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大阪高等裁判所 昭和51年(行コ)43号 判決 1978年4月12日

控訴人 国

訴訟代理人 大堅敢 塩津英雄 ほか二名

被控訴人 久保一清

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

主文同旨。

2  被控訴人

控訴棄却。

二  当事者の主張

次に訂正、付加するほか、原判決事実摘示(原判決七枚目裏九行目の「自巳」を「自己」と改める)のとおりであるからこれを引用する。

1  控訴人

(一)  相続税法三四条一項にいう連帯納付の義務(以下単に連帯納付の義務という)は共同相続人らの共同申告によつて確定するという控訴人の原審における仮定主張(原判決八枚目表五行目から同裏一〇行目まで)を撤回する。

(二)  連帯納付の義務は、次の理由により、各相続人固有の納税義務の確定という事実に照応してその都度法律上当然に確定する義務であり、他に何らの確定手続を要するものではない。

(1) 相続税は、相続により財産を取得した者に対し、その取得財産を課税物件とし、その価額を課税標準として納付すべき税額の定められる租税であり、相続財産を引当てとして納付されることを予定しているものであつて、この意味において、実質的財産税といい得るものである。

また、相続税は、被相続人が生存中に受けた社会及び経済上の各種の要請に基づく税法上の特典、その他租税の回避等の負担の軽減によつて蓄積した財産を、相続開始の時点で把握し、清算せんとするもので、いわば被相続人の所得税の補完税としての機能を有し、この意味においても相続税は相続開始時における被相続人の財産、すなわち相続財産を引当てとするものであるということができる。

さらに相続税は、相続の開始により相続人等が被相続人から承継する財産に応じ課徴するものであるが、その意義は、被相続人に生前に多額の財産が集中していることは、その富の蓄積がその個人の経済的手腕のほか社会一般から受ける利益に基因しているものであるとして、その個人の死亡の際にその富の一部を社会に還元し、富の集中を抑制せんとするにある。

(2) ところで、現行相続税法は、相続に関して民法が規定するところに順応して、各相続人が各個に相続税を納付する建前をとり、相続税債権が現実化した時点において、相続人中に無資力者がある場合にそなえ、相続により財産を取得したすべての者に対し、相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、自ら負担すべき固有の相続税額を超え他の共同相続人の固有の相続税額についても連帯して納付すべき義務を負わせることとしたものである。

すなわち、連帯納付義務の制度は、同一の相続によつて生じた相続税の全額を共同相続人等の連帯責任において清算しようとするものであり、これにより、富の特定人への集中を抑制するとともに所得税の補完税としての機能を果させようとしているのである。

(3) さきに述べたような相続税の目的ないし性格に徴すれば、連帯納付義務は、相続による財産の取得に伴なつて各相続人が当然に且つ第一次的に負担する義務なのであり、その内容も民法に規定する連帯債務又は連帯保証債務と同様の性質を有する。従つて、各相続人の固有の納税義務が、申告、更正又は決定という事実により確定すれば、それに即応して、相続税法三四条に基づいてその都度法律上当然に確定するものである。国税通則法に連帯納付義務について確定手続に関する規定が全く設けられていないのは、このような理由に基づくのである。

(4) 国税通則法は、既に成立している租税債権の額を確定させる権限、すなわち賦課権と、賦課権の行使により確定した租税債権を実現する権限、すなわち、徴収権とを裁然と区別して規定しており、徴収権の行使に当つて賦課権に関する規定が適用されることはない。一方、相続税法も、二七条ないし三一条(納税申告及びその特則)、三二条(更正の請求の特則)、三三条(納付)、三四条(連帯納付義務)と順序を追つて規定しているのであつて、このような構成からみると、同法三三条及び三四条の規定は納付に関する定め、すなわち徴収権に関する規定であること明らかであり、同法三四条二項の規定は固有の納税義務を負担する者に対する徴収処分の延長あるいは一段階としてとらえられるべきものである。従つて、連帯納付の義務について国税通則法一五条等の賦課権に関する規定が適用されることはない。

