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大阪高等裁判所 昭和52年(ネ)561号 判決 1978年4月20日

控訴人

井本初蔵

右訴訟代理人弁護士

稲村五男

被控訴人

宮甚組こと 宮田耕吉

右訴訟代理人弁護士

高木清

被控訴人

株式会社増田組

右代表者代表取締役

大藪政次郎

右訴訟代理人弁護士

表権七

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人らは各自控訴人に対し、金六五五万七二九一円および内金五九五万七二九一円に対する昭和四七年六月三〇日から、内金六〇万円に対する本裁判確定の日からそれぞれその支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人らの各負担とする。

三  この判決第一項の1は仮にこれを執行することができる。

事実

一  控訴代理人は、請求を拡張したうえ、「原判決を次のとおり変更する。被控訴人らは各自控訴人に対し、金一、二九九万〇、一五二円および内金一、一五九万〇、一五二円に対する昭和四七年六月三〇日から、内金一四〇万円に対する本判決言渡の日の翌日からそれぞれその支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人宮田耕吉代理人、同株式会社増田組代理人はいずれも「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決、請求拡張部分につき棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張および証拠関係は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおり(ただし、原判決六枚目表二行目および同七枚目表一行目の「2」の次にいずれも「の事実、3の中亡美義が作業中墜落し、四〇分後に死亡したこと」と挿入し、同九枚目表四行目に「乙号各証、検乙一ないし七号証の成立」とあるのを「乙一ないし三号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立を認め、検乙一ないし七号証が事故現場の写真であること」と訂正し、同一〇行目の「本間俊男」の次に「、清水忠郎」と挿入し、同裏一行目に「清水忠郎」とあるのを削除する。)であるから、ここにこれを引用する。

1  控訴人の主張

(一)  被控訴人らの責任について

(1) 木村ビル建設工事の足場の解体作業現場は、元請の被控訴会社の支配下にあり、現場の指揮監督は被控訴会社従業員本間俊男がすべて行ない、下請の被控訴人宮甚組こと宮田耕吉は作業主任者を選任していなかった。本件墜落事故はかかる状況下で命綱を使用しなかった結果として発生したものである。この場合命綱不使用の点をとらえて刑事判決と同様に右本間、さらには被控訴会社の責任を問うのはきわめて当然である。しかるに原判決は被控訴会社が命綱を事務所に備えていても当時亡井本美義にその使用を勧めたことのない、その不作為をもって同人の直接の雇主でない被控訴会社または右本間に不法行為を構成する程の違法性ありと解することは相当でなく、かかることの作為義務は直接の雇主である被控訴人宮田とは差があってもやむを得ないものと解する旨判示しているが、これはあまりにも古典的な雇用契約の概念にとらわれ、安全保護義務のとらえ方が狭すぎ、現実の支配従属関係に着目して安全保護義務の主体を考えているとすれば承服できない。

(2) 次に、原判決は、高圧線の防護管の設置についての欠陥に関し、労働安全衛生規則一〇九条の二の六号の近接とは電路と足場の距離が上下左右いずれの方向においても三〇〇ボルト以上七、〇〇〇ボルト未満の場合は一・二メートルあれば足るように行政指導しているようであり、四メートルもあるパイプが倒れて接触することは通常予想されず、かつ、被控訴会社は専門家の関西電力に防護管の設置を依頼しこれを設置しているのであるから、この点で被控訴人らに過失があったとは認めがたい旨判示しているが、前後左右が一・二メートルでよいとするのは足場と電線との設備上のことであって、本件のように足場上で労働者が作業するときにまで一・二メートルでよいという趣旨ではない(昭和三四年二月一八日基発一〇一)。本件のような場合は改正前の労働安全衛生規則一二四条の問題であって、この場合は具体的距離の行政指導はない。

