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大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)632号 判決 1979年7月30日

控訴人 国

代理人 上原健嗣 ほか五名

被控訴人 西村順子こと鄭雲順 ほか四名

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は被控訴人鄭雲順に対し金四七万九七四三円、被控訴人金甲生に対し金四四万〇三九一円、被控訴人金純生に対し金三五万九四八七円、被控訴人金庚順、同金秀蓮に対しそれぞれ金二七万九七四三円及び右各金員に対する昭和四五年一月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人らのその余の請求を棄却する。

二1  控訴人に対し、被控訴人鄭雲順は金二五万五〇八七円、被控訴人金甲生は金七六万三八四〇円、被控訴人金純生は金五一万〇一六六円、被控訴人金庚順、同金秀蓮はそれぞれ金二五万五〇八五円及び右各金員に対する昭和四九年五月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一ないし三審(前項に関する裁判の費用を含む。)を通じてこれを四分し、その一を控訴人、その余を被控訴人らの各負担とする。

四  この判決は二の1につき仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判 <略>

二  当事者の主張

次に付加するほか、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する(ただし、原判決九枚目表五行目の「達つし」を「達し」に、同裏二行目の「過失利益」を「逸失利益」に訂正する。)。

1  控訴人

(一)  福井県公安委員会規則は、「積雪又は凍結している道路において自動車を運転する場合には防滑装置を講ずること」を義務づけているから、これを講じなかつた亡金三俊には義務違反がある。また道路状況に応じた適切な運転方法を講ずることは運転者の義務であるから、本件のような積雪で有効幅員が狭められた道路を走行するときにもなお通常の速度を維持するのは右義務に違反する(三俊は制限速度を超えて運転していたのであるから、なおさらである。)。そして、運転者のこれら義務と相関的に考えると、本件道路が積雪によつて幅員が狭くなつていたとはいえ、有効幅員は最も狭い地点でも約五・二メートル確保されていて、車両の擦れ違いが適宜の運転方法を講ずれば可能であつた以上、道路管理に瑕疵はなかつたというべきである。

(二)  現在の排雪車を使用したのでは、排雪後でも路面に通常一センチメートル程度の圧雪が残ることは避けられないから、排雪によつて路面の湿潤からくる凍結を完全に防止することは不可能である。したがつて、本件凍結をもつて道路管理の瑕疵とはいえない。また三俊が防滑装置を講じていれば右程度の凍結では安全な通行が可能であつたと考えられるから、これを講じなかつた三俊の義務違反と相関的に考えても右凍結をもつて道路管理の瑕疵とは解されない。

(三)  三俊の本籍地は朝鮮慶尚南道であるが、被控訴人鄭雲順のそれは朝鮮慶尚北道であるところ、大韓民国民法によると夫婦は同一の戸籍に入るものとされているから、右両名が法律上の夫婦であることには疑問がある。もし夫婦でないとすると、同国民法によるとその余の被控訴人らは非嫡出子となり、認知がない限り三俊との間に法律上の親子関係を生じない。そうすると、認知の存否について明らかでない本件において、その余の被控訴人らを三俊の相続人と認定することも疑問である。

(四)  広芸運輸有限会社(原審共同被告、以下「広芸運輸」という。)が被控訴人らに対し反対債権を有すること、これをもつて被控訴人らに対する損害賠償債務につき対当額で相殺したことは原判決理由中「六、相殺の抗弁」に記載のとおりであるから、これを援用する(なお、広芸運輸の所有車両の損害額は原判決理由六2(三)に記載のとおりで、右は同記載の証拠に基づいた合理的な額である。特に車両の下取価格は原審証人大向梅一、同村上義輝の各証言、乙第一号証により金二〇万円であることに疑いはない。被控訴人らの指摘する乙第五号証の二は広芸運輸から右車両を金二〇万円で下取りした島根日野自動車株式会社が株式会社宮本商店に金二五万円で転売した事実の証明書であつて、下取価格の証拠としては適切でない。)。そして、広芸運輸の右相殺の抗弁について原判決は被控訴人らの広芸運輸に対する賠償請求額のうち、被控訴人鄭雲順、同金庚順及び同金秀蓮については各金三五万七一六五円、被控訴人金甲生については金一〇六万九五二三円、被控訴人金純生については金七一万四三三一円の各範囲で相殺を認めた結果、右賠償請求額を右金額だけそれぞれ減額し、右判決は広芸運輸と被控訴人らとの間において既に確定しているから、被控訴人らの広芸運輸に対する損害賠償請求権はその限度で消滅したものであるところ、控訴人と広芸運輸とは被控訴人らに対して不真正連帯債務者の関係にあるから、控訴人の被控訴人らに対する損害賠償債務も右相殺の限度で消滅した。

