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大阪高等裁判所 昭和52年(行コ)20号 判決 1978年6月29日

控訴人 和歌山税務署長

訴訟代理人 服部勝彦 山中忠男 ほか二名

被控訴人 株式会社東洋精米機製作所

主文

原判決を取り消す。

本件訴えを却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  申立

1  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

二  当事者双方の事実上及び法律上の主張は、左のとおり付加するほか、原判決事実欄の第二に摘示したとおりであるから、これを引用する。

1  被控訴人

(一)  被控訴人は、本件各申告書の提出にあたつて、決算確定ができない事情を説明し、申告期限延長申請の却下処分に対してわざわざ異議申立をすることも明示して、右申告は確定申告ではなく、あくまで「仮」申告であることを断つたのであり、控訴人署員も同趣旨の教示をしたのである。

(二)  押収された「無題ノート」には、被控訴人と訴外雑賀慶二及び財団法人雑賀研究所との間に成立した複雑詳細な取引関係事項が記載され、かつ、その資料たる書類が差し込んであつて、決算及び申告にぜひ必要である。しかるに、検察官から交付されたコピー<証拠省略>には右の重要部分が欠如している。被控訴人は早くから検察官に対し再三に亘りその原本の閲覧を申請しているが、検察官はその所在が不明で捜索中であると繰り返すのみである。若し、検察庁で紛失したことが明らかにされれば、被控訴人としても雑賀らと再協議するなどの措置を講じるであろう。

(三)  控訴人主張の後記(五)の各事実関係は認める。

2  控訴人

(一)  納税申告は、課税標準及び税額等を確認しこれを税務官庁に通知する性質の観念の通知であり、納税申告における意思の要素は、納税者において納税申告書であることを認織してこれを税務官庁に拠出することをもつて十分であり、それ以上に、税額(納付すべき税額あるいは還付されるべき税額)確定等の内心の効果意思を必要としないから、右の効果意思を欠いたとしても納税申告としての効力に欠けるところはない。

(二)  被控訴人が本件各申告書を提出した際、申告期限延長申請の却下処分に対する異議申立を準備中であつたとしても、異議申立により却下処分の効力が停止されるわけではなく申告期限は到来するのであるから、申告意思が欠けるとはいえない。異議中立により申告期限の延長を得たうえで正当額の確定申告をするか、あるいは概算額の確定申告をしておいて後日修正申告又は更正の請求により正当額に是正するかは、被控訴人の自由に決しうるところである。本件において、被控訴人は異議申立に先立ち本件各申告書を提出したのであるが、右は、申告期限の延長申請が却下されたことに伴い期限の到来により不申告によつて生ずる税法上の不利益を免れる意図に基づくものであつたし、さらに被控訴人は本件各申告書の提出により税額が確定する結果、将来修正申告又は更正の請求をする必要が生ずることまで認識し、かつまた、本件各申告書によつて確定する還付金の受取銀行名まで指定しているのである。

(三)  控訴人署員の「概算でもよいから申告せよ。」との教示によつて、一部省略あるいは概算の決算に基づく本件各申告書が提出されたものとしても、それは申告書の内容の問題であつて、申告書の効力に影響を及ぼすものではないから、確定申告書であることの認識を欠くことにはならない。また、昭和四七年度分法人税について、既に被控訴人から本件申告書が提出されているにもかかわらず、いつたん行つた申告期限延長申請却下処分を取り消し申告期限の延長を認める処分を行つたことも、既に客観的に発生している本件各申告書の効力を否定する根拠となるものではない。

(四)  押収にかかる「無題ノート」に被控訴人主張のような諸事項が記載されていたこと及びその協議資料が差し込んであつたことは否認する。検察官から被控訴人に交付されたコピー<証拠省略>が右「無題ノート」のすべてである。

仮に、右コピーの内容以外に取引関係事項の記載があつたとしても、それは被控訴人と雑賀慶二らとの交渉段階における一応の成案にすぎないから、未だ債権債務としては発生しておらず、決算に計上する心要のない事項である。

