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大阪高等裁判所 昭和52年(ネ)1154号 判決 1978年1月31日

控訴人 中谷春雄

右訴訟代理人弁護士 秋山英夫

被控訴人 田中定雄

右訴訟代理人弁護士 小林多計士

同 田中久

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  控訴人の主張

(一)  民訴法六八八条六項は「前の競落人」が複数である場合に、その複数の競落人が不足額支払債務につき相互に連帯関係に立つかどうかの点については、何ら規定していない。そうすると右債務が可分債務である以上、民法四二七条により数人の債務者は平等の割合をもって義務を負担するに過ぎないと解すべきである。控訴人は、被控訴人の本訴請求は理由がなく、控訴人に不足額支払の義務はないと主張するものであるが、仮にしからずとしても、先行する競売の競落が二名の共同でなされているものである以上、控訴人が単独で不足額の全額を負担すべきいわれはない。

(二)  従前の主張の補足

(1) 競売代金不足額請求の債権債務関係は、法律の規定により設定されたものであるから、当事者の契約により成立する一般の債権債務関係とは異なる特異な面をもっている。それは再競売価格の下落という事実があれば、当初の競売の競落人について不足額支払の義務が発生するが、それも競売利害関係人のうち何びとかに対して支払わねばならないという不確定要素を含んだものであり、他方においてこれを権利者についてみるときには、再競売価格の下落という事実さえあればすべての利害関係人が当然に権利を取得するというのではなくして、一定の条件を充たすもののみがこれを取得するということならびに取得した権利を行使するについても一定の制約があるということである。

(2) この一定の条件ないし制約を列挙すると、

(ア) 当初の競売において、なにがしかの配当金を受領しうる立場にあったものであること(利害関係人が債務者である場合を除く。)

(イ) 再競売価格の下落により、うべかりし配当金が減少し、または皆無になったこと(利害関係人が債務者である場合を除く。)

(ウ) 請求権の行使については一定の序列に従うこと(抵当権者相互間では抵当権の順位により、債務者は最下位)

(エ) 請求権の行使は、競売価格の差額を限度とすること

ということになる。すなわち利害関係人が不足額請求権を行使するには、再競売価格の下落ということのほかに、右に述べた四つの条件ないし制約に牴触していないことが必要なのであるから、訴訟上の請求においてはこの点に関する立証が必要である。

(3) ところで右条件のうち(ア)、(イ)はこれを合体すれば、「利害関係人が損害を被ったこと」の意にほかならず、換言すれば、利害関係人(抵当権者等)が損害を被る場合を条件的に分解すると(ア)、(イ)のようになる。したがって(ア)、(イ)の条件が充たされていることを明らかにして請求権を行使したものがある場合においては、「損害の発生」についても一応立証されたものということができるから、そのかぎりにおいて「損害の発生についての格別の立証」を問題にする必要はないといえるが、このことは「損害がなくても請求権が成立する。」ということを意味するものではない。右(ア)、(イ)の条件が充たされているということは、損害の発生を高度に推定せしめるに止まり、特異な場合には(ア)、(イ)の条件が充たされているにかかわらず、損害の発生がないということもありうるわけである。

(4) 控訴人は本件がまさに右の特異な場合に該当するものであることを従前から主張しているのであって、その特異性は、被控訴人が当初の競売における最高入札価格の形成に参加したものであり、かつ、同時に再競売の際における競落人であることに由来するのである。すなわち、被控訴人が当初の競売において金三、九五〇万円の価格の申出をしているということは、その価格で物件を競落しても損はないという計算に基づくことは明らかである。そうすると再競売において自らこれを金三、〇〇〇万円で競落し得たということは、差額の金九五〇万円を利得していることを意味する。金三、九五〇万円ですら競落し得なかったものを金三、〇〇〇万円で入手し得たのであるから、再競売はそのかぎりにおいて被控訴人に幸いしているわけである。したがって仮に被控訴人の表見的損害が金一、〇三九万〇、一三〇円であるとしても、金九五〇万円の埋合せを得ていることにより、実損は金八九万〇、一三〇円であるにすぎず、被控訴人としてはその限度においてしか不足額請求権を行使し得ないというべきである。(この場合、競売申立価格のみを基準として損得の算定をすることは不合理であるという反論は許されない。なぜなら法律の規定自体がその方法によっているからである。)

2  被控訴人の主張

(一)  控訴人と訴外石田権三郎は共同で競買の申出をなし、共同で競落許可決定を受け、各自共同で指定された代金支払期日に競買代金全額の支払義務を負担していたものである。そうだとすれば、かかる一連の競売手続の目的および法律関係からみて、控訴人および右石田両名が負担していた金四、〇〇〇万円の代金支払義務は、「性質上の不可分債務」として各自連帯して負担すべきものといわなければならない。

(二)  本件競売不足額請求権に基づく「前の競落人」の支払義務は、再競売における競売代金減少により不利益を受けた者に対する損失の補償を得さしめ、もって国家機関による厳正かつ公平な競売手続の遂行を維持するために、前の競落人の競落代金不払に対する制裁として課せられた法定担保責任(損失補償責任)である。そうすると、(一)記載のとおり、本訴に先行する前の共同競落人の競落代金支払義務が不可分債務として、共同競落人各自連帯して支払われる性質のものである以上、控訴人および右石田の競落代金不払を責任原因とする不足額支払義務も、右法定担保責任ないし損失補償責任の性質上、同じく前の共同競落人たる控訴人および右石田両名共同の「不可分債務」と解するのが相当である。

