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大阪高等裁判所 昭和53年(ラ)459号 決定 1979年3月08日

抗告人 岡村博司

主文

一  原審判を取消す。

二  本件を大阪家庭裁判所へ差戻す。

理由

一  抗告の趣旨と理由

別紙記載のとおり。

二  当裁判所の判断

(一)  抗告理由第一点について

一件記録中の○○税務署長に対する本件相続税申告書に別紙として添付されている明細書によると、抗告人主張のように本件の相続財産として、現金預金二一五万九、五九二円、事業用什器備品二〇万円、家庭用什器備品一一万八、七〇〇円が少くとも相続開始当時存在することが一応窺える。原審判はいずれもその存在は認められないとしているが、一件記録によつても右相続税申告書が何人によつてなされたか、右相続財産の存否及び使途が不明確で、前示相続財産存在の推認を覆えすに足る事情があるともいえない。もつとも、本件遺産分割の前提となるべき相続財産は分割審判時に現存するものでなければならないが、相続開始当時存在した遺産はその消滅が疎明されない限り分割時においても存在するものと推認されるし、相続開始後遺産分割までに相続人の一部が遺産を勝手に処分したときは、その代償請求権が分割の対象となり得るものであるから、原裁判所は前示遺産の存否及びその処分者及び使途をさらに調査し、分割時における遺産の範囲を確定したうえ分割の審判をすべきものである。

(二)  抗告理由第二点について

1  原審判書別紙目録一ないし四の宅地、建物(以下、本件不動産という)につき、これを鑑定人○○○○作成の鑑定書(以下、○鑑定と略す)により、昭和五三年七月一〇日現在の価格を金四、四七三万二、〇〇〇円と評価したうえ、抗告人に右不動産を取得させ、その代償として、他の共同相続人に対し計金三、三四〇万六、三六一円の支払債務を負担させ、かつその一括支払を命じている。

2  家事審判規則一〇九条は「特別の事由があると認めるとき」に限り前示のような現物分割に代えて代償金支払の方法による遺産分割の方法をとることができる旨規定しており、右の「特別の事情」とは、相続財産が農業資産その他の不動産であつて細分化を不適当とするものであり、共同相続人間に代償金支払の方法によることにつき争いがなく、かつ、当該相続財産の評価額が概ね共同相続人間で一致していること、及び相続財産を承継する相続人に債務の支払能力がある場合に限ると解すべきである。そして、相続人に債務負担能力がないとか、共同相続人間で当該相続財産の評価について著しくその見解を異にし、しかも、その相続財産の価額が特に高価であるような場合には、これを現物分割すればその価値を著るしく減少する性質を有する限り、遺産分割審判において競売を命じその換価金を分割する方法をとるべきである。

3  本件において抗告人は、本件不動産の評価につき、原審判当時から○鑑定による価額四、四七三万二、〇〇〇円を争い、時価をその半額程度である旨主張しており、抗告審たる当裁判所に○○○○作成の鑑定書(以下、○○鑑定という)を提出したものであるところ、○○鑑定によると、本件不動産の昭和五三年一二月二〇日現在における価格は金二、九三〇万円であつて、○鑑定による前示評価と著るしく相違しているし(なお、両鑑定は評価時点を異にしているが、○鑑定以降○○鑑定までの間に不動産価額が増加することがあつてもこれが減少する事情は認められない。)、本件不動産を承継するものとされた抗告人において、原審判の債務の支払能力があるともにわかに認められないし、また、抗告人は原審判認定の評価額を前提とする限り、本件不動産を承継する意思を有していたともいえず、しかも、本件不動産はとくに高価であつて、これを現実に分割することは困難であり、かつこれを細分化するときには著るしくその価値を減ずることが認められる。

したがつて、本件の遺産分割にあたつては、改めて再鑑定その他の方法により本件不動産の適正な評価額を判定し、抗告人その他の共同相続人の意思を確認するとともに、抗告人の代償債務支払能力の有無などを調査し、前示家事審判規則一〇九条所定の特別事情が認められない限り、細分化を避け著るしく価値を減じない程度に現実分割をするか、それも困難な場合は、換価による分割をすべきものである。

三  結論

よつて、その余の判断をするまでもなく、原審判は失当であるからこれを取消し、前示の諸点につき再審理をさせることが相当であると認め、本件を原裁判所へ差戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下出義明 裁判官 村上博巳 吉川義春)

別紙<省略>

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