦とともに内地と外地との連絡が絶え正報告書の送付がないうちに二〇年一〇月一五日大蔵省令八八号で本件のような振込送金の支払が全面的に禁止され、同年一二月四日大蔵省告示三九九号で禁止の一部が解除されたので被告銀行は原告に一〇〇〇円を支払い、更に二九年五月一五日、法律一〇六号で金融機関再建整備法一部改正に関する法律が施行されたので三〇年一二月三日までの間に残額一九万九〇〇〇円を支払い、ここに被告銀行の原告に対する債務の履行を終つたのである。

四 又原告主張の振替送金の支払債務はおそくとも三〇年一二月三日から一〇年を経過した四〇年一二月三日を以て時効が完成し債務は消滅した。又その遅延損害金債務は最后の支払日である三〇年一二月三日から一〇年経過した時に時効で消滅した。

五 原告主張の現地特別措置預金は今日まで被告国、即ち大蔵省の承認がないため被告銀行はその支払請求に応ずることができない。

(被告銀行の抗弁に対する原告の答弁)

一 被告銀行の抗弁はその主張のような大蔵省令、告示があつたことは認めるがその他は認めない。原告が被告銀行に振込送金を依頼した時被告銀行は名宛人にその金員を支払うべき債務を負担したものであるから正報告書が未着であつても支払うべきであつたし正報告書の到達が遅れていたら電信照会を行い、副報告書の呈示に即応して支払うべきであつた。又本件振込送金は振込時に既に内地勘定であつたから被告銀行主張の法令の制限を受けるべきものでなかつた。

二 被告銀行主張の合計二〇万円を受取つたことは認めるがこれは損害賠償の一部としてであり、これで被告銀行の送金の債務が終つたのではない。

三 現地特別措置預金は大蔵省が戦後適当な時期に引出その他処分を承認すべきことを前提としたものであり、永久にその処分を承認しないものであればその約束は徒らに金融資本を利し正義に反し当初から無効であるから無効の条件即ち無条件の預金として即時支払うべきである。

(被告国の答弁と抗弁)

一 請求原因九の事実、同一〇の事実のうち被告銀行が被告国の承認がないとして今日まで現地特別措置定期預金を支払つていない事実は認めるが他は凡て不知又は否認する。先づ原告の請求は被告国に行政処分を求めるのであるから失当である。被告銀行が原告主張の振替送金の支払をしなかつたのは被告銀行が主張するように振込正報告書の送付がなかつたのと連合国軍最高司令部覚書その他の法令により支払が許されなかつたためであり、この送金制度については二〇年五月二四日大蔵省外資局長通牒を被告銀行に送付しておりそれを被告傘下の各支店に周知徹底せしめるのは被告銀行の責任であつて被告国とは関係がない。のみならず、国家賠償法施行前の行為について国に賠償責任はない。

二 原告主張の現地特別措置預金は実質的には為替換算率調整金的性質をもつもの即ち同預金は二〇年五月二四日付大蔵省外資局長通牒により中国より内地に送金する場合強制的にさせた預金であり、原告は二〇万円の送金をするためその六九倍の現地通貨七七六八万円を預金したものである。終戦前の中国大陸は極端なインフレーションに見舞われ一〇〇対一八という現地通貨と本邦内地の通貨の公定換算率が通貨の実勢にあわず、この公定換算率で内地に送金があると内地にインフレーションが波及するので政府は特別預金をさせてこれを封鎖しようとしたもので実質上は為替換算率調整金の機能をもつていた。そのためその後間もない二〇年八月一三日以降に中南支より内地へ送金するには、送金額の七〇倍の預入調整金を政府に納付することを条件とした。大蔵省銀行局長が二九年六月一日付の通牒で本件預金を含む現地特別措置預金を在外勘定債務から除外したのは前記のような預金の性質、この預金を一般預金と同様に取扱うことの不公平、調整金を納めた者との権衡のためになされたのであつて正当といわねばならない。この現地特別措置預金を受入れた銀行はこれをそのまま無利子で外資金庫に預入れることと定められ、戦後同金庫が閉鎖機関に指定され清算が行われた際全額切捨てられたので受入銀行も何らの利益を受けておらず、払戻財源を保有していないので支払に応じうる性質のものではない。

三 原告が主張する送金について被告国の行政指悼に過失があつたという点については行為の時から既住二〇年を経過しているからその損害賠償請求権は時効により消滅している。

