大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)2043号 判決 1980年4月25日
控訴人
藤澤明哲
右訴訟代理人
松本剛
同
村田喬
被控訴人
伊藤八朗
右訴訟代理人
尾崎嘉昭
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一請求原因事実はすべて当事者間に争いがない。
二そこで、被控訴人主張の抗弁について判断する。
1 <証拠>を総合すると、次の事実を認めることができ、右控訴人本人尋問の結果中この認定に反する部分は、前掲の他の証拠及び弁論の全趣旨に照らしてにわかに採用し難く、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
訴外会社は、本件敷地上にマンションを建設して分譲販売をするに際し、本件マンションの敷地である本件敷地は本件マンション区分所有者全員の共有とするものとし、かつ、本件敷地の一画に駐車場を設け、本件マンションの分譲とは別個に右駐車場についての専用使用権を一台分四〇万円で本件マンション購入者に分譲販売することとして(訴外会社が本件敷地は区分所有者全員の共有とするものとして本件マンションの分譲販売をしたことは当事者間に争いがない。)、右分譲の説明のために発行した宅地建物取引業法三五条の規定に基づく重要事項説明書(乙第二号証)に「共用部分の一部専用使用」の見出しのもとに分譲専用使用駐車場があること及び「売買代金以外に授受される金銭の額及目的」の見出しのもとに専用駐車場使用権代金一台分四〇万円、専用駐車場使用希望者は入居直前に専用使用代金を支払い別に定める契約にのつとり駐車場を使用する(希望者が多数の場合は、抽選により決定する)ことを記載するとともに(右重要事項説明書に右の記載があることは当事者間に争いがない。)、駐車場の位置及び面積等を明らかにした図面等を右重要事項説明書に添付し、本件マンションの購入申込をしようとする顧客に対しては右重要事項説明書に基づいて売買物件に関する重要事項の説明をしたうえ、購入申込者全員に右重要事項説明書(添付図面等を含む。)を交付して右申込者から申込証拠金の支払を受け、その後正式に購入者との間で売買契約書を取り交わして本件マンション分譲契約を締結したが、右売買契約書である「メガロコープ平野第三号棟土地付区分建物売買契約書」(乙第四号証)には一〇条二項として「買主は土地の一部に番号を附し区画をなしたる駐車場の専用使用権を売主より分譲を受けたるもの及びその譲受人に対し、その専用使用を承認するものとする。」旨規定されており(右売買契約書に右内容の条項があることは当事者間に争いがない。)、購入者も右売買契約書の内容を承知のうえ本件マンション分譲契約を締結した。
右購入者のうち被控訴人は、昭和四七年三月二七日訴外会社に対し本件マンション(四六二号住宅)の購入申込をしたが、その際駐車場についても分譲を希望する旨申し述べ、その後同年四月六日ころ訴外会社との間で前記売買契約書に基づいて本件マンション(四六二号住宅)の区分所有権と本件敷地に対する一〇四万八一三四分の七八七七の共有持分権を買い受ける旨の分譲契約を締結した(被控訴人が本件マンションの分譲を受けて本件敷地に対する共有持分権を取得したことは当事者間に争いがない。)。また、控訴人も、昭和四七年三月二日訴外会社に対し前記重要事項説明書に基づく説明を承認のうえ本件マンション(一一七〇号住宅)の購入申込をして申込証拠金一〇万円を支払い、さらに同月一七日には訴外会社からの右重要事項説明書及び添付図書を受領し、翌一八日訴外会社との間で前記売買契約に基づいて本件マンション(一一七〇号住宅)の分譲を受けたが、その際口頭で、前記駐車場専用使用権の分譲も希望する旨申し入れた。
右のようにして本件マンションを分譲販売した訴外会社は、購入者からの駐車場専用使用権の分譲申込が多かつたので、抽選の方法で右専用使用権の購入者を決定することとし、その抽選日を昭和四七年七月一八日と定めて、各申込者に対し往復はがきによるその旨の通知書を発送し、右同日抽選を実施した(欠席者については訴外会社において代理人をたてて)結果、控訴人は抽選に漏れたが、被控訴人は当選した。そこで被控訴人は、同月三一日訴外会社との間で、本件土地についての駐車場専用使用権を代金四〇万円で買い受ける旨の契約を締結した。
なお、右駐車場専用使用権については、従前の「メガロコープ平野第三号棟管理規約」に代わつて昭和四九年一二月二二日から施行された「メガロコープ平野第三号棟自治会管理規約(乙第一三号証)にもその使用及び譲渡に関する条項が設けられており、控訴人は同規約起草委員の一人としてその制定に関与した。
