大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪高等裁判所 昭和51年(ラ)326号 決定 1979年8月11日

抗告人(原審申請人)

西村勇作

相手方(原審被申請人)

宗教法人八幡神社

右代表者

宮本一雄

相手方(同)

宮本一雄

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

二当裁判所の判断

(一)  記録によれば、相手方宗教法人八幡神社(以下、たんに相手方神社という)は、主たる事務所を尼崎市七松町三丁目一〇番七号に置き、昭和二七年七月一日設立登記をして成立した宗教法人であり、相手方宮本一雄は相手方神社の宮司にして、かつ相手方神社の責任役員兼代表役員であること、相手方神社は古来七松村住民の氏神として祀られた神社で、抗告人は、相手方神社の所在地に接続する地域に居住し、先祖代々相手方神社の氏子として相手方神社を崇敬してきた者であることが認められる。

(二)  そこで抗告人の本件仮処分申請の当否を検討するに、本件仮処分申請の趣旨とするところは、相手方宮本は、抗告人ら氏子の意思を無視し、独自の思惑で、相手方神社境内の拝殿をとりこわして再建を強行し、また境内外にある神社所有の土地を他に処分したりして、独善的運営をしているから、同相手方は相手方神社財産の善良な管理者といえないので、同相手方の相手方神社代表役員としての職務執行を停止し、申立外庄司一郎を代表役員の職務代行者に選任することを求める、というものである。

一般に神社の氏子とは、従来の慣行による氏子区域内に居住して氏神(神社)を崇敬し、神社の維持について義務を負うものと解され、宗教法人法(以下たんに法ともいう)にいう信者にあたると解されるところ、同法は、信者の地位に関し、宗教法人の設立、被包括関係の設定又は廃止にかかる規則の変更、合併、解散等につき信者に対して公告すべき旨及び右の場合における所轄庁への認証申請については公告をしたことを証する書面の添付を要する旨(法一二条、一三条、二六条、二七条、三四条ないし三八条、四三条ないし四五条)、解散の場合には信者は一定期間内に意見を述べることができる旨(法四四条)、並びに特定の主要な財産処分等の場合に行為の要旨の公告をなすべき旨及び右公告をすることなくしてなされた行為は無効とする旨(法二三条、二四条)の各規定が存するほかは、信者の権利、義務について特段の規定はない。右宗教法人法の規定の趣旨は、公益法人である宗教法人の管理運営に重要な意味を有する一定の事項については、信者にこれを周知させ、その意見を聴くようにすることを定めたものであるから、宗教法人の管理運営に信者の総意、意思が反映されるべきことを要請しているが、それ以上に法は信者に対し、宗教法人の管理運営に関する直接的な権利義務の存在を認めてはいないと解さざるをえない。もとより宗教法人の性質に鑑み、宗教法人の内部規律、慣行上、当該宗教法人の管理運営に関して、とくに信者の権利義務が定められているならば、これに従つて律せられなければならないが、記録中の相手方神社の規則(宗教法人「八幡神社」規則)によるも、氏子に相手方神社の管理運営に関する権利義務を認める規定は存しない。すなわち、右規則によれば、「本神社を崇敬し、神社の維持について義務を負う者を本神社の氏子又は崇敬者といい、氏子又は崇敬者名簿に登録する。」(三八条一項)とあり、さらに「総代は、氏子又は崇敬者で徳望の篤いもののうちから選任する。その選任の方法は役員会で定める。」(一六条一項)と規定する以外、氏子について特段の定めはない。もつとも、「総代は総代会を組織し、本神社の運営について、役員を助け、宮司に協力する」(一五条)とされ、「代表役員以外の責任役員又はその代務者は、氏子崇敬者の総代その他神社の運営に適当と認められる者のうちから総代会で選考し、代表役員が委嘱する。」(一〇条一項)とされていることから、氏子は、総代に選任され、あるいは責任役員又はその代務者となりうる地位を潜在させているものの、総代、責任役員等でない一般の氏子は、右規則上、相手方神社に対し、前記の宗教法人法における信者以上の法律上の地位を有するものではないと解さざるをえない。してみると、相手方神社の氏子は、総代を通じ相手方神社の管理運営に間接的に関与しうるにとどまり、氏子独自に相手方神社の管理運営に関与する権利義務は存しないといわざるをえない。

他に相手方神社の氏子が相手方神社に対し、前記の法及び規則に定める以上の法律上の地位を有し、あるいはその地位を認めなければならないような法律上あるいは財産上の利益の存在については、これを疎明するに足る資料は存在しない。

してみると、一般の氏子にとどまる抗告人としては、相手方神社及び相手方宮本一雄に対し、相手方宮本が相手方神社の代表役員として相手方神社の管理運営に関して行つた職務執行行為につき、その責任を追及し、もつて右職務執行の差止めを請求しうる法律上の利益はないものというべきである。結局抗告人に本件仮処分申請の当事者適格を認めるに足る疎明はないことに帰し、そしてこの点は保証をもつて代えうる性質のものではない。

(三)  そうだとすると、その余の点について判断するまでもなく、抗告人の本件仮処分申請は理由がなく、これを却下した原決定は結局正当というべきである。よつて本件抗告を棄却し、民事訴訟法九五条、八九条に従い、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(石井玄 坂詰幸次郎 豊永格)

別紙<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例