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大阪高等裁判所 昭和52年(ネ)1933号 判決 1978年5月31日

控訴人

岡本正清

右訴訟代理人

高谷昌弘

被控訴人

姫路木材運送株式会社

右代表者

敷名和千代

右訴訟代理人

八代紀彦

外二名

主文

一、原判決のうち、昭和四九年五月二一日以降の逸失利益、本件弁護士費用、及び前訴についての控訴取下による各損害賠償請求に関する部分を取消し、右各部分の訴をいずれも神戸地方裁判所姫路支部へ差戻す。

二、その余の控訴をいずれも棄却する。

三、前項に関する控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一<省略>

二前訴と一部請求

本件損害賠償請求権のように可分な一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨明示して訴が提起された場合には、訴訟物は分断され、この場合訴訟物となるのは右債権の一部であるから、右一部の請求についての確定判決の既判力は残部の請求に及ばない(最判昭三七・八・一〇民集一六巻八号一七二〇頁)。

そこで、前訴及び前訴判決が本件事故による損害賠償請求権の明示された一部請求に関するものであつたか否かにつき次に逸失利益、慰藉料、弁護士費用にわけて順次検討する。

(一)  逸失利益

<証拠>によると、控訴人は前訴の訴状において、本件事故による逸失利益として、控訴人が本件事故により就労不能となつたことを理由に「本件事故発生後昭和四七年五月二〇日までの期間(その後後示のとおり拡張)につき、平均賃金月額一七万二、四二九円の二五ケ月分の賃金合計金四三一万〇七二五円」の請求をし、同訴状の「六事情」欄には「本訴請求は本訴提起までの一部請求」であること、及び前訴の訴状が昭和四七年五月二九日付で作成されていることに照らすと、控訴人が前訴において請求していた逸失利益は、本件事故発生後昭和四七年五月二〇日までの期間を限つてこれを明示した一部請求であると認められる。すなわち、控訴人は右期間内の逸失賃金については、労災後遺等級に基づく労働力喪失率に関係なく全面的な就労不能を主張して賃金全額の損害賠償を求めているものである。しかし、控訴人は労災後遺等級の判定に異議申立をしていることからその労働能力喪失期間の認定に不安を抱き、前訴提起まで、正確には前訴の訴状作成の数日前である昭和四七年五月二〇日までの期間を限りこれを明示して逸失利益の一部請求(その後前訴一審において昭和四九年五月二〇日までの分に拡張請求)をしたものであつて、前訴は期間の点で明示された一部請求であるといわねばならない。けだし、逸失利益に関する限り控訴人が後遺等級の不服申立に言及しているのは一部請求をするに至つた単なる動機を述べているにすぎないとみるべきであり、控訴人主張のように後遺症等級一二級に基づく月額賃金額の労働能力喪失率を限つてしたものとみることはできないからである。

そうすると、本件事故が発生した昭和四五年四月二〇日から同四九年五月二〇日までの逸失利益については前訴確定判決の既判力に触れ本訴の右請求部分は不適法であるから、これを却下した原判決は正当で、この部分に対する控訴は理由がないが、その翌日たる昭和四九年五月二一日以降の逸失利益に関する部分の本訴を却下した原判決は不当である。

(二)  本件弁護士費用

前記(一)のとおり本訴の一部が前訴判決の既判力に触れず、実体判断を要するものであるから、本訴弁護士費用は本件事故と相当因果関係ある損害の一部として前訴の弁護士費用とは別に再訴が許され前訴判決の既判力に触れないものである。したがつて、この部分を却下した原判決は不当である。

(三)  慰藉料

控訴人らは前認定のとおり前訴における慰藉料請求に当り、労災後遺症等級一二級の認定を得たが、労災病院医師は労災等級七級として判定しており、いずれにしても多くの苦痛を残し、本件傷害前の職場の就労は不能となつたこと、被控訴人の不誠意、態度、控訴人の精神的、肉体的苦痛を挙げて、その慰藉を求めていたものであつて、これは控訴人らの本件事故による受傷に伴う慰藉料の全部請求をしていたものといわねばならない。即ち、慰藉料の算定の基礎となる主要事実は控訴人の受傷による症状自体と、これに加えて加害者の不誠意など諸般の事情であつて、行政庁が右症状の後遺症等級を何級に認定したかということは間接的な事実に過ぎない。また、いわゆる一部請求として訴訟物を分断するには、金額、日時など訴訟物自体を明確な基準によつて明示しなくてはならないのであつて、前記後遺等級の認定など間接事実によつてこれを分割することはできないと考える。そうすると、控訴人が前訴の訴状において「後遺症保障とは別に右金員を請求する」と付記しているのは、慰藉料を労災保険金等とは別個に請求する趣旨としかいえないし、同訴状「六事情」欄の「本訴提起までの一部請求である」との記載は慰藉料請求に関して述べたものでないといわねばならず、それは慰藉料に関する限りせいぜい控訴人が前訴提起当時の症状を基礎に請求するので、将来新たに予想しなかつた重大な後遺症が生じたときは改めて再請求をする趣旨をそこに読み取り得るに過ぎず、慰藉料についての明示の一部請求であるとは認められない。したがつて、慰藉料請求の部分の本訴を却下した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

三控訴の取下による賠償請求と前訴の既判力<省略>

四結論

してみると、原判決のうち控訴人請求中の昭和四九年五月二一日以降の逸失利益、本訴弁護士費用、及び控訴取下による損害の各賠償請求の訴を却下した部分は失当であるからこれを取消し、右各部分の訴をいずれも神戸地方裁判所姫路支部へ差戻すこととし、その余の控訴部分についての原判決は正当であつて、この部分は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(下出義明 村上博巳 吉川義春)

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