2  被控訴人

(一)  控訴人の当審主張は争う。控訴人の主張によると、連帯納付の義務者は、制度的には滞納処分を受けたとき始めて連帯納付の義務の有無、数額について知ることとなるが、滞納処分に対する争訟において課税処分の違法を主張することは、定説では許されない。もしこれと反対に、右争訟で連帯納付の義務を確定させた他人の相続申告(更正、決定)を争わせることになれば、当の他人がすでにこれを争いえない場合にまでこれを許すことになつて適当でなく、また自己の全く関知しない他人の行為を争わせることは、証拠関係からみて極めて困難であつて、控訴人の主張は行政的ないし司法的救済制度上不合理、不公正である。

(二)  課税要件事実と税額が客観的に明白な税目については、国税通則法が列挙的に納税義務の成立と同時に特別の手続を要せずに納付すべき税額が確定する旨定めている(同法一五条三項)。そして、これらの税目でさえも、性質上税額が本税完納まで予じめ定まらず、延滞期間に応じて自動的に定まる延滞税及び利子税を除いて、すべて通知ないし告知の手続を徴収手続に先行させているのである。

さらに、原判決も指摘するように、法律は第二次納税義務についても当然確定主義をとつていないのであつて、これとの対比に加え、譲渡担保権者の物的納税責任の場合及び保証人の納税責任の場合に納付通知書により納付すべき税額が確定されることをも考えると、相続税の連帯納付の義務の確定について行政庁の処分を要しないという解釈はとうていバランスのとれた解釈ということはできない。

(三)  国税の連帯納付義務については、民法が当然に適用されるわけのものではなく、国税通則法八条が国税の性質に反するものを除いて民法の連帯債務の効力に関する規定を準用する旨定めているからこそ連帯の効果があるのである。

ところで、相続税法三四条の速帯納付の義務については、これが法定の特別責任であることにより、国税通則法八条の適用はなく、固有の納税義務と連帯納付の義務との関係は連帯債務ではなくして不真正連帯債務の関係にあると解せられているのであつて、連帯納付の義務が連帯債務ないし連帯保証と同様のものであることを前提とする控訴人の主張は失当である。

三  証拠 <省略>

理由

一  請求原因一項の事実はすべてこれを認めることができるが、その理由は原判決理由一項記載と同一であるからこれを引用する。

二  そこで、本件連帯納付の義務が確定していない旨の被控訴人の主張について判断する。

相続税法三四条一項は連帯納付の義務を規定するが、同法の法文の構成、配列よりみると、この規定は相続税債務が確定した後における納付についての規定、即ち徴収に関する定めであると解することができ、従つて法は連帯納付義務について本来の租税債務と別箇に確定手続をとることを予想しているようには見えない。実質的にみても、連帯納付の義務者とされている者は、本来の納税義務者と同じ原因に基き税義務者となる共同相続人という身分関係者に限られ、かつ、その者の責任は相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度とするばかりでなく、そもそも相続税は、相続財産の無償移転による相続人の担税力の増加を課税根拠とするとはいえ、一面被相続人の蓄積した財産に着目して課される租税で、いわば被相続人の一生の税負担の清算という面も持つているのであるから、右相続税法の規定による連帯納付義務者に民法上の連帯保証類似の責任を負わせ、相続税債権の満足をはかつても、必ずしも不合理、不公平とはいえない。従つて、右連帯納付の義務は法が相続税徴収の確保を図るため、共同相続人中無資力の者があることに備え、他の共同相続人に課した特別の履行責任であつて、その義務履行の前提条件をなす租税債権債務関係の確定は、各相続人の本来の納税義務の確定という事実に照応して、その都度法律上当然に生ずるものであり、本来の納税義務につき申告納税の方式により租税債務が確定するときは、その他に何らの確定手続を要するものではないと解するのが相当である。それゆえ、税務行政庁は、本来の納税義務者との間で確定した租税債権に基づいて、直ちに連帯納付義務者に対し徴収手続を執ることができるものといわなければならない。

