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大阪高等裁判所 昭和52年(ネ)2009号 判決 1978年12月13日

控訴人兼附帯被控訴人

(以下「控訴人」という。)

曽我部農業協同組合

右代表者

松岡與一

被控訴人兼附帯控訴人

(以下「被控訴人」という。)

三好祐一郎

右訴訟代理人

川中宏

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  附帯控訴にもとづき原判決主文第二項を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、三〇万円およびこれに対する昭和五一年五月二八日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分とし、その四を控訴人の、その一を被控訴人の各負担とする。

事実

第一  控訴代表者は、控訴につき「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。」との判決を求め、附帯控訴につき「附帯控訴を棄却する。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴につき「原判決中被控訴人敗訴部分を取消す。控訴人は、被控訴人に対し、一〇〇万円およびこれに対する昭和五一年五月二八日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

第二  当事者双方の主張は、控訴代表者において、次のとおり陳述したほか、原判決事実摘示第二、第三のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

1  控訴人は、昭和五一年一二月一五日原審裁判官に対し忌避の申立をしたのに、同裁判官は明文の規定もないのに即時これを却下して(なお、控訴人は右却下の宣言を聞いていないのに、調書にだけは記載さている。)、訴訟手続を続行したのは違法であつて、原判決は無効である。

2  控訴人は、被控訴人から中国訪問を理由として本件除名を審議する総会開催日(昭和五一年二月二五日)の変更方の申入を受けたので、理事会を開催し、これにもとづき控訴人の組合長松岡與一において亀岡市市議会議員松岡忠治にたずねたところ、同市議会としては、被控訴人から旅費は自分が持つから訪中議員として認めてもらいたいとの申出があつたのでこれを認めただけであつて、強いて公共的なものではないということであつたし、別段同市議会議長から右開催日変更の申出もなかつたので、このことを理事各位に説明し、理事会において慎重検討の結果総会開催日を変更することはできないから旅行をとりやめて出席してほしい、なお右総会では被控訴人がその選任する代理人によつて弁明する機会を与えると決定したものである。したがつて、控訴人としては被控訴人に対し弁明の機会を与えているものである。

3  控訴人の定款上、書面による除名決議も有効である。

4  定款にもとづいて控訴人がした除名処分の効力を裁判所が判定することはできないと解すべきである。

第三  証拠<省略>

理由

一(一)控訴人が農業協同組合法にもとづいて設立された農業協同組合であり、被控訴人はその正組合員であつたが、昭和五一年二月二五日に開催された本件総会における本件除名の議決により除名され、その旨の通知を受けたこと、(二)本件除名議決の理由として挙げられたのは次の三個条、すなわち、(イ) 昭和五〇年八月二五日開催の控訴人の臨時総会において、議案として公害対策が提出されたが、当時曽我部町寺区の区長をしていた被控訴人その他の寺区の役員一同が書面でこれに反対する申入れをしたこと、(ロ) 臨時総会において公害対策委員会を発足させ、曽我部町の各部落に出張し、経過を説明することとなり、控訴人において当時被控訴人が区長をしていた寺区の公民館の使用を申込んだところ、被控訴人においてこれをいつたん承諾しておきながら、その後「控訴人の組合長松岡與一には貸せない、他の理事が来るなら貸す」という態度に出たこと、(ハ) 被控訴人が他の組合員に対し五〇万円を貸付け、その所有の田地に債権額三〇〇万円の抵当権を設定し、その際「私であるからこんなことですましたけれど、農協やつたらもつとひどいことをするぞ」と言つたこと、であつて被控訴人の右(イ)、(ロ)、(ハ)の行為が控訴人の定款一五条一項三号(この組合の事業を妨げる行為をしたとき)、四号(法令・法令に基づいてする行政庁の処分又はこの組合の定款若しくは規約に違反し、その他故意又は重大な過失によりこの組合の信用を失わせるような行為をしたとき)所定の除名事由にあたるというにあることは、いずれも当事者間に争いがない。