(五)  広芸運輸が被控訴人らに対してなした相殺によつて控訴人及び被控訴人らが共同の免責を得た額は合計二八五万七三二七円(ただし、正確には被控訴人金甲生に対する広芸運輸の反訴請求が認容された一九七四円は共同の免責を得たことになつていないので、相殺による共同の免責額としてはこれを控除すべきである。)であるが、その負担割合は、被控訴人ら主張のように各五〇パーセントでない。原判決によると、まず被控訴人らの請求につき三俊の過失相殺の割合を五〇パーセントと評価し、広芸運輸と控訴人とでその余の五〇パーセントを負担すべきものとし、次に広芸運輸の請求につき同社の被用者河野正夫の過失相殺の割合を一五パーセントと評価し、控訴人と被控訴人らとでその余の八五パーセントを負担すべきものとしている。右評価によると本件事故全体についての三当事者の責任割合は、三俊五〇パーセント、控訴人三五パーセント、河野一五パーセントとみるのが相当であるから、広芸運輸の損害賠償請求に対する被控訴人らと控訴人の負担割合は五〇パーセント対三五パーセントと評価すべきである。したがつて、被控訴人らの控訴人に対する求償債権は総額で一一七万六五四六円(2,857,327円×35/50+35=1,176,546円)を上回るものでない。

(六)  被控訴人らは仮執行宣言付の原判決に基づき昭和四九年五月九日控訴人に対し別表記載のとおり強制執行をしているから、控訴人は民訴法一九八条二項に基づき被控訴人らに対し前記一1(四)のとおりの金員の支払を求める。

2  被控訴人ら

(一)  本件事故現場のような見通しの悪い、交通量の多い交差点では、残雪を完全に排除すべきであり、本件のように残雪を車道部分に一・三メートルもはみ出して放置しておくことは交通上危険である。また完全に排雪しておけば、一センチメートル程度の圧雪が残つていても、事故当日までの一週間に消失していたはずであるが、残雪があつたために凍結したものである。

(二)  原判決は、被控訴人らと控訴人との関係で三俊につき五〇パーセントの過失相殺をしている。したがつて、残りの五〇パーセントを控訴人の責任としたのであるから、原判決の認めた被控訴人らと広芸運輸との間の相殺に絶対的効力があるとして控訴人の賠償額を更に減額すると、三俊に責任のない事由によつて二重に減額する結果となり不当である。

(三)  広芸運輸は被控訴人らに対する反対債権をもつて同人らに対する損害賠償債務中の対当額と相殺したが、右反対債権は実体法上存在しないか、少なくともその額に誤りがある。もつとも、原判決は右反対債権である広芸運輸の所有する車両の破損による損害につき、「新車として四三五万円で購入したが、事故まで五か月間使用したため事故当時の価格は三五六万一五六二円であり、全損状態のスクラツプとして二〇万円で下取りされたため損害額は三三六万一五六二円である。」と認定しているが、買入れ当時四三五万円であつたものが、五か月後に三五六万一五六二円となつた算出経緯についての判示がなく、かつ、下取り価格についても乙第五号証の二によると二五万円であるのに二〇万円としており、右認定は首肯できない。

(四)  仮に本件事故が控訴人の道路管理の瑕疵と三俊、広芸運輸の被用者河野正夫両名の過失の競合によつて発生したものであるとすると、広芸運輸の損害額については控訴人と被控訴人らとは不真正連帯債務者の関係にあり、広芸運輸のなした相殺により債務者の一方である被控訴人らが自己の出捐によつて控訴人との共同の免責を得たこととなり、被控訴人らは右相殺額中控訴人の負担部分につき同人に対し求償権を有することとなるが、右負担部分は責任の割合によつて定めるべきところ、控訴人と三俊との右割合はそれぞれ五〇パーセントであるから、被控訴人らは控訴人に対し相殺額の二分の一について求償権を取得したことになる。そうすると、被控訴人らは右求償権の行使により、広芸運輸の相殺によつて消滅すべき控訴人に対する債権額中、右求償債権部分は消滅を免れたこととなるので、被控訴人らの控訴人に対する債権は次のとおりとなる。

