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大阪高等裁判所 昭和52年(ネ)210号 判決 1979年4月20日

控訴人

戸梶勝

右訴訟代理人

滝俊雄

被控訴人

神戸鉄工中小企業協同組合

右代表者

芝野栄治

右訴訟代理人

後藤秀夫

主文

原判決主文第一項中元本四、五八〇、七二一円を超える部分およびこれに対して付帯の金員の支払を命じた部分を取消す。

被控訴人の右部分の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一<証拠>を綜合すると、被控訴人は中小企業協同組合法により設立された組合で、組合員数は五七名、理事一〇名、理事のうち一名が代表役員たる理事長であつて、理事長のみが有給であり、控訴人は昭和四六年九月一五日から同五〇年九月一二日まで理事長の地位にあつたことが認められる。そして<証拠>によると、昭和四九年五月開催の被控訴人の第八回総会で、昭和四九年度(昭和四九年四月ないし同五〇年三月)における理事長の報酬限度額を二〇〇万円以内と定め、また理事長報酬の予算額を一八〇万円と定めたこと、昭和五〇年五月開催の第九回総会で、昭和五〇年度(昭和五〇年四月ないし同五一年三月)における理事長の報酬限度額を二五〇万円以内、その予算額を二三〇万円と定めたことが認められる。ところが<証拠>によると、控訴人は昭和四九年四月から同五〇年八月までに被控訴人から給与(給料手当と賞与)として別紙控訴人給与表のとおり(なお同表には、参考までに昭和四九年一月以降の給与を記載してある)昭和四九年度中に四、六三六、八〇〇円、昭和五〇年四月から八月までに二、四四三、七〇〇円の支給を受けていることが認められ、右控訴人の受領した金額は上記報酬限度額、予算額のいずれをも超過していることが明らかである。(因に昭和五〇年度の上記報酬限度額及び予算額を、昭和五〇年四月ないし八月の五カ月分に按分すると、それぞれ一、〇四一、六六六円及び九五八、三三三円となる。)

ところで中小企業協同組合法においては、業務執行は理事会が決するものと定められ(同法三六条の二)、理事長の報酬についても定款又は総会決議をもつて定めることを要求する規定はなく、また被控訴人の定款においても理事長の報酬につき特に何らかの定めがなされていることの立証がないから、被控訴人組合では、理事長の報酬は理事会において定めれば足りるものというべきであるが、被控訴人組合においては、前記のとおりその総会決議で理事長の報酬限度額を定めたのであるから、かように一たん総会決議で理事長の報酬限度額を定めた以上、理事会はその限度額を超えて理事長に報酬を支給することができず、かつその場合支給の名目が理事長報酬としてであれ、或いは雇人給料としてであれ結論を異にしないと解するのが相当であり、そのことはまた控訴人が主張するように当時控訴人が代表理事としての固有の職務のほかに雇人の職務を兼務していたとしても同様である。けだし総会は、理事長の職にある一個の人間の組合に対する全貢献を評価したうえ、その報酬限度額か定めたものと解するのが相当であるからである。そして他にこれに反する証拠はない。もつとも理事会においてその後総会が定めた報酬限度額を超える給与を理事長に与える旨議決し、その決議が執行された場合でも、後日総会がその趣旨の決議案を可決する等して事後承認したときは、報酬限度額超過の給与も適法になるものと解すべきであるが、本件の場合総会がかかる事後承認したとの事実も認め難い。即ち、<証拠>によると、控訴人は昭和四九、五〇年度において、理事長報酬の予算を給料手当の予算に組み替えたうえ、組み替えによつて増額された給料手当の予算(一般職員数名の給料手当分を含む)の中から前示給与の支給を受けたこと及びこのような措置をとることにつき或る程度理事会に計つていたことが窺えるものの、控訴人が実際に受取る給与の額についてはこれを明確にした上で理事会に計つたかどうかは明らかでなく、<証拠>のうち、これを明確に理事会に計つたかの如き部分は、<証拠>に照らして信用できず、<証拠>も、昭和四九、五〇年度における右理事会審議の存在の立証とはならない。また前掲<証拠>によると、前記第九回総会に提出された昭和四九年度の決算書には、役員報酬手当(理事長報酬)欄に予算一八〇万円、決算〇、残一八〇万円との記載があり、給料手当欄に予算七五〇万円、決算八、四九〇、五〇二円、残マイナス九九〇、五〇二円との記載があるのみで、右の記載からは、理事長報酬の予算を給料手当の予算に組み替え、その結果後者の額が九三〇万円になつたこと及びうち四、六三六、八〇〇円を控訴人において支給を受けたことについては、これを知る由ないことが認められるのである。当審証人松本節子の証言のうち、控訴人が総会においてこの点につき口頭で明確に説明したとするかの如き部分は、<証拠>に照らして措信できない。そして<証拠>によると、昭和四九年度の右決算書は第九回総会で可決されたことが窺えるけれども、右のような決算書が可決されたからといつて、報酬限度額超過の理事長給与が事後承認されたことにはならない。もつとも甲第二号証第八期確定決算報告書中には付属書類として「役員報酬手当等及び人件費の内訳書」があり、これには控訴人の給与として四、六三六、八〇〇円なる記載があることが認められるが、同時に原審証人時岡三郎の証言によれば右報告書は税務申告用のものであることが認められ、総会には提出されていないことが窺えるから、同号証の存在をもつて前認定の反証とすることはできない。乙第五号証の四もまた総会に提出された文書とは認められないから前認定の反証とはならない。また昭和五〇年度中における控訴人の給与のうち、理事長報酬限度額超過部分については、<証拠>によると、被控訴人はその第一〇回総会(昭和五一年五月一六日開催)においてその支出を否認していることが認められる。そして他に控訴人が雇人の職務を兼務している故をもつて限度額を超える給与の支払を受けたことにつき総会の承認があつたとの事実を認めるに足る証拠はない。してみると昭和四九、五〇年度における控訴人に対する給与のうち理事長報酬限度額超過部分二、六三六、八〇〇円(四、六三六、八〇〇円と二〇〇万円の差)及び一、四〇二、〇三四円(二、四四三、七〇〇円と一、四〇二、〇三四円の差)は違法な支出といわざるを得ない。

してみると控訴人が支給を受けた右二、六三六、八〇〇円及び一、四〇二、〇三四円の給与は、被控訴人との関係で少くとも不当利得になるものといわざるを得ない。<以下、省略>

(谷野英俊 乾達彦 西田美昭)

別紙控訴人給与表<省略>

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