理由

一  当裁判所も、被控訴人の本訴請求を正当として認容すべきものと判断するものであって、その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決理由(原判決五枚目裏一二行目から同六枚目裏九行目まで)中に説示するとおりであるから、右理由記載をここに引用する。

1  原判決六枚目表六行目の冒頭に、

「競売法三二条二項により任意競売に準用される民訴法六八八条六項にいわゆる競売不足額請求権は、当初競売が行なわれ競落されたにもかかわらず、当該競落人の代金不払のため再競売に付され、再競売における競落代金が当初の競落代金よりも低廉である場合において、厳正かつ公平な競売手続の遂行を維持するために、当該競落人(前の競落人)の不誠実な代金不払に対する一種の制裁の意味から、前の競落人をして、右競落代金の減少により不利益を受ける者に対しその損失を補填させることを目的として認められた制度であり、」

と挿入し、同六行目に「不足請求」とあるのを「不足額請求」と、「先づ」とあるのを「第一次的に」と、同七行目に「次に」とあるのを「第二次的」とそれぞれ訂正し、同九行目の「所有者)である。」の次に「競売不足額請求権の性質については、判例に変遷がみられ、学説、判例の対立がみられるが、競売手続における利害関係人(抵当権者その他の債権者、債務者)が前の競落人に対して有する直接かつ固有の一種の損失補償請求権であり、前の競落人の不足額支払義務は特別の法定責任であると解するのが相当であり、したがって」と挿入し、同九行目の「競落人の」から同一二行目の「されているため」までを削除し、この部分に、

「配当の終了により債務者に対し残存債権を有すること、右債権額が前の競落人の負担すべき不足額と同額またはこれをこえるときはその全額、こえないときはその差額について請求することを主張、立証すれば足り」

と挿入し、同末行に「そして、原告」とあるのを「本件についてみるに、被控訴人(原告)が配当の終了により債務者に対し金一、〇三九万〇、一三〇円の残存債権を有し、」と訂正する。

2  同裏三行目の次に、行を改めて次のとおり挿入する。

「もっとも、弁論の全趣旨によると、当初の競売の際、被控訴人が控訴人(被告)と激しくせり合い、金三、九五〇万円の競買申出をしたが、控訴人および訴外石田権三郎が共同して金四、〇〇〇万円の競買申出をし最高価競買人となったことが認められ、被控訴人が再競売において自ら競落した競落代金三、〇〇〇万円と前記申出に係る金額三、九五〇万円との差額金九五〇万円を利得しているやにみられないではない。しかしながら、被控訴人は、後述するように、すでに当初の競売手続中において右金三、九五〇万円で現実に買得しうる地位を失っていたものであり、したがって、右三、九五〇万円と再競売の代金額三、〇〇〇万円との差額金九五〇万円をもって、被控訴人が現実に支払を免れた出捐(利得)ということはできず、再競売代金が観念的にそれだけ低廉であったにしても、それは前の競落人(控訴人)の代金不払とは直接かかわりのないことであり、再競売において、たまたま他に高価競買の申出をするものがいなかったことによるものである。したがって再競売競落代金の低廉は、前の競落人(控訴人)の代金不払の不誠実、およびそれに対する制裁に影響を及ぼすべき筋合のものではないというべきである。さらに、競買申出の拘束力は、他の高価競買の申出の許可によって消滅することは民訴法六六五条一項により明らかであり、被控訴人が当初の競売の際にした金三、九五〇万円の競買申出の拘束力はすでに当初の競売手続中に消滅しているのであるから、再競売において、右申出の事実をしん酌すべき理由はないといわねばならない。」

二  控訴人は、当審において、前の競落人が複数である場合の不足額支払債務については、民訴法六八八条六項に何ら規定していないから右債務が可分債務である以上、民法四二七条により平等の割合をもって負担するに過ぎないと解すべく、本件不足額について控訴人が単独で、その全額を負担すべきいわれはないと主張する。

ところで、共同競買人の代金支払義務が分割債務であるか連帯債務であるかについては見解の分れるところであるが、共同競買人の一人の持分について競落許可決定をし、あるいはその一人の持分について再競売を命ずることは、法律関係を複雑ならしめるばかりでなく、代金の支払の確実を期する観点からも許されないものというべく、共同競買人は常に一体となって権利を取得し義務を負う関係にあるといわなければならないから、連帯債務であると解するのが相当である。(大審院昭和一一年三月一七日決定、民集一五巻四八三頁参照)したがって、共同競買人の一人が代金を支払わない場合は民訴法六八八条一項にいわゆる「義務ヲ完全ニ履行セザルトキ」に該当するから不動産全部について再競売を命ずべきであり、共同競買人各人が、それぞれ競買保証金の返還請求権を失い、不足額および手続費用の全額を負担する結果になるものというべきである。控訴人のこの点の主張は採用できない。

三  以上の次第で、被控訴人の本訴請求を正当として認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、民訴法三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山内敏彦 裁判官 田坂友男 高山晨)

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