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大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)385号 判決 1980年7月09日

控訴人

藤沢明哲

右訴訟代理人

松本剛

村田喬

被控訴人

ユニチカ興発株式会社

右代表者

鷲尾顕

被控訴人

ユニチカ株式会社

右代表者

小寺新六郎

右被控訴人ら訴訟代理人

山中隆文

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

第一当事者間に争いのない事実

控訴人主張の請求原因事実中、控訴人が昭和四七年三月頃、被控訴人ユニチカ興発が後記敷地上に建築した、鉄骨鉄筋コンクリート造り一一階建共同住宅、メガロコープヒラノ三号棟(延面積約一三、九八二平方メートル)(以下本件マンションという)の内、一一階一一七〇号室78.77平方メートルを同被控訴人から買受け、直接控訴人名義に保存登記を受けたこと、本件マンションの建物部分(専有部分)の分譲を受けた区分所有者は控訴人を含め一六四名であること、控訴人ら右区分所有者一六四名は、その際、本件マンションの敷地である大阪市平野区宮町一丁目一二番八(控訴人は八番三号と訴状に記載しており、原判決請求原因にも同様記載されているが、いずれも誤記と認める)宅地3,913.48平方メートル(以下、本件敷地という)も建物とともに被控訴人ユニチカ興発から譲受けたこと――前示控訴人ら一六四名がその専有部分床面積の総合計に対する各買受入の取得する専有部分面積の割合に応じた右土地の共有持分権の譲渡を受けたこと――したがつて、控訴人は本件敷地につき一、〇四八、一三四分の七、八七七の共有持分権を取得し、その移転登記を受けたこと、同被控訴人が右共有地の一部約三二五平方メートル(以下、本件土地という)を駐車場とし、これを二〇区画に分け、その駐車場専用使用権を一区画金四〇万円で本件マンション区分所有者の内の二〇名に売渡し、合計金八〇〇万円を受領したことは、いずれも当事者間に争いがない。

第二法律上の原因欠缺の主張についての検討

被控訴人が本件専用使用権の売買代金合計金八〇〇万円を受領したことが法律上の原因を欠くものか否かにつき検討する。

一<証拠>を総合すると、

(一)  本件敷地はもと被控訴人ユニチカの所有であつたが、これを同被控訴人から被控訴人ユニチカ興発が訴外東海興業株式会社とともに共同で買受けて、同土地上に区分建物たる本件マンションを建築し、右建物とともにその各購入者に分譲販売した。

(二)  被控訴人ユニチカ興発は、右分譲販売にあたり、本件土地を含む本件敷地全体を本件マンション区分所有者全員の共有とし、かつ、その敷地の一画に駐車場を設け、右分譲代金とは別に駐車場専用使用権を一台分金四〇万円でマンション区分所有者に分譲することとし、右分譲の説明の際に宅地建物取引業法三五条に基づく重要事項説明書(乙第一号証の三)に次の事項を記載し、かつ、これに専用駐車場の位置、面積等を記載した建物配置図を添付して購入者全員に交付した。

(重要事項説明書記載事項)

A ④共用部分の一部専用使用分譲専用使用駐車場(二、三、五号棟)

D ⑤売買代金以外に授受される金銭の額及目的専用駐車場専用使用権代金一台分四〇万円、専用駐車場使用希望者は入居直前に専用使用代金を支払い別に定める契約にのつとり駐車場を使用する(希望者多数の場合は、抽選により決定する)。

(三)  右売買契約の際、各購入者と被控訴人ユニチカ興発との間で作成した「メガロコープ平野第三号棟土地付区分建物売買契約書」(乙第二号証の一、第七号証)の一〇条二項に次のとおりの記載がある。

(一〇条二項)買主は、土地の一部に番号を付して区画をなしたる駐車場の専用使用権を売主より分譲を受けたるもの、及びその譲受人に対し、その専用使用を承認するものとする。

(四)  被控訴人ユニチカ興発と前示駐車場専用使用権を買受けた区分所有者との間に、土地付区分建物追加売買契約書(乙第二号証の二)を作成し、大要次の趣旨の条項を定めた。

一条 右被控訴人が駐車場に対する専用使用権を買主に売渡す。

二条 代金は四〇万円とする。

三条 買主が所属する区分建物所有者以外の第三者に右専用使用権を譲渡、貸与又は使用させてはならない。

四条 買主が区分建物の所有権を譲渡等により喪失し、右専用使用権のみを所有するにいたりたるときは、売主は本契約書記載の売買価格にてこれを買戻すものとする。

五条 本契約に定めがない事項は原契約、「メガロコープ平野第三号棟管理規約」の規定を準用する。

(五)  昭和四七年三月二日、控訴人は被控訴人ユニチカ興発から前示重要事項説明書による説明を受けてその内容を承認したうえ、本件マンション一一七〇号住宅の購入申込をして申込証拠金一〇万円を支払い、次いで同月一七日同被控訴人から右説明書及び添付図面を受領した(乙第五号証の一、二、第六号証)。

