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大阪高等裁判所 昭和52年(ネ)1121号 判決 1978年4月11日

控訴人 東亜建測株式会社

右代表者代表取締役 田中孝道

控訴人 田中孝道

右両名訴訟代理人弁護士 南里和廣

被控訴人 梅鉢公子

右訴訟代理人弁護士 上木繁幸

主文

原判決を取り消す。

本件訴えを却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  申立

控訴人らは、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の事実上及び法律上の主張は、左のとおり付加するほか、原判決の事実欄の第二に摘示してあるとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人ら

(一)  被控訴人の本訴解任請求は、被控訴人会社の昭和四九年九月一〇日臨時株主総会において選任された控訴人田中の取締役の地位に対して、同五〇年一月一八日の株主総会において取締役解任請求が否決されたことに基づいてなされている。

(二)  ところで、控訴人会社は昭和三七年一〇月二三日設立されたものであるが、定款によると、取締役の任期はその選任後第二回目の定時株主総会終結のときをもって満了する、定時株主総会は毎営業年度(四月一日から翌三月三一日)の翌日から二か月以内に招集する、と定められている。

(三)  右定款により、控訴人田中の取締役の地位は、昭和五一年三月三一日の翌日から二か月以内に開始される定時株主総会の経過(同年五月三一日)をもって任期満了となり、新たに取締役が選任される必要があったところ、控訴人会社は昭和五一年五月三一日に定時株主総会を開催しながら右取締役選任手続を遅滞したため、同五二年七月二日臨時株主総会を開催し、旧取締役の任期満了による退任を理由に、新たに取締役田中照雄、同田中修三、同直原久夫、同高橋信夫及び同控訴人田中を選任し、同年八月二日その旨の登記を了した。

(四)  右のとおり、被控訴人が解任を請求している控訴人田中の取締役の地位は、昭和五一年五月三一日に、遅くとも同五二年八月二日の登記の時に、任期満了により株主総会の承認のもとに消滅している。したがって、本件訴えはその利益を欠くに至った。

なお、控訴人田中は、右のとおり改めて取締役に選任されたが、控訴人会社の最高決議機関である株主総会において新たな事情のもとに選任されたのであるから、右選任決議の効力を争うのであれば格別、本訴をもって解任を求めるのは失当である。

2  被控訴人

(一)  控訴人らの右主張事実中(二)及び(三)の各事実は認める。

(二)  被控訴人は、必ずしも特定の任期中の取締役の解任を求めているわけでなく、現に解任理由を有するまま控訴人会社の取締役をしている控訴人田中の取締役解任を求めているのである。

(三)  商法二五七条に基づく取締役の解任は、取締役がその職務遂行に関し不正行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実がある場合に、その不適任な取締役を少数株主の請求によって裁判所が解任する制度である。したがって、当該取締役が一旦取締役の地位を退任し、多数派株主であることを利用して株主総会において新たな選任手続さえとれば、従来の解任請求手続がすべて効力を失うということになれば、取締役解任制度は全く実効のないものとなる。控訴人田中が新たに控訴人会社の取締役に選任されたからといって、本訴解任の請求がその利益を欠くに至るとか、従来の解任手続によってはその取締役の地位を奪うことができないと解すべきではない。また、控訴人田中は、本訴の解任請求の事由となった不正行為等について、その後も全く是正措置ないし原状回復措置等をしておらず、現在においても控訴人会社の取締役としての資格を欠くものであることは明らかである。

(四)  控訴人会社は、控訴人田中の取締役の任期が昭和五一年五月三一日に満了したのであるから、すみやかに新たな取締役を選任して原審の口頭弁論期日においてその旨の主張、立証をすべきであるのに、故意にこれをしないまま、原判決直後に株主総会を開いて取締役選任手続をしたと主張することは、明らかに取締役解任制度の意味を失わせる脱法行為であり、信義則上も許されない。

三  《証拠関係省略》

理由

一  本訴が提起された日であることが記録上明らかな昭和五〇年一月一八日当時、控訴人田中が控訴人会社の取締役であったこと、同日開催された控訴人会社の臨時株主総会において控訴人田中の取締役解任の議案が否決されたことは、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、控訴人田中は昭和四九年九月一〇日に右取締役に就任し同月一三日その旨の登記を経ていたものであることが認められる。

二  商法二五七条三項の規定にいわゆる取締役解任の訴えは、会社の取締役に不正行為等の一定の事由がある場合において、総会でその解任が否決されたとき(否決があったと同視することができるときを含む。以下同じ。)に限り、当該取締役の地位を判決によって失わせることを目的とする訴えであるが、右判決の効力は当該取締役の地位をその残存期間につき将来に向って失わせるにとどまるものと解される。したがって、取締役解任の訴えの係属中に、当該取締役が任期の満了により退任した場合には、その訴えは目的を喪失し、訴えの利益を欠くに至るといわなければならない。

ところが、本件において、控訴人田中の前記取締役の任期が控訴人会社の定款の定めるところにより昭和五一年五月三一日をもって満了し、控訴人会社が同五二年七月二日の臨時株主総会において旧取締役の任期満了退任を理由に控訴人田中ほか四名を新取締役に選任し同年八月二日その登記を了したことは、当事者間に争いがない。したがって、本訴は、その提起当時における控訴人田中の取締役の地位を奪うことを目的とするものである限り、訴えの利益を欠くに至ったというべきである。

また、本訴が新取締役に選任された後の控訴人田中の取締役の地位を失わせることを目的とするものであるとしても、新取締役選任後にその解任議案が否決された事実が認められないから、爾余の点について判断するまでもなく、これまた許されないことが明らかである。

三  被控訴人は、さらに、原判決の後に新取締役の選任手続をすることが脱法行為であるというが、これも理由のない主張であることが明らかである。

四  以上のとおりで、被控訴人のその余の主張事実について判断するまでもなく、本件訴えは不適法として却下を免れない。よって、原判決を取り消して本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白井美則 裁判官 永岡正毅 友納治夫)

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