大阪高等裁判所 昭和53年(く)96号 決定 1978年11月09日
少年 K・E子(昭三九・三・二二生)
主文
原決定を取消す。
本件を和歌山家庭裁判所に差戻す。
理由
本件抗告の趣意は、抗告人連名作成の抗告申立書に記載のとおりであるからこれを引用する。
論旨は、少年を初等少年院(一般短期)に送致した原審の処分は著しく不当であるというのである。
そこで記録を調査し、抗告申立書添付のK・K、K・S子連名、○○○○、○○○○作成の各上申書、○○○○、○○○○、○○○○作成の各意見書及び○○○○作成の各要請書をも参酌して検討するに、本件非行は単純な窃盗七件と第二種原動機付自転車の無免許運転にすぎず、少年の非行が保護事件として家庭裁判所に係属するのも初めてのことであるとはいえ、少年は約一年前からシンナー遊び、喫煙、性交の経験もあり、年長の不良青少年との交友も多く、家出、無断外泊を繰り返えすなどその生活態度の崩れは大きく、昨年六月の初発非行以来児童相談所並びに学校当局等の指導にもかかわらず、その成果は見られず、かえつて非行性が強まりつつあるうえ、保護者の監護能力も極めて不充分であることに徴すれば、少年の矯正には容易ならざるものがあると考えられ、この際少年を初等少年院(一般短期)に送致し、専門家の指導にゆだねるのが相当であるとした原審の処分もあながち首肯し得ないものではないが、幸い少年の知能は普通で、性格的にも大きな偏りはなく、鑑別所での行動観察記録をみても未だ素直さを失つていないとみられるので、少年の矯正には、先ず生活の乱れを正し、自律と更生の意欲を持たせることが最も肝要であり、そのためには充分な指導監督が不可欠ではあるが、それが期待できればなお在宅保護の余地も残されていると考えられるところ保護者の監護能力に問題があること前記のとおりであるが、保護者はこれまでも必ずしも少年の監護に無関心から放任してきたものではなく、監護の方法が分らず、結果的に放任状態になつていた面が強いようにもうかがわれ、この点について親族の者も理解し、今後は保護者に対する指導監督に意を用い、相談相手になるよう努める旨申出ており、また学校当局は少年に対する従前の指導の不充分を反省し、全教職員の総意として、本少年の放課後における学習並びに生活指導について具体的かつ強力な方策をたて、今後の指導に強い熱意を示しており、町教育委員会並びに地域住民も保護者、学校と協力して積極的に少年の指導にあたる旨誓約しているなど少年を受け入れるべき保護環境は従前よりはるかに改善されていることが認められる。確かに問題は少年がこれをどう受けとめるかにかかつており、過去約一年間に亘る児童相談所及び学校の指導がほとんど成果をあげ得なかつたこと、あるいは遅刻欠席のはなはだ多い少年の最近の就学状況等からみて相当の不安が残ることは否定できないが、少年自身は学校は楽しいと言つて未だ学校生活そのものを嫌う態度は示しておらず、鑑別所入所後学校教師らの働きかけもあつて現在復学の期待が強く、高校進学の希望をもつていることなどの諸事情を勘案すれば、この際は保護者、親族、学校、教育委員会、地域住民の一致した熱意に期待して、在宅保護を試みるのが相当であり、今直ちに少年を初等少年院に送致しなければならないものとは考えられない。論旨は理由がある。
よつて少年法三三条二項により原決定を取消し、事件を和歌山家庭裁判所に差戻すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 瀧川春雄 裁判官 吉川寛吾 西田元彦)