また、仮に債権債務が発生していたとしても、当事者間で再協議をし又は暫定的な取り決めをし、それに基づき決算をするか、資料紛失により当事者間で取引の金額に争いがあるものとして、それを除外して決算をするか、被控訴人の紛争における主張額で決算をするか、あるいは相当の見積額で決算をし、後日修正の決算をするのが一般の慣行というべきであつて、「無題ノート」の所在不明は法人税法七五条の決算を確定しえない災害その他の「やむを得ない理由」にはあたらない。国税通則法施行令六条一項三号も右のような処理を予定しており、また右のように解しても納税者に格別の不利益や困難を強いるものではない。

(五)  本件各申告書により、控訴人は、各年度の税額が確定したものとして、その還付金を次のとおり充当・還付ずみであり、被控訴人にもその旨通知されていて、還付手続等はすべて完結している。

(i) 昭和四七年度分

イ 大阪国税局長は、昭和四八年一〇月二〇日、本件申告書<証拠省略>により確定した還付金一四五万九九〇〇円と還付加算金八万八九〇〇円を、国税通則法五七条により、本件申告書が提出された同年同月一日付で被控訴人の過年度分未納法人税に充当し、その旨被控訴人に通知した<証拠省略>。なお、被控訴人の未納国税の徴収については、国税通則法四三条によつて控訴人から大阪国税局長へ徴収の引継ぎがなされていたので、右充当及びその通知も同法五六条二項により控訴人から還付の引継ぎを受けた大阪国税局長が行つたものである。

ロ 右充当については、被控訴人から何らの異議もなく、そのまま確定した。

(ii) 昭和四八年度分

イ 大阪国税局長は、昭和四九年九月一一日、本件申告書<証拠省略>により確定した還付金七七一万〇六二九円と還付加算金九万三五〇〇円を、本件申告書が提出された同年五月三一日付で被控訴人の過年度分未納法人税に充当し、その旨被控訴人に通知した(<証拠省略>)。

ロ 被控訴人は、同年一一月五日、右充当処分につき大阪国税局長に異議申立をした(<証拠省略>)。

ハ 大阪国税局長は、同年一二月二七日、右イの充当計算に誤りがあつたので同処分を取り消し、その旨被控訴人に通知した(<証拠省略>)。

ニ 右ハの結果、大阪国税局長は、昭和五〇年一月二一日、右ロの異議申立に対し却下の異議決定をし、異議決定書謄本を被控訴人に送付した(<証拠省略>)。

ホ 大阪国税局長は、同年同月三〇日、本件申告書により確定した還付金七七一万〇六二九円と還付加算金四六万七四〇〇円のうち四万八〇〇円を被控訴人の過年度分未納法人税に充当し、残額八一二万九九二九円は被控訴人が本件申告書で指定した還付金の受取銀行である三和銀行南和歌山支店の被控訴人名義の当座預金口座へ振り込み、その旨被控訴人に通知した(<証拠省略>)。

ヘ 被控訴人は、同年二月二六日、右充当処分につき大阪国税局長に異議申立をした<証拠省略>。

ト 大阪国税局長は、同年四月三〇日、右異議申立に対し却下の異議決定をし、果議決定書謄本を被控訴に人送付した(<証拠省略>)。

チ その後、被控訴人から不服の申立等はない。

三  証拠関係 <省略>

理由

一  被控訴人が、被控訴人の昭和四七年度分(昭和四七年四月一日から同四八年三月三一日までの事業年度分。以下、これに準ずる。)法人税確定申告及び昭和四八年度分法人税確定申告につき、昭和四九年四月三〇日控訴人に対し、申告期限延長申請(以下「本件各申請」という。)をしたところ、控訴人は同年五月三〇日本件各申請を却下する旨の各処分(以下「本件各処分」という。)をしたこと、そこで、被控訴人が控訴人に対し同年六月七日本件各処分に対する異議申立をしたが、控訴人は同年九月六日、被控訴人が既に確定申告をしたものであるから申立の対象を欠き申立の利益がないことを理由に右異議申立を却下したこと、被控訴人は同年一〇月七日国税不服審判所長に対し審査請求(以下「本件審査請求」という。)をしたが、右所長は昭和五〇年二月二〇日右記と同一の理由により本件審査請求を却下したこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。

