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大阪高等裁判所 昭和53年(う)1270号 判決 1978年6月29日

本籍

京都市上京区小川通丸太町上る上鍛治町三二九番地

住居

京都市中京区竹屋町釜座西入る指物屋町三六五番地

会社役員

深田修作

昭和一二年四月三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五二年九月二〇日京都地方裁判所が言渡した判決に対し、被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 丸谷日出男 出席

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一〇月及び罰金一、〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは全一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は弁護人佐賀義人作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、控訴趣意中事実誤認の主張は当公判廷において撤回する旨陳述した)。

論旨は原判決の量刑不当を主張するものであるが、所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実取調の結果を参酌して案ずるに、本件犯行の動機、態様ことに昭和四六年度から昭和四八年度まで三年間にわたり、たな卸金額の一部除外や仕入を水増等により所得の一部を秘匿し過少の所得金額、所得税額の申告をすることによって所得税のほ脱額は合計約一億円に達していたことなどの事情をみると、原判決の刑もあながち首肯できないわけではない。

しかしながら、本件発覚後は卒直に国税当局の調査に応じ修正申告を行い差額所得税は、個人資産のすべてを処分して原審時既に完済しており、重加算税、延滞税、過少申告加算税合計三千七〇〇万円余及び住民税一千六百万円余も当局の温情ある得計らいにより遅滞なく分割納付を継続してきているが、当審時で未だ前者については、三千百万円余、後者については一千四百万円余を残していること、被告人は昭和四九年一月二三日個人営業を法人営業に改め、以後会社から月給をもらって生活し、そのうちから右税金を分割納付しているが、会社は現今の経済不況のもと苦しい経営を余儀なくされているためいつまでも高給を得ることは困難な状態にあること、ほ脱した金員は大部分営業を運営するため在庫商品等の形で残っているものであること、被告人には前科前歴がないこと、反省も深く、再犯のおそれはないこと、その他記録にあらわれた諸般の事情を考慮すると原判決の刑は重過ぎると考えられる。論旨は理由がある。

よって刑事訴訟法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書によりさらに判決する。

原判決認定の事実にその挙示の各法案を適用して、主文のとおり判決する

(裁判長裁判官 矢島好信 裁判官 山本久己 裁判官 久米喜三郎)

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