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大阪高等裁判所 昭和52年(行コ)14号 判決 1979年2月28日

尼崎市西難波町一丁目八番一号

控訴人

尼崎税務署長 西岡照雄

右指定代理人

細川俊彦

西田春夫

安藤稔

金原義憲

宮崎正夫

尼崎市尾浜町一丁目三〇番四〇号

被控訴人

株式会社大正金属工業所

右代表者代表取締役

松川光夫

右訴訟代理人弁護士

松井城

大谷美都夫

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人が被控訴人に対して昭和四五年六月二六日付でした被控訴人の同四一年一二月一日から同四二年一一月三〇日までの事業年度分法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、いずれも控訴人の同四五年一〇月九日付異議決定により一部取消された後のもの)は、所得金額三五、三三〇、七四〇円を基礎として算出される各税額を超える限度においていずれもこれを取消す。控訴人が被控訴人に対して同四五年六月二五日付でした源泉徴収にかかる同四二年分の給与所得の所得税についての納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分は、松川光夫への賞与支給金額中一一、六三〇、〇〇〇円及び的崎修への賞与支給金額中七、六三〇、〇〇〇円を基礎として算出される各税額の限度においていずれもこれを取消す。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて五分し、その三を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

事実

一  控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張および立証の関係は、次のとおり付加するほか原判決事実摘示と同一(ただし原判決三枚目表一一行目「各処分もと」を「各処分とも」に、同五枚目裏一、二行目「旧法人税基本通達(昭和三四年直法一-五〇国税庁長官通達)が」を「旧法人税基本通達(昭和三四年直法一-一五〇国税庁長官通達)が、その一七において」に、同一七枚目表一一、一二行目「退職給与規則を改定して」を「必ずしも退職給与規則に拘束されることなく」に、同三二枚目表更正にかかる法人税額「一八、六二五、九〇〇円」を「一八、二一七、五〇〇円」に、それぞれ改める)であるからこれを引用する。

(一)  控訴人の主張

仮に原判決のいうように、松川、的崎が昭和四〇年頃大正金属における支配層たる地位を確立し、これに伴い使用人たる地位を実質的に退いたとしても、大正金属の退職給与規則によると、昭和四〇年末において松川に支給すべき使用人退職金は一、七九一、四三〇円、的崎のそれは一、五三〇、四四〇円となる。したがって、少くとも、昭和四二年一〇月二五日に退職金名下に支給された二三、〇〇〇、〇〇〇円のうちから右一、七九一、四三〇円を控除した残額二一、二〇八、五七〇円および同日的崎に支給された二〇、〇〇〇、〇〇〇円のうちから右一、五三〇、四四〇円を控除した残額一八、四六九、五六〇円は、いずれも役員賞与として支給された金員として認められるべきである。仮に使用人としての退職の時期を松川、的崎が商法上の役員となつた昭和四二年一〇月二五日として使用人退職金を計算するとしても、松川については二〇、〇四八、五七〇円、的崎については一七、三〇九、五六〇円は少くとも役員賞与として支給された金員である。

(二)  被控訴人の主張

松川、的崎が昭和四〇年頃大正金属内における支配層たる地位を確立したことはない。昭和四二年一〇月二五日大正金属が右両名に支給した退職金は、両名の永年にわたる使用人としての著しい功績に対する謝意と、両名を取締役に昇格させて大正金属内に引留め、もって企業の崩壊を防止しようとの意図から、特に取締役会を開催して支給を決議したものであり、その支給には十分な合理性がある。

(三)  被控訴人の立証関係

甲第一七号証の一ないし四、第一八号証の一ないし三、第一九号証の一ないし四、第二〇号証の一ないし五を提出。当審証人三輪嘉曻の証言を援用。乙第二一号証、第二五号証の成立は知らない。その余の後記乙号各証の成立は認める。

(四)  控訴人の立証関係

乙第二一、第二二号証、第二三号証の一ないし三、第二四号証の一、二、第二五号証を提出。甲第一九号証の二ないし四、第二〇号証の二ないし五の成立および第一八号証の一ないし三の公務所作成部分の成立は認める、第一八号証の一ないし三のその余の部分およびその余の前記甲号各証の成立は知らない。