(イ) 被控訴人鄭雲順      五一万一二五九円

689,841円-357,165円×1/2≒511,259円

(ロ) 被控訴人金甲生      五三万四七六一円

1,069,523円-1,069,523円×1/2≒534,761円

(ハ) 被控訴人金純生      四二万二五一七円

779,682円-714,331円×1/2≒422,517円

(ニ) 被控訴人金庚順・同金秀蓮 各三一万一二五九円

489,841円-357,165円×1/2≒311,259円

なお、右金額により、民訴法一九八条二項に基づき被控訴人らから控訴人に返還されるべき金額も定められなければならない。

三  証拠 <略>

理由

一  当裁判所も被控訴人らは控訴人に対し、自動車損害賠償保険金五〇〇万円を控除して左記金額の損害賠償請求権を取得したものと判断する。

(イ)  被控訴人鄭雲順       六八万九八四一円

(ロ)  被控訴人金甲生      一〇六万九五二三円

(ハ)  被控訴人金純生       七七万九六八二円

(ニ)  被控訴人金庚順・同金秀蓮 各四八万九八四一円

及び右各金員に対する昭和四五年一月二七日から完済まで年五分の割合による遅延損害金

その理由は、次に付加・訂正するほか、原判決理由一、二項、三項の1、2、四、五項(一四枚目表一〇行目から二六枚目表末行まで、二七枚目表七行目から三三枚目裏五行目まで)の説示と同じであるから、これを引用する。

1  原判決一五枚目裏八行目の「敦賀市」から同九行目の「低く、」までを削除し、二二枚目表六行目の「雪提」を「雪堤」に訂正し、同一〇行目の「気温が」の次に「摂氏(以下、温度はすべて摂氏である。)」を挿入し、二三枚目裏六行目の「尤も」を「最も」に、二四枚目表七行目の「決つして」を「決して」に、三一枚目表七行目の「逸つせしめる」を「逸せしめる」にそれぞれ訂正する。

2  被控訴人らに対する国家賠償法適用の可否についての原判決の判断(二五枚目表一二行目から二六枚目表末行まで)を次のとおり改める。

「ところで三俊及び被控訴人らは後記五1(二)のとおり朝鮮国籍であるが、被控訴人らは本件につき国家賠償法六条の適用があるものとして本訴請求をしているので、朝鮮において日本人に対する相互保証規定の存否が問題となるところ、<証拠略>によると、被控訴人鄭雲順の本籍地は朝鮮慶尚北道醴泉郡内に、三俊及びその余の被控訴人らの本籍地は朝鮮慶尚南道東莱郡内にそれぞれあることが認められ、右各所が大韓民国の現実の施政地域内に存在することは顕著な事実であるから、三俊及び被控訴人らが国家賠償法の適用を受けるためには大韓民国において相互の保証がなされていることが必要である。ところで、職権調査によると、大韓民国には一九六七年三月三日に公布され、その三〇日後に施行された(新)国家賠償法があり、これによると、道路、河川その他公共の営造物の設置もしくは管理に瑕疵があるため、他人の財産に損害を生ぜしめたときは、国又は地方自治団体はその損害を賠償しなければならず、この場合、他人の生命もしくは身体を害したときは、三条の基準により賠償をする(同法五条一項)こと、かつ、同法は、外国人が被害者であるときは、相互の保証があるときに限り適用される(同法七条)ことになつているのであるから、被控訴人らは国家賠償法により本件事故に基づく損害の賠償を請求することができ、控訴人は右賠償義務を免れない。」

3  控訴人は、運転者の義務と相関的に考えると、本件道路管理に瑕疵はなかつた旨主張する。しかし、本件道路管理に瑕疵があつたと認められることは原判決説示のとおりであつて、三俊に控訴人主張のような運転者としての義務違反があつたことは、過失相殺に際し、過失として斟酌すべき事項であるが、本件道路管理の瑕疵を否定すべき事項とは解し難い。したがつて右主張は失当である。

4  控訴人は、排雪によつて路面の凍結を完全に防止できないから、本件凍結をもつて道路管理の瑕疵とはいえない旨主張する。しかし、本件では一月一九日に路面の積雪が通路脇に寄せられたが、それが残雪となつて〇・三メートルの高さで道路両側から車道にはみ出して放置されたままで、その後は事故の起きた同月二六日まで通常の巡回以外特段の対策が講じられなかつたため、凍結の結果を生じたことは原判決認定のとおりである。仮に控訴人主張のとおり排雪車による排雪によつては高さ一センチメートル程度の圧雪が残るとしても、この程度の雪であれば一月一九日から二六日までの七日間に溶けて消失し、本件のような凍結を生じなかつたと考えられるから、本件凍結をもつて道路管理の瑕疵に当らないということはできない。

5  控訴人は、被控訴人鄭雲順が三俊と法律上の夫婦であつたこと及びその余の被控訴人らが三俊と法律上の親子関係にあつたことに疑問があるから、被控訴人らを三俊の相続人とすることに疑問がある旨主張する。しかし、<証拠略>によると、被控訴人鄭雲順は昭和二九年九月三日三俊との婚姻届を滋賀県高島郡高島町長に提出して受理されたことが認められるところ、同被控訴人及び三俊のように大韓民国の支配する地域に本籍地を有する者の婚姻は、日本の方式による届出により成立し効力を生ずるものと解するのが相当である(法例一三条一項但書)から、同人らは法律上の夫婦であつたと認めるべきであり、同被控訴人は三俊の妻、その余の被控訴人らは三俊の子としてその相続人ということができる。したがつて右主張は失当である。