二そこで、控訴人が除名理由として挙げた事実が存するか、その事実が定款所定の除名理由に当るかについて案ずるに、<証拠>によれば、

本件除名の第一の理由とされる右一(二)(イ)記載の被控訴人の行為は、

(1)  昭和五〇年八月二五日に開催された控訴人の臨時総会において、曽我部町にある鉛再生工場の排出ガス、排水に関連して、議案として公害対策が提案され、公害対策委員会を設置されることになつたが、右総会に先立つて、当時被控訴人が区長を勤めていた曽我部町寺区において、公害という問題は農協だけで議論する事項ではなく、もつと大きな規模で対処すべきものであるとの意見が出てその結果寺区会において右提案に反対する旨の事前の決議がなされ、これが控訴人へ伝えられた。

ことを指すものであり、

本件除名の第二の理由とされる右一(二)(ロ)記載の被控訴人の行為は、

(2)  右(1)記載の臨時総会において、公害対策委員会を発足させ、曽我部町の各部落においてその経過説明をすることになり、昭和五〇年一二月頃控訴人から被控訴人に対し説明会の会場として寺区の公民館を使用したい旨の申込みがあり、被控訴人においてこれを承諾した。しかしながら、控訴人の組合長である松岡與一と亀岡市との間にかねてから曽我部町の簡易水道の所有権の帰属について争いがあり、右簡易水道の管理を亀岡市が控訴人に委託するということで右両者の間の紛争が落着きかけたときに、寺区住民が右解決方法に反対したことから、松岡與一が昭和四九年四月から五月にかけて、前後五回余りにわたつて市道を掘り起して水道管を切断するなど常軌を逸した方法で寺区への給水を阻止し、長期間寺区住民を苦しめたことがあつた。このため寺区住民の松岡與一個人に対する反発が強かつたので、寺区長である被控訴人において控訴人に対し、説明会を円滑に行うために、松岡與一が来ることは差し控えてもらいたい旨の申入れをした。

ことを指すものであり、

本件除名の第三の理由とされる右二(二)(ハ)記載の被控訴人の行為は、

(3)  昭和四九年頃、畑中衛に頼まれて被控訴人が控訴人の組合員でもある岩崎政男に対し五〇万円を無利息で貸与したが、一年程経過しても岩崎が右借金の返済をしなかつた。そこで、仲介の労をとつた畑中がその責任を感じて、岩崎と交渉し、被控訴人のために岩崎所有の田二筆に昭和五〇年一二月一五日付で債権額三〇〇万円、利息日歩三銭とする抵当権設定登記をさせた(もつとも、右被担保債権額が三〇〇万円となつたいることや、利息の記載のあることについては被控訴人は知らなかつた。)。その後昭和五一年一月六日頃になつて、被控訴人は、右貸金の返済を受け、右抵当権設定登記が抹消されたが、その際、岩崎に対し「農協だつたら利息をとらないわけにはいかない。私は個人だから利息をもらわないということができるのだ。」という趣旨の発言をした。

ことを指すものであることが認められ、右認定を左右する証拠はない。

そして、右認定の(1)ないし(3)の事実がいずれも控訴人の定款一五条一項三号、四号所定の事由に該当しないことは明らかなところであるから、本件除名の議決はその要件を欠き当然に無効な議決といわざるをえない。

したがつて、被控訴人は、被控訴人のその余の主張について判断を示すまでもなく、控訴人の正組合員たる地位を有すものというべきである。

なお、控訴人は、裁判所が組合のした除名決議の効力を判定することはできない旨主張するが、農業協同組合法による協同組合の総会において定款に定める除名事由が存しないのに除名決議をした場合には、右議決は当然に無効であると解すべく、このような場合除名された組合員は、同法九六条所定の行政庁に対する取消の手続を経ることなしに、その無効を前提として権利関係の確認を求めることができ、裁判所は当然に右の点について審理判断をなしうるものと解すべきである(最高裁昭和四四年(オ)第四一号同四六年一二月一七日第二小法廷判決・民集二五巻九号一五八八頁、最高裁昭和四七年(オ)第一七号同四七年三月三〇日第一小法廷判決・裁判集民事一〇五号四一九頁参照)から、控訴人の右主張は採用することができない。

