大阪高等裁判所 昭和53年(く)104号 決定 1978年12月07日
少年 R・S(昭三四・一〇・八生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、少年作成の抗告申立書記載のとおりであるが、その要旨は、少年は本件非行事実について警察に自首したのに、中等少年院送致をした原決定は不当に重過ぎる、というのである。
そこで、本件保護事件記録及び少年調査記録を精査し、原決定の当否について検討するに、少年は、小学一年生の時に父母が離婚したため実母と生別し、実父と三年後に迎えた継母の手で養育されたが、小学六年生の時に窃盗を犯して補導され、さらに中学二年生から三年生にかけて窃盗、恐喝、暴行、強盗などの非行を次々と重ね、試験観察及び鑑別所収容を経て、中学卒業後間もない昭和五〇年六月一七日保護観察処分決定を受けたものの、同年一〇月頃から喫茶店のバーテン見習として働くうち、やくざ風の男に誘われて好寄心から覚せい剤の注射をするようになり、右保護観察期間中の昭和五一年一二月一七日と昭和五三年二月二四日の二回にわたり、いずれも覚せい剤取締法違反(覚せい剤の自己使用)の非行(但し、後者は傷害との併合事件)により不処分決定を受けたこと、とりわけ、あとの不処分決定の事案は、昭和五二年五月一八日京都家庭裁判所に係属し、同日少年を鑑別所に収容したうえ調査を遂げた結果、その非行深度や心身の状況から収容保護も十分考えられたものの、いま一度自力による更生の機会を与えるため、同年六月六日屋根葺業を営む親戚の許で働くことを条件に一旦試験観察に付されたものであるところ、少年は、その翌日自宅を出たまま行方を晦まし、しばらく堺市方面で気ままな生活を送つたあと、同年九月中旬頃松阪市に住む実母の許を訪れ、その情夫の営む金融業を手伝うようになつて、以後ようやく少年の生活に安定化の兆しがみえはじめたため、右試験観察決定直後の少年の行状はその段階で少年院送致の処分を相当とするものであつたけれども、現状ではその時機を失しており、むしろ少年に在宅処遇による最後の更生の機会を与えようとの配慮のもとに、担当裁判官等において特に少年の今後を厳しく戒しめたうえで不処分決定にしたものであること、しかるに少年は、その後一か月も経たないうちに実母の許を離れ、京都市内で喫茶店のバーテン見習をするうち、その喫茶店経営者と親戚関係にあたる暴力団会津小鉄会系○○組○○○○方事務所に出入りするようになり、同年一〇月初め頃には左肩に文身を入れ、その頃から再び覚せい剤を使用し、本件によつて逮捕されるまでの一か月足らずの間に五〇回近くもこれを注射していたこと、少年の性格は発揚軽佻的で快楽追求的な行動によつて不満不快の短絡的な解消を図り、対人接触を求めてその中で自己顕示欲を充たそうとするが、社会的にも精神的にも未熟で主体性がなく、規範意識や社会的責任感を欠いているため、社会的適応能力が低く、法軽視の利己的な生活に馴染んで不良集団に接近する傾向がみられ、また内省力にも乏しく、一応反省の色は示すものの、その内容は極めて稀薄で一時的なものに止まつていることが認められる。
右に認定した少年の生活歴、非行歴、性格などに鑑みると、少年の非行度は相当に進んでおり、今後その性格や生活態度を改め社会への健全な適応能力を身につけさせるためには、これまでよりも一層強力でかつ適切な指導体制を整える必要があると考えられるところ、前記の本件各記録によれば、少年は、中学生時代から再三家出をするなど、実父と継母との家庭に安住せず、また義母との折合いもよくなく、家庭に帰ることを積極的に望んでいないし、右保護者らも、これまでの少年の行動を十分把握しておらず、すすんで少年を引き取つて自らの手で監督するだけの意欲も自信も有していないことが認められるのであつて、その保護環境は、少年の更生に必要と考えられる右のような指導体制にはほど遠いものといわなければならない。
以上のような諸事実を併せ考えると、この際少年の健全な育成を期するためには、少年を施設に収容し、不良集団や覚せい剤から隔離するとともに、規律ある環境のもとで専門的な矯正教育を施すことにより、健全な人格の形成と社会的適応能力の涵養を図るのが最も妥当な措置であると考えられるから、少年を中等少年院に送致した原決定は相当であつて、所論のように不当に重過ぎるとは認められない。
なお、本件保護事件記録によれば、所論のとおり本件非行事実について少年が警察に自首したことが認められるが、前記認定事実によると、少年は社会性や内省力の乏しさから過去の反省を生かしえないまま今日に至つたもので、その性格傾向は今なお改善されていないばかりか、本件少年調査記録によれば、右自首の動機の一端には、少年が覚せい剤に耽溺していることにつき、かねて交際のあつた暴力団仲間から見離されて惨めな気持になつたということもあるやに窺われ、これらの事実を勘案すると、右自首の事実は、今後の矯正教育を施すうえでの有力な手がかりとして評価することはできるが、未だ原決定を不相当とするほどの事情とまでは認めることができない。論旨は理由がない。
その他記録を精査してみても、原決定には違法、不当の瑕疵はない。本件抗告は理由がない。
よつて、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 矢島好信 裁判官 山本久巳 谷村允裕)