四 又現地特別措置預金につき被告国に損害賠償義務があるとしても、これは大蔵省銀行局長がこれに関する通牒を発した二九年六月一日から三年を経過した三二年六月一日の経過とともに時効により消滅した。

(被告国の抗弁に対する原告の答弁)

一 被告国の抗弁は凡て認めない。現地特別措置頂金はあくまでも預金であり為替換算率調整金の性質があるとして大蔵省銀行局長通牒で在外債務から除外するのは理由がない。原告のこの預金を二〇年八月一三日以降の調整金と同視することはできない。

二 原告は消滅時効の抗弁を認めず、その起算点を争うが仮に時効期間が満了していても国は自ら招いた緊急状態を救済するため違憲の通牒を発し一般国民の権利を拘束しておきながら消滅時効を援用することは信義則に反し許されない。国が引揚者の財産に補償していることは消滅時効を援用する態度と予盾している。

(証拠)<省略>

理由

第一原告の送金に係る請求について

一 原告が二〇年七月二一日被告銀行上海支店虹口出張所から同銀行京都支店にあて受取人を井上シズと指定して国幣一一一万一一一二円(当時の日本円に換算して金二〇万円換算率一〇〇対一八)を振込送金したことは原告と被告銀行間では争いがない。

右の事実に<証拠省略>を総合すると、次の事実が認められる。

1 さきの太平洋戦争の末期において、戦争の激しさが増すにつれ中国大陸におけるインフレーションが進み、当時の公定換算率である一〇〇対一八の割合で中国から日本へ送金すると中国でのインフレーションが日本へ波及する虞があつたため日本政府は対日送金を規制し個別的許可制をとつていたが二〇年五月二四日大蔵省外資局長は現地の実情と一般の要望を考慮し、通牒蔵外管第六〇八五号により従前の個別的許可制の外に現地当局の承認ある場合は差当り一ケ月三〇万円を限度として送金額の六九倍の現地通貨建現地預金をなすことを条件として、内地に於て個別的許可を受けることなくして送金をなしうる、いわゆる自由口送金制度を設け被告銀行等にその旨通牒を発した。

この場合銀行は自由口送金取扱報告書を大蔵省外資局宛て提出するを要し、その備考欄には送金資金の使途等を記載する様指示されていた。

原告は従前上海で貿易商を営んでいたが現地召集を受けたので右の制度に基づき現地当局の許可を受け二〇年七月二一日被告銀行上海支店虹口出張所から、同銀行京都支店あて受取人を井上シズと指定して国幣一一一万一一一二円当時の日本円に換算して金二〇万円を振込送金した。

2 この送金方法は前記虹口出張所の所長福間某が原告に一番安全だと教えたもので同出張所は右送金の手続につき正、副の報告書を作成し、副報告書は原告に手渡された。原告はこれを原告の妻で当時京都市北区の原告の兄酒井新一方に在住していた井上シズ宛郵送し、同年七月下旬同人に到達した。そこで原告の兄嫁である酒井みねがその頃から終戦に至るまで数回にわたり右副報告書と井上シズの印を持参して被告銀行京都支店に右送金額の支払を求めたが同支店では従前井上シズや酒井みねと取引がなく正報告書が送られて来ていないためといつてその支払を拒否した。原告がこの送金をした目的は原告及び原告の家族居住用の土地付家屋(土地七五坪、家屋五〇坪位、当時の価額にして二万五〇〇〇円程度のもの)の購入資金にあてるためであつた。

3 こうして被告銀行が支払を拒否しているうちに日本は敗戦を迎え、二〇年九月二二日付連合国軍最高司令部覚書「金融取引の統制に関する件」に基づく同月二七日付大蔵省外資局長通牒蔵外第一五一号が発せられ本件振替送金を含む外国為替の支払が全面的に禁止されたため二〇年秋原告の兄の酒井新一がこの支払を求めに行つた時も被告銀行はその支払に応じなかつた。ただその後引揚邦人に対しては差当り一〇〇〇円の範囲内において右取引停止規制が緩和されたので、二一年一月一七日被告銀行は井上シ

ズに対し一〇〇〇円を支払つた。(この点は当事者間に争いがない)

