大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)1434号 判決 1979年8月10日
控訴人 秦壽一
右訴訟代理人弁護士 川西譲
被控訴人 日本酪農協同株式会社
右代表者代表取締役 橋本光正
右訴訟代理人弁護士 藪野恒明
同 棚野誠幸
主文
原判決を次のとおり変更する。
控訴人は被控訴人に対し、金四四九万九八〇〇円及びこれに対する昭和五三年二月一〇日から支払ずみまで日歩八銭の割合による金員を支払え。
被控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、その一を被控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の申立
(控訴人)
原判決を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決
(被控訴人)
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
との判決
第二当事者の主張
次に付加、訂正するほかは原判決の事実摘示と同一(ただし、原判決三枚目表三行目に「昭和五一年」とあるのを「昭和五〇年」と訂正する。)であるから、これを引用する。
(控訴人)
一 被控訴人主張の請求原因第一項、第三項は認める。第二項中、契約の始期及び援助金契約締結の事実は争うが、その余は認める。第四項ないし第七項は争う。
二 控訴人は、主債務者石丸の商品代金滞納分が次第に増大し、到底支払えるような状態でなくなってきたので、被控訴人に対し、保証人をはずしてもらいたい旨を申し入れ、昭和五二年三月三一日被控訴人の了解を得て本件連帯保証契約を合意解約した。そして、被控訴人は、控訴人が担保として差し入れていた一〇〇万円の定期預金証書を控訴人に返還し、また、同年五月二六日新たに小池道信、小池秀一の両名と保証契約を締結している。
三 仮に合意解約の事実が認められないとしても、牛乳販売はそのほとんどが現金取引であり、被控訴人と石丸間の契約においても、当月分翌月一〇日決済で、支払を怠ったときは取引停止又は契約解除となる旨定められていたのであるから、多額の繰越未払額を生ずる筈はなかったものであり、それにもかかわらず本件のように多額の未払分を生じたのは、被控訴人の代金回収措置に怠慢があったためにほかならないから、右の事情を斟酌して控訴人の保証責任は相当程度減額されるべきである。
(被控訴人)
控訴人の主張二、三は争う。被控訴人が販売店の保証人との保証契約を解除するときは、あらかじめ別に保証人を立てさせ、その資産調査、内部禀議を経て新たな保証契約を締結したうえで従来の保証人に対し文書による保証契約解除の通知をする取扱であるが、本件においてそのような手続がとられたことはない。被控訴人が小池道信及び小池秀一と保証契約を締結したのは、石丸が相当の繰越未払代金を残しながら取引継続を求めたため担保の増加が必要となったことによるものである。また、被控訴人が控訴人の差し入れていた秦勝人名義の一〇〇万円の定期預金証書を返還した事実はあるが、これは、昭和五一年四月ころ同人名義の宅地を担保に差し入れるとの約束のもとに、担保差替えの趣旨で返還したものにすぎない。
第三証拠《省略》
理由
一 当事者間に争いのない請求原因第一項及び第三項の事実に《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 被控訴人は毎日牛乳の商標で牛乳並びに乳製品の加工販売業を営む会社であるが、昭和五〇年八月一日訴外石丸俊朗との間で右製品の継続的売買契約(以下「本件契約」ともいう。)及びこれに付随して援助金契約を締結した。本件契約によると、商品代金については毎月末日締切り、翌月一〇日までに現金をもって持参支払い(契約条項第六条)、右代金の支払を一回でも怠ったときは違約損害金一〇〇万円を即時支払い(第一六条)、売掛金債務及び違約損害金債務の遅延損害金は日歩八銭とする(第一五条)旨の約定があり、また、援助金契約によると、石丸は、本件契約の条項に違反したときは、被控訴人に対し、違約損害金として被控訴人から受領した援助金と同額の金員を即時支払う(第四条)との約定がある。そして、控訴人は、右同日石丸が被控訴人に対し現在及び将来本件契約上負担する債務並びに本件契約に付帯して負担する仮受金、助成金等の一切の債務について連帯保証をした。
2 被控訴人は、本件契約により石丸に対して売り渡した乳製品販売用のショウケース、配達袋、請求書用紙、受箱等の代金二九万九八〇〇円を援助金契約に基づく拡売援助金に振り替え、右代金相当額を援助金として石丸に交付したこととした。
