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大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)1415号 判決 1982年5月19日

控訴人

細川芳雄

右訴訟代理人

川村寿三

川村享三

下村末治

三瀬顕

野間督司

近藤正昭

被控訴人

サンレーザー協同組合

右代表者代表理事

川口正康

右訴訟代理人

中川正夫

主文

控訴人の本件控訴及び当審における予備的請求を棄却する。

当審における訴訟費用は全部控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2(主位的請求)

昭和五三年一月一四日姫路市四郷町上鈴二〇〇番地所在川口皮革合名会社事務所において開催された被控訴人の組合員臨時総会(以下、本件臨時総会という。)における左記決議(以下、本件決議という。)は存在しないことを確認する。

(一) 小野重勝、川口正康及び石井剛の三名を理事に、川口文雄を監事に選任する旨の決議。

(二) 経営事務専業者を委嘱し、その人選を理事会に一任する旨の決議。

3(予備的請求)

本件臨時総会における本件決議が無効であることを確認する。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決

二  被控訴人

主文同旨の判決

第二  当事者双方の主張

一  控訴人の請求原因

1  被控訴人は、組合員たる製革業者の製革工程の集約化などの共同作業を行うことを目的として、中小企業等協同組合法(以下、中協法と略称する。)に基づき昭和四九年八月二二日に設立された協同組合であり、控訴人はその組合員である。

2  被控訴人は、昭和五三年一月一四日に本件臨時総会を開催し、同総会において本件決議をしたとして、同年二月一〇日に代表理事の就任登記を経由している。

3  しかしながら、本件臨時総会は、次に述べるとおり、招集権限のない者によつて招集されたもので、有効な総会として成立しえないから、同総会でなされた本件決議は法律上不存在というべきであり、仮に存在するとしても無効というべきである。

すなわち、

(一) 被控訴人の組合員数は当初一〇名として発足したが、昭和四九年七月一五日の創立総会において、控訴人が代表理事に、小野重勝が専務理事に、細川和博(控訴人の子)が理事に、川口文雄が監事にそれぞれ選任された。右各役員の任期はいずれも第一回通常総会開催の日までとされていたが、その後も右四名の役員は引続きその地位に留まつていた。

(二) 被控訴人の定款によると、総会の招集権者は代表理事と定められている(定款三五条)ところ、小野重勝は、昭和五二年一一月二二日兵庫県知事に対し、中協法四八条に基づく総会招集承認申請をなし、同年一二月一七日同知事より右の承認を受けたうえ、自己の名をもつて組合員に本件臨時総会招集通知(同月二一日付)をし、昭和五三年一月一四日本件臨時総会を開催し、同総会において本件決議がなされた。

(三) しかしながら、中協法四八条に基づく総会招集の手続は、組合員たる資格を有する者のみがこれをなしうることはその法文上明らかであるところ、小野は右の当時被控訴人の組合員たる資格を有しなかつた。すなわち、

(1) 組合員は一口以上の出資義務を負うものと定められている(中協法一〇条、定款一〇条、二〇条、二一条)が、小野は右の出資義務を履行していないから、未だ被控訴人の組合員資格を取得していない。

(2) 仮に、小野が一旦被控訴人の組合員資格を取得したとしても、同人は、昭和五一年一一月一五日被控訴人に対し組合脱退の届出(以下、本件脱退届という。)をしたから、昭和五一事業年度の末日である昭和五二年三月三一日限りで組合員の資格を喪失した(中協法一八条、定款一二条、五〇条)。

(四) したがつて、小野がなした本件臨時総会招集の手続は、その権限を有しない者がなしたものであるから、有効な総会として成立しえないというべきである。

4  よつて、控訴人は、主位的に本件決議の不存在の確認を求め、予備的に右決議が無効であることの確認を求める。

二  請求原因に対する被控訴人の認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3のうち、(一)、(二)の事実並びに(三)のうち中協法四八条の総会招集手続は組合員資格を有する者のみがなしうるものであること、及び小野が昭和五一年一一月一五日に本件脱退届をなしたことは認めるが、その余の事実及び主張は争う。

