大阪高等裁判所 昭和52年(く)41号 決定 1977年5月12日
少年 U・T(昭三四・九・一五生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は少年作成の抗告申立書記載のとおりであるが、要するに、少年は○本方での定期預金通帳の盗難事件及び○○郡の平分住宅における現金一万円の盗難事件について警察の調べを受けたが、右事件はいずれも身に覚えがないのに少年の犯行であると決めつけられて書類を作られ、本件少年院送致決定を言渡されたものであり、原決定には事実誤認があるというのである。
そこで、本件保護事件記録及び少年調査記録を精査し、原決定の当否を検討するに、所論いずれの事実も、原決定時には未だ原裁判所に送致されておらず勿論原決定中において何等非行事実として認定摘示されていないものである。とりわけ、所論のうち現金盗取の事実については、後記余罪の捜査取調べに当つた所轄警察署においてもどのような事件を指すものか理解しかねている事実が認められ、見当違いの主張という外ない。
尤も、所論のうち定期預金通帳窃取の事件については、原決定後の昭和五二年四月二六日に至り原裁判所が受理した少年に対する同庁昭和五二年(少)第三九号窃盗・住居侵入保護事件の送致事実合計一〇件中の一件に該当することが認められるところ、原決定の資料に供された同年四月一二日付少年調査表生活史欄中には、少年には同年一月から三月にかけて犯した捜査中の窃盗余罪一〇件余があり送致予定である旨の記載(余罪の種類と合計件数のみを内容とする概括的でごく簡単な一行程度の記載)が存し、この事実に徴すると、原裁判所においては、原決定当時少年につき約一〇件に上る未送致の窃盗余罪があることは認知していたと思料され、従つてこの点をも少年の要保護性判断の一資料となしたものと推認するのが相当である。しかしながら、所論指摘の預金通帳の件は右一〇件の余罪中の一件に過ぎないものであるうえ、原裁判所が原決定をなすに至つた理由は、少年が原決定認定の非行を犯したことのほか、原決定の処遇理由の記載から明らかなように、少年は昭和四二年六月以降二度教護院に収容され五〇年七月国立武蔵野学院を退院したが、右退院後も少年の幼少時からみられたテンカン発作はやまずこれに伴う性格変化=人格の低格化を主因とする粗暴傾向が顕著になつたこと、定職につかず素行が治まらないうえテンカン治療の必要性があること、家庭に保護能力なく在宅処遇が不可能であること等を理由とするものであつて、右の処遇理由に徴すると、所論指摘の余罪の存否如何は何等原決定の結論に消長を来たさない性質のものであることが明白である。従つて右余罪の存否につき検討するまでもなく、論旨は理由がない。
その他記録を精査するも、原決定には違法不当の瑕疵は認められない。本件抗告は理由がない。
よつて、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 矢島好信 裁判官 山本久巳 久米喜三郎)