(3) しかも、本件の場合、被控訴会社は関西電力に依頼し高圧線に被覆したものの、その後の点検は本件事故直後までなされていない。この間に防護管が移動してしまっていたのである。右本間が防護管の設置状況に注意を払い、これを点検していれば、その移動を発見し得た筈であり、本件事故の発生を未然に防止できた筈であり、被控訴人らに過失があることは明らかである。また、被控訴人らは建設業労働災害防止規程(昭和四一年六月三日建設業労働災害防止協会)七〇条二項、七二条に違反していたことも明らかである。

(二)  過失相殺について

本件墜落事故は命綱を労働者に使用させていれば防止することができ、美義は死亡せずにすんだものである。同人が一人で勝手に仕事をはじめ仕事中によろけるようなことがあったとしても、命綱さえ使用されていれば墜落することはなかった。本件事故の原因はあげて命綱が使われていないところにあり、労働安全衛生規則は労働者が命綱を使用しないまま高所で作業し、その結果労災事故が多く発生した等の理由から使用者に命綱の使用、使用状況の点検等を義務付けたものである。本件事故の原因が、使用者が右規則に違反して労働者にこの命綱を使用させなかったところにあるとすれば、仮に被害者である美義に原判決指摘のような行為があったとしても、この美義の行為をとらえて被害者の過失割合を六割とすることはとうてい承服できない。かくては使用者責任を免除するとのそしりをまぬがれず、労災予防の観点からみても納得できない。いわんや美義は休憩時間が終り皆と一緒に仕事についたものであって、原判決指摘のような行為はなかったのであるから、なおさらである。また、鉄パイプの取りはずし作業は実際には一人で行なわれており、そのことが何ら不思議なこととは考えられていなかったのであり、二人で共同して行なうよう指導されていたものではない。

(三)  損害額および請求の拡張について原判決は逸失利益の算定方式につきライプニッツ方式を採用しているが、幼児や年少者の交通事故死による損害賠償であればともかく、壮年労働者の労災事故による損害賠償にまでライプニッツ方式を採用することは納得できない。

控訴人は、原審において、逸失利益について、五五歳まで稼働できるとの前提で請求したが、稼働可能期間を六七歳までとして請求を拡張する。美義の収入月額を従前の主張のとおり金七万六、〇〇〇円とし、生活費を半額控除し、六七歳までの三五年間稼働できるとして、ホフマン方式により計算しなおすと、逸失利益は金九〇八万二、一五二円となる。

76,000円×1/2×12か月×19.917=9,082,152円

右金額に慰藉料金五〇〇万円を加算し、その合計額金一四〇八万二、一五二円から遺族補償一時金二四九万二、〇〇〇円を差引くと、金一一五九万〇、一五二円となり、これに弁護士費用金一四〇万円を加算すると、請求金額は金一二九九万〇、一五二円となる。

右逸失利益の請求がきわめて控え目なものであることは賃金センサス(甲第七号証)の数字を一見しただけでも明らかであり、逆にいえば少くとも右程度の収入があることが確実視される。

被控訴会社主張の後記3の(三)については争う。美義は控訴人に不定期ではあるが送金していたものである。

2  被控訴人宮田の主張

(一)  被控訴人宮田は本件墜落事故当時作業員の中で一番年長者である訴外八木準三を作業主任者として選任していたものである。被控訴人宮田としては作業現場に命綱を置いてはいなかったが、被控訴会社において用意していたのである。被控訴人宮田は被控訴会社から土工事と足場の解体作業を下請していた関係にあるが、高圧線の防護管の設置のこと、現場監督者を置くこと、命綱を置くこと等については、両者間の話合いで主として被控訴会社において担当することになっていた。そして被控訴会社は専門家である関西電力に頼んで高圧線に防護管を設置してもらい、本間を現場監督者として置き、さらに作業現場に命綱を置いて労働者にこれをいつでも使えるようにしていたのであるから、被控訴人らとしては美義の作業につき安全確保の義務を尽くしていたものというべきである。