理由

一  当裁判所は、末尾に記載するとおり被控訴人の請求の一部を正当としその余を失当と判断するものであり、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか原判決理由説示と同一であるからこれを引用する。

(一)  原判決二二枚目表五行目「第四号証の一ないし一一」の次に「(各孫枝番を含む)」を加え、同行及び次行の「第一二号証の一ないし三、」を同七行目「甲第六号証、」の次に移す。

(二)  同二二枚目裏七、八行目「亡夫」を「亡父」に、同二三枚目表一二行目「資財」を「資材」に、同裏四行目「外業・技術面」を「諸業務」に、同二四枚目表二、三行目「別表(四)、(五)」を「別表(三)。(四)、(五)」に改める。

(三)  同二六枚目裏一〇行目末尾に「(最一小判昭五一・二・二六・訟務月報二二巻七九八頁参照)」を加える。

(四)  同二八枚目表一〇行目「租税力」を「担税力」に改め、同一二行目「松川らは」以下を次のとおり改める。

「なお松川・的崎は前記のとおり右退職金の支給を受ける約二年前に法人税法上の役員となつたものというべきであるが、しかしそのことは、その際同人らが使用人を退職したことを意味しない。けだし法人税法上の役員になることと使用人を退職することとは別個の概念であるからである。本件において松川・的崎が使用人を退職したと評価し得るのは、同人らが昭和四二年一〇月使用人から再度商法上の取締役に昇格して本件退職金を受給したときであるというべきである。したがってもし本件退職金が真実使用人退職金であるならば、大正金属において損金経理をなし得る年度は本件事業年度であるということができる。そして以上のことは、国税庁長官の旧法人税基本通達(昭和二五年直法一-一〇〇)の二七五(それは昭和四四年直審二五・九-二-二五に引き継がれた)に『法人の使用人がその法人の役員となつた場合において、当該法人がその定める退職給与規程に基づき当該役員に対してその役員となつた時に使用人であつた期間にかかる退職給与として計算される金額を支給したときは、その支給した金額は、当該使用人の退職により支給する退職給与の額とする』とされていることによつても一部裏づけられるものといえよう。