二  控訴人は、控訴人の被控訴人らに対する本件損害賠償債務は、控訴人とともに被控訴人らに対し不真正連帯債務を負担し原審の共同被告であつた広芸運輸が原審において被控訴人らに対する反対債権をもつて対当額で相殺する旨の抗弁をなしたのに対し、その一部を容れた判決が確定したことにより、右相殺額の限度で消滅した旨主張するので判断する。

1  広芸運輸の被控訴人らに対する損害賠償請求権

前記一で引用の原判決理由二及び三1(5)(6)において認定の事実、<証拠略>によると、広芸運輸の被用者河野正夫が運転し同社が所有する大型トラツク(乙車)は本件事故によりその右前部を中心に大破したこと、もつとも同車は保冷車で保冷装置部分は損傷が少なくその部分のみ取りはずして他への転売もできないことはないが、同車を修理すれば新車を買うよりも高くつくことが認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。右認定事実によると、乙車は修理不能とはいえないが、本件事故によつてほぼ全損の状態にあつたものと評価できる。

本件事故が三俊の過失に起因することは前記一で引用の原判決理由四における認定のとおりであるが、他方、同じく引用の原判決理由三1における認定事実によると、本件事故現場付近はその東方の関屋橋から緩かな下り勾配をなし、かつ、北側に湾曲している見通しの悪い地点で、しかも道路脇の残雪のため有効幅員が狭められており、このことは河野も認識していたはずであり、また季節的にも厳寒に向う折でもあり北陸地方の気象状況からして路面の凍結も全く予想できない状況でなかつたにかかわらず、なんら減速徐行等の安全運転の措置を取らず、漫然と時速約六〇キロメートルの高速度で進行したことにより本件事故に至つたもので河野にも過失があつたことは明らかである。そして同人の本件事故に対する過失割合は一五パーセントとするのが相当であり、右は被害者側の過失として広芸運輸にも適用される。

<証拠略>によると、広芸運輸は昭和四四年八月島根日野自動車株式会社浜田営業所から新車の乙車を代金四三五万円で購入し、本件事故まで五か月間使用したため事故当時の価格は三五六万一五六二円であつたが、前記のとおり同車は全損状態となつたため右浜田営業所に二〇万円で下取りされたことが認められ、右認定に反する証拠はない。被控訴人らは、買入れ当時四三五万円であつた乙車が五か月後に三五六万一五六二円となつた算出根拠が明らかでなく、また下取り価格も<証拠略>によると二五万円である旨主張するが、前記<証拠略>によると、乙車を広芸運輸に販売した島根日野自動車株式会社浜田営業所は同車は最初の一年間で四割三分五厘の減価を生ずるものとして右割合による五か月分の減価を算出し、これを新車価格から控除したものを同車の本件事故当時の価格としているので、これによつて同車の本件事故当時の価格の算出根拠は明らかであり、これが不当であるとの証拠はなく、また<証拠略>は乙車を下取りした島根日野自動車浜田営業所がこれを転売した際の価格が二五万円であつたことを記載した書面で、広芸運輸からの下取り価格を記載したものでないから、右主張は失当である。

以上認定事実によると、広芸運輸の損害は三三六万一五六二円となるが、前記過失相殺の割合一五パーセントを斟酌すると三俊に賠償を請求しうべき金額はうち二八五万七三二七円(円未満切捨、以下同じ)となる。

ところで、前記一で引用の原判決理由五1(二)における認定によると、被控訴人らはいずれも三俊の相続人でその相続分は鄭雲順八分の一、金甲生八分の三、金純生八分の二、金庚順八分の一、金秀蓮八分の一であるから、広芸運輸は三俊の右債務を右割合によつて承継した被控訴人らに対し左記金額の損害賠償請求権を取得したこととなる。

(イ)  被控訴人鄭雲順に対し       三五万七一六五円

(ロ)  被控訴人金甲生に対し      一〇七万一四九七円

(ハ)  被控訴人金純生に対し       七一万四三三一円

(ニ)  被控訴人金庚順・同金秀蓮に対し 各三五万七一六五円

2  広芸運輸の相殺

原審において控訴人とともに被告とされていた広芸運輸は本件事故によつて被控訴人らに対して生じた損害賠償請求権を自働債権とする相殺の抗弁を提出したのに対し、原審はその一部を容れて被控訴人らの取得した損害賠償請求権の額から支払のあつた自動車損害賠償保険金額を控除した額のうち、被控訴人鄭雲順、同金庚順、同金秀蓮についてはいずれも三五万七一六五円、被控訴人金甲生については一〇六万九五二三円、被控訴人金純生については七一万四三三一円の各範囲で相殺を認めた結果、右請求権は事故日(相殺適状の始め)に遡つて右相殺額だけ減額となつたため、その残額について被控訴人らの広芸運輸に対する請求を認容する判決があり、右判決が控訴なく確定したことは、記録上明らかである。