2 右認定事実によれは、訴外会社は、本件マンションの分譲販売にあたつて、本件敷地の一画に駐車場を設置し、本件マンション(住宅)の分譲とは別個に本件マンション購入者に対して右駐車場専用使用権を分譲する権利を留保したうえで本件マンションを分譲したものであり、控訴人を含む購入者はすべて、右の権利が訴外会社に留保されること並びに訴外会社から右駐車場専用側用権の分譲を受けた者及びその譲受人が右駐車場を専用使用することを容認・承諾して本件マンション分譲契約を締結したものというべきであつて、本件マンション分譲契約と同時になされた右駐車場専用使用権に関する約定の趣旨とするところは、訴外会社がその名において、本件マンション分譲後購入者の共有となる本件敷地の一画に設けられた駐車場の専用使用契約を、その使用を希望する本件マンション購入者(希望者が多数の場合は抽選による。)との間で締結すること並びに右専用使用契約の効力が本件マンションの分譲と同時に本件敷地の共有持分権を取得した者に対しても及ぶこと、換言すれば、右専用使用契約に基づいて右駐車場の専用使用を認められた者及びその承継人に対し本件マンション購入者(本件敷地の共有持分権者)が右駐車場を専用使用させる義務を負うことを、右購入者及び訴外会社の双方が承諾し、合意したものであると解するのが相当である。したがつて、本件マンション(四六二号住宅)の分譲を受けた後訴外会社との間で本件土地についての駐車場専用使用権を代金四〇万円で買い受ける旨の契約を締結した被控訴人は、右契約に基づいて、本件土地についての駐車場専用使用権を取得したものというべきであり、しかも、右専用使用権は控訴人ら本件マンション購入者(本件敷地の共有持分権者)に対する関係においてもその効力を有するものというべきである。
三控訴人は、本件マンションの敷地である本件敷地についても区分所有法の共用部分の管理に関する諸規定が準用されるべきことを前提として、本件敷地に駐車場専用使用権を設定することは、同法一二条にいう共用部分の変更と同様に解すべきであり、本件マンション区分所有者全員の合意を必要とするところ、訴外会社が被控訴人に分譲した駐車場専用使用権は区分所有者全員の合意を得ないで設定されたものであるから、区分所有法に違反し無効である旨主張する。しかし、区分所有法は、区分所有の目的とすることができる「建物」について区分所有者の権利義務、共用部分の管理等に関する事項を規定したものであるから(建物の敷地については、「専有部分を所有するための建物の敷地」に関する権利を有しない区分所有者に対する区分所有権売渡請求権の規定(七条)のほか、建物又はその敷地等の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項を規約で定めることができる旨の規定(二三条)があるにすぎない。)、控訴人主張の同法の趣旨を考慮に入れても、建物とは別個の不動産である敷地の管理についてまで区分所有法の建物共用部分の管理に関する諸規定が準用されるものと解するのは困難であり、したがつて、本件共有地について区分所有法一二条等の建物共用部分の管理に関する諸規定が準用されることを前提とする控訴人の右主張は、すでにこの点において採用することができない。
四また、控訴人は、共有地に駐車場専用使用権を設定することは共有物の変更に該当し、民法二五一条により共有者全員の同意を要するところ、本件敷地に駐車場専用使用権を設定することについては本件敷地共有者全員の同意がなかつたから、訴外会社のなした右専用使用権の設定は無効である旨主張する。
しかし、本件敷地に本件のような駐車場専用使用権を設定することが共有物の変更にあたると解することは困難であり、仮に共有物の変更にあたるとしても、前記二の認定事実によれば、訴外会社は、本件マンションの分譲販売にあたつて、その所有であつて分譲後は購入者の共有となる本件敷地の一画に設置した駐車場の専用使用権をマンション分譲とは別個に購入者に対して分譲(設定)する権利を留保したうえで、本件マンション及び本件敷地の共有持分権を分譲したものであり、控訴人を含む購入者もすべて、右の権利が訴外会社に留保されること並びに訴外会社から右駐車場専用使用権の分譲(設定)を受けた者及びその譲受人が右駐車場を専用使用することを容認・承諾して、訴外会社との間で本件マンション分譲契約を締結したのであるから、本件マンション分譲後訴外会社が購入者に対して駐車場専用使用権を分譲(設定)することについては、購入者(本件敷地共有者)全員が予め同意していたものといわざるをえない。
そうすると、控訴人の右主張も結局採用することができない。
五さらに控訴人は、本件駐車場専用使用権の設定に関する約定は公序良俗に違反し無効である旨主張するので、この点について検討する。