三次に、被控訴人の損害賠償請求について案ずるに、<証拠>によれば、次のとおりの事実が認められる。

(1)  控訴人組合の理事でその組合長の松岡與一は、松岡の組合運営に批判的な被控訴人を控訴人組合から除名すべきものと考え、理事会にはかつたうえ、被控訴人を除名することを議案とする組合総会を昭和五一年一月三一日に開く旨の同月一八日付通知書を被控訴人に発し、同月三一日その総会が開かれたが、当日松岡批判派と目される斎藤力が議長として選出されたことなどから、松岡は組合員の数等を問題とし右議長の選出は無効であると主張して一方的に流会を宣言したので、総会は事実上中止された。

(2) 被控訴人は農業を営むとともに亀岡市会議員をしているものであるところ、昭和五一年二月一三日から同月二六日まで亀岡市議会を代表して京都府民友好訪中代表団として中国を訪問する予定になつていたが、松岡はこれを知りながら理事会にはかつて本件除名を審議する本件総会の会日を同月二五日とし、本件除名についての提案理由を前記一(二)の(イ)、(ロ)、(ハ)とすることなどを決定し、これを組合員に通知するとともに被控訴人には同月一二日付の書面で通知した。そこで、被控訴人は、控訴人に右の中国訪問による不在を理由として右会日の変更方を申入れたが、松岡ら組合理事はこれを容れず、むしろ被控訴人に旅行をやめるように申入れ、なお、右総会では被控訴人が代理人によつて弁明する機会を与えると回答した。

(3)  ところで、控訴人組合では、定款により書面により議決権を行使することができる旨、書面により議決権を行使する場合はあらかじめ通知のあつた事項につき書面にそれぞれ賛否を記入し総会の会日までに組合に提出する旨定められているところから、松岡ら組合理事は、そのための書類を組合員の一部に配布してこれを回収したうえ本件総会に臨んだ。

(4)  昭和五一年二月二五日本件総会が開かれたが、被控訴人は、前記予定のとおり、中国を訪問していたので、欠席した。当日議長として前記斎藤力が選出され、組合長松岡名義で提出されていた一ないし九号議案を審議したのち一〇号議案である本件審議に入つた。まず被控訴人の代理人としてその妻三好佐代子が弁明書を読み上げたところ、松岡から、本件は書面による議決権の行使ですでに法定数に達しているからただちに議決に入ることを求める、なお附帯決議を提案するとの申出があり、これに対し、出席者の一部から本人の弁明も聞かない先に作成された書面による議決で除名を決することは不当であつて反対である等の意見が出され長時間にわたつて意見が交わされたが、松岡は終始書面による議決権の行使ですでに法定数に達しているから議決を求めるという態度を変えなかつたので、議長の斎藤は議事の運営に困惑し、議長を辞任して退場した。そこで、松岡が司会役を買つて出、自ら議長に就任する旨を宣して議事をすすめ、投票を行つた。開票の結果は投票総数二九七名(うち書面による議決権の行使二九五名)のうち無効一四名、反対六名、賛成二七七名であつた。控訴人組合の正組合員は四二六名であり、したがつて、本件除名の議決は、正組合員の半数以上の出席のもとにおける三分の二以上の賛成という控訴人組合の除名要件を充足するもので、あつたので、松岡は除名議決は有効に成立したと宣言し、総会の議事を終えた。

以上の事実が認められる。右の事実によると、控訴人の理事である松岡が中心となつて、理事会において被控訴人を除名することの議案を総会に提出することおよび提案理由を前記一(二)の(イ)、(ロ)、(ハ)とすることなどを決定し、組合長松岡名義で総会にこれを提出したものであり、総会日程の決定、当日の運営等も松岡ら理事が中心となつて行つたものであることが明らかであり、これらの松岡らの行為が理事の職務として行われたものであることも明らかなところである。

