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大阪高等裁判所 昭和52年(ネ)1323号 判決 1981年2月25日

控訴人 古谷教純

右訴訟代理人弁護士 藤原昇

同 佐野実

被控訴人 宗教法人真福寺

右代表者代表役員 新林錬昭

右訴訟代理人弁護士 中山秀夫

被控訴人 宗教法人日蓮宗

右代表者代表役員 松村寿顕

右訴訟代理人弁護士 松島邦夫

主文

控訴人の本件控訴及び当審における新請求をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取消す。控訴人と被控訴人日蓮宗との間において、控訴人が同被控訴人の僧籍及び僧都の僧階を有することを確認する。控訴人と被控訴人真福寺との間において、控訴人が同被控訴人への責任役員及び代表役員であること、訴外太田清兵衛が同被控訴人の責任役員及び総代であること並びに訴外古谷亀吉が同被控訴人の総代であることを確認する。被控訴人真福寺は控訴人に対し同被控訴人についての京都地方法務局昭和三二年二月一八日付責任役員及び代表役員古谷教純解任登記、責任役員太田清兵衛解任登記並びに同法務局昭和四五年一一月二六日付代表役員新林錬昭就任登記の各抹消登記手続をせよ。被控訴人真福寺の控訴人に対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、当審において新請求を追加し、「被控訴人真福寺は控訴人に対し原判決別紙目録記載の建物を明渡せ。」との判決を求めた。被控訴人らは、主文同旨の判決を求め、被控訴人真福寺は、右訴の追加的変更を許さない旨の裁判を求めた。

二  当事者双方の主張と証拠の関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

1  原判決別紙目録記載の建物(本件建物という。)は、昭和九年ころ古谷学順が建築して所有権を取得し、同人の死亡により子である控訴人がこれを相続した。仮に控訴人が、一審で本件建物を被控訴人真福寺の所有と認め、かつこれが自白に当るとしても、その自白は真実に反し、錯誤に基づくものであるから撤回する。

2  控訴人は、本件建物を占有していたところ、被控訴人真福寺は、控訴人に対する大阪高等裁判所昭和五三年(ワ)第九〇四号仮処分申請事件の仮処分決定にもとづく執行により、これを占有するに至った。

よって控訴人は被控訴人真福寺に対し所有権に基づき本件建物の明渡を求める。

(被控訴人真福寺の主張)

1  控訴人の当審における訴の追加的変更は、旧請求との間に請求の基礎の同一性がないから、許されない。

2  控訴人の訴外太田清兵衛に関する被控訴人真福寺の責任役員及び総代であることの確認を求める請求は、同訴外人が昭和五一年一月九日死亡し、訴の利益が失われた。

3  控訴人の被控訴人真福寺についての責任役員太田清兵衛解任登記の抹消登記手続を求める請求は、昭和三八年七月九日の法律第一二六号による宗教法人法の一部改正により、右責任役員は登記事項ではなくなったから、理由がない。

4  控訴人の追加主張1の自白の撤回には異議がある。被控訴人真福寺が昭和一〇年六月三〇日本件建物を建築、所有するに至った。

5  控訴人の追加主張2のうち、被控訴人真福寺が、控訴人主張の仮処分決定に基づく執行により、その占有する本件建物のうち、庫裡西側約半分を除くその余の部分を執行官保管のもとに使用するに至ったことは認めるが、その余の事実は否認する。

(証拠関係)《省略》

理由

一  当事者双方の主張に対する当裁判所の判断は、被控訴人真福寺の控訴人に対する本件建物の明渡請求の当否及び控訴人の当審における新請求の点を除き、原判決理由第一、第二の一の説示と同一(但し、右理由第一の三項末行の「失当であり」の次及び同五項冒頭に「(右責任役員解任登記の抹消登記手続を求める請求については、昭和三八年七月九日の法律第一二六号による宗教法人法の一部改正により責任役員の表示は登記事項ではなくなり、これに関する登記は現在何ら登記上の効力を有しないものであるから、右抹消登記手続を求める理由がすでに失われ、この点からも右請求は失当である。)」と、加える。)であるから、これを引用する。