1 控訴人は、訴外会社は、マンション購入者の知識ないし情報不足や分譲業者の提示する契約条項を購入者が包括的に承認せざるをえない立場にあることなどに乗じて、本件マンションの分譲により二重に利益を得ようと企図し、本件マンション分譲契約と同時に購入者にして本件敷地に駐車場専用使用権を設定することを承諾させたものであり、しかも右駐車場専用使用権の設定に関する約定は本件マンション分譲契約中に包括された附合契約である旨主張する。なるほど訴外会社は、前記認定のとおり、本件敷地の共有持分権付きで本件マンションを分譲しながら、これとは別個に、本件敷地の一画に設置された駐車場の専用使用権を一台分四〇万円で分譲しているから、一見同一土地によつて二重に利益を得たかのごとき疑いもあるが、分譲業者の販売政策として、敷地付マンション本体の分譲と駐車場専用使用権の分譲とを別個にするものの、それぞれの分譲価格は総合して収支計算をし、これに基づいてマンションの分譲販売計画をたてることも十分に考えられるのであつて(<証拠>によると、本件マンションの分譲販売についても、駐車場専用使用権の分譲代金が右のような形で考慮されていることが窺われる。)、訴外会社が右駐車場専用使用権を別個に分譲したことによつて、同一土地から二重に利益を得たものと速断することはできない。また、本件のような駐車場専用使用権の設定に関する約定を含むマンション分譲契約が直ちに附合契約であると認めることもできないのであつて、前掲控訴人本人尋問の結果中控訴人の右主張にそう部分はそのまま採用し難いし、他に控訴人の右主張事実を確認できる証拠はない。
2 また、控訴人は、本件マンション購入者が本件敷地の全部につき固定資産税等を負担しながら、駐車場とされた部分についてはみずからこれを使用しえない不利益を受けている旨主張するが、前記のとおり、本件マンション購入者はすべて、本件敷地に設置された駐車場の専用使用権をマンション本体の分譲とは別個に購入者に対して分譲(設定)する権利が訴外会社に留保されること並びに訴外会社から右駐車場専用使用権の分譲(設定)を受けた者及びその譲受人が右駐車場を専用使用することを容認・承諾して、訴外会社との間で本件マンション分譲契約を締結したのであるから、いわば一部の土地につき借地権等土地使用権の負担のある所有権を譲り受けた場合と大差がないのであつて、控訴人の右主張するような事態は本件マンション分譲契約締結当時当然考えられたところであり、これをもつて右駐車場専用使用権の設定に関する約定が公序良俗に違反するとは到底いえないのである。
3 さらに控訴人は、本件マンション購入者(区分所有者)のうち駐車場専用使用権を取得した者とこれを取得しなかつた者との間に著しい不平等がもたらされている旨主張するが、前記のとおり、右専用使用権を取得した者は、駐車場を専用使用することができる反面、その取得の対価として四〇万円を支払つたほか、毎月非取得者より約五〇〇円ほど多いマンション管理費を納入しているのであるから、右専用使用権の取得者と非取得者との間でそれ程不平等があると認めることはできない(なお、右専用権の取得者が取得後に取得価額を上まわる価額でこれを他に転売してその差益を得た事実があるとしても、そのようなことは、前示管理規約によつて、右専用使用権者の負担するマンション管理費を適当な額に修正するなどの方法により解消しうるものというべきであるから、右のような事実があるからといつて、本件駐車場専用使用権が設定された結果その取得者と非取得者との間に著しい不平等がもたらされたものということもできない。)。
4 また、<証拠>によれば、大阪府建築振興課や日本高層住宅協会は、本件において訴外会社が採用したような駐車場専用使用権の分譲方法には疑問点があるとして、マンション分譲業者に対して、できるだけ右分譲方式をやめていわゆる賃貸方式(土地を共有するマンションの区分所有者全員が駐車場をその利用者に賃貸し、当該賃料はマンション管理費に組み入れるという方式)をとるように指導もしくは要望し、昭和四九年以降においてはそのほとんどが右賃貸方式になつていることが認められるが、そうであるからといつて、本件マンション購入者と訴外会社との間でなされた駐車場専用使用権の設定に関する前記約定が直ちに公序良俗に違反するものとは認められないのであり、そのほか本件全証拠を検討しても、右約定が公序良俗に違反し無効であると認めるべき事情は見あたらない。
5 そうすると、右約定が公序良俗に違反し無効であるとの控訴人の前記主張も採用することができない。
六よつて、控訴人の本訴請求は失当として棄却されるべきであり、これと結論を同じくする原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(唐松寛 藤原弘道 平手勇治)
図面<省略>