(六)  同月一八日、控訴人は右被控訴人との間に売買契約を締結し、前示(三)の土地付区分建物売買契約書を作成し、その際口頭で同被控訴人に対し、前示駐車場専用使用権の分譲を希望する旨の申入をしたが、希望者多数のため昭和四七年七月一八日行なわれた抽選の結果その選に洩れた(乙第七号証)。

(七)  昭和四九年一二月二二日施行の、本件マンション区分所有者一六四名全員が加入する自治会が制定した「メガロコープ平野三号棟自治会管理規約」(乙第八号証)には次の規定がある。

一五条 ①物置及び駐車場の使用権を有する者は、それぞれの用途に従い専用使用することができる。

②前項の使用権を有する者は、建物区分所有者以外の者にその権利を譲渡することができない。

(八)  本件マンションは被控訴人ユニチカ興発が区分所有者の委託を受けて管理し、専用駐車場使用者は他の者より月五〇〇円程度多い管理費を同被控訴人に支払つている。

以上の各事実を認定することができ<る>。

二駐車場専用使用権分譲特約の性質

前認定の各事実を考え併せると、被控訴人ユニチカ興発は本件マンションの分譲販売にあたり、購入者全員の共有地となる本件マンション敷地の一部たる本件土地に駐車場を区画し、本件敷地付マンションの分譲代金とは別に、マンション購入者に対し予め前認定一(二)(三)のとおり駐車場専用使用権を買戻権付で分譲するとの特約を定めており、控訴人らマンション購入者全員は、右特約条項ならびに右専用使用権の分譲を受けた者及びその譲受人が右駐車場を専用使用することを認めて、前示一(二)(三)の特約付で本件マンションの売買契約をなしたものであることが認定できる。

右駐車場専用使用権の分譲特約の性質をみると前認定の各事実、とくに一(二)(三)(四)(七)(八)に照らし、本来、マンション敷地として土地付区分建物所有者全員の共有に属する土地の一画に駐車場を設け、その管理使用権限を、売主にして後にマンションの管理会社となる被控訴人ユニチカ興発に委ねる使用貸借契約をし、同被控訴人がこれを専用使用を希望する本件マンション購入者に買戻特約付で売却する形式をとる一種の管理契約(委任契約)に基づく使用貸借であると考える。したがつて、受任者たる同被控訴人が委任事務の処理上受取つた金銭である本件駐車場専用使用権の売却代金計金八〇〇万円は、契約にもとづく正当な権限による預り金であつて、控訴人主張のように右金員受領が法律上の原因を欠くものとはいえない。

なお、受任者たる被控訴人ユニチカ興発は、右専用使用権の売却代金名義で保管している金八〇〇万円については、最終的にはこれを各買受人に返還すべきであり、他面、敷地の共有者である区分所有者らは管理契約の委任者として、受任者である同被控訴人が保管中の右売却代金八〇〇万円により収取した利息金などの引渡を請求することができるが(民法六四六条一、二項)、これは共有物の管理に関する事項に当たるから、共有者である本件マンション区分所有者の過半数の決議をもつてなすべきであり、控訴人単独でこれをなすことはできない(民法二五二条)。

三駐車場専用使用権分譲特約の効力

(一)  物権法定主義違反の主張についての判断

控訴人は前示本件駐車場専用使用権分譲特約が民法一七五条の物権法定主義に違反し無効である旨主張するが、右特約及びこれに基づく使用権は前示二のとおり委任契約(管理契約)に基づく使用貸借であるというべきであつて契約上の権利であり、とくに物権を創設するものとはいえないから、控訴人の右主張を採用することはできない。

(二)  建物区分所有法一二条違反の主張についての判断

控訴人は、本件駐車場専用使用権分譲特約は建物区分所有法一二条にいう共有部分の変更にあたるところ、同条所定の全員の合意がないから無効である旨主張するが、同法は区分所有の目的となる「建物」の専有部分の区分所有権、区分所有者の権利義務、共用部分の共有とその管理所有等に関する事項を規定したものであつて、建物の敷地である「土地」に関する事項を規定するものではなく、僅かに同法七条において、敷地所有権を有しない建物区分所有者に対し、建物専有部分の収去を請求しうる者からする当該区分所有権売渡請求権について規定し、その二三条において、敷地の管理、使用に関する区分所有者相互間の事項を規約で定めることができる旨を規定するにすぎないのであつて、敷地の権利関係につき同法一二条を準用ないし類推適用すべき余地はない。また、かりに同条を適用すべきであるとしても、前認定一(二)(三)(五)の各事実を考え併せると、本件マンションの区分所有者(敷地の共有者)全員が、本件マンション購入に際し予め本件駐車場専用使用権の設定の合意をなしたものと推認でき、この認定に反する原、当審における控訴人本人尋問の結果の各一部は前掲一の各証拠に照らしにわかに措信できず、他に右認定を覆えすに足る証拠がない。したがつて、建物区分所有法一二条違反の控訴人の主張は失当である。