二  被控訴人真福寺の控訴人に対する本件建物の明渡請求の当否。

1  本件建物の所有関係。控訴人は、原審で本件建物が被控訴人真福寺の所有であることを認め、当審でこれを撤回して右所有を争うが《証拠省略》によると、本件建物のうち、本堂、庫裡、渡廊下は昭和一〇年六月に、納屋はその後おそくとも昭和一七年三月までに、いずれも被控訴人真福寺の前身たる寺院である真福寺が建築所有し、同被控訴人の設立に伴って、同被控訴人が本件建物を所有するに至ったと認められ、右認定を左右する証拠はない。

2  本件建物の占有関係。控訴人がもと本件建物を占有していたことは当事者間に争いがなく、控訴人主張の仮処分申請事件において、本件建物に対する控訴人の占有を解いて執行官に保管を命じ、右執行官保管のもとに、本件建物のうち、庫裡西側約半分と納屋を控訴人に、その余を被控訴人真福寺に使用させるべき旨の仮処分決定が発せられたことは当裁判所に顕著であり、右仮処分決定が執行されたことは、控訴人の当審供述と弁論の全趣旨から明らかであるが、右仮処分の執行による占有の変更は暫定的、仮定的なものであるにすぎないから、本案である本件においては、本件建物はなお控訴人が占有しているとみるべきである。

3  控訴人が被控訴人真福寺の住職及び代表役員たる地位を本件罷免処分により失ったことは、原判決理由の前項引用部分に説示されているとおりであり、控訴人に対して本件建物の明渡を求める被控訴人真福寺の請求は理由がある。

三  控訴人の当審新請求

訴の変更としての判断

控訴人の被控訴人真福寺に対する旧請求と新請求とは、主たる争点が共通でないから、訴の変更に必要な請求の基礎の同一性の要件を充足しない。

同被控訴人の建物明渡請求に対する反訴としての判断

本件のように、XのYに対する所有権に基づく建物明渡請求訴訟の控訴審において、Yが同一建物につき所有権に基づき明渡請求の反訴を提起する場合、Yの擬制自白等のため第一審において建物所有権者の点につき実質的審理がなされなかったときでも、Xの同意を必要としない。その理由。(イ)、控訴審における、中間確認の訴(本訴、反訴)の提起及び請求の基礎の同一性のある訴の変更の場合、相手方の擬制自白等のため第一審において新旧両請求に共通の主たる争点につき実質的審理がなされなかったときでも、相手方の同意を必要としない(民訴法二三四条、二三二条、三七八条)。右の立法の理由は、右の場合、両請求は、主たる争点が共通であり、またそれゆえに主たる争点についての訴訟資料が共通であるという密接な関係にあるから、適法な第一審判決がなされた限り、相手方の同意不要としても相手方の審級の利益を害しないからであると解すべきである。(ロ)、設例の場合、(イ)の場合と同じく、両請求は、主たる争点共通(それゆえに主たる争点についての訴訟資料共通)という密接な関係にあるから、反訴一般に関する民訴法三八二条一項の原則に対する例外の場合として、(イ)の場合と同じく、Xの審級の利益を害しないから、Xの同意不要と解すべきである。(ハ)、設例の場合、Xの同意を必要とすることは、控訴審において、YがXに対し同一建物につきYの所有権確認の中間確認の訴を提起する場合、第一審において建物所有権者の点につき実質的審理がなされなかったときでも、Xの同意を必要としないことと均衡がとれない。

本件建物を所有するのは、控訴人ではなく被控訴人真福寺であり、またそれを占有するのは、同被控訴人ではなく控訴人であることは、前項に認定、説示したとおりであるから、控訴人の新請求は失当である。

四  よって控訴人の被控訴人日蓮宗に対する訴及び同真福寺に対する訴外太田清兵衛と同古谷亀吉の地位確認を求める訴を却下し、同被控訴人に対するその余の請求を棄却し、同被控訴人の控訴人に対する請求を認容した原判決は相当であり、また控訴人の当審における新請求は失当であるから、控訴人の本件控訴と右新請求をいずれも棄却し、控訴費用の負担につき同法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 潮久郎 藤井一男)

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