三  被控訴人の抗弁

本件臨時総会は、中協法四八条に基づいて適法に招集されたものであるから、同総会でなされた本件決議は有効である。すなわち、

1  小野は、被控訴人組合の設立に際し、出資二口(二〇万円)の払込を了してその組合員資格を取得した。

2  小野が昭和五一年一一月一五日に本件脱退届をしたことは事実であるが、右脱退の効力は控訴人主張のとおり昭和五二年三月三一日の経過をもつて生ずべきものであるところ、小野は、右効力発生前の同年三月二四日到達の書面をもつて被控訴人(具体的には当時の代表理事であつた控訴人)に対し、右の脱退届を撤回する旨の意思表示(以下、本件撤回の意思表示という。)をしたから、本件脱退届は結局その効力を生じなかつた。

3  前記請求原因3(二)記載の兵庫県知事に対する総会招集承認申請に先立つ昭和五二年一〇月二九日頃、小野は、中協法四七条二項に従い、組合員である川口文雄及び川口正康と連名で、次のような記載内容の書面(乙第三号証)を被控訴人理事会に提出して総会の招集を請求した。

「(一) 会議の目的たる事項

役員改選の件及び経営事務専業者委嘱承認の件

(二) 招集の理由

去る昭和五二年五月七日臨時総会が開催されましたが、途中理事長病気発作により議事進行は不適当ということで同総会は流会となりました。当然近日中に再招集がなされるものと期待していましたが、五か月も経過するも未だ総会の招集がありません。よつて、中協法四七条二項によつて組合総会を招集されるよう催告します。」

しかるに、当時の代表理事であつた控訴人は、なんら総会招集の手続をとらなかつたので、小野は、中協法四八条に基づき、同年一一月二二日前示の知事に対する承認申請をなすに至つたのである。

四  抗弁に対する控訴人の認否

1  抗弁1の事実は否認する。

2  同2の事実のうち、小野が昭和五二年三月二四日到達の書面をもつて本件撤回の意思表示をしたことは認めるが、その効力は争う。本件脱退届のごとく、表意者の一方的意思表示によりその効果が発生する場合には、右の意思表示が相手方に到達した後はもはやその撤回は許されないものと解すべきである(民法四〇七条二項、七八五条、九一九条一項等参照)。

3  同3の事実のうち、川口文雄及び川口正康の組合員資格は否認するが、その余の事実は認める(ただし、乙第三号証中に招集の理由として記載されているところは虚偽の事実である。)。右の両名は、小野と同様出資義務を履行していない。

五  控訴人の再抗弁

1  仮に、一般論として脱退届の撤回が許されるとしても、小野がなした本件撤回の意思表示は、信義則ないしは禁反言の原則もしくは公序良俗に反し無効であり、また、権利の濫用として許されない。すなわち、

(一) 被控訴人は、その事業資金として、兵庫県から六億二〇〇〇万円余りの中小企業高度化資金の貸付を受けたほか、商工組合中央金庫からも三〇〇〇万円の融資を受けていたが、小野を含む前示の役員四名(理事三名と監事一名)は、右の借入金について個人として連帯保証をした。

(二) しかるに、小野は、代表理事であつた控訴人に不正があるとして本件脱退届(甲第三号証)を提出したものであるが、その書面には、「(1)組合設立後二年間に再三にわたり代表理事たる控訴人に決算及び融資を受けた内容とその使途につき報告を求めたが回答がない。(2)定時総会、理事会その他組合がなすべき所定の手続が一切なされていない。(3)右状態が続くときは、組合員はもとより組合員外の第三者、利害関係人に対し理事の責任を負うことができず、組合員たる価値がない。右の理由により理事を辞任し組合を脱退するが、万一控訴人において右各号について善処の意思がある場合には、小野において十分確信できる資料を提出いただき、その履行を約束された場合には、本書到達後五日以内にかぎりこの届を撤回することを考えている。右の返答がない場合は、この届を受理されたものと解するので、関係官庁への諸届はもとより、兵庫県商工部及び商工組合中央金庫よりの融資に対する小野個人の保証を速やかに解除するよう手続されたい。」との記載がある。

(三) 右の記載の趣旨からすると、小野は、右書面到達後五日以内に右申入事項について控訴人から誠意のある回答がなければ確定的に組合から脱退し、もはやこれを撤回しないことを表明したものというべきであり、したがつて、控訴人が右の申入に対してなんらの回答もしないまま四か月余りが経過した昭和五二年三月二四日に至つてなされた本件撤回の意思表示は、前記の記載内容に反するものであるから、信義則ないしは禁反言の原則に照らして無効というべきである。

