大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)165号 判決 1978年5月30日

控訴人

寺西福松

外四名

右五名訴訟代理人

清水正憲

外三名

被控訴人

破産者株式会社寺西組破産管財人

辺見陽一

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一、控訴人ら代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、

被控訴人は、主文第一項同旨の判決を求めた。

二、当事者双方の本張および証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人らの主張

(一)  控訴人らに抹消登記義務を認めた原判決は、最高裁判所昭和四九年六月二七日判決(民集二八巻五号六四一頁)の趣旨に反し、ひいては、破産法七七条一項、一二三条、不動産登記法二六条一項、四九条六号の解釈を誤つたものである。すなわち、

(1) 控訴人らの主張(原判決五枚目裏一二行目から六枚目表一二行目まで)は、右最高裁判決の示したいわゆる特殊登記説に則つた当然の論理の展開である。

(2) 特殊登記説は、破産管財人、否認権行使の相手方(以下それぞれ単に「管財人」、「相手方」という。)とも登記義務者となる資格を認めるものである。

否認権行使における「相対効」とは差押の効力における「相対効」と同義で、関係的取消(回復)であるに過ぎず、管財人以外の者に対する関係では相手方に帰属することを意味し、その状態を公示するため否認の登記なる制度が存する。

差押・処分禁止仮処分登記後も所有権者が当該不動産を他に処分し、これを登記することができるが、否認の登記の場合も同様である。

したがつて、相手方の有する管理処分権を債権的契約を締結する権限に止まると解することはできない。

(3) 控訴人らの主張に立つて、相手方からの移転登記を認めた場合、管財人が当該不動産を処分することが困難になるにしても、この点は特殊登記説が相手方に厚く、管財人に酷であるとして同説につとに加えられていた批判であるにも拘らず、最高裁判所の前記判決は同説を採つた。もし、この点に不都合があれば登記手続を改めるべきである。

(二)  後記2(二)の事実は認める。

2  被控訴人の主張

(一)(1)  控訴人ら引用の判決は、相手方が否認登記後も当該不動産を処分し、登記名義を移転することができると説くものではない。

(2)  否認の相対効とは否認の効果が第三者に及ばないというだけで、否認されて破産財団に取戻されその旨登記を経た不動産につき相手方が第三者との関係でなおかつ所有権者であるというのではなく、かかる不動産は完全に破産財団の所有であつて、不動産登記法上の登記義務者は管財人だけである。

控訴人らに対する各所有権移転登記は、登記官が登記義務者が何人かを誤認してした違法の登記であるが、同法上職権抹消の途はない。

(3)  控訴人らの主張によると、否認登記のなされている不動産については登記義務者が併存することとなるが、登記簿上いずれの登記義務者による登記か区別し得ない。かような事態を法が予想しているとは考えられない。

(二)  本件建物につき、大阪法務局布施出張所昭和五一年六月四日受付をもつて細川賀一に対する所有権移転登記がなされた。

理由

当裁判所も原審同様被控訴人の請求(抹消登記請求)の追加的変更は適法であり、また被控訴人の請求にいずれも正当として認容すべきものと判断するものであつて、その理由は次に付加訂正するほか原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決八枚目裏二行目「六項」を「六号」と、同四行目「符号」を「符合」とそれぞれ改める。

2  同九枚目裏一〇行目「であるから、」の次に「同法四九条六号の解釈上、登記義務者たるべき者が、併存することとなり、」と挿入し、同一二行目「処分できなくなるが」を「処分し、その旨の登記を経由する方法がないこととなり」と、同行から同一三行目「これ」を「右登記の抹消」とそれぞれ改め、同末行「(本訴請求」から同一〇枚目表三行目「事項ではあるが)」までを削除し、同六行目の「効力」の次に「(目的物の所有権は当然に物権的に破産財団に復帰する。)」と、同七行目「考えられる」の次に「ほどの」と、同行末尾に「むしろ、否認登記は、管財人を登記権利者、相手方を登記義務者とする暫定的な実質上の抹消登記であり、破産の取消、廃止、終結時において否認の効力が消滅して否認された登記を原状に回復する場合に抹消登記によることを要しないよう特殊の記入登記の形態をとるものと解せられる。すなわち、否認登記の記入により、登記簿上には相手方の所有名義が残存しているとはいえ、その実質において右所有名義は否定されており、爾後、相手方は登記義務者となり得ないものである。したがつて、不動産登記法は、否認登記後(否認登記の存続する限り)相手方を登記義務者とし、第三者を登記権利者とする登記はこれを許していないものと解するのを相当とする(差押・処分禁止の仮処分登記後の場合では、その存続中、差押または仮処分債務者は登記義務者となり得ても、差押または仮処分債権者を登記義務者とする登記はこれを予定しないところであるから、否認登記の場合と同視すべき限りでない。)。」とそれぞれ挿入し、同九行目から一〇行目にかけ「何らの処分権限」を「処分権を行使し、その旨の登記を経由する手段」と改める。

3  同一一行目末尾に行を改めて「4 破産廃止、終結はもとより、破産宣告の効力が遡及的に消滅する破産取消の場合にあつても、管財人がその権限に基いてした破産財団所属財産に関する管理処分行為は、取引の安全、破産者の利益のため、その効力が否定されない(大審院昭和一三年三月二九日判決民集一七巻六号五二三頁参照)。したがつて、管財人のかかる管理処分行為に牴触する限り、否認された行為やそれを前提とする行為で破産財団に対する関係でその効力を対抗し得なかつたものは、破産が取消、廃止、終結となつた場合にもその効力を回復するに由ないものといわなければならない。本件についてみれば、本件建物につき昭和五一年六月四日受付をもつて細川賀一に対する所有権移転登記がなされたことは当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第一二、第一三号証によると、右登記の登記義務者が被控訴人であることが認められ、以上の事実からすると、その登記原因事実の存在、すなわち、管財人がその権限に基いて右建物の所有権を細川賀一に譲渡したことが推認される、したがつて、否認の対象となつた破産者から訴外会社に対する前記仮登記・本登記および相手方(訴外会社)の控訴人らに対する所有権移転登記は破産状態が終了しても、その効力を回復し得ないものといわなければならず、この点においても控訴人らに対する右移転登記手続を求める被控訴人の請求は正当である。」と挿入する。

よつて、控訴人らの本件控訴はいずれも失当であるからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条にしたがい、主文のとおり判決する。

(山内敏彦 田坂友男 高山晨)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例