大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)1498号 判決 1980年6月25日

控訴人 株式会社ダイヤハウジング (旧商号株式会社ダイヤハウジングセンター)

右代表者代表取締役 高木國雄

右訴訟代理人弁護士 田中章二

被控訴人 信用組合弘容

右代表者代表理事 岡島朝太郎

右訴訟代理人弁護士 樋口庄司

同 豊倉元子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金四〇〇万円及びこれに対する昭和五一年六月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

《以下事実省略》

理由

一  控訴人が建築資材の売買を業とする株式会社であり、訴外永大建設株式会社が建築資材の売買及び建築を業とする株式会社であること、被控訴人は組合員に対する資金の貸付、組合員のための手形割引、組合員の預金の受入を主たる事業とする信用金庫であって、組合員である同訴外会社と当座勘定取引をしていたこと、同訴外会社が控訴人に宛て被控訴人鶴橋支店を支払場所とする本件手形を振出したこと、控訴人が本件手形の所持人として満期(昭和五一年六月二五日)に本件手形を被控訴人鶴橋支店に呈示して支払を求めたところ、被控訴人は契約不履行との理由を付してその支払を拒絶する手続をしたこと、右支払拒絶手続を担当したのは被控訴人の被用者増田至孝であったことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》によると、同訴外会社は本件手形の決済資金を準備するため種々尽力したが結局そのための資金を被控訴人に預金することができなかったこと、同訴外会社の代表者大和清は本件手形の満期の昭和五一年六月二五日被控訴人の被用者増田至孝に対し契約不履行という理由で本件手形の支払を拒絶するよう申入れ、増田至孝は右申入れに従って契約不履行を理由に本件手形の支払を拒絶する事務手続をしたことが認められる。

控訴人は同訴外会社は被控訴人に対し手形金相当額の異議申立提供金の預託をしているから本件手形金決済資金を有していたことは明らかである旨主張するが、同訴外会社が本件手形の満期に支払場所である被控訴人鶴橋支店に決済資金を有していなかったことは前記のとおりであり、《証拠省略》によると、同訴外会社は被控訴人に本件手形の不渡届に対し手形交換所に異議申立手続をとることを依頼し、異議申立手続ができる最終期限の昭和五一年六月二八日に異議申立提供金を被控訴人に預託したが、この預託金は同訴外会社の手持資金が充てられたものではなく同日被控訴人から借入れたものであると認められるから、右控訴人の主張は採用することができない。

控訴人は増田至孝が同訴外会社からの申出がないのに本件手形金の支払を拒絶したことが原告に対する不法行為になる旨主張するが、同訴外会社から本件手形の支払を債務不履行を理由として拒絶するようにとの申出があったことは前記認定のとおりであるから、右主張は採用することができない。

次に、控訴人は増田至孝が訴外会社の申出た契約不履行なる事由が虚偽であることを知っていたか、又は知ることができる状況にあったのに不注意でそれを知らずに、契約不履行を理由に本件手形の支払を拒絶し、不渡届に対し異議申立をしたことが原告に対する不法行為となる旨主張する。

しかしながら、被控訴人は同訴外会社との当座勘定取引契約において、同訴外会社から、同訴外会社が支払場所を被控訴人として振出す約束手形をその所持人に支払うべき包括的な支払委託を受けていたと認められるが、右支払委託は委託者である同訴外会社において個別的に撤回しうるものであるから、同訴外会社から本件手形の支払を拒絶されたい旨の支払委託の撤回があった以上、被控訴人はその理由いかんにかかわらず同訴外会社の勘定において本件手形の支払をする権限を失ったのであり、したがって、本件手形の支払を拒絶するほかはなく、ただ、支払拒絶の理由を債務不履行とするか資金不足とするかの点に選択の余地が残されていたに過ぎないものというべきである。

ところで、同訴外会社と被控訴人との間においては、不渡手形に関しては被控訴人の所属する手形交換所の規則すなわち大阪手形交換所規則(施行細則を含む。)に準拠する旨の商慣習に基づく合意があったものというべきであり、被控訴人がいずれの不渡事由を採用するかは同訴外会社の利害に重大な影響があり、場合によっては同訴外会社に対する債務不履行の責任を生ずることが考えられるが、手形の所持人である控訴人に対しては、同訴外会社が支払委託撤回の理由とした債務不履行が真実であるかどうかを調査する義務を負わないものと解するのが相当である。よって、本件手形の支払拒絶の理由である債務不履行が虚偽であったとしても、被控訴人の控訴人に対する不法行為責任は生じないものといわなければならない。なお、《証拠省略》によれば、控訴人は本件手形の原因関係である取引につき債務不履行がなかったことが認められるが、そのことを増田至孝が知っていたことを認めるに足りる証拠はない。

また、被控訴人が本件手形につき債務不履行を理由とする支払拒絶及び不渡届に対する異議申立をすることなく資金不足を理由に支払を拒絶していたならば控訴人に損害が発生していなかったことを認めるに足りる証拠もない。

以上いずれの面からみても控訴人の本訴請求は理由がないものといわざるをえない。

三  よって、控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべく、原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川添萬夫 裁判官 大須賀欣一 庵前重和)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例