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大阪高等裁判所 昭和52年(ネ)744号 判決 1980年9月26日

控訴人

吉原倉庫株式会社

右代表者

山本林造

右訴訟代理人

荻矢頼雄

外二名

被控訴人

東大阪市

右代表者市長

伏見格之助

右訴訟代理人

市原邦夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求める裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取消す。

(二)  被控訴人は控訴人に対し、金九五〇五万三〇九九円及びうち金一四八〇万三〇九九円に対する昭和四六年八月一五日から、うち金五九七六万五〇〇〇円に対する昭和五〇年一〇月一七日から、うち金二〇四八万五〇〇〇円に対する昭和五一年六月一一日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(四)  仮執行の宣言。

2  被控訴人

主文と同旨。

二  当事者の主張

次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

1  控訴人

(一)  消火、延焼防止に関する過失

普通倉庫火災は消火に相当長時間を要するものであり、消防においては消火と並んで延焼の防止が重要な目的であるから、そのためのあらゆる手段を検討実施すべきことはいうまでもない。ところで本件では火元のフジヰ倉庫と控訴人倉庫とか八〇センチメートルの間隔で東西約七〇メートルにわたり接しており、その境界奥深くに進入しての放水が困難であるうえ、ポンプ車による放水距離も二〇ないし二五メートルであつて、倉庫中央部付近には水が届かず、そこから延焼することが予見せられたのであるから、消防の現場指揮者としては延焼の危険が最も大きい倉庫中央部への注水を効果的にするため後記各方策を講ずべきであつたのにこれを怠り、両倉庫東側及び西側地上あるいは右東側のハシゴ車やシュノーケル車上からの放水に漫然頼つていたため、叙上中央部付近から控訴人倉庫への延焼防止に至らなかつたものである。

(1) 控訴人倉庫屋根の部署防禦義務違反

消防隊が到着してから延焼まで約二時間三〇分の余裕があつたから、この間資材を用意し控訴人倉庫の屋根に一定間隔で走る鉄骨を利用して足場を作り、そこに部署して放水すれば、火元のフジヰ倉庫の消火はもとより、水の一番かかりにくい中央部屋根に集中して注がれる大量の水が雨樋をこえて壁面に流れ落ち延焼防止に効果のある水幕を張ることができたはずである。

(2) 変電所構内からの俯瞰注水義務違反

控訴人倉庫南側にある河内変電所構内の北側から西側にかけて広い空地があり、そこへ延焼前すでに現場に到着していた三二メートル級のハシゴ車、一五メートル級のシュノーケル車を配置して放水活動をすることに何の障害もなく、これら特殊車輛の空中作業能力を利用すれば、控訴人倉庫の高さ約一二メートルをこえた火災地点を十分見とおす高度から火元の最接近地点へ集中的に放水することはもちろん、控訴人倉庫の中央部屋根に俯瞰注水をすることもでき、この限られた範囲に大量に注がれる水で雨樋をオーバーフローして前同様の水幕を張ることができた。

(3) フジヰ倉庫北側壁体、西側扉の徹底破壊義務違反

消防隊到着当時はまたフジヰ倉庫の内部に進入して消火することは十分可能であつた。すなわち現場指揮者佐治は所携の斧で同倉庫北側壁体を二〇ないし三〇センチメートル四方にわたつて破壊したうえ、破壊用大ハンマーと放水砲を要請し、午前六時頃大ハンマーが同二〇分頃放水砲がそれぞれ到着したのに、同人は大ハンマーの到着を確認せず、また放水砲も北側壁体から約四〇メートル北側に設置したため前記開口部を拡大することができないまま簡単に使用を中止し、倉庫内部への進入を断念してしまつたのであるが、本件消火のためには、フジヰ倉庫西側扉を大ハンマーを使用して破壊し、放水砲もできるだけ北側壁体の近くに設置場所を作つて徹底的な破壊活動をし、これを突破口として積荷の一部を搬出し、残りの荷物によじ登つてでも倉庫内部に進入してそこから火元へ放水すべきであつて、その時間的余裕も十分であつた。