被控訴人は、右見解によれば、連帯納付の義務者は徴収手続の段階で突如他の共同相続人の負担する具体的租税債務を知ることになり、その課税処分について適切な争訟手段を欠くこととなつて不都合である旨主張するが、さきにも述べた本来の納税義務者と連帯納付義務者の特別の身分関係、税負担の原因となる事実(相続)の同一性、連帯納付義務者の責任の限度、相続税の特資等に照せば、ある相続人の申告等に基づき確定した相続税債務について、ことあらためて確定手続をとることなく、直ちに他の共同相続人に連帯納付の義務を課したとしても、さして不当であるとは考えられず、また、連帯納付の義務者は、本来の租税債務の不存在・無効、自己の納付責任の限度については、連帯納付の徴収手続の段階において違法の主張をして争い得るから、被控訴人の右主張は失当である。

而して、本件において、本来の納税義務者訴外久保斐子、同久保爽関係で申告により相続税債務が確定していることは請求原因一項の事実としてさきに認定したとおりであるから、本件相続税の連帯納付の義務が存在しないという被控訴人の主張は理由がない。

三  つぎに時効消滅の主張について判断する。

請求原因二項2アイウ記載の事実は当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、税務署長のした公示送達に関し次の事実が認められる。

芦屋税務署長は、昭和四五年五月二〇日ころ訴外久保斐子、同久保爽に対する延納許可申請部下の通知が転居先不明の理由で返送されてきたため、直ちに右訴外の住居、隣家、付近の酒類販売商、米穀商、芦屋市役所、芦屋警察山芦屋派出所、訴外人の取引銀行、訴外人の子弟の通学学校などについて調査したところ、右訴外人らは同年四月ころ居住建物を債権者に対し代物弁済で明渡す必要にせまられたためか、右米穀店に対する買掛金の支払もせず、近隣の人や学校の先生にも転居先を明らかにしないままいずこかへ立去つたことが判明し、転居届などの手続もとられていなかつたため、芦屋税務署長は同年六月二六日右延納却下通知書を訴外人らに公示送達するため、同税務署掲示場に掲示をした。

証人久保爽の証言中転居先を知人などに告げておいた旨述べる部分は前掲各証拠と対比して信用することができず、他に右認定を妨げる証拠はない。

右事実によれば、芦屋税務署長が公示送達に際し、訴外人らの所在が明らかでないとしてなした調査は相当な調査をつくしたものというべきであり、同税務署長に過失の存在を窺わせるような事情も認められないから、公示送達は掲示を始めた日から起算して七日を経過した同年七月三日送達があつたものと看做される(国税通則法一四条三項)。

そうすると、その後の督促の事実(前認定の請求原因二2イ)により本件相続税債務について時効中断の効力が生じているから(同法七三条一項四号)、その余の点にふれるまでもなく被控訴人の時効の主張は理由がない。

四  被控訴人は、税務行政庁が本来の納税義務者からの徴収を怠つたから、信義則上被控訴人から徴収することができない旨主張するが、本件の記録を検討してもその主張を認めるに足る事情を窺うことはできないから、被控訴人の右主張は理由がない。

五  被控訴人は、連帯納付の義務は延滞税に及ばないと主張する。

延滞税はその額の計算の基礎となる税額の属する税目の国税とする旨規定され(同法六〇条四項)、これはその計算の基礎となる税が相続税であるときはその延滞税も相続税として取扱われることを意味するから、連帯納付の義務を負う者は本税及び延滞税についても連帯納付の責に任ずるものと解せられ、被控訴人の右主張は理由がない。

六  そうすると、被控訴人主張の過誤納金は存在しないことになるから、被控訴人の本訴請求は理由がない。

よつて、右と結論を異にする原判決を取消し、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 今中道信 志水義文 辻中栄世)

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