大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)205号 判決 1978年11月30日
控訴人
乾新八郎
被控訴人
上村昭義
同
上村秋治
右両名訴訟代理人
島秀一
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一<前略>被控訴人昭義は、昭和四二年二月下旬ころまでは兄である同秋治の営む靴下加工業の手伝をするかたわら、独立して靴下製造販売業を営んでいたが、前記手形金債務は、その靴下製造販売の営業資金にあてるため控訴人に手形を割引いて貰つたことにより生じたものであること、ところが被控訴人昭義の右営業が支払不能に陥つて倒産したので、兄である被控訴人秋治は、同年三月八日同昭義のため、右倒産後の残務処理の一環として、右手形金債務を改めて貸借の目的とし、その弁済期を昭和四五年三月八日とする本件準消費貸借契約を結ぶとともに、その契約による債務につき自己所有の北葛城郡河合村大字佐味田二五六一番畑一〇六七平方メートルと同所二五六二番畑二四七平方メートルと同所の各土地を担保として提供することを約したことをそれぞれ容易に認めることができ、なお被控訴人秋治に右契約を結ぶ代理権があつたことについて、被控訴人らは明らかに争わないのでこれを自白したものとみなすべきである。
二<略>
三そこで被控訴人らの消滅時効の抗弁につき判断する。本件準消費貸借契約は、前記のとおり被控訴人昭義の前記靴下製造販売業の倒産後における残務処理のため結ばれたものと認められ、したがつてそれが右営業の継続、再開をはかるため結ばれたとみることはできないが、しかし商人がその本来の営業活動を継続することが困難となり、あるいはその継続意思を失うことによりこれを終了させたからといつて、直ちにその商人たる資格を喪失すると解することは相当でなく、その営業廃止の後始末としていわゆる残務処理がなされている間はその関係でなお商人たる資格を失わないというべきであるから、その行為が少なくとも客観的にみて右にいう残務処理行為に属することが明白である限り、その本来の営業活動と密接に関連していることでもあり、これまた商行為に該当すると解するのが相当である。そうすると本件準消費貸借契約による被控訴人昭義の債務は、第一項に認定した右契約が結ばれた経緯すなわち右にいう残務処理行為として結ばれたことが極めて明白である事実等に照らせば、いわゆる商行為によつて生じたものとみることができるから、右債務についての前記弁済期から満五年を経過した時点をもつてすでに時効により消滅したというべきである。<以下、省略>
(山田義康 岡部重信 藤井一男)