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大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)1808号 判決 1980年7月28日

控訴人 小松タクシー株式会社

右代表者代表取締役 谷秀一

右訴訟代理人弁護士 榎本駿一郎

同 妙立馮

同 楠見宗弘

被控訴人 波田欣二

右訴訟代理人弁護士 岩橋健

主文

一、原判決を次のとおり変更する。

二、被控訴人は控訴人に対し、被控訴人が昭和四六年五月二五日訴外紀北信用組合より譲渡を受けた訴外秦波を債務者とする賃金債権元金四五〇万円、及び付帯債権金五六万六、九一〇円、合計金五〇六万六、九一〇円について、控訴人が連帯保証債務を負担していないことを確認する。

三、訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の申立て

一、控訴人

(控訴の趣旨)

主文同旨。

二、被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二、当事者の主張・証拠関係

一、原判決の引用

当事者双方の主張・証拠関係は、左記のとおり付加するほか原判決の事実摘示と同じ(ただし、原判決二枚目表一〇行目の「請求原因」を削除し、同六枚目八行目に「抗弁権」とあるのを「抗弁」と、同四枚目表七行目に「請求原因」とあるのを「右主張」と、同枚目八行目及び九行目にそれぞれ「請求原因」とあるのを「右主張一」と、同四枚目裏三行目に「抗弁」とあるのを「主張」と、同五枚目表一〇行目に「抗弁」とあるのを「右主張」と、同五枚目裏五行目、六枚目裏末行、七枚目表一行目、三行目、六行目、一〇行目にそれぞれ「再抗弁」とあるのを「抗弁」と各訂正する)であるから、これをここに引用する。

二、控訴人の主張

控訴人は、本件連帯保証契約を締結していないが、仮に、連帯保証契約を締結したとしても、次の理由により右連帯保証契約は無効である。

(一)  本件譲渡債権の債務者秦波は、訴外秦大三の妻であり、右秦大三は本件債権の譲渡人である訴外紀北信用組合の常務理事であるところ、妻波名義を利用して右組合から手形貸付として金四五〇万円を借受けた。しかし、右貸付契約については中小企業協同組合法三八条により理事会の承認を要するところ、これを潜脱するために妻名義を利用したものであり、かつ理事会の承認決議を経ていないから、右契約は無効であり、従って本件連帯保証契約も無効である。

(二)  訴外秦大三は、昭和四三年二月控訴人の取締役に就任したので、控訴人秦大三個人の右債務につき控訴人が本件連帯保証をすることは、商法二六五条により取締役会の承認決議を要するところ、右決議を欠き、かつ訴外紀北信用組合は右承認をうけていないことについて悪意であったから、本件連帯保証契約は無効である。

三、被控訴人の主張

(一)  本件連帯保証債務により保証された主たる債務の債務者は、訴外秦波であって、訴外紀北信用組合の理事または控訴人の取締役個人である訴外秦大三ではないから、主債務ないし連帯保証債務についての契約に中小企業協同組合法三八条ないし商法二六五条の適用がない。

(二)  仮に、主たる債務者が実質的に訴外奏大三であるとしても、訴外紀北信用組合の理事会の承認がないことについて控訴人はその行為の無効を主張できる者に該当せず、また被控訴人は右取締役会の承認がなかったことについて善意であるから、その行為は有効である。

第三、証拠関係《省略》

理由

一、債権者を紀北信用組合、債務者を秦波、連帯保証人を控訴人、連帯保証人兼物件所有者を湯浅裕とする、貸金元金四五〇万円、付帯債権金五六万、九一〇円、合計金五〇六万六、九一〇円の根抵当権付債権が、右債権者より被控訴人に譲渡された旨の通知が、昭和四六年五月二六日付内容証明郵便により右債権者から控訴人に対してなされたことは、当事者間に争いがない。

二、控訴人は、前示譲渡債権の前提となる貸付契約における訴外紀北信用組合の訴外秦波に対する債権の存否を争い、右契約が無効であり、また本件連帯保証契約も無効である旨反論するので、以下順次判断する。

(一)  貸金債権の借主について。訴外秦波が訴外秦大三の妻であること、右秦大三が昭和四四年三月当時訴外紀北信用組合の常務理事であり、かつ、控訴人の取締役であったことは、いずれも当事者間に争いがなく、この事実に、《証拠省略》を綜合すると、次の事実が認められる。