(四) また、前記の事実経過から明らかなように、小野は、自己の保証債務の免除を得るために本件脱退届を提出するという挙に出たものの、これをもつてしても右の目的が達せられないと知るや、さらに追求の手を緩めず、本件撤回の意思表示に及んだものであつて、このような一連の行為からすると、右の撤回行為は公序良俗に反するものとして無効であり、また、権利の濫用にあたり許されないものというべきである。

2  仮に、右の主張が理由がないとしても、本件撤回の意思表示は、次の理由により無効であり、もしくは失効した。

(一) 本件撤回の意思表示を記載した書面(甲第二七号証)には、「昭和五一年一一月一五日御着郵便局第三八九号内容証明郵便をもつて貴組合の理事辞任並びに組合脱会の届をしておりましたが、未だこれに対する回答がなく、兵庫県商工部等の融資に対する連帯保証の免除が未だ許されていませんので、これがあるまで右届を撤回いたしたく、この旨申し出ます。」

との記載がある。

(二) 右の記載の趣旨は、本件撤回の意思表示の効力の消滅を連帯保証債務の免除という条件(解除条件)にかからしめたものと解すべきところ、右のような条件を付した撤回の意思表示は不可能なことを目的とする法律行為であるから無効である。仮にそうでないとしても、本件撤回の意思表示のように相手方のある単独行為は条件に親しまない法律行為というべきであるから、右撤回の意思表示は無効である。

(三) 仮に、本件撤回の意思表示が解除条件付意思表示として有効であるとしても、小野は、昭和五二年一〇月二二日までに前記の連帯保証債務全額について免除を受けたから、同日右の条件は成就し、本件撤回の意思表示はその効力を失つた。

六  再抗弁に対する被控訴人の認否

1  再抗弁1の(一)、(二)の事実は認める、(三)のうち控訴人が小野の申入に対してなんら回答しなかつたことは認めるが、その余の事実及び主張は争う、(四)の事実及び主張は争う。

2  同2の(一)の事実は認める、(二)の主張は争う、(三)のうち、小野が昭和五二年一〇月二二日までに連帯保証債務全額について免除を受けたことは認めるが、その余の主張は争う。

本件撤回の意思表示の趣旨は、保証債務の免除があるまでは確定的に脱退届を撤回し、脱退するかどうかは右の免除がなされてから改めて考えるというものである(乙第二号証参照)から、解除条件を付したものということはできない。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因1、2の事実(被控訴人は、組合員たる製革業者の製革工程の集約化などの共同作業を行うことを目的として、中協法に基づき昭和四九年八月二二日に設立された協同組合であり、控訴人はその組合員であること、被控訴人は、昭和五三年一月一四日に本件臨時総会を開催し同総会において本件決議をしたとして、同年二月一〇日に代表理事の就任登記を経由していること)は当事者間に争いがない。

二そこで、本件決議が不存在もしくは無効であるかどうかについて判断する。

1  被控訴人の組合員数は当初一〇名として発足したが、昭和四九年七月一五日の創立総会において、控訴人が代表理事に、小野重勝が専務理事に、控訴人の子である細川和博が理事に、川口文雄が監事にそれぞれ選任され、以来右の四名の役員がその地位に留まつていたこと、被控訴人の定款三五条によると総会の招集権者は代表理事とされているところ、小野は、昭和五二年一一月二二日兵庫県知事に対し、中協法四八条に基づく総会招集承認申請をなし、同年一二月一七日右の承認を受けたうえ、自己の名をもつて本件臨時総会招集通知(同月二一日付)を組合員に送付し、昭和五三年一月一四日に本件臨時総会を開催し、その席上で本件決議がなされたこと(以上、請求原因3(一)、(二)の事実)、右の知事に対する総会招集承認申請に先立つ昭和五二年一〇月二九日頃、小野は、中協法四七条二項に従い、川口文雄及び川口正康と連名で、被控訴人が主張するとおりの記載内容の書面(乙第三号証)を被控訴人理事会に提出して総会の招集を請求したこと、しかるに、当時の代表理事であつた控訴人はなんら総会招集の手続をとらなかつたので、小野は前示の知事に対する承認申請をなしたものであること(以上、抗弁3の事実)は当事者間に争いがない。