(三)  民法二五一条違反の主張についての判断

控訴人は前示本件駐車場専用使用権分譲特約は、民法二五一条の「共有物ニ変更ヲ加フルコト」に当たるところ、右特約については、同条により要求される本件敷地共有者全員の同意がないので無効である旨主張するが、この「共有物ニ変更ヲ加フル」とは共有物自体の物としての客観的な性状、形態などを物質的に変更することを指し、共有物につき使用貸借、賃貸借契約を締結するような使用権の設定などの法律的変更を含まないと解すべきであるから、本件駐車場専用使用権分譲特約をなすことは同条所定の共有物の変更にあたらない。また、たとえ、これが共有物の変更にあたるとしても、前(二)において認定したとおり、本件マンションの区分所有者(敷地の共有者)全員がマンション購入にあたり本件駐車場専用使用権分譲契約を締結して予めその専用使用に同意していたものというべきである。したがつて、控訴人の民法二五一条違反の主張も採用できない。

(四)  公序良俗違反の主張についての判断

控訴人は、本件駐車場専用使用権分譲契約は、被控訴人ユニチカ興発において、控訴人ら本件マンション購入者の無知に乗じ、その強い立場を利用して締結したもので、これにより二重に利得しており、その結果本件駐車場専用使用権の取得者と非取得者との間に著しい不平等が生じているから公序良俗に反し無効である旨主張するが、右主張に副う原、当審における控訴人本人尋問の結果の一部は前掲一の各証拠に照らしにわかに措信できず、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。

かえつて、前認定一の各事実に照らすと、控訴人を含め本件マンションの購入者全員は、駐車場専用使用特約付の本件マンションの購入を各自自由な立場から決定したものであり、また、前示二のとおり右分譲特約は本件敷地の共有者である本件マンション購入者全員が、被控訴人ユニチカ興発との間に締結した管理(委任)契約の性質を帯有しているものであつて、同被控訴人が取得保管している右専用使用権の分譲代金も、最終的には同使用権の取得者又はその承継人に返還すべきものであるから、同被控訴人が土地付本件マンション本体の売買代金のほかに右専用使用権分譲代金を二重に利得しているものとはいえず、またかりにそうでないとしても<証拠>によると、本件土地付本件マンション本体と本件駐車場専用使用権の分譲を総合的に勘案して収支計算をした上本件マンションの販売価額を決定して販売したものであることが認められるのであつて、この点からいつても同被控訴人が同一土地に二重に利得を得ているとはいえない。また、前認定一の各事実とくに(二)(四)(八)の事実に照らすと、本件駐車場専用使用権の分譲を受けた者は、その取得時に金四〇万円を同被控訴人に交付するほか、毎月非取得者に比して金五〇〇円ほど多いマンション管理費を支払つていることが認められるから、たとえ控訴人主張のように非取得者が本件駐車場の固定資産税を負担しているとしても、取得者と非取得者の間に控訴人主張のような著しい不平等が生じているとはいえない。したがつて、控訴人の公序良俗違反の主張は採用できないものである。

四被控訴人ユニチカ興発が被控訴人ユニチカの全額出資によつて設立された同社の子会社であることは当事者間に争いがないから、実質的に両者は同一性が最も強く法人格はなお別個のものではあるが法律的にも特段の事情のない限り第三者に対し同一の責任を負担すると解すべきである。けだし、このような全面所有子会社は実質的には親会社の完全な一部門にすぎないといえるのであつて、いわゆる一人会社の場合と同様、実質的に両者の利害が一致し(最判昭四五・八・二〇民集二四巻九号一三〇五頁参照)、実質的な同一性の程度が高く法的にも完全な同一体に準じてこれを処理すべきだからである。

したがつて、被控訴人ユニチカはその全面所有子会社である被控訴人ユニチカ興発と同一の責任を負うべきであるけれども、被控訴人ユニチカ興発が控訴人に対し本訴不当利得返還義務があると認められないことは前示のとおりであるから、その親会社である被控訴人ユニチカは控訴人に対し本訴不当利得返還の義務を負担するいわれはない。

また、被控訴人ユニチカが本件駐車場専用使用権分譲代金を被控訴人ユニチカ興発から受取り、これを着服したという控訴人主張の請求原因事実については、その主張に副う原審における控訴人本人尋問の結果の一部は前掲一の各証拠に照らしにわかに措信できず、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。

五結論

以上のとおりであるから、その余の判断をするまでもなく控訴人の本訴請求は失当であつてこれを棄却した原判決は結局相当である。よつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(下出義明 村上博巳 吉川義春)

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