(4) フジヰ倉庫屋根から放水義務違反

フジヰ倉庫の中央部から西側にかけての屋根が落下せず鉄骨の骨組が残つていたのであるから、残存屋根に穴をあけてそこにホースの筒先を挿入し火元またはその近接点に直接放水して有効な消火をすることも可能であつた。

(二)  荷物搬出についての指示の誤りまたは不存在

消防職員は市民の身体財産を火災から守る任務を負う。したがつて現場での指揮者は、消火及び延焼防止の措置を講ずるとともに、被害を最少限度に食いとめるため火災状況を的確に把握して住民に対し家具商品を搬出すべきか否かについて積極的に適切な指示指導をなすべき義務がある。そしてこのことは特に本件のように倉庫一杯に多数の物品が保管されている場合、またその義務が法令に定められていると否とにかかわらず条理上当然のことである。しかるに被控訴人の消防職員らは控訴人倉庫の保管品搬出について原審で主張したように控訴人代表者又はその関係者に誤つた指示をしたのであり、仮に被控訴人主張のように何らの指示もしなかつたというのであれば、それは適切な指示義務を怠つたことになる。

(三)  失火ノ責任ニ関スル法律と重過失

仮に本件について同法(以下失火責任法という)が適用されるとしても、本件火災に出動した消防職員らは火災から住民の生命身体財産を保護することをもつてその職務としており、そのため特に専門的な知識及び技術を身につけているのであるから、これら安全保護のための注意義務は一般人に比して高度なものであるところ、本件消防担当者らが叙上消火及び延焼防止方策をとらず、適切な荷物搬出指示もしないでその義務を怠つたことは、いずれも失火責任法所定の重大な過失にあたるというべきであるから、被控訴人は国家賠償法による損害賠償責任を免れない。

2  被控訴人

(一)  本件において控訴人倉庫への延焼防止方法としても最も重要なのは同倉庫北側壁面への注水であるが、これが可能なのは右壁面北側からの放水であるところ、本件現場においてその立地となりうる場所はフジヰ倉庫と控訴人倉庫との間の狭い取合いと、フジヰ倉庫の東側及び西側空地だけである。そして被控訴人の消防担当者らは両倉庫の間に東から約一〇メートル、西から約五ないし八メートル進入して放水を継続し、できる限りの延焼防止の効果をあげていたのであつて、普通ポンプ車による有効水流(消火のためのまとまつた水流)の到達距離は二〇ないし二五メートルであるが、延焼防止のための壁面を冷却する水流はこのような水束を必要とせず最大射程内(有効水流射程の二倍程度)のもので足り、特に前記東側空地からはハシゴ車及びシュノーケル車による放水もなされていたのであるから、本件延焼地点である控訴人倉庫東端から二九メートル付近はもとより同倉庫中央部にも右水流は十分到達していたものである。そしてこのことは消防隊到着時すでに広大なフジヰ倉庫の東半分が火炎に包まれ更に急速に西半分に延焼していたにもかかわらず、二時間余りもの間隣接した控訴人倉庫への延焼が防がれたことからも明らかであり、右延焼は叙上壁面注水にもかかわらず、換気扇その他原審で主張したような控訴人倉庫の防火上の欠陥による火炎の呼込みや輻射熱等の結果と思われるところ、控訴人主張の各方策は後記のとおり実行困難またはその効果の認め難いものであつて、現場指揮者らがこれを採らず、控訴人倉庫北側壁面を直視できる地点からの放水活動により延焼防止の効果を期待したのは妥当な判断というべく、他に採るべき必要な手段を怠つていたようなことはない。