4 原告は二一年三月二〇日過ぎ帰国して被告銀行に対し右の振込送金の支払を求めたところ、同銀行は「正報告書が到着したらそれに基づき支払うことになるが未着だつたので支払を拒否した、その後終戦となり大蔵省令で支払えなくなつた」と説明した。これに対し原告はこの送金は終戦前に送つたもので終戦前に原告の姉が何回も請求に来ているのだから大蔵省令の適用はない、起算日を遡らせて支払つてくれと要求したが被告銀行は決算期を一回経過しているので原告の要望に答えられないといつて支払を拒否した。但しその后間もなく被告銀行は原告の立場を考え、支店長の権限で現金勘定で二〇万円、封鎖預金勘定で三〇万円の計五〇万円を無担保で貸付けた。これはその後原告が正規の利子を払つて返済した。

5 被告銀行では、振替送金があつた場合仕向店に正報告書が到達してから支払う取扱いであるが、その正報告書が到着しなくても口座を有している受取人で副報告書により送金の事実が確かめられれば支店長等の違例事項取扱権限でその支払をすることもある。本件の場合被告銀行が電信照会等で本件の送金事実の確認をした事実はない。

6 その後二九年五月一五日になり法律一〇六号で金融機関再建整備法一部改正に関する法律が施行されたので被告銀行は原告に対し三〇年三月一一日付で未払送金為替の確認と優先支払額の支払通知をなし、その頃四万九〇〇〇円の優先支払をなし更に同年一二月三日在外債務確認計上額残額一五万円、確認額に対する利息相当額四九四八円計一五万四九四八円を支払つた。(以上の金員の支払いについては当事者間に争いがない)

以上のごとく認められこの認定に反する証拠はない。

二 以上の認定事実によると原告のこの二〇万円の振替送金は自由口送金として許され現地当局の承認を受け正規の送金をなしたもので被告銀行京都支店としては当然その支払をなすべきものであつたといわねばならない。

而して銀行の内部に於て、振替送金の支払には正報告書と副報告書を照合して支払い、正報告書未着の場合は支払を拒否しうる内規が存在するのは送金の事実と受取人を確認するためであり正報告書とが仕向店に送達される時間と副報告書で受取人に送達される時間との間にさして差がなく正報告許の到達まで支払を拒否してもさほど支払の遅延はないということにあると理解されるが、本来同一銀行支店相互間の振込送金においては銀行は振込を受けた時から受取入にその支払をなす債務を負つているのであるから、正報告書が不着ないし遅延した場合でも銀行としては受取人が副報告書を提示して支払を求めればその確認を行い正当な理由なくして送金の支払を拒否しえないと解するのが相当である。本件送金当時被告銀行京都支店では前記のように当該支店に口座を有している受取人であれば副報告書を提示して支払を求めれば未だ正報告書が到着していない場合でも支店長の権限で副報告書に間違いのないことを確めて支払をなしうる制度があつたのであるから、本件についても酒井みねが副報告書を提示して支払を求めた時銀行としては電信照会などの方法より副報告書の真否を確認して支払うべきであつたものというべく、その確信を行わず正報告書未着の故をもつて送金の支払を拒絶したことは失当であつたといわねばならない。又、正報告書未着の間は全く支払をしないという商慣習があるという証拠はない。

いわんや原告の方は終戦前に於て数回にわたり被告銀行にその支払を求め、又二〇年八月一五日から二〇年九月二七日の支払禁止までの間には四十三日間もあり、日本の敗戦とともに中国との間の郵便は社絶し(このことは公知の事実である)正報告書が送られて来る可能性は一段と少くなつたのであるから被告銀行としてはその支払についてもつと配慮が必要であつたのにその努力の跡がないのであるから本件は被告銀行の責に帰すべき事由による履行遅滞後に生じた履行不能といわねばならない。

しかしわが民法四一九条は金銭債務の不履行については不可抗力を以て抗弁となし得ない反面その損害額は法定利率又は約定利率によるものを支払えば足ると定めており、その後の二九年以降ではあるが被告銀行が原告に対し本件の債務の残り一九万九〇〇〇円を利息とともに支払済であること前記説明のとおりであるから被告銀行の債務はこれによつて履行されたものといわねばならず、これを以て損害賠償の一部だつたと解することはできない。