3  被控訴人らの控訴人に対する損害賠償請求権の一部消滅

被控訴人らに対し広芸運輸の損害賠償債務と控訴人の損害賠償債務とが不真正連帯債務の関係にあることは、既に認定した事実によつて明らかである。

そうすると、原審において相殺の認められた広芸運輸の被控訴人らに対する反対債権が前記1認定のとおり有効に存在するものである以上、たとえ右反対債権をもつてする相殺が民法五〇九条により許されないものであるとしても、民訴法一九九条二項による確定判決の既判力の効果として広芸運輸は右反対債権を行使できなくなり、その反面被控訴人らはそれだけの利益を受けることとなり、右は広芸運輸が弁済等その出捐により被控訴人らの債権を満足させて消滅させた場合と同視できるから、前記のとおり広芸運輸とともに不真正連帯債務を負担する控訴人の被控訴人らに対する損害賠償債務は広芸運輸のなした右債務消滅によりその限度で消滅したものと解すべきである。この点に関する被控訴人らの主張はそれ自体理由がなく失当である。

したがつて、被控訴人らの控訴人に対する損害賠償請求権残額は次のとおりとなる。

(イ)  被控訴人鄭雲順       三三万二六七六円

689,841円-357,165円=332,676円

(ロ)  被控訴人金甲生              〇

1,069,523円-1,069,523円=0

(ハ)  被控訴人金純生        六万五三五一円

779,682円-714,331円=65,351円

(ニ)  被控訴人金庚順・同金秀蓮 各一三万二六七六円

489,841円-357,165円=132,676円

及び右各金員に対する不法行為の日の翌日である昭和四五年一月二七日から完済まで年五分の割合による遅延損害金

三  以上認定の事実によると、本件事故は三俊、河野双方の過失に控訴人の道路管理の瑕疵が競合して発生したもので、控訴人と被控訴人らとは右事故に基づく広芸運輸の損害賠償請求につき不真正連帯債務者としての立場にあり、被控訴人らと広芸運輸との間で前記反対債権を自働債権とする相殺を肯定する判決が確定した以上、被控訴人らは控訴人に対しこれに基づく求償権を取得したと認められる。

ところで、被控訴人らは広芸運輸に対する債務についての被控訴人らと控訴人との負担割合は各五〇パーセントであるから、控訴人に対し右確定判決によつて消滅した広芸運輸に対する債権額の五〇パーセントについて求償権を行使する旨主張するので判断する。

被控訴人らの損害賠償請求につき、同人らの負担すべき過失割合は五〇パーセントであり、広芸運輸と控訴人の損害を負担すべき割合は合わせて五〇パーセントとなること、広芸運輸の請求につき、同社の負担すべき過失割合は一五パーセントであり、控訴人と被控訴人らが広芸運輸の損害中右一五パーセントを控除した八五パーセントの支払義務があることは、既に当裁判所が認定したところである。

右認定に基づくと、本件事故による損害についての三者の負担すべき割合は被控訴人ら五〇パーセント、控訴人三五パーセント、広芸運輸一五パーセントとなるから、広芸運輸の損害賠償請求に対し被控訴人らと控訴人が負担すべき割合は、被控訴人ら五〇パーセント、控訴人三五パーセントで、同人らは右割合をもつて広芸運輸に対し損害賠償債務を分担すべきものである。

そうすると、被控訴人らの控訴人に対する求償債権は次のとおりである。

(イ)  被控訴人鄭雲順       一四万七〇六七円

357,165円×35/50+35=147,067円

(ロ)  被控訴人金甲生       四四万〇三九一円

1,069,523円×35/50+35=440,391円

(ハ)  被控訴人金純生       二九万四一三六円

714,331円×35/50+35=294,136円

(ニ)  被控訴人金庚順・同金秀蓮 各一四万七〇六七円

357,165円×35/50+35=147,067円

及び右各金員に対する民法四四二条二項所定の免責日である相殺適状時(事故日)の翌日である昭和四五年一月二七日から完済まで年五分の割合による法定利息金

四  右一ないし三によると、被控訴人らの控訴人に対する損害賠償債権及び求償債権の合計額は次のとおりである。

(イ)  被控訴人鄭雲順       四七万九七四三円

689,841円-357,165円+147,067円=479,743円

(ロ)  被控訴人金甲生       四四万〇三九一円

1,069,523円-1,069,523円+440,391円=440,391円

(ハ)  被控訴人金純生       三五万九四八七円

779,682円-714,331円+294,136円=359,487円

(ニ)  被控訴人金庚順・同金秀蓮 各二七万九七四三円

489,841円-357,165円+147,067円=279,743円

及び右各金員に対する昭和四五年一月二七日から完済まで年五分の割合による法定利息又は遅延損害金

そうすると、被控訴人らの本訴請求は右限度で理由あるものとして認容すべきであり、その余は失当として棄却すべきである。

五  控訴人の民訴法一九八条二項に基づく請求について判断する。

被控訴人らが仮執行宣言付の原判決に基づき昭和四九年五月九日控訴人に対し別表のとおり仮執行したことは、被控訴人らにおいて明らかに争わないので、自白したものとみなされる。