二  被控訴人は、本件各処分が違法であるとして、その取消を求めるのであるが、その判断に先立ち、控訴人の本案前の主張について検討する。

1  被控訴人が控訴人に対し、(一)被控訴人の昭和四七年度分法人税につき昭和四八年一〇月一日「添付書」と題する書面の添付された「仮申告書」と題する書面を、(二)被控訴人の昭和四八年度分法人税につき、昭和四九年五月三一日「確定申告書」及び同年六月七日「添付書」と題する書面を、それぞれ提出したことは、当事者間に争いがない。

2  右「仮申告書」(<証拠省略>)及び「確定申告書」(<証拠省略>)は、いずれも、法人税法施行規則別表に定める法人税確定申告書の書式に従い、法人税法七四条所定の記載要件事項が記載されており、所得税額等の還付金額、中間納付額の還付金額及びその還付金を受け取るべき銀行名をも指定して記載してあることも、当事者間に争いがない。

また、前記各「添付書」(<証拠省略>)には、右各申告書は一部省略あるいは概算の決算に基づく申告で、将来押収された書類が返還された場合、修正申告もしくは更正の請求の必要性が起こると予想される旨の記載があることも、当事者間に争いがない。

3  また、請求原因1(二)(1)の事実中、被控訴人が法人税法違反嫌疑により帳簿等を押収されたこと、及び同(2)、(3)の事実(ただし、控訴人の職員の教示の点を除く。)は当事者間に争いがなく、控訴人の当審における主張(五)の還付金の還付手続に関する事実関係も、当事者間に争いがない。

4  以上の当事者間に争いのない事実と、<証拠省略>を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  被控訴人は、昭和四四年度ないし昭和四六年度分の法人税法違反の嫌疑で昭和四七年八月三日大阪国税局によつて多数の帳簿類等を押収されたので、昭和四七年度分の決算ができず法人税確定申告が不可能になつたとの理由により、昭和四八年三月二三日、控訴人に対しその申告期限延長申請をしたところ、控訴人は同年五月二九日これを承認して申告期限を同年七月三一日と指定した。次いで、被控訴人は右同様の理由により同年七月二日再度右申告期限の延長申請をしたところ、控訴人は同年同月三〇日これを承認して申告期限を同年九月三〇日と指定した。

(二)  被控訴人は、右同様の理由により、同年九月二五日さらに右申告期限延長申請をしたが、控訴人は同月二七日これを却下したので、被控訴人の経理担当者が控訴人の署員に相談したところ、同署員は「押収帳簿類の閲覧をするとか、押収後に作成した帳簿等に基づいて、できる範囲で概算して申告せよ。後日、申告に誤りがあることが判明したら更正申告や更正の請求をすることができる。」旨を教示した。

(三)  そこで、被控訴人は、無申告による不利益を避けるべく、教示に従つて申告書を提出することとし、押収を免れた伝票・帳簿類、検察庁から還付を受け又はコピーの交付を受けた伝票・帳簿類及び押収後に作成した伝票・帳簿類等を資料として、できる限りの程度、範囲で昭和四七年度分の損益を計上算出して、所定の確定申告用紙に法定の記載要件事項を記載した申告書(<証拠省略>)。これによれば、昭和四七年度分の中間納付額中一四五万九九〇〇円が還付金額となる。)を作成し、前記「添付書」に前記のような記載(そのほか、「申告期限の延長申請の却下処分に対する異議申立を準備中ですが、時間的余裕もないこと等を考慮し、一応本申告書提出に及んだ次第です。なお、申告書及び添付書類についても不足書類がありますが、後で提出する予定です。」との記載もある。)をし、表題を「仮申告書」として昭和四八年一〇月一日に控訴人に提出した。