尤も民法四一九条の解釈については一部少数説で民法四一六条二項の適用を認めよというものもあり事情変更の原則の適用という考えもあり戦後の日本のような貨幣価値の下落の多い時代には傾聴すべきものを含んでいるが通説、判例のとるところでないので当裁判所はこれをとることはできない。被告銀行が無担保で五〇万円を融資したことがその一部の償いをしたと解すべきであろう。

尚原告は本件振替送金に際し取扱銀行は取扱報告書を大蔵省外資局に提出すべきこととされ、その備考欄には送金資金の使途等を記載のこととされていたから被告銀行は原告の本件送金が家族居住用の土地付家屋購入資金に当てることを目的としていることを了知していたと主張し原告本人は当時その送金目的を書いて出したとこれに副う供述をなしているが仮りに右取扱報告書に右金員の使途が記載され被告銀行が本件送金の使途を了知していたとしても、それはその当時の不動産の価格によるものであることを知つていたに止まりその後の日本国内のインフレーションを予知していたとは考えられずその使途によつてこれに送金の券面額以上の価値を持たせることはできない。従つて、送金当時該金員で如何なる程度の不動産を購入しえたとしても、その送金額が購入予定の不動産の価値の変動に応じて変動するという原告の主張は採用できない。

ただ被告銀行が本件債務を完済した三〇年一二月三日当時に支払つた利息は前記のごとく四九四八円に過ぎず、これは一九万九〇〇〇円に対する年五分の遅延損害金としては少額に過ぎるが、この遅延損害金は原告がこの請求をなし得た前記三〇年一二月三日の翌日から起算し一〇年を経過した四〇年一二月三日の経過とともに時効によつて消滅したから原告のこの部分の請求を認めることもできない。消滅時効は法律上認められているのであるからその援用が信義則により許されないということもできない。

三 次に被告国の責任について考察する。

被告国が当時中国から内地への送金につき制限を行い、その制限に伴う許可を行つていたこと、これによつて原告の二〇万円の振替送金が許可されたことは前記認定のとおりであり、これの許可に伴い、当該送金者たる原告と被告銀行との間に直接の債権債務関係が発生するのは当然であるがこの許可のため被告国が当該送金の支払を保証したとか外国為替制度を法律でもつて設定した以上当然に包括的に国は個々の具体的送金につき支払保証したことになるわけのものではないからこの点に関する原告の主張は採用しえない。

次に原告は被告国が本件のような自由口送金を許しておきながらその周知徹底を欠いたため被告銀行が当時その支払に応ぜず原告に損害を与えたという。

確かに被告銀行が当時原告の振替送金をすぐ支払わなかつたのは正報告書の未着という形式的理由の外に果してこんな二〇万円もの自由口送金が許されるのかという疑問をもつたのではないかと思われる節があるが、こうした送金方法が定められた場合、被告国はその通知を送金を取扱う銀行の代表者に対してなすをもつて足りるといわねばならず、<証拠省略>によると被告国は本件自由口送金制度について大蔵省外資局長通牒を以て被告銀行代表者に通知していることが認められること前記のとおりであるからこれを周知徹底せしむべき責任は当該銀行にあると解するのが相当である。そして個々の具体的送金に際し、当該支店間の連絡不充分等の理由により支払を受け得ない場合は当該銀行の債務不履行責任が問題となるのみで、これを国の監督行政上の過失による不法行為責任の問題とみることはできず、この点に関する原告の主張は理由がない。

第二原告の現地特別措置預金に係る請求について

一 請求原因八の事実は原告と被告銀行間には争いがなく(但し換算率については争いがある)、請求原因九の事実と同一〇の事実のうち被告国の承認がないとして被告銀行が原告にこの預金の支払をしていないことは本件全当事者間に争いがない。

<証拠省略>の結果を総合すると、次の事実が認められる。

1 前記のごとく、一八年四月以降中国大陸に於て流通していた儲備券と日本円との換算率は儲備券百元に対し一八円であつたが、その後儲備券の流通する地域は猛烈なインフレーションに見舞われ、敗戦時に於ける上海の物価は儲備券建で一一年当時平均の一二〇〇倍に達し前記換算率は実際と大きな差があつた。日木政府は中国に於けるインフレーションが内地に波及するのを防止するため中国から日本への送金を厳重に制限し、又貿易その他の関係からやむを得ず為替関係が発生する場合には名目的な為替相場はそのまま維持しつつ為替調整の措置を講じて対処していた。