そうすると、被控訴人らは別表の仮執行額(元本債権と付帯請求金)から当審で認容された損害賠償債権残額(ただし、付帯請求金の終期は仮執行の日である昭和四九年五月九日)を控除した次の差額とこれに対する仮執行日の翌日以降完済まで民法所定の年五分の割合による損害金を付加して控訴人に返還しなければならない。

(イ)  被控訴人鄭雲順       二五万五〇八七円

(689,841円+147,701円)-(479,743円+102,712円)=255,087円

(ロ)  被控訴人金甲生       七六万三八四〇円

(1,069,523円+228,995円)-(440,391円+94,287円)=763,840円

(ハ)  被控訴人金純生       五一万〇一六六円

(779,682円+166,937円)-(359,487円+76,966円)=510,166円

(ニ)  被控訴人金庚順・同金秀蓮 各二五万五〇八五円

(489,841円+104,879円)-(279,743円+59,892円)=255,085円

なお、仮執行の費用も執行により控訴人が受けた損害であるから、被控訴人らは控訴人に対し賠償しなければならないが、仮執行額の一部の返還が命ぜられるだけで残余の執行は維持されるので、控訴人主張の執行予納金(執行費用)のうち返還すべき額を定めなければならないところ、これを確定すべき資料がないので、その不利益は控訴人に帰させるほかなく、したがつて返還を命じないこととする。

以上により、控訴人に対し、被控訴人鄭雲順は右(イ)の金額二五万五〇八七円、被控訴人金甲生は右(ロ)の金額七六万三八四〇円、被控訴人金純生は右(ハ)の金額五一万〇一六六円、被控訴人金庚順・同金秀蓮は各右(ニ)の金額二五万五〇八五円、及びこれらの金額に対する昭和四九年五月一〇日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。したがつて、控訴人の民訴法一九八条二項に基づく請求は右限度で認容し、その余は失当として棄却すべきである。

六  よつて、原判決を変更し、被控訴人らの請求につき前記四の末項判示のとおり認容又は棄却し、控訴人の請求につき前記五判示のとおり認容又は棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村瀬泰三 高田政彦 弘重一明)

別表 <略>

【参考】第三審判決

(最高裁第一小法廷昭和五一年(オ)第三四八号昭和五三年三月二三日判決)

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人吉原稔、同岡豪敏、同高見澤昭治の上告理由第一点について

記録によれば、本件訴訟の内容及び経過は次のとおりである。

(一) 本件訴訟は、亡金三俊の運転する貨物自動車と訴外広芸運輸有限会社(以下「広芸運輸」という。)が運行の用に供し、訴外河野正夫が運転する貨物自動車との国道上での衝突により金三俊が死亡した事故につき、同人の妻又は子である上告人らが被上告人の道路管理の瑕疵が事故の原因であるとして被上告人に対し損害賠償を請求したものである。(二) 第一審においては、広芸運輸も被上告人とともに被告とされたところ、同会社は、同一事故により生じた同会社の上告人らに対する損害賠償請求権を自働債権とする相殺の抗弁を提出し、第一審はその一部を容れて、上告人らの取得した損害賠償請求権の額から支払のあつた自動車損害賠償保険金額及び相殺の認められた金額を控除した残額について上告人らの同会社に対する請求を認容する判決をし、右判決は控訴がなく確定した。(三) ところが、第一審において、上告人らと被上告人との間では右相殺の主張がなされなかつたため、上告人らの被上告人に対する請求の認容額は、その総額において広芸運輸に対する請求の認容額よりも前記相殺額だけ高額となつた。(四) 被上告人は、右第一審判決に対して控訴したうえ原審において、上告人らと広芸運輸との間においては前記のような内容の第一審判決が確定したが、被上告人と広芸運輸とは上告人らに対して不真正連帯債務を負う関係にあるから、被上告人の上告人らに対する賠償義務も前記相殺額の限度で消滅したとの主張をしたところ、原審はこれを容れて第一審判決を変更し、結局被上告人に対しても広芸運輸と同額の損害賠償を命じた。(五) 原審は、右判決をなすにあたつて、本件事故につき被上告人と共に不真正連帯債務を負担する広芸運輸と上告人らとの間で前記のような内容の第一審判決が確定したことを認定したのみで、相殺の自働債権とされた広芸運輸の損害賠償請求権の存在を認定することなく、右確定判決の存在から直ちに被上告人の損害賠償義務が同判決で認められた相殺額の限度で消滅したものと判断した。