2  ところで、中協法四七条二項及び四八条に規定されている総会招集請求権等の権利は、いずれも組合員たる資格を有する者のみに認められた権利であることは、その法文自体から明らかである(この点については当事者間に争いがない。)ところ、控訴人は、まず、前示のように右の権利を行使した小野(及び川口文雄、川口正康)は、出資義務を履行していないから、被控訴人の組合員資格を取得していないと主張する。

しかしながら、<証拠>によると、被控訴人組合は、出資一口の金額一〇万円、出資の総口数二〇口とし、これを控訴人、小野、川口文雄、川口正康ほか六名(合計一〇名)の者が各二口宛引受けることとして設立準備がなされ、設立登記に先立ち発起人代表者であつた控訴人が右一〇名分の引受額二〇〇万円を一括して払込んだことが認められ、右事実によれば、控訴人はもとより、それ以外の九名についても控訴人の立替払により各人の引受けた出資全額の払込がなされたものと認めることができる(控訴人が個人として右の立替払により右の者らに対して求償権を行使できるかどうかは別論である。)。

<証拠判断略>

右に認定した事実によると、小野、川口文雄及び川口正康の三名は、いずれも被控訴人組合の設立に際してその組合員資格を取得したものということができるから、控訴人の前記主張は採用できない。

3  次に、控訴人は、小野は脱退により被控訴人の組合員資格を喪失したと主張するので判断する。

(一)  小野が昭和五一年一一月一五日に被控訴人(具体的には当時の代表理事であつた控訴人、以下同じ)に対し組合脱退の届出(本件脱退届)をしたこと、中協法一八条、定款一二条、五〇条によると右脱退の効力は昭和五一事業年度の末日である昭和五二年三月三一日の経過をもつて生ずることになること、及び小野は、同年三月二四日到達の書面をもつて被控訴人に対し、右の脱退届を撤回する旨の意思表示(本件撤回の意思表示)をしたことは当事者間に争いがない。

(二)  控訴人は、まず、本件脱退届のように表意者の一方的意思表示によりその効果が発生する場合には、右意思表示が相手方に到達した後はもはやその撤回は許されないものと解すべきであると主張する。

そこで、考察するのに、中協法一八条一項には「組合員は、九〇日前までに予告し、事業年度の終において脱退することができる。」と定められているが、その規定の趣旨は、一方で組合員の意思表示のみによる自由脱退の原則を具体的に定めるとともに、他方で、無制限に随時脱退を認めるときは、組合はその都度持分の払戻(中協法二〇条)を余儀なくされることになつて当該年度の事業計画の遂行に支障をきたし、ひいては取引の相手方の保護に欠けることにもなるなどの点を配慮し、脱退しうる時期を画一的に事業年度の終に制限し、かつ、一定の予告期間をおくことを定めたものと理解することができる。そして、右にいう「脱退の予告」とは、一旦これがなされたときは、当該事業年度の終において、改めて脱退の意思表示を要することなく当然に脱退の効力を生ずる性質の意思表示であると解すべきであり(したがつて、右の予告は、一種の法定期限付の脱退の意思表示ということができる。)、そしてまた、右のような予告の趣旨が明示されていない単なる脱退の意思表示(「今すぐ脱退する」といつた趣旨のもの。本件脱退届もこれに当る。)であつても、同意思表示は、右の予告の性質を有するものとして有効と解すべきである。

以上のとおりだとすると、右のような脱退の予告(いわゆる脱退届)が一旦有効になされた後当該事業年度の終が到来し脱退の効力が確定的に生じた以後においては、もはや右の予告を撤回する余地はないものと解せざるをえないのであるが、右脱退の効力が生じる以前の段階においては、右の予告を撤回することが信義に反すると認められるような特段の事情がないかぎり、原則として自由にこれを撤回しうるものと解するのが相当である。けだし、右の予告は、前叙のところからも明らかなように、期限(予告期限)到来の以前においては当事者間になんらの権利変動を生じさせるものではないうえ、前示の中協法一八条の立法趣旨(同条に定める任意脱退の規定は、もつばら組合員個人の利益のために認められたものであつて、組合自体としては右の脱退により法律上格別の利益を受けるものではない。)からすると、右のような予告がなされたことにより組合自体がなんらかの期限付権利(期待権)と観念されるような権利ないしは利益を取得する余地はないものというべきであるから、その撤回を許したからといつて相手方たる組合もしくは第三者に格別の不利益を及ぼすことにはならず、そうである以上、撤回を認めることが、中協法の基木原理である組合員の自由加入・自由脱退の原則(同法五条一項二号)にも合致すると思われるからである。控訴人の引用する民法四〇七条二項等の規定は、いずれも意思表示の効力が直ちに発生する場合の定めであるから、本件に適切でなく、右の解釈の妨げとはならない。

