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大阪高等裁判所 昭和51年(ラ)361号 決定 1977年9月12日

抗告人

中谷静代

相手方

枚方市

右代表者市長

北牧一雄

相手方

枚方市街地開発株式会社

右代表者

西川実

右両名代理人

河合伸一

外一名

相手方

株式会社枚方丸物

(新商号 株式会社枚方近鉄百貨店)

右代表者

萩原祥蔵

外六名

右七名代理人

豊倉元子

外一名

主文

原決定中、相手方株式会社枚方丸物に対する屋上営業行為の差止申請を却下した部分を取消し、右部分を大阪地方裁判所に差戻す。

抗告人のその余の抗告を棄却する。

前項の抗告についての抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨と理由は、別紙記載のとおりである。

二当裁判所の判断

(一)  相手方株式会社枚方丸物に対する屋上における営業行為差止仮処分申請について。

一件記録によれば、(1)相手方枚方市は、昭和四一年ごろ狭隘な道路に面して低層住宅が密集し、雑然とした市街地を形成していた京阪電鉄枚方市駅南口地区につき、土地の合理的かつ健全な高度利用と枚方市の表玄関としての都市機能の更新とを図る目的で、都市再開発法に基づき枚方市駅前再開発事業(本件事業)のマスタープランを作成してその準備作業を開始したが、その後施行区域内の関係権利者に対する市街地再開発計画についての説明会(昭和四四年七月)、都市計画についての全体説明会(同四五年二月)、関係権利者によつて組織された本件事業対策協議会の設立(同四五年八月)、各権利者との個別交渉(同四六年二月以降)等の手続、経過を経たうえ、設計の概要につき同四六年一二月大阪府知事の認可をうけ、同四七年一〇月一〇日本件事業計画の決定公告をするに至つたこと、(2)、右事業計画によれば、本件施行区域内に施設建築物として三棟のビルを建築するものとされ、そのうちの本件二号棟ビルは地下二階、地上九階建のビルで、地下二階と同中二階には機械室を、地下一階ないし地上三階には店舗を、四階には店舗及び機械室を、五階ないし九階には住宅(七〇戸分)を配置することとされていたが、各関係権利者と交渉を進めるうち、権利変換処分により同ビルに住宅を取得することを希望する者が次々と減少し、結局最終的には抗告人ただ一人が住宅を希望する者となるに至つたこと、(3)、その後、相手方枚方市は抗告人と再三にわたり交渉を重ねたが、抗告人の異議・不服申立にあうなど種々の経緯を経て、昭和四七年九月本件二号棟ビルについては、地下一階から地上七階までを全部店舗とする商業ビル設計変更をし、右変更につき同四九年四月一五日大阪府知事の認可を受けたこと、(4)、抗告人は昭和四九年八月三一日に改めて同ビル八階に孤立する住宅二戸の権利を権利変換により取得したが、右家屋は家屋の本件のみが建築されているに過ぎず、屋上広場に面する北及び東側にはなんらの障壁が設けられていないのであつて、いわば広場の南西隅に裸で佇立している状態にあること、(5)、同五〇年三月ごろ同ビル全体の建築工事が完成し、相手方株式会社枚方丸物(以下枚方丸物という)が同ビルに入居し同年四月一日から百貨店営業を開始し、本件屋上のうち原決定添付図面(三)の赤斜線部分三八〇平方メートルを専用していること、右専用部分の西側の線と本件家屋東壁面との距離が直線にして八メートルに過ぎず、相手方枚方丸物が右専用部分において各種催物を開いた際には、屋上に来場した客が、右専用部分に障壁が設けられていないためもあつて物珍らしく抗告人の住居の窓等から室内をのぞき見することが疎明される。