2 被告国は二〇年五月二四日付で前記のように大蔵省外資局長通牒により所定額の現地通貨建現地預金(これを現地特別措置預金と呼んだ)をなすことを条件とする自由口送金制度を設定した。この預金の所定額は当時北支よりの送金については送金額の四九倍、中南支よりの送金については送金額の六九倍と定め、右所定額の割合は情勢の推移に応じ適当に改訂すべきこととされていた。右預金は無利息で外資局の承認なき限りその払出、譲渡又は担保見返りとなすことを得ず、その支払は戦後払とされた。又この預金を受入れた銀行はその預金額を外資金庫に無利子で預入することと定められた。

3 原告はさきに判断した二〇万円の自由口送金のためその条件とされた現地通貨建預金として、二〇年七月二一日被告銀行上海支店虹口出張所に国幣七七六八万円を現地特別措置定期預金(番号自由口虹口一)した。この定期預金証書には期間戦後払、無利息、かつ本預金は大蔵省の指示に依るものにして同省の承認なくしては処分(引出、担保差入等)をなし得ずと記載されていた。(この点は原告と被告銀行間では争いがない)

4 被告国は二〇年八月一三日付大蔵省外資局長通牒蔵外管第七七一二号を以て日支間の送金につき従来の許可又は自由口送金の際の条件としていた特別措置の現地通貨建現地預金制度を廃止しこれを所定割合の調整金を徴収する制度に変更して即日実施したがその調整金として北支は送金手取額の五〇倍、中南支は送金手取額の七〇倍と定め、それまでの現地通貨建現地預金はこれを解除しないのを原則とした。

5 当時被告銀行京都支店外国為替係長であつた大久保孝一も上海からの送金については現地が猛烈なインフレーションになつていたから或る程度の倍率の儲備券を調整金として大蔵省に供託することによつて送金ができると理解していた。

6 甲二号証の一は訴外志形種吉が二〇年六月一二日三菱銀行上海支店に預金した国幣七八八〇万円の預金証書であるがこれは年利三分五厘、期間六ケ月とありこの分は三九年一〇月一二日三菱銀行が右訴外人に二四〇〇対一の換算率で元利金(税引后の手取五万〇六七六円)が支払われた。但しこの預金は送金に伴うものではなかつた。

以上のごとく認められ、これに反する証拠はない。

二 以上の認定事実によるとこの現地特別措置預金は、預金という名称は付けられていたがその実質は被告国が主張するように為替換算率調整金であつたと認めるのを相当とする。このことはこの預金が送金に伴う中国のインフレーションの内地波及を防止するために強制的になされたものであること、預金を伴う自由口送金制度設定の三ケ月弱後、本件預金後僅か二三日目には明確に調整金制度に変更されていて形式上も預金でなくなつたこと、その預金態様が期間、利子、財産的処分性等に於て通常の預金と著しく異なることなどの諸事情によつて裏付けられ、当時の原告もこういう性質のものであることを理解していたと推認されるからである。

尤も甲一号証には「期間戦後払」とあり当時の日本人は日本がその直後に迎えたような敗戦を予想することができなかつたのが一般であり、戦争もいつかは終るものであることは経験則上明らかであるから、戦後払を敗戦後払と解することも可能ではあるが想像以上の惨敗を招いた先般の戦争で全財産を没収され帰国せねばならなかつた大部分の同胞の立場との公平上から被告国が政策として叙上のような性格をもつ本件預金を返還しないと定めたのもやむを得なかつたといわねばならず、これを以て財産権の保障を定めた憲法二九条一項に違反するということはできない。財産権は同条二項により法律で公共の福祉のために制限することができるし、その法律で被告国は在外勘定債務から除外したのだからである。従つて被告国のこの行為を以て不法行為を構成するものということはできず、又被告国の承認がない限り被告銀行がその引出に応じ得ないことは当初の約定にあることであるから被告銀行の行為を失当ということはできない。従つてこれが被告らの責に帰すべき事由により原告に損害を与えているものとはいえない。

第三結論

よつて原告が被告らに対し前記第一の送金による損害賠償を求める請求及び同第二の現地特別措置預金につき被告国の承認とこの承認を条件とする被告銀行の支払を求める主位的請求及びこれが認められない場合に対する予備的請求は叙上説明のごとく何れも理由がないのでこれを棄却することとし訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菊地博 佐々木寅男 亀川清長)

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