したがつて、控訴人の前記主張は採用できない。

(三)  次に、控訴人は、本件撤回の意思表示は信義則ないしは禁反言の原則もしくは公序良俗に反し無効であり、また、権利の濫用として許されないと主張する(再抗弁1。なお、この主張は、「本件脱退届は前示撤回が許されない例外的場合にあたる、すなわち、本件脱退届についてはこれを撤回することが信義に反すると認められるような特段の事情がある。」との主張をも含むものと解することができるので、この点をも合わせ考察することとする。)。

再抗弁1(一)、(二)の事実(被控訴人は、その事業資金として兵庫県及び商工組合中央金庫から合計六億五〇〇〇万円余りの貸付を受けていたが、小野ら役員四名は、右の借入金について個人として連帯保証人となつていたこと、小野は、当時代表理事であつた控訴人に不正があるとして本件脱退届((甲第三号証))を提出したものであるが、その書面には控訴人主張のとおりの記載―その要旨は、「控訴人が右書面到達後五日以内に小野に対して借入金の使途を含む組合の経理内容について納得のいく資料を提出し、総会の開催等組合運営の正常化を約束すれば、この届は撤回するが、控訴人の回答がない場合はこの届を受理されたものと解するので、兵庫県等に対する小野の連帯保証債務を速かに解除されたい。」というもの―があること及び控訴人は小野の右書面に対してなんらの回答もしなかつたこと)は当事者間に争いがなく、右の事実に<証拠>を総合すると、(1)被控訴人組合の設立手続は、県の関係部課等との行政上の交渉手続に明るかつた控訴人が中心となつて推進したものであり、組合設立後においても、代表理事に就任した控訴人が、前示の資金借入についての兵庫県等との折衝、工場建設についての業者との請負契約の締結等同組合の殆どの仕事を一手に引受け、他の組合員らは、控訴人を全面的に信用して同人にこれを任せていたこと、(2)その結果、役員及び一般組合員とも組合意識が希薄で、正規の会計帳簿も作成されておらず、また、組合員総会及び理事会も正式には開催されていなかつたこと、(3)被控訴人の事業用施設である製革工場は昭和五〇年末頃までにほぼ完成し、これに伴つて兵庫県等からの前示六億五〇〇〇万円余りの融資もそのころまでに全額実現されたこと、(4)そのころから、小野及び川口文雄の両名は、自己らが右借入金の連帯保証人となつたこともあつて、組合の経理内容とくに右の借入金の使途について関心を抱くようになり、控訴人に対し度々右の点を明らかにするよう求め、また、定時総会及び理事会等を正規に開くよう求めたが、控訴人は言を左右にしてこれに応じなかつたこと、(5)このようなことから控訴人に対する不信感を強めた小野は、前示のような多額の借入金について連帯保証をしていることに不安を抱き、昭和五一年一一月一五日前示の内容の本件脱退届をなすに至つたものであること、(6)しかるに、小野は、右脱退届の効力が生ずる予定の昭和五二年三月三一日までに右保証債務の免除が受けられる見込がなかつたこと(実際に小野の右債務全額の免除が完了したのは昭和五二年一〇月二二日に至つてである。)と、他の組合員から組合に残つて運営の正常化に向けて努力してほしいとの要望を受けたことなどから、同年三月二四日に本件撤回の意思表示をしたものであること、以上の事実が認められ<る。>

