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大阪高等裁判所 昭和51年(行コ)28号 判決 1977年12月22日

控訴人 有限会社中山薬局

被控訴人 南税務署長

訴訟代理人 岡崎真喜次 三上耕一 ほか三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和四七年一一月三〇日付でなした控訴人の昭和四四年六月一日から昭和四五年五月三一日までの事業年度(以下本件事業年度という)分の法人税額等の更正および加算税の賦課決定処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠の関係は、次の一のとおり訂正し、二のとおり附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

一  原判決中

1  三枚目表七行目「損害」とあるを「損金」と訂正し、以下、五枚目表六行目、七枚目表九行目、八枚目表二行目と一三行目、九枚目裏一一行目についても同じ、

2  五枚目表九行目「賃貸借契約」の次に「を含めた入店契約」を挿入し、六枚目表一、二行目に跨つて「この契約」とあるを「この賃貸借契約を含めた入店契約」と訂正し、同裏一一行目「賃貸借契約」の次に「を含む入店契約」を挿入し、

3  九枚目裏四四行目全部を「固定資産として計上されているだけで、右確定申告書には」と訂正し、同八行目「したがつて」の次に「右確定申告書の記載によつては」を挿入し、同一二行目全部を「きないもので、これを原告の主張二項2のように主張することは、申告納税制度」と訂正し、

4  九枚目裏九行目「意思なのが」を「意思なのか」と訂正し、一〇枚目表四行目冒頭「情」の次に「があるときは同項の規定によりこれ」を挿入し、七行目「蔵省令で定める書類を提出していない。」とあるを「蔵省令で定める書類を提出すべきであるのにこれを提出しない。」と訂正する。

二  当審において控訴代理人は、

1  次のとおり陳述し、

「本件は、次のような事情があるから、措置法六四条第五項の適用を認めるべきものである。

(一)  被控訴人が昭和四七年に控訴人の本件事業年度の法人税の調査を行つた際、控訴人がその顧問税理士訴外山本洋太郎を介して調査担当官に対し本件入店保証金が圧縮記帳の対象とならないのであれば建物の建築代金一一、七五〇、〇〇〇円を圧縮記帳の対象としたいので振替えてほしい旨口頭で申し出たが、これは、本件事業年度およびこれに継続する各事業年度分の法人税につき、修正申告をなす旨の申し出であるから、被控訴人は、本件事業年度の法人税申告につき建物建築費を圧縮記帳による損金算入し、これを前提とした修正申告(数字的には入店保証金内金一四、九三九、二〇二円を建物建築費一一、七五〇、〇〇〇円との差額三、一八九、二〇二円の増額修正となる。)をなさしめ、同時に必要書類を追完させ、さらに次年度以降につき建物減価償却部分を修正する各申告をなすことを許して、処理すべきであつた。

(二)  さらに、

(1) 右山本税理士が、昭和四五年七月頃、南税務署に赴いた当時、虹の街地下商店街は全部で三二〇店舗であり、その大半が同税務署に申告書を提出し、そのほとんどが控訴人の場合と同じく立退補償金を取得してこの地下街に入店した者であり、同種の税務問題を抱え、同税務署としては管内における重要事案として入店契約の内容も既に充分に把握していたものであろうから、入店に際し差入れる金銭の性質は仮にこれを権利金と表現しても圧縮記帳の対象となりえないことが明らかであつた筈である。

(2) 本件法人税の申告に関して建物建築代金を圧縮記帳すべきなのに誤つて入店保証金を圧縮の対象としたのは、控訴会社代表者のミスではなく、代理人たる山本税理士のミスであるが、税務代理については税理士法一条の定めに象徴されるように、税理士は単に納税者の利益代表者でなく適正な納税義務を促進せしめる意味では税務当局に奉仕すべき立場にあるから、税理士のミスともいうべき行為によつて納税者が不利益を受ける場合には、可能な限り後日是正して納税者の不利益を軽減させる制度を生かすべきであり、措置法六四条五項の制度は正にかかる制度であるから、これを広く適用できるよう運用すべきであり、

(3) 被控訴人の調査担当者は、昭和四七年の本件の調査に際し、建物に振替えたらよい旨発言し、控訴会社代表者や山本税理士もそうして貰えれば結構だと修正申告をなし是正する手続をなすことを申入れており、調査担当者と控訴人らとの間には、右のような処置によつて解決することについての事実上の合意が成立しており、控訴人側は修正申告をなすべく準備していたところ、突然本件更正処分を受けたものである。」