(1) 屋根上の足場は一般民家の瓦屋根からの滑落防止のため棟の周囲の瓦を数平方メートル程度はがしてする例がある位で、控訴人倉庫のような巨大な鉄板葺かまぼこ型丸屋根に足場を作つてそこに部署させることは、滑落防止の基盤となる棟木もなく屋根下の鉄骨も直ちに利用可能なものではないから危険防止上不可能であり、また緊急の際このようなところに資材をつきこんで安全に放水できる足場を構築する余裕等もない。更に控訴人倉庫の屋根から放水してもその軒先はフジヰ倉庫の屋根より二メートルも高いから、その水はフジヰ倉庫の屋根に落ちるか、雨樋等の関係で控訴人倉庫の屋根上を流れるだけであり、拡散巾に限度のあるポンプ車の一口や二口の放水で、長大な控訴人倉庫の北側壁面全部に常時効果的な水流を注いで長時間ドレンチャー設備によるような水幕を維持することは到底困難といわねばならない。

(2) 変電所はフジキ倉庫より三メートルも高い高さ一二六メートルの控訴人倉庫の南側にあつて、その構内から火災現場を直接見ることは不可能で延焼の危険の迫つたところが判別し難いうえ、水源もなく、かつ屋外に変電設備が設置されて電線等も多く、ここに立入つて放水活動をすることは、設備の水損、停電等二次的被害発生のおそれがあつた。またハシゴ車等をフジヰ倉庫東側から変電所構内に転出するとなるとその移動の間放水を停止せねばならず、更に右構内からではハシゴ車等の塔上からでも危険個所が見分けられず、(1)記載と同様効果のある注水をすることもできない。

(3) フジヰ倉庫の壁体及び扉の破壊については、消防隊到着当時既に同倉庫内部の半分程度が燃焼している状況にあり、屋内進入による火点消火の時期を過ぎていたこと、倉庫内は中央部に巾一メートルの通路を残すのみでクーラーが壁面まで何重にも積み上げられていたことからして、この点の控訴人の主張も現場の状況を無視したものといわねばならない。なお放水砲の利用ができなかつたのは水圧不足のため右在庫品を吹きとばす威力がなく、フジヰ倉庫北側が四〇センチメートル巾の足場を残すだけでその外が一メートル下の泥田になつていて、砲の重量に見合う適当な設置場所もなかつたためである。

(4) フジヰ倉庫の屋根はスレート葺で割れやすく、しかも消防隊到着時既に東三分の一程度が焼け落ちた状態にあり、残存部分にも火が廻つていることが予想されたのであつて、ここから圧力のあるホースを抱えての消火作業を求めるなど暴論というべきである。

(二)  消防の現場指揮者には荷物搬出について積極的に指示指導を行なう義務はない。かかる指示指導は消防の職務として規定されておらず、消防の現場において指揮者にこのような義務を課することはその職務の多様さからみて過大な期待であり、不確定な要素の多い火災の推移を考えると不可能でもあつて、自己の部署以外の情勢把握が困難な指揮者以外の消防職員にとつては尚更のことである。したがつて被控訴人の消防職員は従来からも右の点について指図することなく経過しており、もし質問に応答したとしても個人的意見以上にでるものではない。

(三)  公権力の行使にあたる公務員の失火による公共団体の損害賠償責任については失火責任法が適用されるから、当該公務員に重大な過失があることを必要とするところ、仮に本件消火等につき被控訴人の現場指揮者らに十分でないところがあつたとしても、それは時々刻々に変化する火災現場における消防担当者のその現場での判断について事後第三者的にみて他の可能性を指摘しうる程度のものにすぎず、少くとも重大な過失といえるようなものではない。

三  証拠<省略>

理由

一当裁判所も控訴人の本訴請求を失当と判断するものであつて、その理由は次に付加するほか、原判決の理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1  本件消火活動につき、火災現場での指揮者であつた佐治忠明、横田勢二の行動等について、<証拠>を綜合すると、引用部分掲記の諸事実のほか更に次の事実が認められる。

