大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)1638号 判決 1980年4月30日
控訴人
(附帯被控訴人)
西田吉三郎
右訴訟代理人
柳瀬宏
被控訴人
(附帯控訴人)
浅野五三男
右訴訟代理人
宇佐美明夫
外二名
主文
一 本件控訴及び附帯控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の、附帯控訴費用は被控訴人のそれぞれ負担とする。
事実《省略》
理由
一当裁判所も原判決と同様、原判決の認容する限度で被控訴人の請求を認容すべきものと判断する。その理由は、以下のとおり訂正、削除、附加するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これをここに引用する。<中略>
二<省略>
三昭和四九年の賃料増額について
(一) <証拠>によると、本件土地の賃貸借当事者である亡浅野幸次と控訴人との間で覚え書を取り交し、次の約定をしたことが認められる。
覚え書「二、昭和四九年地代については両者とも不動産鑑定士に依頼して適正にして公平なる地代を決める。三、但し、両者の鑑定士による適正地代に差が「生じた時は両者の算術平均をもつて適正地代とする。」
(二) 右覚え書二、三項を考え併わせると、昭和四九年度分の地代につき、その支払期である同年末までに両者がそれぞれ不動産鑑定士に依頼して本件土地の賃料の鑑定をさせ、その鑑定賃料が合致することを条件にして、その鑑定賃料をもつて適正賃料とする旨を合意し、かつ右鑑定賃料が合致しない場合の処理を定めたものであると解される。ところで、当事者の一方が右約定に従つて鑑定を依頼したのに他方がその依頼を拒絶した場合の法律関係については、右覚え書その他において当事者間で特別の合意がなされた旨の主張、立証がないが、前示覚え書二、三項の趣旨からみると、同二項は前示のとおり当事者の一方が鑑定の依頼をし、その鑑定額が他方のそれに一致することが条件と類似の関係になつているのであつて、当事者の一方が鑑定依頼を拒絶した場合には条件成就によつて不利益を受ける当事者が故意にその条件成就を妨げた場合に準じ、民法一三〇条を類推してその条件を成就したものと看做し、一方の当事者の依頼による鑑定額をもつて適正賃料とするものと解することができる。
なお、民法一三〇条の条件成就を主張する者は、条件成就と看做す旨の意思表示を要するが、その意思表示前においても、故意による条件成就の妨害があつた後は、当事者間においていつでも履行を請求し得る状態になるから、その履行の請求があれば、右の条件成就擬制の意思表示があつたものといい得る。
前示引用の原判決認定の事実によると、浅野幸次は昭和四九年一〇月頃不動産鑑定士石橋一男に昭和四九年の賃料の鑑定を依頼し、同年一二月一四日右賃料額が年額一五三万六、九四八円(一坪当り月額一九一円七三銭五厘)をもつて相当とする旨の鑑定を得たところ、控訴人はその頃から浅野幸次ないしその代理人の被控訴人より再三覚え書所定の鑑定依頼をなすよう求められたのに覚え書の成立を否認してこれを拒否し、当審に本訴が係属し和解勧告中の昭和五四年一〇月二九日に至つて始めて不動産鑑定士に鑑定をさせたものであるから、昭和四九年分賃料の支払期日である同年一二月末日において、控訴人が故意に前示条件の成就を妨げたものとして被控訴人が、先代の依頼による鑑定額に基づきその増額賃料の履行を求める本訴請求により、同鑑定額をもつて同年度の適正賃料と看做されたものといわねばならない。したがつて、右により適正賃料が決定された遙か後の昭和五四年一〇月二九日に控訴人がした鑑定をも資料として、前示覚え書三項による算術平均をなすべきであるという控訴人の主張は失当であつてこれを採用することができない。<以下、省略>
(下出義明 村上博巳 吉川義春)