ところで、松岡ら理事は、実際の事実関係が前認定のとおりであるのにこれを右(イ)、(ロ)、(ハ)の提案理由として構成し、組合長である松岡において本件総会にその提出をしたものであるが、前認定の事実関係に照らせば松岡らにおいてわずかの調査をすれば容易に事の真相を把握できたと考えられるのであつて、このようなところからすると、松岡ら理事はその方針どおり被控訴人を除名することに急で、殊更に事実を歪曲したか、少なくとも過失により事実関係の把握を誤り、右(イ)、(ロ)、(ハ)の提案理由として構成し、松岡においてこれを本件総会に提出したものと認められる。ところで、書面によつて議決権を行使した組合員の大多数が除名に賛成しており、これが本件除名の議決が成立した最大の理由であるが、右の組合員らが右のように書面によつて除名に賛成する旨の議決権を行使したのは、もとより組合長である松岡によつて提案されたところが真実であり、それが定款所定の除名事由にあたることを当然の前提としていたものであることはいうまでもなく、右の組合員らがそれぞれの立場で事の真偽を確めることの困難を考えれば、本件除名の議決は、松岡らが組合を代表する立場で誤つた事実にもとづいて本件総会に本件除名を提案し、これら組合員の多数を誤導した結果成立したものということができ、このようにして本件除名の議決を成立させた松岡らの責任は決して軽いものとはいえないのである。

そして、除名事由がないのに除名された被控訴人が地域社会等においてその名誉を傷つけられ、精神的苦痛をこおむつたであろうことは前記認定の事実に照らし容易に認められるところであり、ひつきようこれは、控訴人の理事である松岡らが故意または過失によりその職務を行うにつき第三者に損害を加えた場合ということができるから、被控訴人のその余の主張について判断をするまでもなく、控訴人は民法四条一項にもとづき被控訴人の受けた損害を賠償する義務があるといわなければならない。そこで、その額について検討するに、前認定の事実をかれこれ勘案し、また、本件除名の議決が無効であることを前提として被控訴人が控訴人の正組合員であることが本判決により宣言されこれにより被控訴人の名誉の回復が期しえられることをも考え合わせると、控訴人の支払うべき賠償額としては三〇万円をもつて相当とすべきである。

四控訴人は、原審裁判官は控訴人のした忌避申立を自ら即時却下して訴訟手続を進行したから、右訴訟手続は違法であつて、原判決は無効であると主張するので、案ずるに、記録によれば、原審第四回口頭弁論期日(昭和五一年一二月一五日)において控訴人代表者松岡與一が原審裁判官忌避の申立をしたが、同裁判官は、右忌避の申立は権利濫用にわたり訴訟を遅延させる目的に出るものと認めて、その場でこれを却下する旨の決定をし、訴訟手続を停止しなかつたこと、右却下決定に対し控訴人から不服の申立はなかつたことが認められる。

思うに、民訴法には刑訴法二四条二項のような明文の規定はないが、訴訟を遅延させる目的のみでされたことの明らかな忌避申立は忌避権の濫用として、右申立を受けた裁判官自ら却下の決定をしたうえ訴訟手続を停止しないで口頭弁論を命じることができるものと解するのが相当であり、忌避申立者は右却下決定について高等裁判所に対し即時抗告の申立をすることができるものと解すべきである。そうだとすると原審のした忌避申立却下決定等の措置は法の許容しないところではなく、右に認定したところによると、控訴人は右忌避申立却下決定に対しなんら不服の申立をしていないから、右の裁判は確定しているのであつて、原審がこれを前提として爾後の訴訟手続を進行し原判決を言渡したことになんら訴訟手続の違法はないというべきである。控訴人の主張は、採用することができない。

五そうすると、被控訴人が控訴人の正組合員であることの確認を求める被控訴人の請求は理由があるから、原判決中この請求を認容したところは相当で、本件控訴は理由がなく、棄却を免れない。また、被控訴人の金員支払請求は、三〇万円およびこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかである昭和五一年五月二八日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、原判決中この請求部分を棄却したところは失当で、附帯控訴にもとづき原判決主文第二項を変更すべきである。よつて、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(朝田孝 富田善哉 川口冨男)

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