(二)  作業主任者や現場監督者がいても労働者に安全面の注意を与えなければ何もならないが、かかる注意は現場で与えていなくとも雇主において朝労働者が現場へ向うときに与えれば足りるものである。本件においては、作業主任者がおり、現場監督者がおり、さらに被控訴人宮田は朝、美義が現場へ向うときに安全確保について十二分の注意を与えており、かつ、それだけの設備をしていたのであるから、この点で過失というものはなく、あとは美義自身において、一〇年に及ぶベテランのとび職人としての注意と責任において作業してもらうよりほかはなく、命綱についても、美義としてはいつでも使用できたはずであるのにそれを使用しなかったのであるから、同人の過失とみるべきである。宮田芳彦が命綱の使用の点について罰金に処せられてはいるが、これはきわめて不当な処罰である。

(三)  控訴人の前記損害額および請求の拡張についての主張はすべて争う。

3  被控訴会社の主張

(一)  足場の鉄パイプの取はずし作業はパイプの上方を持つ者と下端の緊結金具を取はずす者と二人が一組になってやるのが常識であるのに、美義はあえてこの作業を一人でやったものである。本件事故は美義のかかる暴挙の結果生じたものである。美義は感電が原因で墜落したものではなく、鉄パイプを支えきれなくなって身体の平衡を失い墜落状態に入ってから、高圧電線と足場踏板との間にパイプを通して電流が流れたにすぎない。原判決が美義の感電と墜落との間に因果関係があるものと判断したのは事実の誤認である。美義の身体に電気の射入口も射出口もないのに同人の身体に電流が伝わったということはなく、足場の鉄板に感電らしい跡があったとしても、それは美義の身体がパイプの重みに耐えられずに傾き、空中に泳ぎかけたのでパイプを手からはなしたところ、パイプの上端の方が高圧線に、下端の方が足場鉄板に感電したもので、空中に泳ぎかけたこと、すなわち墜落しかけたことが先であって、パイプが高圧電線および足場鉄板に接触したことが後である。美義の身体に感電があれば、高圧線であるから墜落しなくても同人は死んでいるはずである。同人の身体に射入口も射出口もなかったことは、このように解すれば矛盾なく説明することができる。本件事故は一〇〇パーセント美義の過失によって生じたもので被控訴会社には何らの責任もない。

(二)  被控訴人宮田は作業主任として八木準三を選任していたものである。仮に作業主任を定めていなかったとしても、作業主任の存否と事故発生との間に因果関係はない。けだし、美義自身が五、六年の熟練工であって、作業主任としてもよい経験工であり、自らでも十分注意すべき点に気付かぬ人ではなく、作業主任が現場にいないときは、いつでも主任を代行できる位の人であったからである。また、高圧電線の絶縁被覆が風のために少々動いたのか、最東端の方で最寄りの電柱との間がいくらか間隔ができて裸電線が出ていたとしても、それに気付くのは裸電線近くで作業する美義自身でなくてはならないから、同人はその経験年数からみてその危険を作業主任または雇主に告知する義務がある。しかるに同人は高圧電線の裸部分の斜北方において作業するに当り危険があったのに、これを作業主任または雇主に申出なかったのであるから、これも同人の過失というべきである。

(三)  控訴人の前記損害額および請求の拡張についての主張事実中、賃金センサスによる平均給与については認めるが、その余の事実は否認する。美義は長年その収入の全部を自ら使い果たし、親である控訴人に送金せず、貯金もしていなかったから、生活費控除は収入の二分の一では足りない。美義がその存命中不定期ではあるが控訴人に送金していたことは争う。仮に送金していたとしても、それはお年玉程度と推測され、美義の年収に比較して殆んど影響のない金額である。

4  証拠関係(略)

