大阪高等裁判所 昭和52年(ネ)1897号・昭50年(ネ)949号・昭50年(ネ)475号 判決
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【判旨】
(二) 第一審原告主張の準委任契約が成立したことは第一審被告宮野承継人らとの間で争いがない。この事実に、前掲証拠及びこれによる前示認定事実を合わせ考えると、①第一審原告は、本件土地を所有していたところ、昭和三九年一〇月ごろ、同原告の訴外向田徳一に対する本件土地上の右向田所有の建物を収去してその敷地である本件土地の明渡しを求める交渉等の事務を第一審被告英雄に依頼し、同被告がこれを承諾し、よつて右当事者間に準委任契約が成立したこと、②ところが同被告は右向田に対し本件土地の明渡しを求める交渉の手段として、第一審原告から本件土地の同被告への通謀による売買の契約書・印鑑証明書・委任状等、登記に必要な書類を交付され、その所有権移転登記を経由(同三九年一〇月一九日)したのを奇貨として、準委任債務の本旨に従つた履行を十分につくさず、かえつて昭和四〇年一一月五日第一審被告神戸建設(当時の商号、株式会社中西工務店)に対する債務金二、三九八万三、一〇〇円の弁済に困り、第一審原告に無断で本件土地を同被告に売却し、同日売買を原因とする同被告への所有権移転登記を経由したこと、③右登記によつて前示のように第一審被告英雄の第一審原告に対する本件土地の返還に関する登記手続義務が履行不能となり、従つて本件準委任契約に基づく債務も履行不能となり、これによつて第一審原告が本件土地の所有権喪失による損害をうけたことが認められ、右認定を妨げるに足る的確な証拠がない。右事実によれば、第一審被告英雄は第一審原告に対し債務の履行不能によつて生じた損害を賠償すべき義務があるものというべきである。
(三) ところで第一審被告宮野承継人らは、第一審原告の右損害賠償債権が時効により消滅した旨主張するので判断する。およそ契約の解除によらない債務の履行不能による損害賠償債権の消滅時効は、権利を行使しうる時から進行するが(民法一六六条一項)、その場合の「権利を行使」うる」というのは権利行使の法律上の障害がないことをいい、権利者の一身上の都合で権利を行使できないこと、あるいは権利の行使に事実上の障害があることによつて影響を及ぼさないから、民法七二四条のような特段の規定のない限り、権利者がその履行不能の事実を覚知すると否とを問わず、消滅時効が進行し、従つてその時効期間の起算点は、その履行不能による損害賠償請求権の発生した時と解すべきである(大審院大正六年一一月一四日判決・民録二三輯一九六五頁、最高裁判所昭和三五年一一月一日判決・民集一四巻一三号二七八一頁参照)。これを本件についてみるに、前示認定の事実関係によれば、本件準委任契約に基づく債務の履行不能の時期は本件土地の第一審被告神戸建設(当時の商号、株式会社中西工務店)への所有権移転登記日たる昭和四〇年一一月五日であるから、本件債務不履行による損害賠償債権は同日の翌日から起算して一〇年の消滅時効期間である昭和五〇年一一月五日の経過により消滅したものというべきである(仮に、第一審被告の前示行為が不法行為を構成するとしても、前示事実関係によると、被害者たる第一審原告が損害及び加害者を知つたのは遅くとも昭和四二年六月一六日であると認められるから、その損害賠償債権は三年の時効により昭和四五年六月一六日消滅したものである)。
(四) 第一審原告は、消滅時効中断の再抗弁をするけれども、第一審原告が昭和四六年一一月三〇日、本件の第一審裁判所に第一審被告英雄を相手方として本件土地の所有権確認及び本件各登記の抹消登記手続を求める原審訴訟を提起したことは当裁判所に顕著であるが、右訴訟の提起は本件損害賠償債権の請求ではないから、その消滅時効の中断事由たりえない。また、<証拠>によると、第一審原告が昭和四六年に第一審被告英雄を相手方として損害賠償調停事件を申立てたが、同年九月二七日不成立により終了したことが認められるところ、申立人が右終了の通知を受けた日から二週間以内に調停の目的となつた請求について訴えを提起したこと(民事調停法一九条)を認めるに足る的確な証拠がないから、右調停の申立てをもつて消滅時効の中断事由となしがたい。従つて、第一審原告の右再抗弁は失当であつて採用できない。
(下出義明 村上博巳 吉川義春)