(四)  大阪国税局長は、同年同月二〇日、被控訴人提出の右「仮申告書」の記載のとおり、同月一日付により、一四五万九九〇〇円を被控訴人に還付すべきものとし、還付加算金を加えてこれを被控訴人の過年度分未納法人税に充当し、その旨を右二〇日被控訴人に通知したところ、被控訴人はなんらの異議もなく、右還付、充当が確定した。

(五)  ところが、被控訴人は同年一一月二七日になつて、右(二)記載の却下処分に対する異議申立をしたところ、控訴人は同四九年三月一日に至つて右却下処分を取り消し、被控訴人の昭和四七年度分法人税確定申告期限を昭和四九年五月三一日と指定した。

(六)  被控訴人は、同年四月三〇日控訴人に対し、前記のとおり本件各申請(昭和四七年度分については四回目の期限延長申請、昭和四八年度分については初の期限延長申請。申請の理由は、いずれも、昭和四七年度分についての前記の各申請におけると回様である。)をしたところ、控訴人は同年五月三〇日これを却下する旨の本件各処分をした。

(七)  そこで、被控訴人は、昭和四八年度分法人税について前記(三)と同様の趣旨及び方法によつて既算による決算を行い、前記の申告書(<証拠省略>。これによれば、昭和四八年度分の所得税額等の還付金額五一四万〇一二九円、中間納付額二五七万〇五〇〇円の合計七七一万〇六二九円が還付金額となる。)を作成し、表題を「確定申告書」として昭和四九年五月三一日に控訴人に提出した。そうして、被控訴人は同年六月七日前記のとおりの記載の添付書<証拠省略>を控訴人に提出し、かつ、同日本件各処分に対する異議申立をしたところ、右異議申立は同年九月六日却下され、これに対する本件審査請求(同年一〇月七日申立)も却下された。

(八)  被控訴人提出の昭和四八年度分の「確定申告書」について、大阪国税局長は、昭和四九年九月一一日、右申告書記載のとおり同年五月三一日付により、七七一万〇六二九円を被控訴人に還付すべきものとし、還付加算金を加えてこれを被控訴人の過年度分の未納法人税に充当し、その旨を被控訴人に通知したところ、被控訴人は同年一一月五日に至つて、本件審査請求の裁決に影響を受けるおそれがあるとの理由により異議申立をし、大阪国税局長は同年一二月二七日右充当処分を取り消し、改めて同五〇年一月三〇日還付金七七一万〇六二九円と還付加算金の合計額中四万八一〇〇円のみを被控訴人の過年度分未納法人税に充当し、残額八一二万九九二九円は、被控訴人が右「確定申告書」で指定していた還付金の受取銀行である三和銀行南和歌山支店の被控訴人の当座預金口座に振り込み、その旨を被控訴人に通知した。

被控訴人は、これに対しても異議申立をしたが、その理由は、前同様に、本件審査請求の裁決に影響を受けるおそれがあるというものであり、その影響がなければ異議申立を却下されても結構である旨を付記していた。大阪国税局長は昭和五〇年四月三〇日右異議申立を却下して被控訴人に告知したところ、その後は被控訴人から不服の申立はない。