右認定の事実関係からすると、前示の甲第三号証(本件脱退届書)を提出した小野の真意は、一次的には、自己の要求を入れて控訴人が善処することにより組合運営の正常化が実現することを期待したものであり、そして、もし控訴人がこれに応じないときは、二次的には、組合を脱退しこれによつて同時に兵庫県等に対する自己の連帯保証債務の免除を受ける(むしろ、右の保証債務を免れるための手段として組合を脱退する)ことを企図したものであることが推認できるのであり、(当審証人小野重勝の証言中、右保証債務の免除を受けることは期待していなかつたとの供述部分はとうてい措信できない。)、そうすると、右の書面に表示された小野の脱退の意思というのも、脱退の効力が生ずる昭和五二年三月三一日までに組合運営の正常化なり、右保証債務の免除が実現すること(少なくとも免除についての確実な見通しが立つこと)を暗黙の前提としていたものと解するのがむしろ自然であり、控訴人が主張するように、小野が右書面を提出することによつてもはやいかなることがあつても本件脱退届を撤回しないことまでを表明したものとはとうてい認められない。

そしてまた、ことを実質的に考えても、被控訴人(具体的には控訴人)は、本件脱退届が提出されて以後それが撤回されるまでの約四か月余の間において、小野の要求にもかかわらず、同人の連帯保証債務の免除を実現するための格別の努力を払つた形跡は本件証拠上認められない(<証拠>によると、被控訴人が兵庫県に対し連帯保証人変更申請書を提出したのは、昭和五二年五月二八日以後のことと認められる。)から、被控訴人としては右の脱退届が撤回されることによつて格別不利益を受けるものとは思われない反面、もし右の撤回が許されないことになると、小野としては前示の約六億五〇〇〇万円余りという多額の連帯保証債務を負つたまま被控訴人の組合員資格を失うことになり、同人にとつて著しく酷な結果を招くおそれのあることが明らかであるから、このような事情のもとでは、本件撤回の意思表示が小野と被控訴人(ないしは控訴人)との関係において信義に反するものということはできない。

さらに、以上に認定説示したところからすると、小野のなした本件撤回の意思表示を公序良俗に反しまたは権利の濫用にあたるものとして非難することもできないから、控訴人の前記主張はいずれも採用することができない。

(四)  また、控訴人は、本件撤回の意思表示に解除条件が付されていたことを前提に、右撤回の意思表示は無効もしくは失効したと主張する(再抗弁2)。

本件撤回の意思表示を記載した書面(甲第二七号証)に控訴人主張のとおりの記載(その要旨は、小野の兵庫県等に対する前示の連帯保証債務の免除が未だ許されていないので、これがあるまで本件脱退届を撤回するというもの)があることは当事者間に争いがないので、まず、同書面によつてなされた本件撤回の意思表示に付された右のような文言が解除条件にあたるかどうかについて判断するのに、なるほど、右の文言を形式的に観察すると、これを解除条件にあたるものと解する余地がないではないけれども、右の記載に<証拠>をも合わせ考えると、右の記載文言は、「前示連帯保証債務の免除が許されてない現時点では、その免除が許されるまでの間は一応確定的に本件脱退届を撤回し、脱退するかどうかは右の免除があつた時点で再度考え直す(脱退の場合は改めてその旨の意思表示をする。)」との趣旨であつたと認めるのが相当であり、撤回の意思表示の効力自体を連帯保証債務の免除の成否にかからしめる趣旨のものであつたとはとうてい認め難いのである。

したがつて、前示の文言をもつて解除条件にあたるものと解することはできず、他に本件撤回の意思表示に解除条件が付されていたことを認めるに足りる証拠はないから、右解除条件の存在を前提とする控訴人の前記主張は、その余の点について判断を加えるまでもなく、いずれも採用できない。

(五)  以上の次第で、小野の本件脱退の意思表示は、その効力を生ずる前に有効に撤回されたものというべきであるから、同人が脱退により被控訴人の組合員資格を喪失したとする控訴人の主張は理由がないことに帰する。

4  そうすると、小野のなした本件臨時総会の招集手続は、中協法四七条二項、四八条の規定に従つて有効になされたものということができるから、控訴人の主張する本件決議の不存在もしくは無効の事由は、これを認めることができないものといわざるをえない。

三以上の理由により、本件決議の不存在確認を求める控訴人の本訴主位的請求は失当としてこれを棄却すべきであるから、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がなく、また、当審で追加された本件決議の無効確認を求める控訴人の予備的請求も失当として棄却を免れない。よつて、本件控訴及び右の予備的請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(唐松寛 野田殷稔 鳥越健治)

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