大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)1608号 判決 1979年9月28日
控訴人(附帯被控訴人)
日本貿易振興会
右代表者理事長
村田恒
右訴訟代理人
富澤準二郎
外二名
被控訴人(附帯控訴人)
亡辻元敏子相続財産
右代表者財産管理人
中里栄治
被控訴人補助参加人
西田善一
右訴訟代理人
腰岡實
主文
原判決中控訴人(附帯被控訴人)敗訴の部分を取消す。
被控訴人(附帯控訴人)の請求を棄却する。
被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審を通じ、補助参加によつて生じた部分は補助参加人の、その余は被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
事実《省略》
理由
一被控訴人の第一次請求について
1 被控訴人は、辻元敏子が昭和五〇年二月二八日死亡し、その相続人のあることが明らかでないため成立した亡辻元敏子相続財産法人であること、控訴人は昭和三三年七月二五日日本貿易振興会法により昭和二六年二月二八日設立の財団法人海外貿易振興会の一切の権利、義務を承継して設立された特殊法人であること、辻元敏子は昭和二六年五月一八日から右財団法人海外貿易振興会及び控訴人に雇われ、その従業員として控訴人の従たる事務所である大阪本部に勤務しており、右勤務中に死亡したが、死亡当時における本俸は三等級一五号(月額二二万〇一〇〇円)で、勤続年数は二三年一〇ケ月であつたこと、控訴人には内部規程として「職員の退職手当に関する規程」(以下、本件規程と略称する)がありその内容が被控訴人主張のとおりであること、はいずれも当事者間に争いがない。
2 被控訴人は、辻元敏子の前示本俸、勤続年数を基準として本件規程により算出される死亡退職金及び弔慰金が同人の相続財産に属することを理由にその支払を求めるので検討する。
およそ企業がその従業員や職員が死亡した場合に支払う死亡退職金の法的性質は、相続財産に属するか受給権者の固有の権利であり相続財産でないかは一律に決することはできないのであつて、当該企業の労働協約、就業規則あるいは本件におけるような規程の内容からこれを考えるべきである。本件につきこれをみるに、<証拠>によれば、控訴人の職員に関する死亡退職金の支給につき、被控訴人の主張する規定のほか、控訴人の主張するとおりの規定の存することが認められ、本件規程第二条で「この規程の規定による退職手当は、本会の職員で常時勤務に服することを要するものが退職した場合に、その者(死亡による退職の場合には、その遺族)に支給する。」と規定し、本件規程第八条で、右第二条の遺族の範囲及び順位を規定しているが、その要旨は、(1)第二条に規定する遺族の範囲は、(一)配偶者(内縁の配偶者を含む)、(二)子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で職員の死亡当時主としてその収入によつて生計を維持していたもの、(三)右(二)に掲げる者の外、職員の死亡当時主としてその収入によつて生計を維持していた親族、(四)子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で(二)に該当しないもの、とし、(2)前項に掲げる者が退職手当を受ける順位は、前項各号の順位により、第(二)号及び第(四)号に掲げる者のうちにあつては、同号に掲げる順位による。この場合において、父母については養父母を先にし実父母を後にし、祖父母については養父母の父母を先にし実父母の父母を後にし、父母の養父母を先にし父母の実父母を後にする、(3)退職手当の支給を受けるべき同順位の者が二人以上ある場合には、その人数によつて等分して支給する、というものである。以上のように本件規程によると、死亡退職金の支給を受ける者の第一順位は配偶者であつて、配偶者がいれば子はまつたく支給を受けないし、配偶者には内縁を含むこと、直系血族間でも親等の近い父母が孫より先順位となり、嫡出子と非嫡出子が平等に扱われ、父母や養父母については養方が実方に優先すること、死亡した者の収入によつて生計を維持していたかどうかによつて順位に著るしい差異を生ずること、受給権者が給付を受けずに死亡した場合には、受給権者の相続人でなく、同順位または次順位の者が給付を受け、給付を受ける権利は相続の対象とされていないことなどからみると、右規程の中心的機能は遺族自体の扶養にあつて遺族が右規程に基づき直接死亡退職金を受給できるとみられるので、本件規程による死亡退職金は相続財産に属せず、受給権者である遺族の固有の権利と解するのが相当である。
また、本件規程による弔慰金については、その受給権者を特に定めていないが、本件規程により算出される弔慰金の額からみて喪主の主宰する死者の葬式費用ないし遺族に対する金銭をもつてする慰藉のための贈与と解するのが相当であるから、その性質からみて相続財産に該当しないことは明らかである。
以上のとおりであるから、本件規程による死亡退職金及び弔慰金が亡辻元敏子の相続財産であることを前提とする被控訴人の第一次請求は理由がない。<以下、省略>
(首藤武兵 丹宗朝子 西田美昭)