理由

一  当裁判所は、控訴人の本訴請求は主文第一項1記載の限度で理由があるから正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却すべきものと判断するものであって、その理由は次に付加、訂正するほか、原判決理由(原判決九枚目裏三行目から同一九枚目裏二行目まで)中に説示するとおりであるから、右理由記載をここに引用する。

1  原判決九枚目裏一二行目の「証言」の次に「(いずれも後記認定に反する部分を除く。)」と挿入し、同一〇枚目表五行目に「労基法」とあるのを「労働基準法」と、同一二枚目裏八行目に「網」とあるのを「金網」と訂正し、同一三枚目裏五行目の「していない」の次に「露出充電」と、同一四枚目表一行目の末尾に「前記各証言中叙上認定に反する部分は前掲各証拠に照らしたやすく措信できない。」とそれぞれ挿入する。

2  同二行目の次に、行を改めて、

「(1) 被控訴人(被告)増田組が本件足場の解体工事を被控訴人(被告)宮甚組こと宮田耕吉に請負わせ、同被控訴人の現場責任者である宮田芳彦が鳶職人の亡美義らを現場に出し右解体作業に従事させていたこと、すなわち、右解体工事について被控訴人増田組と被控訴人宮田が元請と下請の関係にあったことは前記のとおりである。ところで労働基準法上、使用者とは事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為するすべての者をいう(同法一〇条)と定義され、被控訴人宮田が本件解体工事の事業主であることは明らかである。しかしながら、事業主は使用者として同法所定の諸々の義務を負うものとされているところ、労働者保護の同法の立法の趣旨に鑑みれば、元請負人が下請負人に対し、工事上の指図をし、もしくはその監督のもとに工事を施行させ、その関係が使用者と被用者との関係またはこれと同視しうる関係、すなわち使用従属関係が存在すると認められるとき、下請負人がさらに第三者を使用している場合には右第三者に対し直接または間接に元請負人の指揮監督関係が及んでいると認められるときは、民法七一五条の適用上元請負人を当該工事について右第三者の使用者と同視するのが相当である(最高裁判所昭和三七年一二月一四日第二小法廷判決、同昭和四一年七月二一日第一小法廷判決、同昭和四五年二月一二日第一小法廷判決参照)。右の見地に立って本件についてみるに、本件解体工事の元請負人の地位にある被控訴人増田組は、その社員である本間俊男を現場の作業主任者として選任し、同人を現場の木村ビル建設工事事務所に詰めさせて、被控訴人宮田、宮田芳彦、美義らに対し鉄製パイプの取はずしについて二人一組になって作業せよといい、右事務所に準備した命綱を必要に応じて取りに来いというなど、現場で安全のための指示指導を行っていたばかりでなく、自ら危険防止のため、足場には全部金網を張り、関西電力に対し高圧線に防護管取付を依頼してこれを装着するなどしていたことは前記のとおりであって、工事全般にわたってその工程を管理し工事の進捗状況を毎日把握し、必要に応じて下請負人である被控訴人宮田の被用者であって現場責任者である宮田芳彦、その作業員美義らに対し安全に関する指示を与え、相当程度工事に介入してこれを統括しているのであるから、被控訴人増田組は右宮田芳彦・美義らに対し直接間接に指揮監督をしていたものというべきであって、それらの使用者と同視しうる関係、すなわち被控訴人増田組と宮田芳彦・美義とは使用従属関係にあったものと認めるのが相当である。要するに被控訴人増田組は労働基準法上、災害補償に関してそれらの使用者であるのみでなく(同法八七条、八条三号、同法施行規則四八条の二)、民法七一五条の適用に関しても本件解体工事につき宮田芳彦の使用者と同視しうるものに該当するというべきである。」