しかしながら、不真正連帯債務者中の一人と債権者との間の確定判決は、他の債務者にその効力を及ぼすものではなく、このことは、民訴法一九九条二項により確定判決の既判力が相殺のために主張された反対債権の存否について生ずる場合においても同様であると解すべきである。もとより、不真正連帯債務者の一人と債権者との間で実体法上有効な相殺がなされれば、これによつて債権の消滅した限度で他の債務者の債務も消滅するが、他の債務者と債権者との間の訴訟においてこの債務消滅を認めて判決の基礎とするためには、右相殺が実体法上有効であることを認定判断することを要し、相殺の当事者たる債務者と債権者との間にその相殺の効力を肯定した確定判決が存在する場合であつても、この判決の効力は他の債務者と債権者との間の訴訟に及ぶものではないと解すべきであるから、右認定判断はこれを省略することはできない。したがつて、上告人らと広芸運輸の間に前記のような内容の確定判決が存在することから、直ちに被上告人の債務が右判決によつて認められた相殺の金額の限度で消滅したものとした原判決は、判決の効力に関する法の解釈を誤つたか、理由不備の違法を犯したものであり、右法解釈の誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄を免れない。

そして広芸運輸が相殺に供した上告人らに対する反対債権が実体法上有効に存在するものであるならば、右反対債権を以てする相殺が民法五〇九条により許されないものであるにせよ(最高裁昭和三〇年(オ)第一九九号同三二年四月三〇日第三小法廷判決・民集一一巻四号六四六頁、最高裁昭和四七年(オ)第三六号同四九年六月二八日第三小法廷判決・民集二八巻五号六六六頁参照)、民訴法一九九条二項による確定判決の既判力の効果として、広芸運輸は右反対債権を行使することができなくなり、その反面として上告人らはそれだけの利益を受けたことになるのであつて、右事実は広芸運輸が弁済等その出捐により上告人らの債権を満足させて消滅せしめた場合と同視することができるから、被上告人の上告人らに対する損害賠償債務もその限度で消滅したことになるものと解すべきである。上告人らと被上告人との間においては未だ訴訟上右反対債権の存在は確定されていないのであるから、この点について審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すのを相当とする。(なお、原審認定の事実関係に照らし本件事故は金三俊、河野正夫双方の過失と被上告人の道路管理の瑕疵との競合により発生したものとされることが予想されるが、その場合、上告人らと被上告人とは右事故による広芸運輸の損害賠償請求につき不真正連帯債務者たる立場にたつものであるから、もし広芸運輸の右反対債権が存在し、その内容が前記確定判決が認定しているようなものであるとすれば、前記のとおり上告人らと広芸運輸との間で右反対債権を自働債権とする相殺を肯定する判決が確定した以上、上告人らは国に対してこれに基づく求償権を取得するものと解される。)

よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 本山亨 岸上康夫 団藤重光 藤崎萬里)

上告代理人吉原稔、同岡豪敏、同高見澤昭治の上告理由

第一点 原判決には、民事訴訟法第二〇一条の適用を誤つた違法がある。

(一) すなわち、原判決は「原審(第一審)で、相被告であつた訴外会社(広芸運輸有限会社)が被控訴人ら(上告人ら)の訴外会社に対する本訴損害賠償請求権に対し、訴外会社の同一事故にもとづく被控訴人らに対する損害賠償請求権をもつて対当額での相殺を主張した結果、原判決(第一審判決)では、本訴賠償額のうち、被控訴人(上告人)鄭雲順、同金庚順および同金秀蓮についてはそれぞれ金三五万七一六五円、被控訴人金甲生については金一〇六万九五二三円、被控訴人金純生については金七一万四三三一円の各範囲で相殺が認められ、その結果、訴外会社の被控訴人らに対する賠償額が事故日(相殺適状の始め)にさかのぼつて右金額だけ減額されたことおよび原判決のうち訴外会社に関する部分が控訴なくして確定したことは記録上明らかである。そして、被控訴人らに対し、訴外会社の損害賠償債務と控訴人の損害賠償債務とが不真正連帯債務の関係にあることは、原判決のうち訴外会社に関する部分および控訴人に関する当審の前示判断を通じて明瞭であるから、相殺によつて訴外会社の損害賠償債務が消滅した限度で、控訴人の損害賠償債務も消滅したものといわなければならない」と判示する。

(二) しかし、判決の既判力は訴訟当事者間にしか及ばないのが原則であり、当事者以外の第三者に及ぶのは法律によつて特に認められた例外的な場合に限るのである(民訴法二〇一条)。

