大阪高等裁判所 昭和51年(行コ)18号 判決 1977年3月30日
神戸市生田区西町三六番地興銀ビル内
控訴人
日下部同族合資会社
右代表者代表社員
日下部泰雄
右訴訟代理人弁護士
田島実
同市同区中山手通三丁目二一番地
被控訴人
神戸税務署長 奥田実
右指定代理人検事
岡準三
同
法務事務官 久木田利光
同
大蔵事務官 片山敬祐
同
大蔵事務官 山口正
右当事者間の行政処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人代理人は、「(一)原判決を取り消す。(二)被控訴人が、控訴人に対し、昭和四六年一〇月二五日付でした特定資産の買換えの場合における特別勘定期間延長申請の不承認処分はこれを取り消す。(三)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次のとおり附加するほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。(たゞし、原判決二枚目裏四行目に「昭和四八年」とあるのは、「昭和四七年」の、また、同五行目に「同年六」とあるのは、「昭和四八年六」の、原判決九枚目裏二行目に「岐阜県」とあるのは「岐阜市」の、それぞれ明らかな誤記と認められるので、それぞれ右のとおり訂正する。)
第一、控訴人の主張
一、控訴人代理人は、原判決二枚目裏八行目の3につき、次のとおり敷衍した。
法第六五条の七第一項の「やむを得ない事情」及び同法施行令第三九条の六第八項にいう「その他これに準ずる事情」につき、買換資産そのものにかかる物理的、技術的障害に限定して解釈した場合、控訴人のように国税不服審判所長の裁決を待つて買換資産を取得したいと考える者にとつて、どのような救済手段があるのであらうか。納税者にとつて、税法上の優遇措置が得られるかどうかわからない状態で、敢えて財産取得という重大な行為を、後に優遇措置が与えられないかも知れない危険を犯してまでできないのであつて、右の経緯における救済手段として、特別勘定設定期間の延長申請がなされたものであつて、これは認められるべきである。
第二、被控訴人の主張
一、原判決五枚目表九行目の次に、「控訴人主張の原判決四枚目表一行目記載の国税不服審判所の裁決書発送の日は昭和四六年一二月一四日である。」と附加する。
二、被控訴人代理人は、原判決八枚目表七行目の3につき、次のとおり敷衍した。
仮りに、控訴人が前記第一の一記載の理由により本件申請をなしたものとしても、右理由は法第六五条の七第一項及び右規定の委任を受けた同法施行令(昭和四六年政令第七四号による改正前のもの)第三九条の六第八項に例示されている「やむを得ない事情」に当らないことは明らかである。
すなわち、もともと右特別勘定の設定自体、買換取得予定資産が具体的に特定されていることを論理的前提としているというべきであるから、特別勘定設定期間の延長の制度も、控訴人主張のように買換資産の取得につき最終的な意思決定ができない間の救済手段として置かれた制度とは到底解されない。また、仮に、最終意思決定ができないというような申請人内部における抽象的な事情も延長を認むべき「やむを得ない事情」に当るとすれば、特別勘定の設定につき行政訴訟等となる時は、判決によつてそれが確定するまで延長を認めねばならないこととなる等、法第六五条の七第一項が取得指定期間を二年以内に限定している趣旨に反し、結局、適正な課税処理を遷延させる結果を招くのであつて、被控訴人としては到底承服し得ないものである。
第三、証拠関係
当審において、控訴人代理人は、甲第一号証を提出し、当審における控訴人代表者本人日下部泰雄の尋問の結果を援用し、被控訴人代理人は、甲第一号証の成立は不知、と述べた。
理由
当裁判所も原審と同じく、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は次のとおり附加、訂正するほか原判決の理由欄に記載するものと同一であるから、これを引用する。
一、控訴人は、事実第一の一記載のとおり主張し、原審及び当審における控訴人代表者本人日下部泰雄の尋問の結果中にはこれに副うものも存するけれども、控訴人主張の「やむを得ない事情」とは、原判決理由の三において判示するとおりであつて、もともと特別勘定の設定自体、買換取得予定資産が具体的に特定されていることを論理的前提としているというべく、特別勘定設定期間の延長の制度も、控訴人主張のように買換資産の取得につき最終的な意思決定ができない間の救済手段として置かれた制度とは到底解されないから、控訴人の前記主張は、これを採用するに由ない。
二、原判決一一枚目表八行目「原告」とあるのを、「原審及び当審における控訴人」と訂正する。
三、その他、当審において新たにあらわれた証拠によるも前記認定(原判決の認定)を左右するに足りない。
四、結論
以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきもので、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第九五条第八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長 裁判官 白井美則 裁判官 弓削孟 裁判官 篠田省二)