と挿入し、同四行目に「(1)」とあるのを「(2)」と訂正し、同五行目から六行目の「守るため」の次に「昭和四七年法律第五七号(昭和四七年一〇月一日施行)による改正前の」と、同六行目の「労働基準法」の次に「(以下「法」という。)、昭和四七年労働省令第三二号による廃止前の労働安全衛生規則(以下「規則」という。)」とそれぞれ挿入し、同七行目に「労働基準法、労働安全衛生規則」とあるのを「法、規則」と訂正し、同一〇行目の「当時」から同一一行目の「安全」までを削除し、同一一行目の「規則」の次に「一〇条によると、高さ五メートル以上の構造の足場の解体については、使用者は危害防止の事項を担当させるため、作業主任者を選任しなければならない(しかも規則四五条によると、使用者は、法四九条二項の規定により、技能を選考した上指名した者でなければ、作業主任者の業務に就かせてはならない)ものとされ、規則」と、同末行の「行う」の次に「場合」とそれぞれ挿入し、同裏四行目に「又同」とあるのを「、また、」と、同五行目に「足場の解体」とあるのを「構造の足場の解体の」とそれぞれ訂正し、同九行目の「本件の」から同末行の「講ずべきこと」までを削除し、この部分に、

「さらに規則一一一条二項によると、使用者は、高さが二メートル以上の作業床の端、開口部等で墜落により労働者が危害を受けるおそれがある箇所には、囲い、手すり、覆い等(以下「囲い等」という。)を設けなければならず、囲い等を設けることが著しく困難な場合又は作業の必要上囲い等を取りはずす場合でも、防網を張り、労働者に命綱を使用させる等墜落による労働者の危害を防止するための措置を講ずることが義務づけられており、規則一一一条の二によると、使用者は高さが二メートル以上の箇所で作業を行なう場合において労働者に命綱を使用させるときは、命綱を安全に取り付けるための設備を設けなければならず、命綱及びその取付け設備等の異常の有無について定期及び臨時に点検しなければならない」

と挿入し、同一五枚目表一行目から同二行目の「定めて」までを「規則一〇条に違反して足場の解体の作業主任者を選任しておらず、したがって、本件事故当時作業主任者の直接指揮のもとに解体作業を行なわせて」と訂正し、同三行目の「のみならず」の次に「規則一〇八条の四に違反し、美義ら労働者に命綱を使用させる等労働者の墜落による危害を防止するための措置を講じていないのであるから、責に帰すべき事由により労働契約に内在する使用者の安全保護義務(労働者が労務に服する過程においてその生命や健康をそこなうことがないよう環境を整備しこれにつき配慮する義務)に違反しているものというべく、債務不履行による損害賠償責任を免れない。もっとも」と挿入し、同四行目に「に使用すること」とあるのを「の場合に」と、同六行目に「に難くないが前記」とあるのを「できないではないが、」とそれぞれ訂正し、同七行目の「行う」の次に「場合」と、「使用させ」の次に「、規則一一一条二項が高さ二メートル以上の作業床の端、開口部等の箇所に設けられた囲い等を取りはずす場合にも防網を張り、労働者に命綱を使用させ」とそれぞれ挿入し、同七行目から八行目に「ことと定めていることは」とあるのを「など墜落による労働者の危害を防止するための措置を講ずることを義務づけているゆえんのものは」と、同九行目から一〇行目に「を意味しているに拘らず」とあるのを「を実証されたからにほかならず、」とそれぞれ訂正し、同一〇行目の「被告」から同裏六行目までを削除し、この部分に「労働者の安全保護のためには単に命綱を準備し、これをいつでも使用できる状態におくだけでは足りないものというべきである。」と挿入する。