ところで、本件屋上は、抗告人及び相手方枚方丸物を含めた二号棟ビル所有者の共用部分にあたることはいうまでもなく、同相手方をして前示屋上を専用させるについては、建物区分所有等に関する法律第一二条の適用はないといいうるものの、同法一三条の適用があり、従つて同条二項において準用される同法一二条二項により、本件屋上の南西隅を専用居住している抗告人に特別の影響を及ぼすべきときにおいては、同相手方の専用を認めるについて同法一三条一項による共有者の持分の過半数の同意を得ることを持つて足りず、さらに抗告人の承諾を得なければならない(この点については、原決定の理由三項一四行目から三九行目までの説示と同一であるから、ここにこれを引用する。)ところ、同相手方の専用については、抗告人を除く二号棟ビル共有者の承認を得ているが、抗告人の承認を得ていないことは同相手方において自認するところであるから、同相手方の専用により抗告人に特別の影響を及ぼしているか否かについて審究する。

同相手方が百貨店開店日たる昭和五〇年四月一日から一週間本件屋上で植木の粗品を客に提供し、又同月九日頃までの間に外人モデルを招いて撮影会を開催したり、若手タレントの参加によりKBSの公開録音を行なつたため、この間屋上への客の出入りが多かつたことは同相手方において自認するところであり、この種催物が百貨店という業態から考えて、その後現在までにおいても、又将来においても開催されること、及びその開催の都度屋上に来た多数の客が好奇の目をもつて前示のように抗告人居住家屋の中をのぞき見することが推認されるところであつて、これにより抗告人の生活・環境の平穏が破壊されそのプライバシーが侵害されるに至つたことは多言を要しないと考えられる。

右のように抗告人が破壊・侵害等を蒙ることは、前示法条にいわゆる抗告人に「特別の影響を及ぼす」場合にあたるというべきであり、従つて、同相手方専用部分と抗告人専用住宅との間に、なんらの障壁等を設けずに現状のまま放置するときにおいては、同相手方の専用部分に対する営業上の使用は抗告人との関係において許容することができないというべきである。しかし、同相手方において、抗告人に及ぼすべき特別の影響を防止すべき適切な措置を講じた場合には、前示専用部分を営業用に使用することができるといわねばならないのであつて、ここにいう適切な措置を採るについては、民法二三四条、二三五条等の規定の趣旨を勘案し、抗告人居住家屋の北及び東側の壁面から或程度の距離を置いて障壁若しくはこれにかわるべき植樹をするとか、あるいは適当な高さの樹木を植えた鉢を間断なく並べるとかの方法を採ることをいうのであつて、これにつき抗告人及び同相手方の意思・希望をも斟酌して社会通念上妥当とされる工作物等を設置することをいい、このような措置を採ることにより、同相手方の客が抗告人居宅をののぞき見できないようにするならば、同相手方において前示専用部分をその営業用に使用することができる。これを逆にいうならば、抗告人としては、同相手方が右のような措置を講ずることを請求しうるけれども、この限度を超えて同相手方の専用部分における営業行為を全面的に差し止める権利を有しないのである。

してみると、同相手方の屋上専用部分使用により、抗告人に特別の影響を及ぼすものではないとの判断に基づき、抗告人の同相手方に対する営業禁止仮処分申請全部を却下した原決定は不当として取消されるべきであるところ、同相手方が講ずべき前示のような措置の程度・内容・方法等について、原審がなんら審理をつくしていないので、この審理をつくさせるため、右取消部分を原審に差戻すのを相当と認める。従つて、本件抗告は終局この点につき右限度において理由がある。

(二)  右(一)を除く、相手方全員に対する仮処分申請(原審における申請の趣旨第三項)について。

次に抗告人は、本件二号棟ビル一階の出入口及びエレベーターを使用して、本件屋上家屋に出入りすることを妨害してはならない旨の仮処分を申請しているところ、当裁判所も右仮処分申請は理由がないと考えるものであつて、その理由は、原決定中のこの部分についての判断と同一であるから、ここにこれを引用する。

よつて、原決定のうち、相手方丸物に対し本件屋上における営業差止を求める抗告人の申請を却下した部分を取消し、この部分を大阪地方裁判所に差戻すこととし、抗告人のその余の申請を却下した部分は正当で、これについての抗告を失当として棄却することとして、主文のとおり決定する。

(下出義明 村上博巳 尾方滋)

抗告の趣旨<省略>

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