大阪高等裁判所 昭和51年(行コ)44号 判決 1979年7月06日
控訴人 甲野一郎
右訴訟代理人弁護士 池田作次郎
被控訴人 天理市市長 尾崎喜代房
右訴訟代理人弁護士 木本繁
主文
原判決を取消す。
控訴人の本件訴を却下する。
訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
事実
一 控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和四八年一二月二一日になした同和対策特別措置法に基づく同和対策事業として、天理市○○町×××△△△番地の一所在の共同墓地の造成整備工事を行う旨の決定は、これを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、
被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。
1 控訴人の主張
(一) 本件墓地の経営主体は天理市ではなく、○○地区の住民で、その代表者としての丙山太郎名義で経営許可を得ていたから、本件墓地につき新設、拡張、改良を問わず工事を施す場合は、経営主体である○○地区住民自らが行うべきであって、いかなる名目によっても地方自治体である天理市が行うことはできない。天理市が本件墓地の造成工事に加担する方法としては、墓地の経営者に補助金を交付することによる外はない。被控訴人は同和対策事業特別措置法による市の事業として本件墓地造成工事を行うこととしたものであるが、たとえ同法によったとしても、前叙の理を変えることはできず、本件行政処分はこの点からしても違法であり、取消さるべきものである。
(二) 仮に、奈良県知事の本件墓地経営許可が、未だ有効に存続しているとしても、本件墓地整備工事は墓地の一部拡張であり変更ということになる。かかる場合には、墓地埋葬等に関する法律一〇条、同法施行規則五条、同法施行細則(奈良県規則第二七号昭和二四年四月一九日)三条の定めるところにより、奈良県知事の許可を受けなければならない。本件墓地整備工事については右手続が履践されていないから本件工事施行決定は違法であって取消されなければならない。
(三) 原判決三枚目表七行目の「昭和五四年三月三一日までの一〇年間に」を「昭和五七年三月三一日までの間(同法昭和五三年法律一〇二号一部改正)」に改め、同一一行目の「あげられる。」の次に「本件墓地用地はその面積が極めて小さく、ここでは○○地区の墓地問題の根本的解決が図れない。かような狭い土地に墓地を設置することは、再び環境の悪化を招くこと必定であり、いうなれば劣悪な環境を新たに作ることとなるのであるから、本件」を挿入する。
2 被控訴人の主張
(一) 控訴人の前記(一)の主張を争う。本件墓地整備工事は同和対策事業特別措置法及び天理市同和対策協議会答申の趣旨に沿って行ったもので、同法は本件墓地整備工事を天理市自らが行うことを禁ずる趣旨のものではない。
(二) 控訴人の前記(二)の主張も争う。昭和三一年に墓地経営許可を得て造成した墓地の区域と昭和四八年に本件整備工事を行って整備した墓地の区域とは同一であって、ただ区域内における区割りが異なるだけであるから、墓地区域の変更には当らない。また施設の変更にも当らない。したがって施設の変更として知事の許可を要する場合に当らないから主張の如き違法はない。
3 《証拠関係省略》
理由
一 まず本訴が行政訴訟の対象となり得るかについて考察する。
控訴人の本件訴は、被控訴人が同和対策特別措置法に基づく環境改善事業として天理市○○町×××△△△番地の一所在の○○共同墓地の造成整備工事を行う旨昭和四八年一二月二一日になした決定の取消しを求めている。
ところで《証拠省略》によれば、右○○地区の共同墓地として従来天理市△△町×××に○○寺の○○○墓地が存在していたが、その面積は六七坪程に過ぎないのに約一七〇基の墓石が足の踏み場もない過密状態でひしめいており、しかもそれが土葬であって、他人の墓を掘らないと埋葬できない状況に立ち至ったこと、そこで同地区に昭和三一年一〇月二二日付の奈良県知事の墓地、埋葬等に関する法律第一〇条による許可処分により本件の××△△△番地の一の共同墓地(墓地の所有名義を○○寺、墓地経営許可申請を丙山太郎名義でしているが、○○地区住民の総有であり、墓地経営主体は○○地区住民である。)が設置されたが、同墓地は天理市の失業対策事業の援助を受け当時畑であった土地を整地し、その後その北西隅に火葬場を造り(火葬場設置についても丙山太郎名義で許可を受けた。)、その中に地蔵尊を安置し、入口に六地蔵ができたほか、○○地区民の乙川家の石碑二個が右旧墓地より移され、さらに四基の石碑が建立されたが、右旧墓地より石碑を移す費用負担の点や、土葬を移し替えることについての宗教的なちゅうちょなどから、住民の協力が得られなかったため結局それ以上の拡充整備工事ができず火葬場も未使用のまま工事を中止するほかなくなり、昭和四八年一〇月まで放置されてきたこと、ところが右共同墓地は同和地区住民のものであったところから、天理市の諮問機関である天理市同和対策協議会からも昭和四六年四月墓地整備の答申があり、さらに天理市○○市場地区同和行政推進協議会の陳情もあって、被控訴人は同和対策特別措置法に基づく同和対策事業として本件墓地の整備工事を行うこととし、県に整備工事費の補助申請をし、天理市議会で昭和四八年度一般予算案として右工事費支出の可決を得、同年一二月二一日右整備工事費の支出負担行為伺書に決裁をして右整備工事を施行することを決定したこと、そして被控訴人は同月二八日○○町所在の××建設株式会社と工事請負契約を締結して右工事を施行完成させたこと、なお火葬場については丙山太郎名義で昭和四九年二月二八日廃止申請がなされ、県知事が同年三月二九日これを許可したことが認められる。
したがって控訴人の取消を求める行政処分とは、右支出負担行為伺書に決裁して本件墓地の整備工事を請負契約を通じて施行することとした被控訴人の意思決定を指すものであるところ、右決定は被控訴人の内部的意思の決定に過ぎず、その決定はなんら法律効果を生ぜず、第三者に対しその法律上の地位に影響を与えるものではないから、抗告訴訟の対象たる行政庁の処分と言うことはできない。
ところで右決定は内部的意思の決定ではあるが、工事の発注、施行を予定しており、これを一体として評価する必要があるところ、右工事は同和対策特別措置法に基づく環境改善としての墓地の整備という行政目的のためになされたものであり、かつ、地区住民が所有する土地につき工事をなすものではあるが、右措置法は環境改善として行う工事に公権力性を与えているとは認められないから、右工事を予定する本件決定を公権力の行使として取消しを求めることを許されないものといわなければならない。
以上のとおり本件墓地整備工事の施行に関する意思決定は行政事件訴訟法にいう抗告訴訟の対象たる行政庁の処分その他の公権力の行使に当るものとは言えないから、本件訴は不適法である。
二 よってこれと異なる原判決を取消し、本件訴を却下することとし、民訴法九六条八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 村瀬泰三 裁判官 林義雄 高田政彦)