2  当審証人竹島清美の証言を援用した。

理由

一  当裁判所は、控訴人の本訴請求はこれを失当と認めるものであり、その理由とするところは、原判決理由中二の2につき左の1のとおり附加訂正し、控訴人の当審における陳述につき左の2のとおり判断するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これをここに引用する原判決理由中、更正の理由付記に係る判示部分は次のとおりである、「本件において更正通知書に附記された理由が請求原因二項1(1)のとおり〔編注:本件更正通知書の付記理由「貴法人備え付けの帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから、次のように申告書に記載された所得金額等に加算、減算して更正しました。加算、ミナミ地下街株式会社(以下訴外会社という)への入店保証金は、収用等の場合の代替資産として圧縮の対象となりませんので同保証金圧縮損は当期の損金の額に算入されません。一四、九三九、二〇二円。」〕であること、また本件更正処分の理由が、被告の主張三項のとおりであることはいずれも当事者間に争いがなく、右事実によれば本件更正通知書に附記された理由は、本件更正処分の理由を具体的に明示しており、相手方にとつてもその理由を了知するに足るものであつて、前記の趣旨に反するものではない。また原告は、建物の建築代金一一、七五〇、〇〇〇円も圧縮記帳の対象とならない理由をも附記すべきである旨主張するところ、原告の計理上、右建築代金は固定資産として計上され、圧縮記帳による損金算入がなされていないこと、本件更正処分をなすにあたり、被告において右建築代金につき圧縮記帳による損金算入をしなければならない義務が存しないこと、本件更正処分は本件入店保証金につきなされた圧縮記帳による損金算入を否認したことによりなされたものであつて、右建築代金とは直接関連がないものであること、等の点からすると、本件更正通知書に原告主張の如き理由まで附記する必要はないものというべきである。

1  原判決一〇枚目裏五行目「損金算入と」を「損金算入を」と訂正し、一一枚目裏三行目「もつとも、」の次に「借地については」を挿入し、九行目「借家権」とあるを「借地権」に、一二枚目表一行目「債地権」とあるを「借地権」に、一四枚目表一行目「損害」とあるを「損金」に各訂正し、一三枚目裏一三行目「そうすれば、」の次に左のとおり附加する。

「措置法六四条四項に、同条一項の代替資産取得価格として圧縮記帳による損金算入ができるのは、確定申告書等に同項の規定により損金の額に算入される金額の損金算入に関する申告の記載があり、かつ、当該確定申告書等にその損金の額に算入される金額の計算に関する明細書その他大蔵省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する旨定めているのに、原告は、右のとおり、口頭申し出しただけで、右確定申告書等の記載および書類の添付をしないばかりか、かえつて右のとおり建物の建築代金を固定資産として計上し、本件入店保証金につき圧縮記帳して損金として計上して本件事業年度の法人税の確定申告をしているのであるから、」

2  当審における控訴人の主張について左のとおり判断する。

(一)  控訴人の顧問税理士である訴外山本が、昭和四七年被控訴人による本件事業年度の法人税調査に際し、調査担当官に対し、本件入店保証金が圧縮記帳の対象となりえないのであれば建物の建築代金一一、七五〇、〇〇〇円を圧縮記帳の対象としたいので振替えてほしい旨口頭申し出たことは、原審認定のとおりであるが、本件事業年度につき控訴人が前にした確定申告(青色)期限後右でした申告税額を増額する旨修正申告をするには、右のような口頭申し出だけでは足りず、現実に帳簿上も本件入店保証金につき圧縮記帳することをやめて右建物の建築代金を圧縮記帳して処理したうえ、国税通則法一九条四項の定める修正申告書および添付書類を本件更正処分のなされるまでに提出すべきもので、これをするかしないかは控訴人の任意であるから、右口頭申し出だけがなされた本件では、被控訴人において控訴人に対し右修正申告をなさしめる義務がない。

(二)  又、

(1) 昭和四五年七月頃当時、南税務署においては、虹の街入店契約の内容を既に把握しており、本件入店保証金が仮に権利金と表現しても圧縮記帳の対象とならないことを明白に知つていた旨の控訴人の主張について、右主張にそう<証拠省略>は信用できないし、他に右主張を認めるに足る証拠はない。

(2) 税理士のミスと措置法六四条五項との関係についての控訴人の見解は、同人独自の意見であつて採用できない。

(3) 昭和四七年における本件の調査に際し修正申告することについての合意が調査担当者と控訴人らとの間で成立したとの控訴人の主張については、これを認めるに足る証拠はなく、修正申告については右(一)で説示のとおりであり、仮に右の合意が成立したとしても、本件更正処分が右修正申告することを妨げたこととはならない。

以上の次第であつて、本件は措置法六四条五項を適用すべき場合にあたらない。

二  よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 朝田孝 富田善哉 川口冨男)

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