(1)  訴外秦大三、は、昭和四四年三月当時訴外紀北信用組合の常務理事で営業を担当していた。

(2)  右秦大三は、妻に無断で妻である秦波名義をもって同年三月七日ごろ右信用組合に対し金四五〇万円の融資申込みをし、同組合の常務理事・専務理事・理事長の決済を経て(常務理事二名中の一名は右秦大三が決済印を押した)、同年三月一三日同組合との間に極度額金五〇〇万円、連帯保証人の一名兼担保提供者を訴外湯浅裕とし、取引契約についての根抵当権設定契約書には債務者欄に無断で「秦波」と手書し、かつその名下に押印した。

(3)  右契約書の他の一名の連帯保証人欄には、右秦大三がそのころ控訴人の和歌山県知事に対する自動車運送事業の増車申請について、控訴人代表者谷秀一から預かり保管中の控訴人名及び代表取締役名の各ゴム印を使用して押印し、かつ代表取締役名下に右代表取締役の印をほしいままに押印し、よって控訴人の連帯保証を冒用した。

(4)  右秦大三は、右記載のある契約書を同月一三日右信用組合に提出し、同組合より金四五〇万円を借りうけ、そのころこれを自己の用に費消した。

(5)  当時、訴外秦波には右金員を借用すべき差迫った事情がなかった。

(6)  控訴人は、右連帯保証について取締役会の承認はもちろん株主総会の承認も受けておらず、また連帯保証すべき特段の事情もなかった。

(7)  その後昭和四四年九月ごろに至り、控訴人は、右秦大三が控訴人に無断で控訴人の代表取締役に就任(同年八月一日)した旨の商業登記(同年八月九日)がなされていることを知り、右秦大三に辞任を求めたうえ、その代表取締役退任及び取締役辞任の各登記(同年一〇月二七日)を経由した。

右認定に反する《証拠省略》は信を措きがたく、他に右認定を左右するに足る証拠がない。また、訴外秦波が右信用組合より本件貸付金四五〇万円の交付をうけたことを認めるに足る証拠もない。

(二)  以上の事実によれば、訴外信用組合が貸付けた元金四五〇万円の借主は形式上は訴外秦波であるが、右秦波との間には消費貸借契約が成立しておらず、実質上の借主は、右秦波の夫にして右信用組合の常務理事でもある訴外秦大三であるというべきである。従って、右信用組合は訴外秦波に対し本件貸金債権を有していないわけであるから、債務者を同訴外人とする債権の譲渡は、譲渡の前提たる債権の存在を欠く(借主が異なる)から無効である(なお、被控訴人の主張が仮に、本件債権譲渡は訴外秦波名義にして実質上訴外秦大三に対して有する債権の譲渡であるといい、これに対し、控訴人が、右貸付につき右組合理事会の承認を受けていないから貸付契約は無効である旨主張しているものであるとみて判断するに、およそ信用組合の理事は理事会の承認を受けた場合でなければ組合と契約することができず(中小企業等協同組合法三八条参照)、理事会の承認を受けないでした契約は無効であると解すべきであるが、同条はいわゆる自己取引につき組合の利益を保証することを目的とするものであって、組合の理事ないし第三者の側からその無効を主張することができないものである。従って、控訴人の右無効の主張は失当であって採用できない。最高裁判所昭和四八年一二月一一日判決・民集二七巻一一号一五二九頁参照)。

(三)  仮に、右信用組合の訴外秦大三に対する本件貸付契約が有効であり、かつこれにつき控訴人が連帯保証をしたとしても、商法二六五条にいう取引には取締役個人の利益となり会社に不利益を与える行為を包含するものと解すべきであるところ(最高裁判所大法廷昭和四三年一二月二五日判決民集二二巻一三号三五一一頁参照)、前示認定の事実関係のもとでは、訴外秦大三は控訴人の取締役であり、本件貸付契約における連帯保証は、取締役たる同訴外人個人の利益となるが、会社たる控訴人には不利益を与える行為であり、これにつき控訴人取締役会の承認を受けたことについては被控訴人において主張立証しないところであるから、控訴人の右連帯保証は無効であるというべきである。

三、そうすると、訴外紀北信用組合の訴外秦波に対して有するという本件債権の譲渡はその実質を欠くものである(仮にそうでないとしても前説示のように本件連帯保証は効力を生じない)から、控訴人の連帯保証債務不存在確認を求める本訴請求はその余の点について判断するまでもなく全部正当でこれを認容すべく、本件控訴は理由があるところ、これと異なる原判決は一部失当に帰するからこれを変更し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下出義明 裁判官 村上博巳 吉川義春)

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