以上のとおり認められ、右認定に反する<証拠省略>の一部は採用することができない。

三  以上の事実関係に基づいて考慮すると、被控訴人が控訴人に提出した昭和四七年度分の「仮申告書」及び昭和四八年度分の「確定申告書」は、前者が「仮」申告書と表示されている点を除けば、いずれも法人税法施行規則に定められた法人税確定申告書の書式を用いて、法人税法七四条所定の記載事項が記載されている。適式の確定申告書であり、その内容の点でも、申告者である被控訴人において、帳簿類等が押収されていて正確な決算ができない事情にあつたとはいえ、可能な限りでの決算資料に基づいて算出計上した概算の決算に基づく数字を記載し、可能な範囲の必要書類を添付したものであるということができる。また、被控訴人が右各申告書を提出するについては、これを提出しない場合に無申告として取り扱われ不利益な決定を受けることを避けようとする意図があつたことは明らかであるが、そればかりではなく、右各申告書によつて、その時点での各年度分の税額を確定して還付金の還付を受ける意図を有していたものとみうることも明らかであり、さらに、将来、決算資料の押収が解かれるなどすることによつて決算の誤りが判明したときは、右各申告書を基礎としつつ修正申告や更正の請求等の所定の手続をとることをも意図していたことが明らかである。昭和四七年度分の申告書に「仮」と表示されていること及び前記添付書が添付されていたこと並びに昭和四八年度分の申告書について前記添付書が追加わされたことも、右の意味において、将来の修正申告や更正の請求等の余地があることを予め表明して、概算の決算であるが故に不利益な処分等を受けることのないよう慮つたものにすぎないとみることができ、これをもつて申告意思を伴わない申告であるとか条件付の申告であると解さなければならないものではない。そうして、右の趣旨で右各申告書を提出することは、控訴人側の教示の趣旨とも合致するものであり、この点において被控訴人と控訴人との間に真意の喰い違いがあつたわけではないことも明らかである。現に、控訴人及びその上級官庁である大阪国税局長は、右各申告書を適法な確定申告書として受理し、これによつて各年度における被控訴人の法人税額が確定したものとして扱い、被控訴人が右各申告書を提出するについて意図したことを越えるなんらの不利益な処分、取扱いをしていないのである。

そうすると、右各申告書の提出は、いずれも、被控訴人が当該年度分についての法人税の確定申告をする意思に基づいて適式にしたものであり(前記のような概算の決算に基づく確定申告も法の許容する適法な申告とみうることは、国税通則法施行令六条一項三号の規定に照らして明らかである。)、控訴人においてもこれを右の趣旨の申告書として受理したものということができ、有効な確定申告というべきである。昭和四七年度分について、法人税法上は存在しない「仮申告書」の表示が付されていることをもつて、これを無効のものと解すべき理由もない。

四  なお、被控訴人は、右各申告書が確定申告にあたらない旨、縷縷主張するが、その当をえない理由を念のため若干付言する。

1  被控訴人は、各申告書に還付金額やその受取銀行名を記載したのは、当該用紙に所定の記載欄があつたから記載したのにすぎないと主張し、<証拠省略>にこれに副うかの部分があるが、右証言をもつてしても、被控訴人が税額確定の意思がなく還付金の還付を受ける意思もなかつたとまで認めるに足りないうえ、前認定の還付金の還付手続の経緯に照らすと、右主張はとうてい採るに足りない。

2  被控訴人は、各申告書の提出とともに、申告期限延長申請却下決定に対して異議申立をしており、そのことは控訴人も知つていたと主張する。しかし、昭和四七年度分についてみると、被控訴人が申告書を提出したのが昭和四八年一〇月一日であるのに、異議申立をしたのは同年一一月二七日であるから、申告書の提出が異議申立と矛盾するというのはあたらないし、申告期限延長申請却下決定に対して異議申立をしても、これに対する異議決定があるまでに申告期限が到来する場合においては、無申告による不利益を免れるために(異議申立が却下されるかも知れない事態に備えて)とりあえず確定申告をすることもありうることであるから、申告書提出の際に異議申立の意向を有しこれを準備していたからといつて、右申告が申告意思を欠くものと断ずることはできない。まして、被控訴人は、右異議申立をするまでの間に、右中告書に基づいてなされた還付金額の還付、充当について不服はなかつたのである。また、昭和四八年度分についても、確定申告書を提出したのが昭和四九年五月三一日であり、異議申立をしたのは同年六月七日であるから、両者が当然に矛盾するということはできないし、右申告書の体裁も「確定申告書」そのものであり、いわゆる添付書も同時に添付されていたわけではない(右添付書は異議申立と同じ日に追加されたにすぎない。)から、その提出時点において適式、有効な確定申告書として受理することになんらの支障もないところである。