3  同裏七行目に「(2)」とあるのを「(3)」と、同一一行目に「ならないが」とあるのを「ならない。」とそれぞれ訂正し、これにつづけて「ところで規則一二七条の八によると、使用者は、架空電線の充電電路に近接する場所において工作物の解体等の作業を行なう場合であって、当該作業に従事する労働者が作業中当該充電電路に身体等が接触(導電体を介する接触を含む。このことは規則一二四条により明らかである。)し、又は近接することにより感電の危害を生ずるおそれがあるときは、(1)当該充電電路を移設すること、(2)感電の危害を防止するための囲いを設けること、(3)当該充電電路に絶縁用防護具を装着すること、(4)以上の措置を講ずることが著しく困難な場合には看視人を置き作業を監視させること、のいずれかに該当する措置を講じなければならないとされ、また、規則一二七条の一一によると、使用者は絶縁用防護具についてその損傷の有無等を点検し異常を認めたときは直ちに補修し、又は取り換えなければならないとされているところ、被控訴人(被告)増田組において前認定のとおり専門家の関西電力に防護管の設置を依頼し防護管を装着しているとはいえ、被控訴人らはその後防護管の損傷の有無等(防護管の施していない露出充電部分があることは右規則にいう損傷とみるのが相当である。)について点検していないのであるから、この点で被控訴人らに過失があったものと認められる。」と挿入し、同一一行目に「前記」とあるのを「もっとも」と訂正し、同末行の「六号」の次に「によると、架空電路に近接して鋼管足場を設ける場合には、架空電路との接触を防止するための措置を講ずべきこととされており、右」と挿入し、同一六枚目表二行目に「指導しているようであり(労働安全衛生解釈総覧上巻参照)、」とあるのを「指導している(昭和三四年二月一八日基発一〇一号、労働省労働基準局長通牒参照)が、右六号は、足場と電路とが接触して、足場に電流が通ずることを防止することとしたものであって、足場上で作業中の労働者が架空電路に接触することによる感電防止措置については、右一二七条の八の規定によるべきであり、この場合には具体的距離の行政指導はないから、右一〇九条の二の六号を根拠として防護管の装着に欠陥がなく、被控訴人らに過失がなかったとはいえない。」と挿入し、同二行目の「四米」から同六行目までを削除する。

4  同七行目に「(3)」とあるのを「(4)」と訂正し、同九行目および一一行目に「網」とあるのをいずれも「金網」と訂正し、同裏一行目の末尾に「しかしながら被控訴人らは右金網を取はずす場合でも防網を張り、労働者に命綱を使用させるなど墜落による労働者の危害を防止するための措置を講ずべきことが義務づけられているのであるから、かかる措置を講じていなかった点において過失があったものといわなければならない。」と挿入する。

5  同裏二行目に「(4)」とあるのを「(5)」と、「現場」とあるのを「解体」と、同三行目に「明確に定めず」とあるのを「選任しておらず、」と、「の使用を命じ」とあるのを「を使用させるなど危害を防止するための措置を講じ」と、同四行目に「ことは」とあるのを「のであるから、本件事故は」と、「事由があって」とあるのを「事由により」とそれぞれ訂正し、同四行目から五行目に「本件事故が」とあるのを削除する。

6  同八行目から同一七枚目表三行目の「構成するが」までを削除し、この部分に「(6) 控訴人(原告)は、被控訴人増田組に対し、一方においては債務不履行、他方においては民法七〇九条による不法行為、さらには民法七一五条による被用者の過失によって本件事故が惹起したものとする不法行為の使用者責任に基づいて損害賠償請求をするものであるが、右請求併合の態様は弁論の全趣旨に照らし選択的併合とみるのが相当であるから、まず、不法行為の要件を具備するか否かについて考察するに、被控訴人増田組は本件解体工事について元請負人の地位にあるが被控訴人宮田さらには宮田芳彦の使用者と同視しうる関係、すなわち使用従属関係にあり、法にいわゆる使用者に該当することは前記認定のとおりであるから、その被用者と同視しうる、下請業者たる被控訴人宮田の従業員宮田芳彦において過失があり、その結果本件事故を惹起したものであればその不法行為に基づく使用者責任を被控訴人増田組が負うべきものと解すべきところ、被控訴人」と挿入し、同六行目に「網」とあるのを「金網」と、同七行目に「実施し」とあるのを「一応は実施しているとはいえ、」とそれぞれ訂正し、同七行目の「特に」から同裏五行目までを削除し、この部分に次のとおり挿入する。