佐治は当日火災通報を受けてすぐポンプ車三台(うち一台はタンク付)、救急車一台とともに午前五時三〇分頃現場に到着したが、火災の状態等からすでにフジヰ倉庫の東側内部三分の一位が火の海になり、更に四方に燃え広がつていると判断し、直ちに同倉庫から田地及び空地を隔てた北方約六〇メートルの大阪石切線道路の消火栓からホースを中継して右北側及び同倉庫進入路の東側空地に入つたタンク車から放水を開始するとともに、右倉庫に入つて直後火元に注水すべくその東南隅通用口を開けてみたものの、商品のクーラーが山積みされ一面の火で進入できず、高熱で青白くなつている東側正面の鉄扉を放水で冷却して開けようとしたが施錠が厳重で破れず、控訴人倉庫の南側変電所を廻つてフジヰ倉庫西側へ急行したが、西側扉も鍵穴付近がコンクリートで塗り固められていてそこからの進入も不可能であつた。そして右倉庫と控訴人倉庫の近接状態から同倉庫への延焼の危険性が大きいと考えた同人は午前五時四〇分頃ハシゴ車(ハシゴの長さ三二メートル、但し角度を下げるとハシゴも短くしなければならない。)と破壊用大ハンマーの派遣を要請し、午前六時頃右ハシゴ車の到着によりこれをフジヰ倉庫東側におき、ハシゴを四五度強、長さ一五メートル位に伸ばして両倉庫の境界中央部付近各壁面に放水する一方、前同様ホースをつないでフジヰ倉庫西側からもポンプ車で右境界線に放水を始め、分隊長道野から前記ハシゴ車の放水が倉庫中央部に届いている旨の報告を受けた(なお右ハシゴ車を含め叙上ポンプ車の放水距離は、水流が飛沫状にならないで消火に効果的な水束として飛ぶいわゆる有効射程が四五度角位で二〇ないし二五メートルであるが、その1.5倍以上の最大射程距離があり、延焼防止措置としては通常この放水で足るとされていた。)。この間佐治は再度フジヰ倉庫周囲を廻り所携の斧等でまだ火の及んでいない同倉庫の西、北側の壁面下部等も一部破壊してみたが、同倉庫は巾一メートル位の中央通路を残していずれも壁際一杯にまでクーラーが積み重ねられ前記大ハンマーによつても突破困難な状況にあつたので、その使用を断念して新たに放水砲の取寄せを要請するとともに、前掲西側分隊にできるだけ控訴人倉庫との境界線に深く進入して放水するように指示をし、次で午前六時二〇分頃放水砲が到着したのでこれをフジヰ倉庫の北側田地を隔てた約四〇メートル北方の空地におき、ポンプ車のホース六口の水を中継して同倉庫北壁に向け放水したが、水圧が低くこれを破るに至らなかつた。なおこの頃フジヰ倉庫はその西端まで黒煙が庇等から噴出しており、横田は午前六時三〇分頃現場到着後直ちに佐治からそれまでの状況報告を受けたうえ、自ら同倉庫周辺の消火活動等を見分し、更に右倉庫東側から前記ハシゴ車と並んでともに中央部に放水していたシュノーケル車(ハシゴの長さ一五メートル)のバスケットにも乗つて前記放水が倉庫中央部に届いていることを現認し、東門の施錠もこじあけたが荷崩れ等で進入できなかつた。そして同人も近接している控訴人倉庫への延焼の可能性が強いと考えたが、その防止のためにも右ハシゴ車の移動による南側変電所構内北西空地からの俯瞰注水等よりも、同倉庫の北側壁面を直視できる東西両側からの放水の継続が最善であるとしてこれに専念し、延焼してからは同倉庫にテレビ、洗剤のほか、エンジンオイル等の危険物が大量に保管され、二階の床が落下する危険や屋内消火栓の不備等で内部からの消火活動が十分できず、前記変電所構内からのハシゴ車による放水等外からの消火に努めたが、結局これらを全焼して一一日朝漸く鎮火した。