3  被控訴人は、控訴人において本件各申告書を確定申告として扱つていなかつたと主張する。

なるほど、昭和四七年度分の申告書を受理した後の昭和四九年三月一日に、控訴人が被控訴人の異議申立を容れて、先にした申告期限延長申請の却下決定を取り消して新たに申告期限を指定したことは、前認定のとおりであり、また、<証拠省略>によると控訴人が昭和四九年六月二一日に至つて被控訴人に対し昭和四七年度分の「仮申告書」が確定申告書なのか単なる参考資料なのかを問い合わせたことが認められ、これらの事実によると、控訴人は右申告書を確定申告として扱つていなかつたとみられるふしがある。若し、これを適式な申告として受理しているのであれば、前記異議申立は当然却下されるべきであるのに、これらを認容したり、問い合わせをしたことは、明らかに矛盾する処分、取扱であり、この点控訴人側の態度にも動揺がみられ、曖昧で無益な争いの種を提供したものと非難されてやむをえないところである。(もつとも、そのために被控訴人が格別の不利益を受けたわけではない。)

しかしながら、本件のように申告納税方式がとられている法人税については、原則として納税者のする申告により租税債務の具体的内容たる税額が確定するものであるから(国税通則法一五条、一六条)、これが一たん申告、受理の段階で確定した以上、最早その効果を恣意的に左右することは許されないものと解すべきところ、問題の昭和四七年度分については、控訴人においてこれを受理したうえ、大阪国税局長に徴収手続を引き継ぎ、同国税局長において既に申告どおりの中間納付金還付の手続を完了しているのであるから、少くとも、控訴人が右申告書を受理した時点では、これを確定申告として取り扱つていたことが明らかであり、しかも、その後(申告受理から半年近くも経過後)一時は前記のような矛盾した処分に及んだことがあるにせよ、結局本件各処分に対する異議申立の審理段階においては、既に申告済みであるとの認識、判断のもとにこれを不適法として却下していることなど前後一連の経緯からすれば、単に上記処分があつたが故に控訴人が「仮申告書」を確定申告として扱わなかつたものとみることはできない。まして、この点が被控訴人の申告意思の有無を左右するわけのものでもない。また、上記問い合わせの趣旨も必ずしも明らかではないが、その時期的関係等から推測すると、むしろ、被控訴人の本件各処分に対する異議申立を審理、判断するうえでの参考資料として、本人の意見を聴取したにすぎないとみるべきであるから、右問い合わせの存在も前記の認定判断を左右するに足りない。

4  <証拠省略>によれば、被控訴人は昭和四九年九月一三日頃(本件各処分に対する異議申立却下の後)、控訴人に対し、本件各申告書を確定申告として処理したのかどうかを問い合わせていること、<証拠省略>によると、和歌山県税事務所及び和歌山市長は、本件申告書が仮決算に基づく申告であつたとして昭和四八年度分の県税及び市税についての処分を取り消していること、<証拠省略>によれば、国税不服審判所長は、昭和五一年八月一八日、被控訴人の昭和四四年度ないし同四六年度法人税更正処分等に対する審査請求について、刑事事件の審理の経過をまつて最終的に処理する旨、不作為理由の開示をしていること、等の諸事実が認められるけれども、右各事実は、いずれも前記認定、判断を左右するに足りるものとは認められない。

五  以上のとおりで、被控訴人の昭和四七年度分及び昭和四八年度分の法人税の確定申告は、既に被控訴人みずからの行為によつて申告ずみであるから、被控訴人は、もはや、本件各処分の取消によつて回復すべきなんらの利益も有しないといわなければならず、この点に関する控訴人の本案前の主張は理山があり、本件訴えは訴えの利益を欠くものとして、却下を免れない。

よつて、被控訴人の請求を認容した原判決は失当であるからこれを取り消して、本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白井美則 永岡正毅 友納治夫)

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