3 石丸は、本件契約に基づき、被控訴人から販売引渡を受けた商品の代金のうち、(一)昭和五二年七月分二〇七万六四二二円のうち残額一一〇万三七〇九円、(二)同年八月分一九六万三八五三円、(三)同年九月分一九六万一八七〇円、(四)同年一〇月分一八八万二一三三円、(五)同年一一月分七九万二二九四円(合計七七〇万三八五九円)の支払を遅滞している。
以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》
二 保証契約の合意解約の主張について判断する。
《証拠省略》によっても、控訴人は、昭和五二年三月三一日ころ電話で被控訴人の社員に対し、保証人を技けたい意向を担当の販売部係長樫田進弘に連絡してくれるよう伝言を依頼したものにすぎず、未だ保証契約の合意解約の事実を認めるに足りず、また、《証拠省略》によれば、被控訴人が控訴人から担保として差入れを受けていた一〇〇万円の定期預金証書を返還したのは昭和五一年中のことであって、控訴人の保証責任の解消とは関係がなく、その他本件の全証拠によっても合意解約の事実を認めることはできない。
三 保証責任軽減の主張について判断する。
《証拠省略》によると、控訴人の締結した保証契約は、継続的売買取引契約について将来負担することあるべき債務についてした責任の限度額並びに期間の定めのない連帯保証契約であることが明らかであるところ、このような継続的取引の保証については、保証契約締結に至った事情、当該取引の業界における一般的慣行、債権者と主たる債務者との取引の具体的態様、経過、債権者が取引にあたって債権確保のために用いた注意の程度(主たる債務者の資力、信用状態の把握等)等一切の事情を斟酌し、信義則に照らして合理的な範囲に保証人の責任を制限すべきものであると解するのが相当である。
そこで検討するに、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。
1 控訴人は、かねて牛乳販売業を営み、農協牛乳を取り扱っていたところ、被控訴人から毎日牛乳の販売店を経営する話がもち込まれたが、控訴人自身はできないということで知人の石丸を被控訴人に紹介し、その関係で同人の取引につき連帯保証をしたものである。
2 牛乳等の加工販売業者と小売業者との取引は、一か月毎に現金で決済されるのが通常の形態であって、本件契約においても、前記のとおり毎月末日締切り、翌月一〇日現金払いの約定があり、また、当事者双方は、相手方に対し二か月前の猶予をもって書面により通告することにより本件契約を解除することができるほか、控訴人が代金の支払を一回でも怠ったときは、被控訴人は直ちに取引を停止し又は猶予期間を置くことなく即時に本件契約を解除することができるものと定められていた。
3 被控訴人と石丸間の取引は、昭和五一年七月ころまでは順調であったが、その後次第に未払額が増加し、同年末には未払額が四六八万五五〇四円の多額に昇った。そこで、被控訴人は、昭和五二年一月ころ控訴人に右の事情を連絡するとともに、石丸に対して増担保を要求するなどしていたが、石丸の経営状態や経理内容を調査するとか取引停止等の措置をとることもなく、石丸から全く入金のないまま漫然と同年一月以降一一月まで毎月約八〇万円ないし約二〇〇万円(月額平均約一六〇万円)相当の乳製品の販売を続けた(そのうち七月分ないし一一月分が本訴請求分にあたる。)。
以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定の事実によると、被控訴人は、石丸に対する売掛代金債権の確保ないし回収に著しく怠慢であったものといわざるをえず、乳製品の販売業界の取引慣行からは異常というほかない多額の繰越残代金債権を生じたものであり、控訴人が保証をするに至った事情、被控訴人と石丸の平均取引月額等諸般の事情を斟酌すると、控訴人の保証責任の範囲は、信義則上、石丸の負担する債務のうち違約損害金(援助金相当額を含む。)一二九万九八〇〇円及び平均取引月額のほぼ二か月分に相当する三二〇万円(合計四四九万九八〇〇円)並びにこれに対する約定利率(弁済期の経過後である昭和五三年二月一〇日から支払ずみまで日歩八銭の割合)による遅延損害金を限度とするものと認めるのが相当である。
四 以上の次第で、被控訴人の本訴請求は、右認定の限度で理由があるからこれを認容すべきであるが、その余は失当として棄却を免れない。
よって、原判決中、右と判断を異にする部分は失当で本件控訴は一部理由があるから、原判決を変更し、右認定の限度で被控訴人の請求を認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 岩川清 島田禮介)