2  控訴人倉庫の屋根上での部署防禦については、同倉庫が引用部分記載のような高さ約12.6メートルの広大かつ丸屋根の建物であり、延焼の危険が予測されたからといつてその時期まで的確につかめる筈もなく、緊急の際水の届きにくい中央部分だけにしても鉄骨の利用や資材補給で簡単に墜落の危険のない固定した足場を作ることができたかどうか、更に右足場からしても雨樋等の関係で果して控訴人主張のような効果的な水幕を張ることができたかどうかなど多分の疑問があつて、これを動かすに足る十分な証拠はない。したがつて佐治や横田らが右方策をとらず叙上ハシゴ車等による機動的な部署防禦に力を集中したからといつて、いまだその判断に誤りがあつたとはいい難い。

3  変電所構内からのハシゴ車等による俯瞰注水につき、被控訴人の主張するような二次災害の点はさておくとしても、<証拠>に照らすと、控訴人倉庫の大きさ、構造、更に水源等の関係で、できるだけ同倉庫に接近してハシゴの角度五五度、長さ二〇メートル位の高所から筒先を操作しても、同倉庫北側壁面に控訴人の期待するような継統的かつ有効な水幕が張れたとするには前同様疑問が認められるから、佐治や横田が前掲東西両側からの注水継続がより効果的と考えこれを優先したのも相当であり、少くとも当時の現場状況からして右判断が合理性を欠いていたとすることはできない。

4  フジヰ倉庫北側壁体、西側扉の破壊の点は、倉庫内部からの火点直近注水が消火に最も有効であることはいうまでもなく、佐治らも再三これを試みたものの、まだ火の廻つていないところも在庫品が一杯詰つて果たせなかつたことは前認定のとおりであつて、放水砲にしてもフジヰ倉庫北側が巾四〇センチメートル位の足掛りを残すほか一メートル位下つた泥田になつていて、壁体近くには一メートル四方の相当重量のある砲をおけず、その他送水の関係等から適当な設置場所がなく威力を発揮するに至らなかつたことが<証拠>から認められるから、控訴人のこの点の主張も採用できない。

5  フジヰ倉庫屋根上からの放水の点は、前認定及び引用部分掲記のとおり消防隊到着当時すでに炎が同倉庫東側三分の一位から上つて更に西側に広がつていく状況にあり、右東側の屋根は焼け落ちていたとみられるうえ、その屋根がスレート葺の割れやすい落下の危険性の大きいものであつたから、佐治らが職員の死傷防止という見地からこれを採らなかつたのもやむをえないものというべきである。

6  荷物搬出指示の点につき、<反証排斥略>。更に消防の制度は火災の予防鎮圧によつて国民の生命身体財産を保護してその被害を軽減することにあり、火災発生の場合の物的損害軽減のための当面かつ最大の目標も消火次で延焼の防止であつて、これら作業に直接必要でない単なる家財や在庫品の避難的搬出等はその所有者らの自主的判断で決すべく、従来右搬出等について質問された場合消防職員が事実上或程度の見解を述べることのあるのは<証拠>からも窺われるけれども、右職員は本来このような義務や権限をもつものでなく、本件において仮に何らかの意見表明があつたとしても、それは個人的感想というべきものであるから、この点の主張も採用できない。

7  消防職員は消防法、消防組織法により火災の予防鎮圧のため高度の教育訓練をうけ、専門的な知識や能力を備えて特別な権限を有するものであるから、その消火活動等にあたつては一般私人よりも高度の注意義務を負担することは勿論であるけれども、消火延焼防止活動等の不手際を理由とする本件においても国家賠償法四条により失火責任法が適用されると解するのが相当であるところ(最高裁昭和五三年七月一七日判決参照)、本件火災の状況等に照らし佐治、横田ら被控訴人の消防職員に右重過失はもとより、叙上注意義務の明らかな違反または懈怠のあつたことを認めるに足る的確な証拠はなく、むしろこれがなかつたことは従前説示のとおりである。

二よつて控訴人の請求を排斥した原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(黒川正昭 志水義文 森野俊彦)

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