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大阪高等裁判所 昭和52年(う)952号 判決 1978年12月07日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六年に処する。

原審における未決勾留日数中二〇〇日を右刑に算入する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、大阪地方検察庁検察官検事村上流光作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、被告人及び弁護人松本健男各作成の答弁書、被告人作成の同追補記載のとおりであるから、これらを引用する。<中略>

職権をもつて検討するに、本件公務執行妨害罪の訴因は、「寝屋川警察署員に検挙された岡山大学生糟谷孝幸が死亡したことに対する復しゆう抗議のため、島岡正憲と共謀のうえ、鉄パイプ爆弾一五本(三本くくり五束)を、寝屋川警察署庁舎正面玄関前及ビ南側通用門内などに投げつけて爆発させ、おりから在署当直勤務中の警部上田稔ほか一七名の警察官の職務の執行を妨害したものである」というのであるところ、原判決はこれに沿う認定をしながら、投てきの結果である爆発による公務執行の阻害は公務執行妨害罪の定型性を帯びえないとしているので、その当否を検討する。

案ずるに、投てき等による衝撃により爆発する機能を有する鉄パイプ爆弾を投てきし、これを爆発させることを手段方法として公務の執行を妨害する行為は、その爆発に伴う威力を利用する形態の有形力の行使であるから、これが爆発した場合においては、鉄パイプ爆弾の投てきという犯人の身体的動作の完了をもつて刑法九五条一項の暴行が直ちに終了するとみるのは相当でなく、投てきした右爆弾が爆発した段階をも含めた全過程をもつて公務執行妨害罪における一個の暴行にあたると解するのが相当である。

本件にあつては原判示のとおり、被告人において鉄パイプ爆弾二束を、島岡において三束をそれぞれ投てきして爆発させたのであるから、これら一連の投てき及び爆発を一個の暴行とみるべきである。

次に、後述認定の証拠によると、上田警部、内野巡査部長、堀江、佐藤欣也、山下、久留、篠田、西山巡査の八名の警察官は被告人らが鉄パイプ爆弾を投てきした際には、前認定のとおり公務執行中ではなかつたけれども爆弾の爆発音や警報ブザー等で寝屋川警察署が爆弾で襲撃されたと知つて飛び起き、これに対応する緊急任務につくため右投てき当時公務の執行中の警察官らとともに、犯人の捜査、逮捕、証拠収集、庁舎内外の検索、被害者の有無確認、その救助等の捜査活動等をするため急遽行動を開始し、遅くとも最後の第五回目の爆発時までには、右警察官全員が同署玄関前路上などに飛び出すなどして既に捜査活動等に着手しこれに従事していることが認められ、右事実によれば、右八名の警察官らは捜査活動等をするため行動を開始した時から公務の執行に従事したものであることは明らかである。

ところで、被告人らが投てきした爆弾の第一回目の爆発から第五回目の爆発までの所要時間は一七日午前零時一三分ごろから一七分ごろまでの約四分間であるところ、第一回目の爆発から第四回目の爆発までの時間は短かかつたが、第四回目の爆発から第五回目の爆発までに二、三分の時間が経つており、しかも、大阪府警察科学捜査研究所技術吏員西本一二、同松本文之共同作成の昭和四五年七月二七日付鑑定書(謄本)によれば、本件鉄パイプ爆弾と同一構造のものを製造し、三本束にして爆発実験を三回実施したところ、衝撃により秒単位の短時間内で爆発(うち二回とも鉄パイプ各一本が完爆しなかつた)したことが認められるけれども、前記のように、鉄パイプ爆弾を五回投てきしたうち一回分の爆発時期が他のものより二、三分遅延したとしても、その程度では、被告人らの主観において意外であつたということもなく、かつ、客観的にも既発のものとあわせ、これら一連の投てき及び爆発を全体的に観察して同一機会における一個の暴行とみるのが自然的観察に合致するというべく、右八名の警察官らが捜査等をするため飛び起きて行動を開始した後においてもこれに対する暴行が最終の爆発まで継続していると認めるのが相当である。したがつて被告人らは鉄パイプ爆弾投てきの際公務を執行していた警察官らに対してのみならず、右投てきによる爆発に伴い前記のように緊急措置としての捜査活動等をするため行動を開始した前記警察官八名に対しても暴行を加えて公務の執行を妨害したものであるのに、これらにつき公務執行妨害罪の成立を否定した原判決は、同条の解釈を誤り、ひいて事実の誤認をした違法がある。<以下、省略>

(矢島好信 山本久巳 久米喜三郎)

別紙一覧表(一)〜(三)<省略>

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