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大阪高等裁判所 昭和53年(う)699号 判決 1978年10月17日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役二年六月に処する。

押収してあるビニール袋入りチリ紙包み覚せい剤粉末一包(当庁昭和五三年第三二二号の三)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、検察官桑野熊之祐作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、要するに、原判決の被告人に対する量刑は、刑の執行を猶予した点において著しく軽きに失し不当である、というのである。

そこで、所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実調べの結果をも併わせ検討するに、本件は、被告人が、営利の目的で楠木元明から麻薬(いわゆるヘロイン、但し小麦澱粉が混在するもの)二八グラム余を譲り受けたうえ同目的でこれを宮本義廣に譲り渡し、さらに覚せい剤粉末二・七グラム余を所持したという事案であつて、各犯行の動機、態様、罪質、本件事犯における被告人の果した役割、本件関係人の間における地位、ことに麻薬事犯については、その取扱数量も相当の量であること、被告人が本件麻薬事犯を犯すに至つたのは、麻薬や覚せい剤を扱つて金儲けをしようと考え、楠木元明が外国から麻薬や覚せい剤の密輸入を企図していると聞いて、同人に積極的に接近していつたことによるものであること、さらには本件当時における被告人の生活態度、本件関係人との交際関係、並びに、麻薬(ヘロイン)の社会に及ぼす害悪の重大性、その他諸般の事情に徴すると、犯情は重く、被告人の刑責は決して軽視することができないものといわなければならないのであつて、被告人が本件麻薬事犯の犯行により結局、利益を得るに至つていないことや、本件の麻薬、覚せい剤がそれぞれ宮本義廣、被告人によつて警察へ提出され押収されていること、被告人には交通事犯による罰金刑以外の前科がないこと、家庭の状況その他被告人のために斟酌すべき諸点を十分考慮しても、本件はたやすく刑の執行を猶予してしかるべき事案とは認めがたい。その意味で原判決の量刑は軽きに過ぎ、これを是正する必要があるものと認められる。論旨は理由がある。よつて、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八一条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書により更に判決する。

原判決が認定した判示第一、第二の事実はいずれも麻薬取締法第六四条の二、第二項、第一項、第一二条第一項に、同第三の事実は覚せい剤取締法第四一条の二、第一項第一号、第一四条第一項に、各該当するので、前者についてはいずれも懲役刑のみを科することとするが、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、刑の重い罪のうちで犯情の重いと認める原判示第二の罪の刑に同法第一四条の制限に従つて法定の加重をなし、その刑期範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、押収してあるビニール袋入りチリ紙包み覚せい剤粉末一包(当庁昭和五三年押第三二二号の三)は、原判示第三の罪に係るもので、被告人が所持し、被告人以外の者の所有に係るものとは認められないから、覚せい剤取締法第四一条の六によりこれを没収することとする。

よつて、主文のとおり判決する。

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