従つて、訴外会社が上告人らに対してなした相殺の意思表示が有効か否かは原審において実質的に審理判断すべきであるにかかわらず、原審が訴外会社と上告人らとの間の右確定判決を援用して、当然に上告人らに対する被上告人の損害賠償債務の存在を否定ないし減額するのは民事訴訟法第二〇一条に違反したものというべきである。

(三) 右論旨は、上告人らに対する訴外会社の損害賠償債務は第一審において訴外会社の相殺の抗弁が認められたためにその分だけ減額され、それについての第一審判決の訴外会社に関する部分が確定しているのであるから、その確定判決の反射的効力として、不真正連帯債務の関係にある上告人らに対する被上告人の損害賠償債務も右相殺が認められた範囲で消滅したというにあると考えざるを得ない。しかしながら、右の如く確定判決に反射的効力を認める見解がその効果として第三者に対する裁判において裁判所はその点に関して実質的審理に立入ることが許されず、当然判断の前提として拘束的に受容しなければならぬとするのであれば、実質的には既判力の第三者への拡張というべく、特段の規定のない限り既判力は当事者間にのみ生ずるという原則と矛盾するといわねばならない。(法律学全集35三ヶ月章P三五)。

なお、故兼子一博士は、こうした反射効なるものを基礎づけうることが既判力本質論としての権利実在説の一つの効用であることを力説される。(実体法と訴訟法一六五頁、体系三五二頁)。しかし既判力理論としてこうした立場をとるとしても確定判決による権利の実在化は決して対世的な実在化ではなく、主観的(人的)限界を本質的に伴つた法的実在として認められるに止まるのであるから、かかる主観的制約を伴つた法的実在を根拠にして第三者に対する右の如き制度的な拘束的効果を導き出すことは、やはり一つの飛躍がなくては難しいといわなければならないうえ(法律学全集三五・三ヶ月章三五頁注(一))、判決の効力の主観的範囲を不明瞭ならしめるおそれがあるといわねばならない。

また、反射効が問題となりうるケースは既判力の効果を第三者に推し及ぼすべきか否かという立法政策的考慮によつて決するのが本来の筋道であり、もしそういう効果を認めることが適当であるとなれば明文の規定を置くのが望ましく、明文の規定のない以上、既判力論の問題外におき既判力の相対性という一般原則を貫いた方が、不必要な混乱摩擦を防ぎうるのであり解釈論として反射効を認めることはその限界を超えているものと思われる。最高裁判所の判例(最判第二小法廷昭和三一年七月二〇日民集一〇巻九六五頁)もこの点につきに消極的態度をとつており、原判決はこの判例の趣旨にも反する。

第二点 原判決には、民法第五〇九条の法条を適用しなかつた法令の違反がある。

すなわち、不真正連帯債務の関係にある一方の債務が相殺により消滅ないし減額された場合にいわゆる絶対的効力を認め他方の債務も右相殺が認められた限度で消滅ないし減額されるとしても、その相殺の意思表示が有効か否かは原審の如く単に第一審の確定判決を援用するのでなく、原審において実質的にその当否が判断されるべきものであることは前段で述べた通りである。しかしながら、原審はこの点についての実質的判断をすることなく、民法第五〇九条の適用を否定している。

思うに、民法第五〇九条の趣旨は、不法行為の被害者の現実の弁済によつて損害の項補を受けさせること等にあるから、およそ不法行為による損害賠償債務を負担している者は、被害者に対する不法行為による損害賠償債権を有している場合であつても、被害者に対しその債権をもつて対当額につき相殺により右債務を免れることは許されないものと解するのが相当である(最高裁昭和三〇年(オ)第一九九号同三二年四月三〇日第三小法廷判決・民集一一巻四号六四六頁参照)。この趣旨は同一交通事故によつて生じた損害賠償請求権相互の間においても妥当すべく、民法第五〇九条の規定により相殺が許されないと考えるべきことは、原審において控訴人(被上告人)の代理人らが昭和四九年一一月一日付準備書面(一)に記載し、口頭弁論で陳述した如く、最高裁判所昭和四九年六月二八日第三小法廷判決(民集二八巻五号六六六頁)の見解に合致するのである。従つて、本件交通事故により生じた上告人らに対する訴外会社の損害賠償債務と訴外会社に対する上告人らの損害賠償債務とは同一事故により生じた不法行為債務ではあるけれども当然民法第五〇九条の適用があると解すべきであり、訴外会社が昭和四六年二月一日の第一審口頭弁論期日においてした相殺の意思表示は本条の趣旨に抵触し有効にその効力を生じないものと判断されるべきものである。

以上の点からして、原判決には判決に影響を及ぼすこと明なる法令の違背があり当然に破棄されるべきものである。

以上

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