「前認定のとおり、被控訴人宮田の従業者たる宮田芳彦は美義に対し積極的に命綱を使用させるなど危害を防止するための措置を講じていなかったのみならず、被控訴人増田組自身において防護管の装着状態について点検せず、高圧線の防護管の施していない露出充電部分をそのまま放置したのであって、前記のように現場において作業員を指導していた宮田芳彦には少くとも過失があったものというべく、その結果本件事故を惹起したものであるから、被控訴人増田組は民法七一五条により宮田芳彦の使用者と同視されるものとして、不法行為による損害賠償責任(使用者責任)を免れない。」

7  同裏六行目に「(6)」とあるのを「(7)」と訂正し、同一〇行目の「美義は」の次に「被控訴人らから命綱の使用を積極的に命じられなかったとはいえ、協調性に乏しく、」と挿入し、同一八枚目表二行目に「高圧線上」とあるのを「高圧線の露出充電部分」と、同三行目に「の過失は大きい」とあるのを「にも少なからず過失があるもの」と、同末行に「六〇%」とあるのを「四〇%」と、「被告宮田」とあるのを「被控訴人ら」と、「四〇%」とあるのを「六〇%」と、同裏一行目に「被告宮田」とあるのを「被控訴人ら」とそれぞれ訂正する。

8  同四行目に「六一五万〇七五六円」とあるのを「九〇八万二、一五二円」と、同七行目に「争いがない」とあるのを「争いがなく、被控訴人増田組との間では成立に争いのない甲第二号証によって認めることができる。」と訂正し、同八行目の次に行を改めて「亡美義が収入の全部を自ら使い果していたことを認めるに足りる証拠はないから、一般の独身者と同様その生活費控除は二分の一とするのが相当である。」と挿入し、同九行目に「二三年」とあるのを「三五年」と、同末行目に「ライプニッツ」とあるのを「ホフマン」と、「一三・四八八五」とあるのを「一九・九一七」とそれぞれ訂正し、同一九枚目表一行目から同六行目までを削除し、この部分に次のとおり挿入する。

「中間利息の控除方法については、本件は事故時の収入金額を固定して逸失利益を算定するものであるので、ホフマン方式を用いるのが相当である。

76,000円×1/2×12×19.917=9,082,152円

(2) 過失相殺した金額 五四四万九、二九一円

9,082,152円×(1-0.4)=5,449,291円

(3) 慰藉料 三〇〇万円

本件事故の態様、美義の年齢、過失の程度その他本件にあらわれた諸般の事情をしんしゃくすると、慰藉料としては三〇〇万円をもって相当と認める。

(4) 右(2)、(3)の合計 八四四万九、二九一円

控訴人が美義の唯一の相続人であることは当事者間に争いがないので、控訴人は美義の右(2)、(3)の合計金の損害賠償請求権を承継した。」

同一一行目に「一九六万八三〇二円」とあるのを「五九五万七、二九一円」と、同末行に「一八万円」とあるのを「六〇万円」と、同裏二行目に「日の翌日」とあるのを「の日」とそれぞれ訂正する。

二  以上の次第で、控訴人の本訴請求は被控訴人らに対し、各自金六五五万七、二九一円および内金五九五万七、二九一円に対しては本件事故の翌日である昭和四七年六月三〇日から、内金六〇万円に対しては本裁判確定の日からそれぞれその支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却すべく、右と結論を異にする原判決は相当でなく、本件控訴は一部理由があるから、原判決を変更することとし、民訴法三八六条、三八四条、九六条、九三条、九二条、八九条、一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山内敏彦 裁判官 田坂友男 裁判官 高山農)

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