こうしてみると、本件退職金は、その名目どおり退職給与たる一面を有することは否定できないというべきであるが、それにしても右金員の全部が退職給与であるとする被控訴人の主張については、前記法人税法の規定の趣旨に照らし、更に検討を要する。弁論の全趣旨により成立を認め得る乙第二一号証(大蔵事務官田村房雄作成の計算書)によれば、大正金属所定の退趣給与規則に基づき昭和四二年一〇月末現在で算出した松川・的崎の退職金の額は、それぞれ二、九五一、四三〇円、二、六九〇、四四〇円であることが認められるところ、右金額のみが退職給与の額であるとする前記昭和二五年直法一-一〇〇通達の二七五は、本件の場合においては不適切であると解せざるを得ない。けだし、成立に争いのない乙第五号証によれば、大正金属の退職金給与規則は昭和三一年一一月二日施行のものであつて、会社に特別な功績のあつた者に対する退職金の加算の制度もないことが認められるところ、前示のとおり松川・的崎は会社の大功労者と認められていたうえ、かっては会社の商法上の取締役でもあり、昭和四二年一〇月現在において従前分の退職金の打切支給を受けるとすれば、商法上の取締役であつた期間をも含めて従前の勤続期間全部についての退職金の打切支給を受けることになるわけであつて、前記退職金給与規則は、このような特別の場合をも予想して作成されたものであるとは到底解し難いからである。このような場合にも、退職金給与規則を改正したうえでなければ退職給与と認めるべきではないという見解も存する(昭和四四年直審二五通達・九-二-二六参照)かもしれないが、松川・的崎のような事例が大正金属において再び発生することは殆んど考え難いことであるのに、右両名だけのために退職金給与規則の改正を求めることは、実情に即しないものというべく、要は松川・的崎に退職金名義で支給された二三、〇〇〇、〇〇〇円及び二〇、〇〇〇、〇〇〇円中、退職給与として社会的な妥当性を有しているものがどれだけかを判定すれば足りると解すべきものである。ところで弁論の全趣旨により成立を認め得る乙第二〇号証によると、関西経営者協会の昭和四二年度退職金調査報告書によれば、従業員数五〇〇人未満の会社(いわゆる中小企業)八五社を対象とした調査結果では、大卒、勤続二五年の場合の退職金の平均は高率のとき(会社都合による退職等のとき)でも二、一二七、四〇〇円に過ぎないことが認められる。しかしながら同時に右報告書(控訴人は右報告書のうちの一部を書証として提出するのみである。しかしその全文が、労務行政研究所刊・労政時報一、九四七号昭四三・七・一二に掲載されていることは当裁判所に職務上顕著である)によれば、退職金は一般に退職月の基本給と勤続期間とに応じて算出されるものであるところ、右報告書では退職月の基本給の平均額は明らかではないが松川・的崎のそれとは比較にならないほど低額であることが明らかであるから、右二、一二七、四〇〇円という額は、松川・的崎のように退職月に二七五、〇〇〇円という高額の基本給(それが基本給であることは前掲甲第四号証の一一のAで認めることができる)を受けている者が支給を受けた退職給与の額の妥当性を判断するうえで参考とするのに適切な金額であるとは解されない。そして他に適切な資料もないので、松川・的崎の退職時(正式に取締役に就任した昭和四二年一〇月)の基本給月額二七五、〇〇〇円、勤務年数松川二五年六月・的崎二〇年八月という事実に国家公務員等退職手当法四条、七条の規定を当てはめて国家公務員の場合の退職手当を算出してみると、別紙計算書のとおり松川・一一、六三二、五〇〇円、的崎・七、六三一、二五〇円となることが認められる。そしてさきに認定したような事情に徴すれば、松川・的崎が退職給与として受領したもののうち少くとも右の限度までは退職給与としての社会的妥当性を有するものというべきである。してみると松川・的崎が退職金名義で支給された二三、〇〇〇、〇〇〇円及び二〇、〇〇〇、〇〇〇円中一一、六三〇、〇〇〇円及び七、六三〇、〇〇〇円は、いずれも退職給与であると解するのが相当である。したがつて被控訴人が本件退職金につき損金経理をした四一、三三三、七八五円の損金算入を否認した控訴人の処分は、一一、六三〇、〇〇〇円と七、六三〇、〇〇〇円の和、すなわち一九、二六〇、〇〇〇円の部分については違法であり、その余は適法であるというべきである。

三  本件賞与の損金算入の否認について

本件事業年度当時松川・的崎が法人税法上の役員と認定されるべきこと叙上のとおりであるから、右事業年度内に右両名に対し使用人賞与として支給された本件賞与について損金経理が認められないことは明らかであり、その損金算入を否認した控訴人の処分は適法というべきである。

四  してみると、被控訴人の本訴請求中、本件更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、控訴人の異議決定により一部取消された後のもの)の取消を求める部分は、所得金額三五、三三〇、七四〇円(修正確定申告額三、〇三六、九五五円、本件退職金の損金算入否認分のうち二二、〇七三、七八五円((四一、三三三、七八五円から一九、二六〇、〇〇〇円を差し引いた額))及び本件賞与中損金算入否認分一〇、二二〇、〇〇〇円の和)を基礎として算出される各税額を超える限度において理由があるがその余は理由がなく、また本件納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分の取消を求める部分は、松川光夫への賞与支給金額中一一、六三〇、〇〇〇円及び的崎修への賞与支給金額中七、六三〇、〇〇〇円を基礎として算出される各税額の限度において理由があるが、その余は理由がない」。

二 しかるに原判決の結論は一部右と異るから原判決を変更することとし、行訴法七条、民訴法九六条、八九条、九二条に則り主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷野英俊 裁判官 乾達彦 裁判官 西田美昭)

国家公務員等退職手当法に基づく

松川・的崎の退職金計算書

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